第10話 光の女神の憂鬱、そして決意
2017年も今日で終わり。
ギリギリ間に合いそうなので、投下します。
今年も、拙作を読んででいただきありがとうございました。
2018年も続きますので、完結まで読んでいただければ幸いです。
では、良いお年を。
有得てはいけないことが起こってしまったわ。
この私が治める世界に、魔神なんて汚らわしい汚物が誕生してしまうなんて。何たる失態、何たる屈辱。ああ、耐えられない、あんな汚物が存在しているなんて。一体、私がどんな悪さをしたっていうのよ?
どうして、私と愛しい愛しい、大事な勇者が過ごすことが許されないのかしら?私はただ、勇者と穏やかに仲睦まじく暮らしたいだけなのに。だからこそ、彼を人から半神にまで格上げしたっていうのに。
そのせいで、妹からはだいぶうるさく言われたし、神格が下がったけれども気にしてない。だって、大事な勇者が死ななくなったんだもの。彼が生きているだけで私は嬉しい。きっと、彼も嬉しく思っているはず。でも、彼はここ400年くらい、私と話をしてくれていないけれども。何が気に入らなかったのかしら?
与える力が足りなかった?
戦神として必要な雷を操る権能は譲り渡したのに。おかしいわね、何が不満なんだろう?富も権力も思いのままなのに。私以外の女の子に興味を抱くことだけは許さないけれども。でも、それだって、些細なことよね?おかしい。何が間違っているのかしら?だって、私以上に美しい物は存在しないし、私以上に美しい者だっていないのにね。おかしいわね、ありとあらゆる美の頂点に立つ私を見ても、勇者は欲情した様子も見せてくれない。どうしてかしら?私には勇者の思考が分からない。ああ、でも勇者は聡明な子だから、いつかは私の魅力に気が付いてくれるはず。だって、私はこの世界で最も美しいもの。
それよりも、汚物よ、あの汚物。汚泥に塗れたおぞましい怪物をどうしてくれよう。私の勇者をあんな、汚物には近づけたくないし。触れるだけで、泥が付いて汚れてしまいそうだから。あの、悍ましい生き物がどうして生まれてしまったのかしら。
ああ、あの帝国とかいうゴミ屑の集団のせいか。本当、あの国がうるさく祈らなければ私は動かずに済んだのに。祈られれば、それに応えないのは女神として無能の烙印を押されてしまう。祈られれば、それに応えずにはいられない私の優し過ぎる性格を利用されてしまったわ。本当に薄汚い国だったわ。まあ、薄汚い国を、汚物が葬り去ったのは汚物なりの功績と言っていいかもしれないわね。
だって、私はあの国を処罰したかったけれども、あんな国でも私が愛すべき人間達が集まった国だから。でも、あのお国の民は私を崇め奉らなかったから、滅びてもらっても構わなかったから。ちょうどよかったわ。
ディヴァイネーティスという国は下らなくも愛おしい人間達の中では一番見どころがある国だったのに。あの汚物がほとんど滅んだ状態にしてしまった。あの汚物はどれだけ、私が望まないことを繰り返せば気が済むのかしら。
汚物のくせに生意気な。あの怪物をどうにかして、この世界から排除してしまわないと、また汚されてしまうかもしれない。関わりたくないし、姿を見たくも無いのに。ああ、嫌だ、嫌だわ。私が女神だからこそ、あの汚物を排除しなければならないなんて。
でも、しょうがないわよね?だって、私の勇者にあんな汚物に触れさせるわけにはいかない。怪我ら歪い汚物に触れさせては、あの美しい魂が朽ちてしまうかもしれない。それだけは避けねばならない。勇者は時を経ても、なお美しい魂を持ち続けた成功例。そんな成功例なんて、めったに出ないわ。過去にも、私が気に入った美しい魂を持ったものを神に据えようとして失敗してしまったものね。あの時は、自らの首を落として死んでしまったもの。
美しい顔だったのに、綺麗な魂が入っていて、見ていてたまらないほどに綺麗だったのに。可愛らしい顔をしていたけれども、根は豪胆なところも良かったのに。彼は自分が人間でなくなってしまったその日に自殺してしまった。せっかく、神の座に加われたのに、どうして自分で死を選んだのかは全く持ってわからない。有限で肉を持つ、いつかは朽ち果ててしまう人間なんかよりも永遠を約束された存在であるはずの神の座を放り投げてしまったあの彼は良く分からない。
でも、私の中には勇者もいつかは彼の様に投げ捨ててしまうのではないかという不安が尽きない。神の座を投げ捨ててただの肉会に帰ってしまうのではないかという不安が尽きない。それでも、そんな不安定な状態だからこそ、崩壊する危うさを秘めているからこそ、勇者はより美しいのだとしたら。
ああ、そのぎりぎりの美をいつまでも見ていたい。
いつ、崩壊してしまうかは分からない美というのも、良いもの。
それはそれで、たまらないか。そうね、私の勇者だもの。たとえ、死体になってしまっていても、冥界から取り戻して見せるわ。だって、あの子は私だけのもだから。いくら、妹だからと言って、私以外の誰にも触れさせたくないわ。
ああ、罪な勇者ね。私の心をこうまでつかんでしまうなんてね。ふふ、だからこそいいのだけれど。
だから。そう、だからこそ。
………私が排除するしかないわよね。
本当は触りたくなんてないけれど。一緒の空間にすらいたくもないのだけれども。何としてでも駆逐しなければいけないわ。私が守るこの世界に、あのような汚物は不要だから。あんな汚物があるだけで、私が守る世界が穢れてしまう。それだけは、耐えがたい苦痛だわ。でも、あの汚物は私の妹が目をかけている勇者なのよね。
あの汚物は可愛い妹の物なんだもの。きっと、余りにも哀れだったから目をかけてあげたんだわ。あの子は昔から、面倒見が良かったもの。そのせいで、獣人や亜人、魔族なんかを保護しようってうるさいんだし。良いじゃない、私が治める人間だけがこの世界の住人であっても。きっと、お父様だって納得してくださるはずなのに。私を崇めることのない、北の野蛮なクズたちはどうでもいいけれど。
お父様は、今は何処にいらっしゃるのかも分からないけれども。
でも、きっと私達を見守っていてくださるはずなのに。何も、お父様の気配はしないのだった。作られてから、はや3万年ほどは生きただろうか?その間に、私の事を気遣ってくれたのは勇者だけだった。私の勇者。愛おしいあの子。
今、私が手伝った勇者擬きとは比べ物にならないくらいの力を与えた、私だけの勇者。
それなのに、あの子は時がたつにつれて憂鬱な顔ばかりするようになった。人間を辞めさせて、戦神として生まれ変わらせてあげた時もしばらくは、口を聞いてくれなかったものね。どうして、人間なんて有限な存在で満足できるのかが分からなかった。たかだか、百年にも満たないうちに、寿命を迎えてしまう人間では私の愛には答えられない。人間の事は可愛いとは思うが、愛らしいとも思うけれども、私の伴侶にはなりえない。
だって、私は光の女神として生を受けた無限の生を持つ存在だもの。
優れ過ぎているからこそ、人間は私を崇め、奉るのだから。
そう、余りにも隔絶した存在であった私。でも、勇者はそれを上回るほどの価値を私に示して見せた。私の事を気遣ってくれたもの。本当に些細なことだけれども。お礼を言ってくれるしね。人間達は私を崇めるけれども、簡単な礼すら言ってくれない。心からの感謝なんて聞いたことが無い。いつも、いつも、大げさな祈りの文句だけ。
私ですら、こんな有様なのだから妹はきっと、感謝の言葉すらもらえていないわよね?野蛮で無知なケダモノ達にはお礼の言葉を考える知恵なんて、ないはずだもの。ああ、可哀想な、妹。そして、私。でも、私は人間達を保護し続けてあげるわ。それが私の、お父様によって与えられた、私だけの使命だもの。そうね、だからこそお父様の作られたこの世界を汚し続けるだけの汚物は不要だわ。
排除しなければ。
廃棄しなければ。
存在した証すら残してはならない。
そうなると、獣人、亜人、魔族、龍種、精霊達も消し去ってしまわなければならないわね。だって、あの汚物と会話した存在だもの。きっと穢れが写ってしまっているに違いないわね。でも、今の私ではそこまでの力はない。過去に勇者を召喚した事で神格が落ちてしまった。それ以降の擬きたちの召喚でも神格を削らざるを得なくなっていたから。
そうね、今の私ではあの汚物を殺すだけで精いっぱい。
だから、今後は勇者召喚を取りやめましょう。そして、私の世界を汚すクズたちを一掃してしまえるだけの力を貯める期間にしましょう。
そうね、それしかないわよね。
妹が愛している存在を滅ぼすのは気が進まないけれども。あの子のためにもなるわね。下らない存在達から崇められていても、きっと迷惑なだけなんだしね。あの子だって、私の妹として人間達から崇め奉られれば、満足するでしょう。
何せ、この美しく、至高の存在である私の妹として讃えられるのだから。
さあ、気が進まないけれども汚物の掃除に行こうかしら。待っていなさい、存在自体が罪な汚物の塊。
滅ぼしてあげる。
一片の欠片も残さない。
誰の記憶にも残さない。
そう、全てを奪い尽くして滅ぼしてあげる。
これは、女神による救済措置だもの。穢れてしまった大地を浄化するため、のね。




