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捨てられ勇者の異世界ボッチ放浪譚  作者: 雨森 時雨
第4章 女神が動き出したようです、面倒です、逃げましょう!
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第6話 天災の背景

唐突だが、私、マリーシャ・サージェントは邪神である。


ただの邪神ではない、闇竜神の力を持った、偉大なる父に作られた存在だ。


ただ、父は自分の事を、ユウジと呼ぶようにと求めているのでユウジと呼んでいる。親の言いつけに背くのは悪い事だ。だから、親の望むままに人間を滅ぼしてやろうと思っていたが、ユウジには滅ぼしてはいけないと言われた。


親の望みを叶えてはいけないのか、と問うと複雑な表情を浮かべていた。


ユウジは、無益な殺生は避けるようにと、私に厳命したものだ。私は、ユウジの様々な思いを元にして生まれた邪神だ。だから、彼が心の奥底から、この世界の人間を憎んでいることを知っている。


光の女神を憎み、苛立ち、嫌い、疎んでいることも知っている。できることなら、神殺しをしたいと考えるまでにユウジは光の女神を嫌っているのだ。私が代わりにやっても良いが、いかんせんこの身は作られたばかりで神格も経験も足りない。


だから、ユウジからイナゴ作戦の参加を認められた時は嬉しかったのだ。自分の力を認めてもらったみたいで。私は経験が少ないから、強くないのだ。レベルだって2000にも届かないのだから。ユウジは、おかしいくらいに成長している。さすがに私の親だけはある。いつかは超えて見せるが、今はまだまだ越せる気がしないな。


まったく、あのユウジはどうして人間どもを皆殺しにしないんだろう?一応、異世界から来た父の同胞は殺さないけれども。私だって、同朋殺しは悪い事だと理解している。でも、この世界の人間は、同胞殺しが好きだけど。良く、殺したものだ。なにせ、かつてあったグリディスート帝国という国を恨む霊はここかしこに溢れている。私は邪神だから、そういうのは良く分かるのだ。そもそも、霊感が無い神などいない。特に、憎悪、嫉妬、憤怒、傲慢、淫欲などと負の感情を強く感じ取ることができなければ、立派な邪神になれない。殺意などは最も強烈な負の感情であるし。ユウジは、今までは殺意に溢れていたけれど、今ではそうでもない。


それでも、私は知っているのだ。ユウジが心の奥底にその殺意を隠しているだけだという事を。深い深い、心の奥底に、光の女神を殺してしまいたいという強烈な殺意と怒りがあるのだ。ユウジ本人は見向きもしようとしないから気が付かないのだろう。きっと、怖いのだろう。私は生まれながらに、邪神としてあれと定められた命だが、ユウジはそうでないみたいだから。


私はユウジの事を知っておきたいから、彼の心をよく探っている。


別に家族なのだし、心を読まれるような隙を作る方が悪いと思うし。それに、ユウジはもう少し自分に正直になった方が良いと思うのだけれど。あの、ストレイナという女の事をユウジは気にしている。劣情も抱いているようだし。思慕の念もある。肉欲だけでなく、心も欲しいと思っているのに、なぜ手を伸ばさないのだろう?さすがに、体だけ欲しがっているのならば、私だって止めるが。そんな煩悩塗れの男の、一応は娘に当たるというのは嫌だしなあ。


現状、私は邪神であるが、ユウジの力の大半を握ってもいる。邪神部門の力をユウジは使いたがらないので、私に管理が一任されているのだ。あくまで、私に制限をかけたうえでだけど。どうも、私に力の所有権を全て、明け渡すと私が人類殲滅を目指すのではないかと危惧しているらしい。


さすがに私の親なだけはある。


うん、邪神としてのユウジの力を全てもらったら、人類など殲滅してくれる。ただ、ユウジが大事にしている国は事前に確認をするけれど。私だって、ユウジが人間を嫌っていることは知っている。けれども、ユウジが好いている人間の国もあることを知ってもいるのだ。そう、ユウジは人間をとても嫌っているけれど、その価値を認めている人間達の国もある。わがままな奴なのだ。良く言えば、認めるべき事実は認めることができるともいえるのだろうが。私からすれば、人類は皆死すべし、と定めてくれた方が良かったな。


つまり、ユウジはなんだかんだ言ってお人好しだ。


そうでなければ、邪神になどなれるはずもないけど。


邪神というのは、邪まで、強烈なほどに純粋な願いを叶えた者だけが至ることのできる種族なのだから。邪悪な願いであれど願いは願いなのだ。まあ、人を殺したいとか、そんな程度の願いでは至れない。そんなすぐにでも叶えることのできる願いでは神になれる方がおかしいものだ。まったく、神の座というのはそんなに安いものではないのだ。安易に作り出された私が言っても、説得力に欠けるか?でも、ユウジが邪神になるのはそれなりの苦労があったのだ。手足を喰われたり、人間性を失ったり、闇の女神様に目を付けられたりといった、普通の出来事ではないことばかりを経験したのだ。


ユウジの願いは、叶うはずもない願い。


〈自分を勇者召喚した国を、ぐちゃぐちゃにしてやりたい。特に自分をダンジョンに突き落とした男を徹底的に破滅させたい。〉


これだけだ。


本当に分かり易い、復讐だ。復讐のためだけに自分の人間性や、将来を軽々と放り捨てるユウジの異常さが無ければ、ユウジの復讐は成し遂げる事なんかできていない。それほど、ユウジの願いは狂っていて、普通ではない。一つの国を自分の復讐のためだけに滅ぼそうとするなんてありえない願いだ。ユウジを捨てた男が、その国の権力の中枢にいたのだから、国を滅ぼすしかなくなった。大変なことだった。


それでもユウジはやってのけた。


だからこそ、彼は邪神として星の主からも認められたのだ。私も、彼の娘として邪神たちの先達によって登録されている。ユウジは、邪神になる事をそれほど喜んでいないから、邪神に関してのスキルのほとんどを私に譲っている。


だから、ユウジが邪神界隈で何と表現されているかを知らないんだなー。


邪神界において、最新最狂の新神。


そう、最新にして、最狂。私の自慢の親なのだ。復讐のため、生き残るためとはいえ、自分の体をあれほど改造した者はいない。生き残るためだけに、人間の体の9割を捨て去って復讐したのだ。それは普通じゃない。邪神になるべくしてなったのだ。ただ、その自覚はユウジには無い。だからこそ、私の親になれたのだろう。普通であれば邪神の力に溺れて、この世を混沌に満ちた世界に作り変えてもおかしくはないはずなのに。


彼は自分の力を化物といつも、自虐する。化け物でもいいではないか、力は力だ。傲然と振るえばいいのに、ユウジはそれをしようともしない。そこだけはつまらない。でも、それがユウジらしさであり、彼の個性なのだろう。それだけ個性的な人の娘である私がただの邪神として、終わるつもりはない。


邪神らしく、人間を追い込もう。邪神界隈の期待の新神である自慢の親に恥じないように、INAGO作戦を実施したのだ。


結果は上々だろう。


ユウジが尊敬している、闇の女神を微妙に下げている国を大飢饉にしてのけたのだ。国の作物の9割はINAGOによって喰われた。そして、その食われたものは全て、古い民族達の腹に収まっているのだ。古い民族は私が勝手に契約を結んだ相手だ。偉大な父には内緒だぞ?


そうして、私の独断で、契約に基づいて、彼らは聖勇国以外の国を支配しても良いと言ってあるのだ。光の女神は、神聖国・ディヴァイネーティスにそこまでの関心は持っていない。滅ぼしても、熱心なファンが減ってしまったことを嘆く程度だろう。



数年後、当時の事をマリーシャはこう振り返っている。


私はこの時、とち狂った女神がユウジに何をするのかを知らなかった。今にして思えば、女神に真正面から喧嘩を売ったようなものだったが、当時の私は幼かったから、そんなことが分からなかったのだ。それが、あんな大変なことになるだなんてちっとも思っていなかった。


古い民族の事は、叱られなかったけれど。私がしたことは全て必要なことだったのだ。でも、少しばかりやり過ぎた。ユウジが考えていた規模よりも大幅に被害が大きくなっていたらしかったのだ。


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