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捨てられ勇者の異世界ボッチ放浪譚  作者: 雨森 時雨
第1章 勇者なはずが、ポイ捨てされました…どうしてくれようか?
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第9話 ボッチの快進撃、迷宮暴食録

ダンジョン内に肉が爆ぜる音と肉を喰らう音が木霊している。

一匹の怪物が出している音である。

ダンジョン内の魔物は突如として出現した仲間を喰らう魔物に恐怖していた。今まで自分達は狩る側であって、狩られる側になったのはもう覚えてもいないほどの昔にやたら強い人間たちによって狩られていった時の事だ。あの時は光の魔法で仲間が浄化されていくことに恐怖したが、今回はそれよりも悪い。


何せ、丸ごと喰われるのだから。


他の魔物たちも随分と喰われていた。そして、自分も食われないように逃げていたが、ここまでのようだった。


魔物、カーバングルは目の前にいる得体のしれない怪物を前に最後の攻撃を行うもあっけなく攻撃ごと喰われて散った。




「ふう。今日のノルマはここまででいいか。腹太ったしなあ。にしても、このダンジョンはどうなってやがる?1層目よりもずっと広いじゃねえか…」

俺はぼやきながら進む。先ほど、額に宝石の付いたリスのような魔物を腹に入れてからはなんだか運が良くなった気がするのだ。


ついに普通の宝箱を見つけたのだ。そして中を見ると入っていたのはカイザーナックルに見える武器だった。今の俺に着けられるかは不安だったが着けてみるとしっくりきた。どうやら持ち主の体に合わせてサイズを変えてくれるらしい。良い武器だった。今の俺は通常の人間サイズとは全く違ったサイズになっている。


身長は多分2メートル50センチくらい。


尻尾とかを含めた全長で言うなら10メートル以上はあるんじゃないだろうか?


腕は4本が通常と化し、脚は8本が通常と化してしまっている。腕が一杯あるのは便利だし、脚の数も多いのは移動が早くて良い。そして、すべてが金属と筋肉の合成体となったのが今までとは違う点だろうか?闇魔法による肉体変化を繰り返すと、頭の中で例の声がしたのだ。


『肉体変化が完全変化に変化しました。』


完全変化:闇魔法の中級魔法。肉体を変化、操作することができる。使用者のイメージ力によって性能は変わるが、他者に成りすましたり、自身を従来とは異なる姿にしたりする事が可能となる。他者の肉体を改変することも可能となった。


頭に浮かんだ使用法は俺にとっては行幸だった。金属と生体部分がまだらになっていたのがずっと気になっていたのだ。だから、両者を完全に融合させることにした。今の俺は新たな命として動いている。日々、魔物を倒して、食って、自分の糧にする。それが俺の日課となっている。さりげなく他人を改造できるようになっていることには触れないでおこう。

「やれやれ、完全に人間の生活じゃあねえな。ま、いちいち便所に行かなくて良くなったのは便利だけどな。」

そう、俺はついに便意を克服したのだ。


もう、腹が痛くなってそこらへんで野グソをしなくてもいい。ついに俺はエコで文明的な怪物へと変わったのだ。いちいち排泄行為をするのは、もう面倒だった。摂取したエネルギーを全て体力と魔力に変換するように肉体を変化させたのだ。風呂にも入らなくてもいい。今の俺は摂取した栄養を完全に自分の体のためにすべて使うことができる。無駄な食物は無いのだから、すべて使うことにした。それに、体の表面は汚れても魔力を纏うことで、汚れを吹き飛ばし清潔さを保っている。


風呂を魔力鍛錬の場に変えたので俺の生活は常に戦闘行為と直結するといっても過言ではない。常に命の危機を意識しておかなければダンジョン内で生活することはできないのだから。

「ボッチだしな。独り言も癖になりつつあるしなあ。でも、喋らなくなったらもう駄目な気がすんだよなあ。モノホンの怪物になっちまうだろうしな。…人間よりも怪物の方が適応してるってのはどうかとも思うがなあ。」

今までにない解放感と安心感を俺は怪物になってから感じていた。

誰に気を使うこと無く、自分がしたいことをして、気に入らない奴がいればぶっ殺す。物語に出てくる悪役がなぜ、あれほど生き生きとしているのかを理解できた気がする。これは楽しいのだ、素直に。楽だしな。周囲に人が居ないことも気が楽だった。だが、同時に誰かと話したいという欲求もあった。退屈なのだ。悪役にすら仲間が居るのに今の俺には仲間などいない。俺はボッチの行進を続けながらも周囲を見回す。魔物の類はいない。一体いつまでここにいればいいのか。俺はもう何日ここにいたのかを数えるのをやめた。意味が無いからだ。そんなことよりもただただ強くなってここから出たかった。

ここを出てからは奴らに復讐をして、俺を討伐しようとやってくるであろう奴らを相手取らなければならない。だからこそ、俺は誰にも負けない強さが欲しい。もう、元の世界に帰ることは諦めている。こんな姿で帰っても住める場所が無いしなあ。


「圧縮?そう、縮めばいいんじゃないか?」

冴えている。今の俺は怪物サイズを維持しているから帰ることができないのだ。だったら、人間サイズまで縮めばいいんじゃないだろうか?


俺は意を決してイメージする。今の体が身長2メートル以内に収まるように魔力を巡らせる。尻尾も体の中に収め、8本あった足も二本にまとめてみる。腕も4本から2本に戻す。人間の体に戻るのだ、少なくともサイズだけは。俺は人の姿をイメージする。人間だったころの姿はもう薄らとしか浮かばなくて困ったけれど。


ずいぶんと怪物の姿に馴染んでしまっていて、俺は憂鬱になった。人間廃業してんなあ。とにかく、人間サイズまで戻るように念じて魔力を巡らせる。その甲斐あって、俺の体はどす黒い魔力に包まれて縮んでいった。


今までよりも視点が低い。


体に力が漲っているというか余っている。


髪が伸びていた。長髪への憧れが残っていたらしい。


髪の色は銀色、体の色もほとんど銀色だった。眼は何色なのだろうか?興味があるが、自分の眼は見ることはかなわないな。金属と生体が完全に混ざり合った俺は新種の魔物そのものだった。服は着ていいないが。全身甲冑状態なので服は無用なのだ。何より、俺は服を持っていないし。宝箱の中に服が入っていたら着ようとは思っているのだが。


「さて、ちょっと調査するかね。」

俺は全速力で走り出した。筋肉が肌の下で収縮するの感じる。そして、縮んだ筋肉が一気に解放される。重々しい足音を響かせながら俺はすさまじい速さで走っていた。変化させた肉体の質量はあまり変わっていないようだった。できるだけは魔力と筋力に変わるようにしたのだが、それでも余った部分は重量に変換されたらしい。狼のような魔物の群れを発見したのでそこへと突っ込んだ。


そして、俺は後悔した。


ぶしゃあぁぁぁぁっ!!


すさまじい数の水風船が破裂するような音がして、辺りは血の匂いに包まれた。とりあえず、飛び散った肉片と血は俺が美味しくいただいたけれども。その時、血を吸い取るために伸びた髪を使ったのだが思った以上に快適だった。今後は攻撃にも使えそうだとほくそ笑んでいた。狼の群れは無残に飛び散らせてしまったけれども、俺は満足していた。


『新たに完全吸収能力を獲得しました。』


頭にスキルを獲得したと声がした。この声は誰の声なのだろうか?無感情で機械的な声で、俺とコミュニケーションする意思などまるっきり感じさせない声。というか、感情なんてないだろ?男とも女とも青年とも老人とも区別がつかない不思議な声だしなあ。


完全吸収能力:相手を倒しさえすれば相手の能力や魔法を自分の物にできる能力。相手の攻撃を喰らっても容量を超えない限り自らの力に変えることもできる。繰り返し、攻撃を受け続ければ学び取ることも可能となる。


どんどん人間を辞めている気がするのだが。


狼が持っていたスキルを俺はいつの間にか手に入れていた。


疾風牙:足に風を纏い、相手に攻撃を仕掛ける技。攻撃の威力は筋力と敏捷と魔力を合わせた威力になる。


なるほどなぁ。


スキルに納得した俺は身体の変化を見てみる。尻尾などはどうなったかといえば、俺の意志で自由自在に出現できるようになっている。一瞬で金属製の蛇が俺の腰辺りから生えてくる。そして、また一瞬で肉体へと戻って行った。


「やれやれ。魔法は使えるようになったけど、ただ手に入っただけだしなあ。使いこなすためにも修行でもするかな?」

俺は数々の魔物を喰って手に入れた魔法の整理を考えていた。肉体も自由に操作できるようになったことだし、今後は魔力の調整と行こう。戦闘は経験したし、肉体も把握した。一番把握していないのは魔法である。闇以外の魔法は何となく使っていなかったのだ。闇を使った方が相手も倒せて食えたし、手っ取り早かった。でも、それだけではだめかもしれないし。今の俺は闇を封じられてしまえば戦力は肉体だけになってしまうのだから。それにできることは増やしておいて損はしない。魔物の中にも闇耐性を持つ奴だっているかもしれないし、光属性の魔法を使う魔物もいるかもしれない。〈かもしれない〉はたくさん考えておいて、それに対処できるようになった方が生き残るうえでは大事かもしれない!!


特にここでは俺一人しかいないのだから。仲間がいれ誰かがフォローしてくるけど、俺はボッチだしな。もともとボッチだったのが今では完全なボッチである。ボッチ(究)と言っても過言ではないだろう!


虚しい。俺はとりあえず、魔法の練習を始めた。ダンジョンはようやく北方向はすべて見終えたので、南分は魔法主体で動いて行こうと思おう。あまり、肉体攻撃はしないようにしようっと。肉体攻撃をすると大体1発で相手が死ぬ。…どこぞの、漫画に出てくるような無敵のヒーローになった気分だ。


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