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捨てられ勇者の異世界ボッチ放浪譚  作者: 雨森 時雨
第3章 無知とは哀れなものですよ。だから希望は全部潰してやりましょう!
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第18話 ストレイナ先生との授業

「よし、ストレイナ先生に授業をお願いしよう。授業内容は獣人世界の常識と文化な。俺には丸ごと欠けているものだし。」

それは俺の非常識さを治すための口座である。


俺は異世界人であるから、この世界の常識など知らない。おまけに、3年近く殺して、殺して殺し尽すといった暮らしをしていたものである。当然、敵=殺すという方式が完成してしまっており、わずかにでも俺に敵意や殺気を向けようものなら無意識で手加減抜きの攻撃を仕掛けてしまいかねない。


そうなると外交問題というか、また国を一つ滅ぼさねばならなくなって面倒だ。人間相手ならともかく、獣人相手とは仲良くやっていきたいのだから、常識から学び直さねばなるまい。


「そうだね、私も君に対してこの世界の常識を教えた方が良いと思ったよ。では私が教わったことから順に話していくから、分からなくなったら質問をして欲しい。」

ストレイナさんは俺の方を見て言った。彼女の様子からすると人にものを教えるのはそれほど苦手としているようには見えなかったので、ありがたかった。教えるのが苦手な人から教わるのは難しいし、申し訳なさが上がるからな。


「では、我々獣人の起源から話しておこうか。そうだね、勇者がこの大陸にまで攻め込んで来る前の時代まででいいだろう。」


彼女の授業が始まった。


かつて獣人はただの弱い獣たちに過ぎなかったという。それが、闇の女神がこの大陸の過酷さを乗り切れないだろうと判断したうえで今のような人の姿を与えてくれたそうだ。実際、この大陸は人間が住んでいる大陸ほど気候は穏やかではない。すごく大きな火山や果てが無いと思える砂漠はあるし、かと思えば氷に閉ざされた地域もあるしで、地域が少し変わっただけで気候が激しく変わる。


この大陸は、創星神が色々と試行錯誤しながら作ったものだから、こうも地形の変化が賑やかなのだろうと獣人達の神学者は考えている。まあ、地形の変化が大きいため、それぞれの地域に精霊が住んでいけるらしいのだが。精霊は自然の気配が濃いところにしか住めない、霊的な生命体らしいからだ。人間界では建造物が増えて、自然が減り続けたため、精霊達の種族の中には自然豊かなこの大陸にまで移住してきた種族もいるらしい。


そして、魔族は元々は魔力が特別に強大な人間だったようだ。それが迫害され、追い詰められていくうちにこちらの大陸にまで流れ着いたらしい。個々の大陸も獣人が全て支配していた訳ではなかったので、彼らはだんだんこちらの大陸に移住する者達が増えていった。そうすると自然と獣人達との対立が始まる。


獣人達は土着の民族であるので、後から入ってきて勝手に暮らしている魔族たちの存在は面白いものではなかったのだ。魔族も魔族で、この大陸で暮らせなくなってしまうと、人間達の大陸を力で以て攻め落とさなければならないので、必死だった。だから、獣人達を殺し尽してでもここに自分達の楽園を作ることにした。今では、獣人、亜人、魔族は同盟を組んで戦争をしないことを誓っているが、やはり始めの頃は激突があったそうだ。


亜人達は創星神が自ら作り上げた種族であったので自らの出生に誇りを持っていた。であるから誇り高く、排他的な所があった。基本的な種族はエルフとドワーフである。というか、彼ら以外には創星神が作りだした種族はいない。エルフには、ダークエルフという暑い地域を好んで暮らすエルフもいる。そして、彼らを取りまとめているのはエルフの王族ともいわれるハイエルフである。ダークエルフの場合は、ルナエルフという名前に変わる。ちなみに、ハイエルフとルナエルフの間には身分の差は無い。住んでいる地域が違っているため、治める相手が違う身であるし、それぞれが創星神によって作られた存在であるという誇りを持っているのでそれほどお互いの事に関心が無い。


ハイエルフは森の主であり、ルナエルフは砂漠の主である。


そして、ハイエルフは生あるものを導き、ルナエルフは死したものを導く。


お互いに司るものが異なっているし、お互いに相手の事を尊重しているのだ。ハイエルフは命ある者達を、導く役割を背負い、ルナエルフは命を失った者達が安らかな死後を迎えることができるように闇の女神との関係が深いのだそうだ。ハイエルフは光の女神との関係は薄いそうだが、結構意外だった。

そこを聞いてみると、微妙な返事が返ってきた。


「ああ、始めのうちはハイエルフたちも光の女神との関係性が良かったのだけどね。だんだん彼女と接していくうちにね、彼女が人間と人間のために役に立つものしか愛していないことに気が付いてしまったんだ。光の女神は人間を好み、人間を辞めた魔族、獣から進化した獣人、父親に当たる創星神が作りだした亜人達は好きではないんだ。」

「反抗期なのか?光の女神は。」

「まあ、そんなところだ。創星神は光の女神と闇の女神を作り、その後に亜人達を作りだした。人間たちはね、亜人達よりも何もかもが劣った状態で作られたんだ。何せ、特別製ではないからね。でも、それが光の女神には気に入らなかったんだろう。特別である自分が治める存在は、親である創星神にとっては特別でなかったことが許せなかったみたいだ。」

迷惑な話だ。というか、創星神というのは男だろうと俺は感じているのだが、そこらへんはどうなのでしょうか、先生?俺は、ストレイナさんに質問をした。


「創星神の正体?ああ、彼は一柱の神様であると宣言はしているよ。昔は人の身であるが、神になる以前、最愛の伴侶を亡くしてからはずっと星を作っては放浪しているのだそうだ。自分好みの相手を見つけるまでは婚姻を結ぶ気は無いらしいね。」

道理で、ドワーフだのエルフだのと、俺の親しんでいる存在がここに生きていたわけだ。不思議には思っていたのだ。どうして、俺の知っている知識とあまり差が無い民族たちが存在しているのかがやっと理解できたよ。本当にストレイナさんの授業はためになる。


「自分好みってどんな相手になるんだろうか。だって、星すら創れるような神だろう?とんでもない性能じゃないか…。俺も大概だが、創星神も大概だな。まあ、彼の方が俺よりはマシだろうけどな。俺は破壊に特化しているから、作るのはどうも苦手なんだよ。」

俺は、まだ見ぬ、創星神に興味を持ち始めた。多分、相手は俺と同じ世界か並行世界からやってきた日本人じゃないかと思うのだ。まあ、もう人としての概念よりも神としての概念の方が勝っているような状態だろうけど。というか、何年生きているんだろうな。

「君の苦手はあてにならないと私は思うけれどね。破壊しか能がないのであれば、私の傷を治したのはどういうことだ。あれは普通の存在には治せないような傷だった。そもそも、我々は長い間研究を重ねているが喪失部位の再生だけはできなかったんだぞ。一応、肉体と遜色のない義肢を作ることは成功しているが、やはり喪失部位の再生はできないというのが精霊術界の権威の出した結論なんだが。」

ついでに言えば、創星神の好みなどは不明だそうだ。そんなことは獣人側も、魔族側も、亜人達ですら把握できていないらしい。そして、彼女の説明は続いた。


亜人達は、発生したのが今から1万年ほど前らしい。獣人は6000年前で、人間が5000年ほど前、魔族たちは2000年ほど前かららしく一番新しい種族なのだそうだ。


そして種族のそれぞれの平均寿命は、人間達が平均して60年、獣人達は150年、魔族たちもそれとほぼ同じくらい、エルフは破格の500年でドワーフたちは300年だそうだ。ただし、強ければ強いほど長生きしやすいので、ハイエルフが最高で3000年生きた記録があるらしい。ほぼ、龍種並の寿命だそうである。そして、恐ろしい事には、死ぬまで呆けたりはしなかったようだ。人間の平均寿命が短いのは、種族的に肉体性能が高くないこと、モンスターによって殺されることが多いことが原因だそうだ。寿命は、闇の女神が最近になって調べた情報らしい。


冥界を管理する彼女だからこそ、各種族の平均寿命まで把握しているらしかった。


なんとも仕事熱心な女神様である。どこかの、自分が好きな世界しか愛さずに仕事を放棄し続ける駄女神様に教えてやってほしいものだ。職務を全うしない奴は屑である、と。


まだまだ、これは入門編であり彼女の授業は続くのだ。なんか神話を勉強しているみたいで楽しくなってきたな。


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