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捨てられ勇者の異世界ボッチ放浪譚  作者: 雨森 時雨
第3章 無知とは哀れなものですよ。だから希望は全部潰してやりましょう!
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第28話 非リア充の悲しみと婚期の問題

「すまないな、ユウジ。」

ストレイナさんが俺に謝ってきたので、俺はこう返す。

「中々、面白かったからいいよ。ストレイナさんはこういう環境で育ったんだなってのが体感できたからな。」

脳筋な環境で育ったから、どこか抜けてるんだよなぁ。たぶん。本人に自覚は無いんだろうけれども。まあ、細かいことは気にせず、過去を引きずらないところは見習った方が良いかもしれないけれども。


俺は過去を背負って、引きずって、おまけに抱え込むからな。


ストレイナさんのような、カラッとした気性の女性は羨ましく思うこともある。何せ、俺はジメジメした気性だからな。それにしても、俺達二人を見る騎士や侍女さんたちの目が生温かいのはなぜだ。こう、出来立てのぎこちないカップルを見守る保護者のような視線というか、リア充カップルたちが付き合い始めたばかりの後輩のカップルに向ける視線というか。なんでしょうね。


俺はストレイナさんには恋愛感情よりも、友情を感じているんだけれども。無論、好意もあるけれど、俺は怪物だしなあ。難しいなあ、種族の壁って。


そろそろ、廊下が終わる。豪華な造りの廊下を終えると、これまた大きな扉があった。石造りの重くて大きい扉だ。高さは5メトルほど、厚さは50セルチ位くらいで、幅は片方だけで2メトルくらいか。重さはかなりのもだろうが、魔力で開閉しているらしかった。自動ドアだが、とてつもなく重いものだな。


いざという時の隔壁代わりでもあるのだろう。何せ、ここは王城だ。国の最重要機関なのだから。まあ、そんなところに野良闇龍王を入れてもいいものかは回答に困るんだけれども。

物凄い音を立てながら相手行く扉を見ながら、俺はそんなことを考えていた。


その後は玉座が見えたので王様を慎重に座らせて、生命オーラに変化がないかを改めて確認してから退席する。はっきり言って、気持ちよく気絶させたのは俺だから、たたき起こすの気が引けたのだ。



「なあ、ストレイナさんは俺となんというか、付き合ってるんじゃないかって目線は嫌じゃないのか?さっきから、会う人会う人、皆から微笑ましいものを見るような目で見られるんだが。そして、俺はそれがとても気になってしまうんだけれど。」

「…ああ、それは半分は私のせいで、もう半分は叔父上のせいだな。私は今まで自分よりも弱い男とは付き合わないと公言していたからな。それに、叔父上も過保護だったから、私に迂闊に近付いてくるような男がいなかったのさ。その結果、こう、今のように、適齢期を逃してしまいそうになっていてね。みんなが気にし過ぎているんだ。そう言えば、君は年上の女性はどう思うんだい?」

おいおい、これって俺に気があるのかって?勘違いするゼ?まあ、彼女は単純に俺の好みを聞きたいんだろうから答えてこう。

「別に歳はそこまで重要じゃないだろ?さすがに10歳以上離れていたら考えるけれども。歳が上なのはさほど気にしないよ。5歳以内なら許容範囲だぞ。まあ、年上の女性に限った話だけど。年下だと、ほら、俺はまだ16歳だからな。気にする年齢じゃないってことさ。」

俺とストレイナさんは、玉座の間を離れてなんか広間みたいなところで歓談しているわけだが、気配が多いな。ストレイナさんは気が付いていないが、俺には分かる。


付け回されているみたいで、気分は悪いが彼らとて仕事でやっているんだろうからな。ストレイナさんが、獣王様の姪に当たると聞いてからは余計に納得せざるを得なくなってしまった。


ただでさえ、血筋としては重要なうえに、最近まではずっと人間達によって監禁されていたんだからな。心配されない方がおかしい。というか、獣王様の姪ってことは、王位継承権はどうなるのだろうか?本人がそこらへんは、話にあげなかったから、俺も今の今まで聞いたことは無い。


なんというか、互いに互いが嫌な話を自然に避けていた感じか。だって、旅を一緒にするのに気まずいなんて嫌じゃないか。だからこそ、互いになあなあの関係で居られるように踏み込まなかったところが多いのだ。この関係は心地良いから、壊したくないんだ。


「そうか、それは良かった。私も、最近はな…年齢について言われていて、辛い時期だったんだ。そうか、私は2才しか離れていないから、問題無いんだな。うん、うん、良かった。」

すまない、勘違いしていいだろうか?これは、俺って好意を持たれているって思ってもいいんじゃないだろうか?最後の方は凄い小声で呟いているつもりだったんだろうけれども、俺の身体能力を忘れているようだ。余裕で聞き取れてしまっていて、物凄く照れ臭い。しかし、聞き取れていたとすると、聞き取らせるつもりが無かった彼女に、恥をかかせることになる。

「別にいいじゃないか。俺はストレイナさんだったら、まったく相手としては問題ないけどな。それに、俺の世界の基準だとストレイナさんがしている心配をし始めるのは後、10年くらい先だぞ。30歳近くになっても、結婚できていないと男女ともに焦り始める時期だったからな。俺やストレイナさんの歳でそういう話は気が早過ぎるって。」

何だろう?急にストレイナさんが俺から顔を逸らしてしまわれたんだが。これだから、女ってのは分からない。たかが、18歳くらいで婚期を気にするなんてこの世界は気が早すぎだろ。いや、まあ、戦争続きの世界だからこそ種族保存の欲求が高いのかもしれないな。いつ死ぬかなんて誰にも分らないくらいには死が満ち溢れている世界なんだから。ついこの間まで帝国と命懸けの戦争を繰り広げ続けていたからね。まあ、俺が終わらせんだけどな。平和をもたらしたのは異世界から派遣されにも拘らず、人類を裏切った勇者であるというのが、何とも言えないな。


「そうか、それは良かった。私はこの国の基準だと、行き遅れ始めているわけだ。でも、君がそう言ってくれるなら、まあいいよ。」

止めてください。その表情は俺に対しての特効効果があるからね。まったく、これほど魅力的な女性を放置しておくとはな。まあ、第一王位継承者の娘で、現獣王の姪っ子である彼女は少々ハードルが高いだろう。一般の獣人男性にも、王家の貴族男性にもだ。それに、獣王様自体がなんか、ストレイナさんは自分が選んだ、旦那に嫁がせたいような感じだったからな。娘離れというか、何というか、親バカなのかもしれないな。


ストレイナさんは俺の言葉に対して、嬉しそうな表情を浮かべたのだ。いや、これ、俺が相手じゃなければ確実に勘違いして恋愛(一方的な片思い)が始まっちゃうんじゃね?俺クラスの鋼鉄の理性ともなると、何とか乗り切れるが。まあ、単純い女性に対して一切の夢も希望も抱かないと決めているからな。万一、夢や希望が砕けた時の心の痛みを考えると、あまり自分の都合の良いことを考えない方が良いのである。


「獣人の適齢期っていつからがそうなんだ?」

「15歳だね。そもそも12歳くらいから付き合う相手が居るのが普通だよ。」

つまり、ベルティーオやアルティリスは正常である、と。ふむ、俺にとっての地獄だったのか、獣人世界の価値観は。なんだそれ、俺なんてこの年になっても好きな女子なんていないのにね。まあ、モテなさ過ぎて女子と交流を持つこと自体を諦めつつあったからな。オタク趣味を持つものとしては現代日本社会の女性の価値観も敵だったのだ。おまけに、俺がイケメンであれば問題なんて無かったんだろうが。イケメンではなく、目つきは腐った魚のような死んだものである。顔自体も可もなく不可もない程度で、そこいらに居る男性と比べて魅力が高いわけでも低いわけでもなかった。ただ、オタク趣味を持ち、コミュ障気味であり、人の好き嫌いが激し過ぎる性格であるので、恋愛には向いていない。


俺のようなろくでなしを好きになってくれるとしたら、過去によほど酷い失恋経験をした人か、何かが琴線に引っかかったヤンデレくらいではないだろうか?


「ここは俺にとっての地獄だな。特に恋愛関係の考え方がな。俺なんて、死ぬまでに恋愛と、結婚ができればいいとしか考えてなかったんだが。なんせ、この性格だからな。馴染める、女の子がいないんだわ。」

「私は君の好戦的な部分や、敵には一切の慈悲が無い姿は好ましく映るんだけどね。ユウジ、君は間違いなく獣人世界でなら確実にモテると思うよ。」

俺は信じていません、という目線で彼女を見ていると彼女も苦笑していた。

「ストレイナさん、俺は人に好かれやすい性格をしてないんだよ。それに、今は恋愛にまで意識をやる余裕が無いんだ。一応、これでも、元の世界には帰りたいとは思ってるんだぞ。両親に何も言えずに召喚されちまったからな。今頃、捜索願を出されてるころじゃなかろうか。」

出されていれば、だけれども。俺が本体のコピー体であったなら、この問題は解決したも同然なんだが。コピーであったなら、日本へ行くための魔法開発を行うだけなんだが。まだ、見たいアニメや漫画、ラノベなどいくらでもあるのだから。


「君はどうして、そこまで自分の事を低く評価するんだい?」

何となくむっとした表情でストレイナさんが言ってきた。なんか地雷踏んだっけな?

「ああ、俺はな、自分の事が好きじゃないからだよ。今も昔もね。これからのことは分からないけどさ。この世界に来てからの俺は、特別な存在になったかもしれない。特別な行いをしたのかもしれない。でも、俺はあくまでも、人間だったころの俺の意識しかないんだ。これっぽちも、闇龍王なんて大層なものになった覚えが無いんだよ。…時々、夢に見るんだよ。」

俺は一旦言葉を切る。あの時の事はあまり思い出したくないんだが、これを言わないと俺の自己評価が高くない理由を納得してもらえないだろうから。


「俺はな、ここに来たばかりの頃に、今なら雑魚だって言える魔物に右腕と左足を喰われてる。あの時の恐怖と無力感、屈辱と憤怒は焼き付いてしまっていて忘れられないんだ。俺は弱くて無力だってことをこの世界に来てから、改めて植え付けられてるからな。どうも、自分が闇龍王だの邪神だのと言われることにピンと来ないんだよ。俺は今でも、戦いは怖いんだよ。傷つくのは嫌だし、痛いのは嫌だ。」

ストレイナさんがすごく意外そうな顔をしているのが面白かった。やっぱり、そういう風に見えるようにしてたから、ごまかせてはいたんだろう。でも、嘘を吐き続けるのも疲れるものだ。


「君は私を助けてくれたじゃないか。そのどこが無力だというんだ?私にとっては、君は恩人で、友人なんだ。だから、君に感謝しているし、敬意も抱いている。強大な力を持ってもちっとも慢心しない、強い人間だと。」

そこまで、勘違いされていたとはな。

「ありがとう。でも、俺は余り自分に自信が持てないから自分の事が好きじゃないんだよ。この力だって元をたどれば、闇の女神が目覚めさせてくれたもんだからさ。」

「磨いたのは君だろう?いくら、目覚めさせてもらったとはいえ、力がそこまで強くなるのに何の努力も要らないなんてことは無かっただろう。…君が自分に自信が持てないなら私なんか、どうなるんだ。ああ、もう、婚期の事で悩んでいたのが馬鹿みたいだ!」

「俺だ言っただろ、婚期なんて気にしなくともストレイナさんにはいくらでも出会いはあるってさ。俺に対してここまで向き合ってくれた同世代の女子なんて居ないんだから。だから、大丈夫。ストレイナさんは良い結婚ができるに違いない。闇龍王の名に懸けて、保証するさ。」

俺は場を和ませるべく、言った。

「ああ、私の問題はこれで終わりだ。次は君の番だね。もったいない、君は本当にもったいないことをしているよ。だから、私は君の自信が取り戻せるように力を貸そう。君には返せないほどの恩があるんだから。恩人が困っているんだ。助けさせてくれてもいいだろう?」

ストレイナさんが俺に言ってきた。あれ?これ、俺のお悩み相談になってる。さっきまではストレイナさんの婚期問題だったのになあ。


まあ、ありがたいことだ。付き合ってもらおうか。いい加減、俺も自分に自信を持ってもいいころだとは思うんだ。ちょっとは自分を好きなれないと、人を好きになる事もできないだろうから。


それは結構寂しい事だ、今ならそう思うんだよ。


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