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捨てられ勇者の異世界ボッチ放浪譚  作者: 雨森 時雨
第3章 無知とは哀れなものですよ。だから希望は全部潰してやりましょう!
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第22話 彼女との穏やかな日々、新たな目標についての考察

彼女との日々は驚くほど穏やかなものだった。


彼女は俺が嫌がりそうな話題は決して振ってこない大人な女性だったのだ。配慮が行き届いた女性であり、はっきり言って、物凄い好条件の女性であることが判明していた。


人として尊敬すべき女性である。もうじき、彼女ともお別れとなると少しばかり寂しい思いだが、彼女には彼女の居るべき場所があるので俺がどうこう言うことではないだろう。それに、これ以上彼女といると俺が、光の女神の復讐に専念できる気がしなくなってくる。なんというか、彼女と一緒にいると真っ直ぐに歩いて行かないといけない気がしてくるのだ。


背筋を伸ばさせるような彼女の言葉、生き様は俺にとって刺激が強いものなのだ。


復讐心に駆られ続ける自分自身がどうしようもなく、間違っている存在ではないかと思えてくるほどに。普通の感性の人々と俺があまり一緒に居たくないのは、復讐心が鈍ってしまうからというのもある。なんて言うか、今まで自覚していなかっただけで、俺が獣人の村人たちにあまり近付き過ぎなかったのは無意識にこの事が分かっていたからだろうな。普通の日々を送っている人々の傍に長くいればいるだけ、復讐の念が薄れてしまいそうになっていくのが嫌だったのかもしれない。


あのクソ帝国への殺意は薄れようが無いほどに強いものなのだけれども、奴らをぶちのめしてすっきりとした頭で考えてみると光の女神は、自主的に俺に対して何かをしたわけではないのだ。


帝国の国民に乞われて勇者召喚の術式を一人の魔術師に授けた。


魔術師は自分なりの改造を施しながら、世界の危機のために召喚術式を使い続けた。


そうして、俺達が召喚されるに至った。


最終的には、俺が魔法陣を破壊し尽して、あらゆる魔法知識を隠したのだけれども。グリディスート帝国にしか勇者召喚術式の知識は伝わっていないようだった。光の女神は初代勇者こそ溺愛したようだったが二代目以降はまるで関心を持っていなかったみたいだしな。あの帝国の書庫の本を片端から読み進めて、判明した事実だったが。だから、激烈な殺意を持ち続けていられるほどには女神の事を憎めなくなってしまってきた。


獣人達やクリムゾニアス達は酷い目に遭わされ続けたから、彼らに助力するのは厭わないのだけれども。それでも、俺個人の感情で光の女神をぶちのめしてやろうとは思えなくなってきているのだった。


これは、俺の復讐の念が薄れているとみるべきなのか、大きな復讐を果たしたからいわゆる【賢者モード】になっているだけなのだろうかが分からないんだけれども。まあ、恐ろしくすっきりしているのは確かではあるが。女性に興味を持てるようになったしな。以前はいかなることも、復讐が優先であり、女性や金、宝石、上手い食い物などは全て後回しだったんだが。今ではそれらが優先順位の上位に来るようになっている。


戦って、戦って、戦った日々だったけれども、その分何かが足りていない感じはずっとしていたのだ。何が足りていないのかは分からないが、その足りなさを満たしたい自分はいたはずだ。そうでないと、今満たされていると感じる自分がいるのはおかしいはずだから。


そう、満たされてきているのだ。


彼女と一緒にいて、他愛のない話をしているだけにも拘らずだ。そう、俺は彼女に性的な魅力を感じているわけではない。全く情欲を覚えない程に枯れているわけでもないけれども。なんというか、旅の最初の頃は気になる女の子に昇格したな気がしていたが、今では違ってきている。


彼女は俺の親友のようなものかもしれないと、思ってきた。


俺の体の事を全て知っていて、俺の成したことも知っている。なんか、恋愛対象というには俺の黒い面を知らせ過ぎているからなあ。向こうも御免だろうさ。俺のような怪物相手に恋愛感情を抱ける女性がいるとは思えないしな。何だろうな、相棒という感じになったか。普通の女の子であれば、ドン退くような俺の所業を普通に受け止めてくれたのは彼女だし。グリディスート帝国を半壊させたこと自体は、彼女は感謝をしていたくらいだったしな。獣人であれば、グリディスート帝国を半壊させたこと自体には感謝をするそうだ。


ただし、余りにも完全に破壊してしまった事には抗議するとも彼女は言っていたが。


俺はあの国が再び立ち上がれるほどの力を残さないように叩き潰してしまったからな。獣人や亜人、魔族達からすると復讐すべき相手を俺に奪われてしまった感じになっているようだ。でも、俺にだって事情はあるしな。


この体にされたんだ。


この体でなければ救えなかった命、できなかったこともあったけれどもそれでも、俺は望んでこの体を得たわけじゃないからなあ。本当、偶然に偶然が重なって今の俺の体は構成されているからな。望んで得たわけでない力に、望んで来たわけでない世界。何もかもが、俺にとっては不本意だな。まったく、こんなことをしてくれた元凶である光の女神には文句しかないが、以前ほどにはぶん殴ってやりたいとは思えなくなってきた。そうなんだよなあ、なんだか燃え尽きてしまったような感じがするなあ。


はっきり言って、今の俺にとってはできないことがそこまでないということも退屈さに拍車をかけている。その気になれば、死んですぐでさえあれば、死者でも蘇らせることはできるのだから。まあ、冥界とはかなり揉めることになるので、俺はやりたくないが。だって、死者を蘇らせれば、その分死者と生者のバランスが崩壊してしまうしね。


そうなれば、俺は間違いなく、ディアルクネシアによって処刑される気がする。彼女は死者側の世界も管理している存在だからな。この世界には神様と言って良い存在は二柱しかいないんだしな。光の女神と闇の女神だけしかおらず、後は四大精霊王とかしかいないしな。後は龍神たちもいるけれども。まあ、地火風水の神様は何でいないんだろうなあ。


普通なら、光と闇の女神の下には地火風水の神様が付いて回るものなんだけどなあ。ライトノベルとかではそうなってるし、人間の神話とかでもそうなってることは多かったんだけど。なんか、ここは俺達の世界の面影ある部分とそうでない部分の落差が酷い。まあ、物を図る単位とかは俺達の世界に近いものが採用されていたから、覚えるのが楽だったけれども。とはいえ、俺は人間の世界にはそう長いこと居なかったんだけど。元の世界に帰る魔法を開発しようかとも思ったんだが、この体でどう生きていこうかと思うしなあ。うーん、どうも暗くなってしまっていけないんだが暗くならざるを得ない。


ヤル気が出ないんだよ。


そう、一気に復讐を終えてしまったのがまずかったんだろうな。じっくりとやってしまった方が良かったんだろうが、でもなあ、我慢できんかったし。プチっと殺してしまったんだよなあ。うーん、俺ってば、本当に考えない男だわ。あー、すっきりしないなあ。ここまで力を持ってしまうと日々の生活が退屈なものになってしまう。やはり、「力」と「俺」という存在を分離することを考えた方が良いだろうな。そうでなければ、退屈過ぎて死ぬ。うん、精神が死ぬ。


人間でしかない俺にとっては、神の如き力というのは身に余るものだよな。はっきりと認識してきたよ。ここまで強化し続けてきたから分かってきたんだが、俺はチート主人公にはなれそうにはないな。ガチートではなく、微チートくらいでいいなあ。はっきり言って不自由なことが無いというのは便利なことばかりでいいだろうと持っていたが、好敵手という存在もいない力というのは退屈でしかない。それに戦う相手が居る間は良いが、光の女神を万が一殺してしまうもしくは打倒してしまった場合には何が残るんだろうか。俺は自分が思っている以上に好戦的な人間だったようで、戦っている間は何よりも楽しいと感じているところがある。


それで、だ。


戦う相手が居なくなってしまうと俺はどうなってしまうかというところに不安を感じ始めたのだ。そうなると、世界をも滅ぼしかねない力の持ち主である俺はどうするのか見当もつかないからな。…俺が原因で世界滅亡というのもなんだか、後味が悪い。


だから、「俺」と「力」を分離してしまうのが良いと考え着いたわけだ。


力が必要な時にだけ取り出せるようにすればいい。つまり、変身ヒーローのような道具を作るか魔法を作ってしまえばいい。はあ、神の如き力を制御するには俺の心は未熟だったようだ。いや、敵をすぐに滅ぼしてしまったのがまずかったんだな。でも、じっくり滅ぼしていたのなら、亜人、魔族、獣人達の被害は広がり続けていただろうからこれはこれでいいんだろうさ。


俺が退屈するだけで、世界が平和になるのであれば、それもいいことだろう。でも、どうしようかな?本当に退屈だから、クラスの奴等が帰還できるように魔法を作ってみてやってもいいかもしれない。かなり難しい作業だから暇つぶしにはもってこいだろうしな。


やってみるか。俺には何の利益も無いだろうが、鈴木だけでも元の生活には戻れるかもしれないしな。まあ、俺達が本来の俺達のコピー体であった場合は無意味な魔法になってしまうんだが、その時はその時だ。アニメとか、ゲームとかやりたいしな。金はこの身体能力であればいくらでも稼げる手段はあるし、不法入国云々は長期滞在しなければばれないだろうから大丈夫なはず。


次の目標は元の世界に帰ることにしようかな。目的が無いと退屈過ぎて死ぬ。うん、マジで。


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