第23話 凡人の悩みと、新たな目標への一歩
俺は凡人である。
復讐とかには我を忘れるタイプであるが、基本的には無害で無価値な存在だと信じている。誰にだって思わず、我を忘れてしまうような経験はあるはずだから、俺が特別おかしいわけではないだろう、たぶん。
だからこそ、力の使い道を誤らないようにしたいし、普段は必要のない力は使わずに取っておきたいのだ。それに力は有り余っていて正直な話、持て余してすらいるしな。今までの俺なら、変身グッズを作って力は確保というのでもよかったんだが、今の俺は違う。「力」と「俺」を完全に分けてしまいたいのだ。
正直、「力」の方の俺に自我を与えてみてもいいと思っているくらいだ。だが、管理をミスった時には怖いことになるな。
この世界の人類は滅亡しました。
という風にもなりかねない。いや、なるだろうさ。そして、俺と鈴木を除いた日本人たちもついでとばかりに皆殺しにしてしまうのではないだろうか。鈴木は親友だから殺さないだろうが、それ以外は正直な話、本当に知ったことではないと思っているからな。本音で話せば、間違いなく人でなし扱いは確定するが、俺は本当にそう思って生きている。何せ、鈴木はグリディスート帝国への復讐者が俺と分かった時点で降伏してきたくらいに俺の事を分かっている奴だからな。やりやすいんだよな。色々と説明する必要も無いし、気を遣わずとも俺の考えていることくらいなら見通したように行動してくれるから。それぐらいに付き合いが長い奴だからこそ、俺のやばさをよく知っているんだが。
だから、真っ先に降伏してきてくれて助かったとも言える。そうでなければ、巻き添えにしてしまう可能性すらあったしなあ。まあ、ちゃんと探し出した上で獣人達に保護してもらう予定だったんだが、あいつに付いていたメイドさんが優秀だったおかげもあってうまくいった。シャンレイという、銀髪の狼族の少女は優秀な家の出だった。それに、俺が助けたシャルナのお姉さんだったからな。姉妹の再会に協力できたことは俺としても、善行を施したみたいで気分が良いものだった。俺のような屑でも、誰かの役に立つこと自体は、それほど嬉しく思わないでもないのだから。
鈴木は俺と違って周囲に恵まれていたみたいで羨ましかったものだ。俺も俺で周囲には恵まれているが、みんながみんな、大物過ぎて困るという事態になっている。クリムゾニアス、エタナウォーディン、ディアルクネシアだ。特に、ディアルクネシアなんてこの世界における最高神の片割れであるし。ただまあ、最近の彼女は姉に振り回されていて大変そうな妹という感じに印象が変わっている。最初の内は神秘に溢れた女神様であったのだが、最近は夢見がちな姉の奇行に悩む現実的な妹といったふうに見方が変わってきているのだ。本当に神格が下がってしまった事で、彼女の負担が増えたそうで気の毒である。俺としては復讐しやすくなったので、何とも言えない事態だが。
…なんか、こう、いたたまれないようで親近感が持てたのでうれしいようで、と実に複雑な感情を彼女には持っている。そんな苦労性の彼女にも、かつての俺は欲情したことがあるのだが、今ではそれほどでもない。自分が神性というものを持って分かったことだが、俺と彼女では存在の強さが根本的に違っていた。在り方がまるで、違っている。もしも、俺が彼女に告白して億が一、兆が一、受け入れられたとしてもあまり長続きする関係には至れないだろう。
俺は、今は邪神だが元はどこにでもいるような平凡な人間だ。
取るに足らない、百年に届くか否かの短い寿命のちっぽけな人間である。それに対して彼女は世界を司る闇を受け持つ大きな存在である。そして、ほぼ不滅と言っていいくらいに寿命がある。彼女は星と共に生きることが可能な程度には長寿だ。そして、俺は後付けで得た一万年もの寿命を持て余す可能性は高い。
けれども、自殺はできないのだ。自分で殺そうと思っても寿命以外での俺の死は困難だからだ。魂の一欠片からでも復活する程度には生き汚いのだし。とことんまで死にたくないと願ったからだろうか、俺のスキル構成は大半が生き残ることに特化した構成になっている。とにかく強ければ死なないとばかりに身体強度を上げるスキルは困ったことが無いし、回復力を上げるスキルもある。おまけに自己修復スキルまでついているのだから、至れり尽くせりだ。だが、ここ最近はそのスキルが少しばかり足枷になっている。きっと、いつの日か、俺はこの体になったことを本当に後悔する日が来るはずだから。
両親に会えないことも、異世界に住みっぱなしになる事も、親に対して孝行ができないままこの地で朽ち果てるだろうことも後悔している。
さらに言えば、俺が生き続けても元の世界には俺がいないのだ。いや、俺がただのコピー体であるのならば元の世界にも俺がいるから、そこまで問題はなくなるのだが。思う存分、人外の体を堪能しようと開き直れるかもしれない。人外の体に、人外の寿命と来たら楽しむしかない。
でも、今はそれができなくなってきた。だんだん自分が人外であるという事実が身に染みて分かってきているのだ。この世界において、俺は異物だ。だが、更に強大過ぎる力を持ったことで、ますます異物化が進んでいったのだ。俺が誰かを好きになったとして、俺はその人との子供をこの世に残していいものだろうかと思い悩むようになった。
奇跡的に誰かと俺が両想いになって、そういう関係に至ったとして、その人との間に子供のを残して、子供が俺のチートというかバグレベルの能力の片鱗を継いでいたとしたら非常に厄介なことになる。とても、可哀想なことになってしまうだろう。
人間族たちに対しての生きる防壁、要塞、戦艦じみた役割の期待という事だよ。つまり、対人族用殲滅兵器的な扱いを受けかねないということだ。それはいただけない。
不愉快にもなるし、不機嫌にもなって、獣人族たちの勇者を辞めたくなってしまうかもしれない。
そんな双方にとって不利益になるようなことを俺は望まない。こんな体になり、こんな大き過ぎる力を持った身ではあるが俺は基本的に平和に生きていきたいという思考を捨てては無い。だから、俺の平穏を乱そうとするやつは誰が相手でも殲滅する覚悟でいる。それが守るべき相手だとしても俺の平穏を壊そうとするなら俺にとっては不倶戴天の怨敵にもなり得るのだ。だから、俺は平和を愛し、平穏を好むのだから。
争い事は嫌いではないけれども、面倒で後を引くようなのは嫌いだ。殴り合いは好きだが、泥沼の戦争は嫌いなのだ。パアッとおわるようなのがいい。だからこそ、俺は自分の力を削ることにした。
削った力は、武器の形にしてここに残しておこうと思う。俺と似たような性格の人物でなければ使えないような保護はかけておかないといけないけれども。力を使うにあたって、力に溺れない精神力を持った人物であることは確実に必要になってくる。それに、もう召喚なんてできないだろうが異世界トリップのパターンにも備えておきたいのだ。
たまたま、次元の狭間に飲み込まれてこちらの世界に来た時に単なる一般人だとこの世界ではすぐに肉片になりかねない。勇者でなければ、人間族は保護なんてしてくれないしな。この大陸でただの人間が居れば、基本的に奴隷直行である。
人間族は奴隷程度の価値しか認めていないのが、この雲の名を持つ大陸である。逆に、人間達が住む大陸は獣人、亜人、魔族達の価値を塵ほどにも認めていないからお互い様だ。聖勇国が無ければ本当に、こちらの大陸の人間はあちらに渡った場合二度と故郷の土を踏むことは無かっただろう。基本的にオタクな思考を持った人間にとっては、獣人、亜人、魔族というのは外すことのできないファンタジーの象徴でもあるからそれほど悪く扱わないのだ。
後、日本人だから基本的に争い事は得意でない。
集団行動を愛し、規律を守り、あいまいな笑顔で場を穏やかに切り抜けるのを基本とする民族だし。まあ、弱い者いじめ大好きな陰険な民族でもあるけれども。弱い相手は踏みにじり、溺れかけている犬が居れば石を投げつけるような屑どももいるのだから。ま、それはどの世界の人間も変わらないけれども。俺はそれを学んだ。
別に普通の人間だってイライラしているところに自分より立場の弱い相手がいれば、イライラを発散するために当たり散らす程度の事はするしな。人間は基本的に酷い、でも酷いばかりでもない。そういうことだな。この世界の人間は光の女神にべったり過ぎて気持ちが悪いけれども、光の女神も人間族のことが好きすぎて気持ち悪いからお互い様だな。
闇の女神である、ディアルクネシアはべったりするでもなく見捨てるわけでもなく必要最低限の加護を与えている。彼女のような女神が理想的な女神だと俺は思っている。着かず、離れず、必要な時にだけ最低限の手助けをするのが神様というものではないだろうか。あ、これは親子にも当てはまってる感じだな。
だから、俺も安全装置を幾重にも張り巡らせた「闇龍王変身ステッキ」と作るとしよう。やはり、剣よりも杖の方が格好いいよな。ああ、剣にも変形できるようなギミックを搭載しよう。
そして、色々と装備者を補助するようなAI的な存在をプログラムしよう。この世界には魔法があり俺は魔力を思う存分使えるのだからな!
いや、なかなか魔導具制作が楽しくなってきたぞ。まだまだ、頭の中でだけだけども、組み立てればきっと素晴らしいものが出来上がるに違いない。
盛り上がっているユウジが、この後とんでもない魔導具を開発してしまい、自分でも頭を抱える事態になってしまうのはもう、分かりきった事だった。のちに彼は、あの時の俺は色々と煮詰まっていて、余りまともな考えではなかった、と弁明している。彼が開発する物は、規格外である自分を基準にしているので、大体平凡な存在からするととんでもなく、恐ろしい代物になるのが常だ。




