第8話 宝物と次層への移動、監視者の目線
ついに俺は地下室に向かう階段を見つけた。ゴーレムが立っていた場所に階段と入り口は隠されていたらしい。早く見つけりゃよかったよ。
ま、でも、あいつを倒してしまうまでは開かなかったんだろうけど。
宝物が落ちていたので俺は回収する。罠であったゴーレムが入っていた宝箱の中身だろう。それはアイテムポーチと呼ばれるRPGにはつきものの底無しにアイテムをしまえるバッグだと思う。というか、あんな化物を倒してアイテム一つとかケチだな、おい。
特に入れる物も無いので、アイテムポーチなんて持ってても宝の持ち腐れなんだけどな。というか、物の価値が分かった方が良い。そう思っていると、頭に刺激がある。
『初級・鑑定スキルを獲得しました。』
脳内でそんな声が響く。何だろう、思考が読まれているみたいで気持ちが悪いんだが。ま、いいや。何気なく、俺はポーチらしきものを見る。
アイテムホール・コピー:いかなる物質・質量をも収納できる収納道具。光の女神が勇者のために作りだした一品のコピーであるのでオリジナルほどの収納量は望めない。オリジナルの4分の3程度が限界である。
ふざけたアイテム収納道具だ。だが、俺は勇者でもないのになぜ、これを獲得できたのだろう?多分、ここに入って来れるのが勇者クラスだから、俺も勇者だと思われてるんだろうな。収納量の限界が分からないが穴というくらいだから、かなり入るのだろうと思っておく。あまり興味も無いし。
俺はこの階層を全力でもう一度駆け抜けた。宝箱が落ちていないかを見て回るためだ。だが、現実は非常であった。死ぬ思いで手に入れたのは光の女神が勇者のために作ったアイテム袋のコピーだけである。なんだかなぁ…
エコヒイキ、良くない。
そう言いたくなるものだ。俺なんか、闇の女神らしき神かなんかに興味持たれてるのに。呪われてないだけ良しとしようかな。顔も見せない女神相手だから、コメントのしようもないが。光にしろ闇にしろ、顔も見たことが無いので印象だけで評価が決まる。俺は次層に移動しながらそんなことを考えていた。
すると前方から、次層の魔物だと思える魔物がやって来た。なんだかオーガとかいう魔物に酷似している。西洋版の鬼だよな、あれ。ヨーロッパ風の鬼。そう言えば、何となくイメージしてもらえるかもしれん。頭には巨大な一本角があり身長は4メートルほど、山のように筋肉がある魔物だったが、恐怖をまるで感じない。オーガは大きな声を上げて襲い掛かってきた。足は意外と速いようだな。
「ガロァアアア!!」
元気いっぱいだなー筋肉達磨め。
俺は特に興味もなくオーガらしき魔物を見つめる。何せ、さっきのゴーレムほど強さを感じないのだし。ちょっと殴ってみようか?
「だりゃあぁっ!!」
ゴーレムと混じり合い強化された蜘蛛の足によって加速して、ゴリラと猪とゴーレムの腕が融合した新しい俺の腕でオーガをぶん殴る。
ぐしゃりっ…
熟れた果実を踏み潰したような音がした。今の一発で相手の心臓を潰してしまったようだ。血を吹いて倒れる魔物。俺は鑑定してみた。鑑定が初級であるため、細かいことはわからなかったけれど、オーガ君はかなり強い魔物であったらしい。
キングオーガ レベル231 HP0/25792 MP0 状態:死亡
スキル:剛腕・絶 自分の筋力を常時3倍にするスキル。ただし、防御力が半減する。
そして俺は、キングオーガの死体を捕食した。もう、自分でも食べるし、魔法でも食べている。腹が膨れたところで頭に声が響く。キングオーガのスキルを獲得したらしい。今まで倒した魔物のスキルは獲得したことは無い。糸を吐いたり、超音波を出したりと言った種族的な能力は手に入れているが、スキルは持っていない。となると、倒した相手のレベル関係で獲得できるのか、特別な方法があるのかといったところか。猪、蝙蝠、蜘蛛、蛇、虎、スライム、ゴーレムその他たくさんの魔物をたくさん喰ってきたが俺は魔物が使うスキルや魔法が手に入ったわけではない。相手のスキルや魔法を鑑定して認識してから殺せば、手に入るのかもしれない。とりあえず、これからの俺は常時筋力が3倍らしい。ま、防御力は半減しているので攻撃は回避する方向で行こうか。でも、ゴーレムの配合によって上がった防御力は半減しても大抵の魔物の攻撃に耐えそうだけどな。ふと思い立って俺はステータスプレートを覗く。そして、見たことを後悔してしまう羽目になった。
佐藤 唯志:ユウジ サトウ
種族:??? 属性:闇
レベル86 HP18285 MP18677
筋力 12557(37671)知力 11780
耐久 12190(6095) 魔力 12451
敏捷 12380 器用 9364
魅力 50 幸運 34
*()内はスキルによる補正
固有スキル:絶対復讐
取得スキル:剛腕・絶
闇魔法:悪食影牙 相手を喰い尽くす魔法。相手を食べた数に応じてステータス成長値に補正が付く。
影刃爪牙:相手に影の刃を飛ばす。レベルに応じて扱える刃の数が増える。また、刃の威力も向上する。相手の影から刃を生やすこともできる。
肉体変化:自身の肉体を変化する。肉体を魔力に変換することも、魔力を変換して肉体に変えることも可能となる。ただし、自身の肉体に限られる。
種族が???って何だよ、おいぃ!!
まあ、今の外見はとんでもないことになってるしなあ。人に見られても多分きっと間違いなく俺だと判断できる奴はいないだろうしなあ。
今まで倒した魔物の数に応じて成長ステータスが変動するというのは俺にとっては助かることだ。これから、バンバン倒していこう。そして強くなって、ここから出て、腐れ外道に復讐してやるのだ。
俺は意気揚々と魔物狩りに動き出した。もう、狩りと言っていい立場になっているようだしな。あのゴーレムを殺した俺には怖い魔物は今のところいなかった。今は亡霊系が一番怖いな。やはり物理攻撃が効かないのは困るのだ。何せ、今の俺は意図せずにだが、超脳筋の能力公正なのだから。防御半減で攻撃は3倍である。まあ、かなりの利点だが、相手が攻撃特化だった場合こちらは全力で回避し続けなければならない。このスキルの欠点を埋めるためには魔物を狩ってステータスの基本値を上げることに尽力しよう。
そうして、俺は第2層と思われる場所を駆け始めた。一体、何層あるのかは知らないが、とにかく魔物を掃討しよう。先ほどまでいた層と比べると魔法を使ってくる魔物が増えた。おかげで魔法の属性が増えてきたのだから美味しい層である。とはいえ、ここの層の主は何だろうか?やはり俺が苦手としている亡霊系になるのだろうか?なんだかダンジョンに俺の思考を読まれている気分になるのだ。第1層の主は俺が苦手な、ゴーレムだったしな。多分、ミスリルゴーレムだと思うが。あいつのスキルを取れていないのが悔やまれた。だが、あいつはもう死んでいるし俺は第1層には戻れなくなっていた。ボスとの戦闘は一期一会らしいから気を付けてスキルや魔法を盗んで行こうっと。
「うらああぁぁっ!!」
先程から物理攻撃だけで相手を殺して、食っての繰り返しである。並の魔物ではもう、この層には俺の敵が良い無い。だが、油断してすぐにボス戦に挑めば死ぬかもしれないという恐怖がある。先ほどのミスリルゴーレムはまさにぎりぎりだった。運が良くて勝ったのだから。運も実力の内とはいえ、そう何度も幸運が続くなんて都合の良いことは起こりえない。俺はただの巻き込まれただけのモブなのだから。モブにしてはちょっとキャラが濃すぎるが。もうモブではなくて、何かだな。何せ、種族表示がされなくなるくらいなのだから。一体、俺の種族はどうなってしまったのだろうか?ふと視線を感じた気がして振り返るもそこには誰もいなかった。
…気配が読めるごっこをしたみたいでカッコ悪いな。
他人がいなくて良かったと、息を吐く。とりあえず、俺は広めの階層を踏破すべく歩き始めた。
「へえ、少しの間にずいぶんと強くなったのね。」
一人の人間というか、人間だった彼を観察しながら私は呟いた。
強い憎悪の念をあの忌々しい女のダンジョンから感じたので戯れに力を貸してやったが、ずいぶんと強くなっていた。ステータスを覗いたが、あのままのペースで成長して行けば魔王ですら簡単に葬れるようになるはずだ。上手く行けば神すら殺せる史上最悪の怪物もしくは魔人が出現するかもしれない。そう思うと私は勇者召喚などという無粋なシステムを創り出した馬鹿を評価してもいい気になった。
「もっともっと私を楽しませなさいよ?それに応じた力は与えてあげるから♪」
誰も知らない場所で、誰も来ない場所で、彼女は歌うように呟いて彼女の退屈を紛らわせてくれる男の監視に戻るのだった。
いつになく彼女は楽しそうであることに彼女は気づいていない。この変化が何をもたらすのかは誰も知らないが、唯志は厄介な相手に興味を持たれていることだけは確かであった。