第8話 魔族領への旅行、開始
ようやく、マリーシャへの業務引継ぎが終わった。
正直、俺が思う以上にやらかしてくれていたんだけども。極自然に人類が全滅するように仕向けていやった。特別な感情を持たずに、そう言ったことを行うのは俺の潜在意識の所為か、マリーシャが邪神のせいなのか?なんなんだろうね。
「マリーシャ、今後は勝手に人類を全滅させるようなことをするなよ。俺の楽しみを奪わないでくれという意味で、だ。」
マリーシャへ厳しめの注意を言って釘を刺しておく。そうでなければ、こいつは良かれと思って、全滅させるだろうしな。
「分かった。人類に恨みを持っているのはユウジも同じだから。従う。イナゴ達を引き揚げさせる?」
もう十分なくらいにやっちまったからな。一週間で、イベント終了でよかったな、人類。被害は俺が考えた物よりも遥かに酷い事になっているけれども。やれやれ。神聖国・ディヴァイネーティスはしばらくはまともに国家としての活動ができないだろうというくらいには弱った。まあ、聖勇国が大変だろうけれども。ディヴァイネーティスの周りの国も、マリーシャがやんちゃしたせいで3割程度の被害を受けている。あまり余裕はないだろう。今回獲得した物資は、獣人の国への贈り物として使わせもらうけれども。
「そうだな。後は古い民族の事は任せた。お前が見つけたと言ったからな、俺がミスリルの武器をたくさん作っておいたから贈り物にでも使え。」
並列思考ができる今では、ミスリルの簡単な武器を作ることぐらい造作もなかった。ミスリルとオリハルコンの合金製で、剣、槍、弓、盾を500組ずつ作ったのだ。まあ、使い所はあるだろう。
「おお!流石はユウジ。これはただのミスリルではないだろう?私の贈り物として、奴らが私を崇めてくれそうないい品だな。おまけに、ユウジへの信仰も跳ね上がるぞ。」
「そりゃ、良かったよ。まあ、クソ帝国の跡地からは魔物を下げておくからな。好きに支配していいと伝えておいてくれ。あの土地は別に、俺は要らないし。」
おお、国一つの土地を要らないという俺は何か、大物臭いな。ま、実際にろくな思い出が無いから要らないのは確かだしね。
「うん、うん。ユウジが邪神としての風格を増しているようで、娘としての私も鼻が高いのだな。良い事だ。ユウジ、これからも邪神らしく、無慈悲に、冷酷に、冷徹であってくれ。」
「はいはい。」
そう言って、マリーシャの頭を無意味に撫でまわす。少し強めに撫でられるのが好みらしいから、髪をぐしゃぐしゃにする程度で撫でる。
「髪をぐしゃぐしゃにしないでくれ。」
そう言いつつ、顔はご機嫌そのものだ。こいつ、実はMなのか?そして、こいつがMなのであれば、俺も実は隠れMということになるのだろうか?俺はどちらかといえば、Sだと思うのだけれども。
いや、好きな人には尽くしたいタイプだった。じゃあ、M寄りのSということで妥協しておこう。ま、そんなことを考える程度には余裕があるのだ。
「INAGO達は物資を吐き出させた後に、ディヴァイネーティスに向かわせて、全員自爆させておいてくれ。それで、あの国は詰むだろうし。」
「ん、分かった。やっておこう。ユウジはこれから、あの女と一緒に旅に出るのだろう?」
「あの女じゃなくて、ストレイナさん、な。」
拳骨を落としておく。こいつは俺以外にはどうしてこうも塩というか、セメントなのか。全く困ったもんだ。そこが可愛いかもと思ってしまうのは、親バカ感がしてどうしようもない気がするが。俺も、親になったら、本当に馬鹿になるのかもしれん。
「では、ストレイナと呼ぶ。だって、私はユウジの娘だからな。あの女が私の母親になるのであれば、また違うけれど。ユウジはどういうつもりであの女と一緒に居るのだ?」
こいつは聞きにくいことを平気で聞いてくるな。さすが、俺の分身。KYとして完成されている。そして、俺ってこんな奴だったのかな?他人から見た時の俺は。
「あの人と一緒になることは無いだろう。まあ、そうなれればいいなという程度には好きだけどな。だから、あまり雑な扱いをされると面白くない。」
はあ、本人に向けてこういうことを言えればいいのだが。はあ、格好が付けられないな、俺は。
「はぁ…ユウジは、一体何を見ているのだか。あの女は少なくともユウジを嫌ってなどいないぞ。私は、いつもユウジの周りを監視しているが、あの女はユウジに悪意を持ったことが無い。むしろ好意的だ。押せば落ちるのではないか?」
マリーシャ、人の周りで何をやっている。というか、こいつの言う事は本当なのだろうか?もし本当だったら、挑戦してみてもいいのだが。だが、失うことを恐れていればいつまでも、膠着状態が続くという事だし。
「ユウジ、当たって砕け散ろと言うではないか。別にユウジが砕けても私は笑わないし、挑戦した事自体尊いと思うぞ。」
「お前は何目線だよ?まったく、生まれてそんなに経っていないくせに。生意気言いやがって。」
「私はユウジの娘で、邪神だぞ?性格が良いわけないではないか。」
胸を張って言いやがった、このクソガキ。…だが、言い返す材料が俺には無い。だって、俺の性格が悪いのは昔からだし、ここに来てから悪化の一途だしなあ。
身体は魔物と化した。
心は修羅と化した。
行ったことは大量殺戮だ。
世って、俺の事は人外認定で構わないし、ろくでなしでも、邪神でも構わない。何せ、俺を邪神にしたのはこの世界の人間でもあるのだから。まあ、全ての行動を選んだのは俺ですけどね。行動を選ぶ時点で、俺が邪神になる未来は確定したのであろう。まあ、邪神といっても、獣人、魔族、亜人達の勇者という立場だけれど。俺は一応、私利私欲のために殺戮はしていないはずだ。
復讐が私利私欲の一種だと言われれば、返す言葉はないが。
それでも、復讐をせずにはいられないような目に遭っている。それに、この世界の人類は気に入らないから仕方が無い。光の女神が甘やかし過ぎたせいだろう。女神に縋り付きさえすれば、今までは状況が好転していたのだから。でも、今回はそうはさせない。
今この世界には、俺がいる。異世界から来た邪神である俺がな。
異世界からの来訪者に文明を破壊されるが良い、甘ったれた人類共め。さて、そろそろ魔族領への旅行に戻ろうかな?食料の供給はダンジョンハウスがあるから問題ない。本当、このダンジョンを初代勇者に向けてく創った事だけは感謝しても良いな。光の女神。
このダンジョンは本当に優秀だから。攻略できるかどうかは置いておくけれども。普通であれば、攻略できていない。俺にくれた、ディアルクネシアのスキルがあったからこそだな。ありがたい事だ、本当にディアルクネシアには感謝してもしきれない。祈っておこう、ありがとう、と。ディアルクネシアに感謝の念を捧げると俺は行動を開始した。
マリーシャの暴言は許しておかなかった。お尻ペンペンの刑だな。生意気な奴だよ、本当に。でも、それを微笑ましく思える俺は一体どういう感じなんだか。
マリーシャは頬を膨らませつつも俺の言う事は聞いているようだった。今後は古き民族との交渉に入るそうだ。グリディスート帝国跡地は隙にして良いと伝えておいてもらう。良い国を作ってくれれば嬉しいものだ。
これで、人類側の国は大きいところは二つ落としたからな。獣人側もやりやすくなっただろう。俺も隠居の準備をしておこう。魔族、獣人、亜人の全戦力を相手にしても勝つ自信はあるが、責められることになりでもしたら面白くないからな。ここまでの俺はやり過ぎた感は否めない。俺の力を恐れる奴等が出て気も不思議でないし。実際出てこない方が不自然だろう。
攻めて来たら、半殺し確定だけどな。
何度攻めて来ても、半殺しだ。彼らは俺が守れと言われた相手だから。闇の女神からの主命に逆らうわけにはいかないのさ。憧れの人から言われたことは守り通したいもんだ。
ダンジョンの中で一月かけて今後の事をマリーシャに引き継いだ。
これで、俺はストレイナさんと旅に出ることができる。今後はやり過ぎる前に、俺に報告をよこせと言っておいたし、無茶はしないだろう。マリーシャは俺が作り出した、帝国のダンジョンに引っ越して行ったし。ちゃんと仕事をしてくれればいいが。俺が作った武器は喜んで持って行ったけれどな。
多くの業務をこなしてから、久しぶりにストレイナさんに会えると思うと、心が躍る。
「久しぶり、ストレイナさん。準備はできた?」
俺はストレイナさんに話しかける。
「ああ、ばっちりだよ。ところで、ユウジ、君一体何をしでかした?」
はて、心当たりしかないが。
「人間界絡みなら、心当たりしかないけれど。」
「だろうな。人間界の巨大国家の一つが壊滅状態だそうだ。それに、君が滅ぼした国にはこれまで確認されていなかった新しい人類が住み着き始めたそうだし。君の仕業だろう?」
断定されている。
「恥ずかしながら、俺と俺の分身が調子に乗っちゃってなあ。その結果が、ストレイナさんが聞いた通りの事態だ。なんか、問題でもあるのか?」
「ああ、私達の旅に目的が追加された。人間界が追い詰められつつあるから光の女神が動き出す可能性が上がった。だからこそ、魔族たちにも情報を流さねばならない。君に関することのね。」
「うん、まあ、ね。考えなくやって悪かった。」
「いや、責めているわけでないよ。これを機に魔族たちとはもっともっと、交流を増やすつもりであるし。君の存在をきっかけとしてね。」
「分かった。俺は魔族、亜人、獣人の勇者だからな。今回は観光よりも、活動内容の報告に行くという事だな。」
それにしても国二つを滅ぼしたというのは常軌を逸しているけれどな。
「ま、そういうことだよ。さ、行こうか。」
ストレイナさんが歩きはじめる。
「ああ、楽しみだ。」
俺は彼女について行く。
これからの旅が楽しみだな。




