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三者による作戦会議

 長袖長ズボンと少しましな服装に着替えた後(それでも寒い)、これまた冷え込んでいる校舎に入り込んだ。

 暇そうだったココロには、今日の朝食とか昼に食べる弁当とかを購買から取ってきてもらうよう頼み(あと五十鈴と共に秘密基地にあるはずのまともな服を着るようにとも)、俺は防寒具を探す。

 なんとまあそれは簡単に見つかり、教室内のハンガー掛けに生徒達の上着がたくさん掛っていた。世界が滅んだのがそもそもいつなのかはよく分からないが、冬限定のこんなものが掛かっているとは。


「俺のと……あと、五十鈴の着ていたやつまである」


 それとも、こんなところまでジン達が再現しているのだろうか。

 触れた瞬間、黒かった俺のジャンパーが元々の紺色へ変わる。おなじみの服限定(……花火も?)着色マジックは健在のようだ。

 続いて五十鈴の白いコートも手に取ると、その色がベージュへと変化する。あとはココロに合いそうなものを適当に見繕い始めた。


 その間、俺は何となく昨日の事を思い出す。

 夜空を埋め尽くしたいくつもの花火。色に照らされた世界。

 そんな光景がしばらく続いた後、「記憶のカケラが『解放』されたよ!」と何故か夜目の利いたココロが遠くを眺めながら叫んだ。それは用意していた花火が半分ほど打ち上がった時の事である。散々苦戦させられたわりには楽勝だった。


 それでも折角用意したので全てを打ち上げて貰った後、ジン達は花火を打ち上げた設備ごと忽然と姿を消した。彼らはきっと本来の仕事へ戻っていったのだろう。

 巨大ジンが消滅した今、もう彼らに襲われる心配もない。今までは敵という印象しかなかったが、また出会ったら挨拶くらいはしてやろう。返されるかは不明だが。


 その後俺はマイを探すため、疲れ切って眠ってしまった五十鈴を秘密基地に残し、ココロと共に山へ向かった。

 しかし暗い山に潜り込んだものの、マイには会えなかった。その時にはもう既にどこかへ移動してしまったのかもしれない。


 俺自身もだいぶ疲れていたので、「あともう少しだけ私が探しておくよ。どうせ眠れないし☆」というココロの言葉に甘え、後は彼女に任せて捜索を断念してしまった。今朝も彼女に聞いたものの、結局見つからなかったらしい。

 彼女にお礼くらいは言いたかったのだが。それだけが悔やまれる。


 ふらふらと秘密基地に戻った後の事は、もうあまり覚えていない。ベッドに突っ込むように眠りについたのだろう。暑かったのであまり掛布団を被らずに。

 そうして今日に至る。昨日は、まさか今日が雪に覆われるなどとは夢にも思わなかった。


「昨日は暑くて、今日は寒いと来た。今日もまた、昨日とは違う形で大変な『解放』になりそうだな……」


 思わずため息が漏れる。

 だが今日はココロもちゃんといるし、五十鈴だっている。三人ならきっと大丈夫だろう。

 ココロには、真紅のコートを選んだ。




「大丈夫か? 五十鈴」

「ん……まだ少し寒いけど何とか。ありがとね、高山君」


 秘密基地に戻り、装備を整える。

 セーターの上にコートを着て、手袋、マフラー、耳当て、カイロと完全装備になった五十鈴が復活した様子で俺に答えた。

 俺はジャンパーと手袋程度を装着。今日も歩き回るだろうから多少は動きやすくしておきたい。


「うん、あったかーい! ありがとうコウジ!」


 ココロはコート一枚でも十分そうだったが、一応手袋とマフラーも渡しておく。

 服装はとりあえずこれで問題ない。

 朝食のサンドイッチを食べた後、ココロと五十鈴に焚火横のテーブルへ召集をかけた。コーヒー、ココア、イチゴミルクの温かい飲み物がそれぞれの手にある事を目で確認し、少し大仰な口調で俺は告げる。


「さて……作戦会議を行おう」

「おー! 初めて秘密基地らしい事やるんだね! やったー!」


 するとココロがやけに嬉しそうに両手を上げた。人数も増えたので、今後こういう方針決めも必要になるだろう。


「うむ。これより今日の『解放』を行うわけだが――」


 そしてまずは、俺から口を開いた。


「――どうすればいいと思う?」


「「えぇ……?」」


 我ながら何とも投げやりな第一声である。ココロと五十鈴からがっかりした声を上げられた。


 というのも、この秘密基地から校舎を往復するまでの間、一応目を凝らして辺りを見渡すも記憶のカケラの姿を認める事は出来なかった。つまりはここからもう少し遠くのどこかに出現したのだろう。昨日は最初に街で見つけたあれのケースのように。

 要するに、今日も昨日のようにあちこちに探し回れば良いのだろうが、何せ今日は雪が降っている。視界も悪いし、移動も大変そうだった。

 という事を二人に説明すると、彼女らも難しい顔をする。そのまましばらく思案していた。


「うーんじゃあ、三人でそれぞれ別行動で探し回るとか?」

「あ、それいいかも。効率はいいと思う」


 ココロがそんな案を出し、五十鈴もそれに賛同する。しかし、俺は首を振った。


「俺もそれを考えたが、ちょっとな。それ、仮に誰かが記憶のカケラを見つけたとしても、俺達がそれをすぐにそれぞれに知らせる手段がないんだよな」


 それは、今のこの世界では電気は通っているものの、通信通話の類いのものは一切使えなくなっているという理由からだ。

 まず、俺が今の世界で目が覚めた時に自分の携帯を持っていなかった。常備していたもののはずなのにとは思ったが、その時はあまり気にならなかった。


 だが昨日の「解放」の合間に、俺は鍵も掛っていなければ誰もいない自分の家だった家屋に訪れていた時の事である。

 自分の部屋の机でようやく俺の携帯を見つけたものの、何故かそのアンテナは一つも立たず、「圏外」と表示されてしまった。

 パソコンを起ち上げインターネットに接続しようと試みても、こちらでも「接続されていません」という表記が出る。

 そして自分の携帯に家の電話番号を打ってかけてみても、家の電話のベルは鳴りすらしなかった。

 その後雑貨店に置いてあったトランシーバーも使ってみたが、それすらも雑音だけを吐き出して機能しない。 

 そこで俺は、情報端末及び通信機器全てが今使い物にならない事を確信したのだった。


 これも、世界が滅んだが故の影響なのだろう。ジン達の力ではネットワーク回線とか電話回線までは機能させられなかったようだ。

 つまり、今俺達が情報交換をする術はこうやって口での直接の会話しかないという事になる。


「でもまあ、そうだよな。やっぱりそれが出来れば効率もいいよな。今は最早ジン達の脅威も去って、単独行動のデメリットはかなり薄れたようなものだしな。情報交換さえ上手く出来ればいいんだが、どうしたものか……」


 三人で思案した後、最初に提案を出したのは五十鈴だった。


「じゃあ、決まった時間にここで待ち合わせというのはどうかな? あらかじめそれぞれのざっくりした行先を決めた後に、そこから私達が単独であちこち探しにいく。ある程度時間が経ったらみんな一旦ここへ戻って、行った場所と記憶のカケラの有無についての情報交換をする、とか。これで行く場所もダブる事は無いし、それでもし誰かがその場所で見つける事が出来ていたら、そのままみんなでここから記憶のカケラの『解放』場所へ行けるよね」

「……いいな、それ」


 悪くはないと思い、そう漏らす。万が一誰かが決まった時間に戻って来られなった事態に直面した時にも、残りの二人であらかじめ伝えられていた行先へ捜索にも行けるという応用も効く。

「私もそれがいいと思う」とココロも賛同し、この方向性で話を進める事にした。


「じゃあ、その集合の時間間隔はどうするの? あんまり長くし過ぎると、捜索出来る目的地の数を減らしちゃうよ」


 ココロが珍しく真面目に意見し、それに俺が答える。


「二時間、くらいが妥当だろうか。このくらいがそれなりに遠くにも行けて、かつ目的地での捜索時間も多少確保できると思う。で、いいか?」

「そうだねー」

「うん、賛成」


 ココロと五十鈴が頷く。

 そんな感じでしばらく話し合い、どこに誰が行くかなどの役割分担も決めていく。


「大体三、四回の捜索でこの街の大体を調べられるようなプランでいきたいよね」

「ああ、あんまり狭いエリアをずっと探しているわけにもいかない。まず、ここに戻って来られる近場は捜索エリアも広くしよう。ここら辺のエリアは五十鈴に任せる」

「もう、そんな事に気を使わなくていいよ高山君。歩いている途中で力尽きたりなんてしません」

「……さっきまで死にそうなほど震えてた人間に言われても説得力が……。まあ、純粋に几帳面なお前に広いエリアを捜索して欲しいとの魂胆もあっての事だ。あと俺やココロは、遠い場所でもすぐに捜索が終わった場合は、臨機応変にその周辺の捜索も行って――」


 いつの間にかテーブルの上に地図まで広げ、三者は話し合いに熱が入っていた。

 想像以上に今日の動向がクリアになり、こういう事前の作戦会議も大事なのだと改めて感じた。

 三十分程度の作戦会議が終わると、俺達は早速立ち上がる。現時刻は八時、午前中だけでも大分探し回れる。


「じゃあ、今日の作戦の第一段階、『記憶のカケラの捜索』を始めるとしよう。それぞれ最初の捜索ポイントに向かってくれ。また二時間後にここ集合な。分かっていると思うが今日は寒い。捜索中温かい建物の中とかで各自適度に休憩を取ってもいいし、万が一早く記憶のカケラを見つけても、他の二人を探しに行かず所定の時間に戻るまでここで待機していていい。とにかく無茶はしないように」

「了解っ」

「了解、です」


 二人そろって敬礼、のポーズを取り、俺もそれに敬礼で答える。なんだか様になってきた。

 ともかく、そんなこんなで今日の「解放」も頑張っていこう。

 俺は、マグカップに残ったイチゴミルクを飲み干した。


「ところで五十鈴。そのコーヒー、ブラックか? ……苦くないか?」

「え……? おいしいよ、うん」

「フミカは確かにオトナ過ぎるけど……コウジはかなりの女子なんじゃ……?」



 

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「終末へのココロギフト」を読んでいただきありがとうございます!よろしければこちらより、現在連載中のファンタジー 「そして勇者は、引き金を引く〜引きこもり少年と怪物少女の、異世界反逆譚〜」 も読んでいただけるととても嬉しいです!よろしくお願いします…!
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