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捨てられ勇者の異世界ボッチ放浪譚  作者: 雨森 時雨
第3章 無知とは哀れなものですよ。だから希望は全部潰してやりましょう!
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第16話 ボッチ、変装について考える事

俺が、復讐を終えてから1カ月ほどが経った。


ストレイナさんと、王都まで潜入する計画は一応順調に行っている。王都まで影渡をし続けたのは単純に俺がどうしても自身の力を抑えきれなかったことが原因だ。そして、俺はここ最近自身の力を最低限にまで落とし込む実験をダンジョンハウス内で続けている。


後は、姿を変える実験だ。魔法での変化ではなく、肉体そのものを変質させる感じでの変装を狙っている。魔法で変装をすると、下手をすると王都にある王城に備えられた最新式の魔法による監視装置に引っかかる恐れがあるようだったからだ。ストレイナさん曰く、俺の力は分かり易すぎて、すぐに尋常ならざる存在が来たと分かるほどに強烈な印象があるらしい。力が強過ぎるのも不便なんだなと、俺は思う。ほどほどが一番だな何事も。


つまり、今の俺は有り余る力を垂れ流しにしており、自分の存在をこれでもかというくらいに主張しているのだそうだ。俺としては一応力を隠しているのだが、力の総量が大き過ぎてあまり隠れてはいないみたいだった。俺なりの努力の成果は申し訳なさそうにする、ストレイナさんの前では無力だった。彼女は、俺の精一杯の弱体化状態を見て言ったのだ。それでも、まだまだ強過ぎる、と。


普通の存在では、俺の前に正気を保って立つことさえ難しいとさえ言われてしまった。では、どうして、ベルティーオ達は大丈夫なのかと問うと、彼等に対しては、俺自身が完全に力のコントロールを行っているから彼らには無害らしかった。つまり、俺は彼等を大事に思っているから、彼らに対してはそこまでの悪影響は出なかったということらしい。


俺はあの子達を気に入っているからなあ。


つまり、俺が気に入るか、気に入らないかで俺の弱体化の成功率は変わってくるようだった。気に入る、気に入らないを除いて完全な弱体化を習得できない限り、俺の自由は無いも同然だった。獣人達の国々を自由に動き回るには今の俺の力はあまりにも巨大すぎたのだし。だからこそ、俺は俺が興味も無い相手を思い遣れるかに弱体化の成功がかかっているのだった。なんて難しい条件なんだよ。俺は興味が無い相手に対しては以前からずっと、驚くほどに冷酷とか、人間の感情を持っていないとか言われるレベルで存在すら認識しなかったからな。


…ろくでなしの自分の性分がこの時ほど憎かったことは無い。


さて、それは置いておいて変装後の姿はどうしたものか。うーん、好きな動物は狼だな。それも銀色の毛の奴。つまり、ベルティーオと一緒の姿なわけだな。それは、なんか嫌だな。じゃあ、逆に黒狼にしてみようか。真っ黒の毛の狼。元々は日本人なわけだし、最近はずっと髪の色が真っ白に近い銀だったからな。たまにはちゃんと故郷を忘れないように黒い毛になるのもいいかもしれない。


方向性は定まった。さて、問題は力のイメージだな。俺はあの子達の力の総量は理解できている。ストレイナさんよりも強いくらいに調整できれば最善だな。一応、彼女を守れるくらいには強さを残しておきたいしな。そうでないと、力を落とし過ぎたことになってしまうし。思った以上に力を抑えるのは難しい。


ダンジョンにいた間はいつでも全力が出せることを考えて生きてきたからな。癖が抜けない。敵を見つければ一瞬でぶっ殺すことが大事だった。相手が厄介な特性を持っているならば、自分は相手が特製を発揮するよりも、早く相手を殺せればいいと学んで以来そういう方針だったのだ。


…厄介な特性の思い出は相手の体力が減れば減るほど戦闘能力が跳ね上がるという奴だった。リベンジャーという人型の魔物だったな、あいつは。必ず復讐を果たす魔物であり、俺と性格が似ていそうな奴だった。きっと、魔物になるまでの起源も復讐に関わるものだったに違いない。この世界の魔物は一度発生すると自動的に数が増えるようなのだ。人間や動物、ありとあらゆる意思を持つ存在の悪意を吸って魔物達は発生するようだから。というか、石ですら、魔物になるしな。土とか、草とか自然現象そのものも魔物と化す。カースフレイムとか、マッドウインドとか、クレイジーウォーターなどだ。自然が元になった魔物はあまり感情が無いから面倒臭い。死ぬまで相手をしてやらないといけないから。


この世界の仕組みは良く分からないが、一定以上の人間が増えることが無いように調整されているのは分かる。俺が魔物になったのもそうだろうし。何せ、俺は国一つを落としたのだから。つまり、それだけ、自然が壊されることは減ったのだ。人口自体が減ったのだから。一億五千万くらいは確実に。そのくらいは殺してしまっている、間接的には。俺がダンジョンで鍛え上げて地上まで連れてきた魔物達が俺に嬉々として報告してきた。


<ユウジ様、やりました!あのゴミみたいな国の人間達の半分近くは殺してやりましたぜ!!ユウジ様に舐めた真似をした国の人間なんて生かしてやる意味なんてないですから!!>


それはもう目を輝かせて嬉しそうに言ってきたものだったな。俺が育てたクリムゾンドラゴン君。ただのレッドワイバーンに過ぎなかった彼だったが、並外れた向上心があったから面白くなって育ててやったのだ。そうしたら、亜龍に過ぎなかった彼はなんと、龍になってしまったのだ。ちゃんとしたドラゴン種へとクラスアップしたのだった。2000年生きないと〈龍〉としては認められないのだが、種族としては別らしい。そのことも、クリムゾニアスから学んだ。龍種だから強いわけではないのだ。鍛錬を怠らなかった竜種であれば、龍種でなくとも、〈龍〉に至れるということらしい。


努力は実を結ぶ辺りは人間界よりも、きっと優しくできている感じだな。努力をしなければ、人間達に討伐されるか、自分よりも上位の龍の餌に成り下がるかであるから、優しいとばかりは言っていられない側面もあるか。というか、俺の周りにいる魔物達は、多かれ少なかれ、彼のような喋り方をするものが多い。…ヤンキー風味な感じか。


俺自身は、別に不良でも何でもないし、そういう奴等とは極めて距離を離していたい男だったし。だって、絡まれるんだもの。目つきが悪い、この顔の所為で。俺が悪いわけでもないんだがな。だって、集団で集まらなければ何もできない奴等が多いから、寂しがり屋の集団めw、とか心の内で呟いていただけなのにな。なぜか、奴らは心の声が聞こえているみたいに、俺に絡みついてきたから鬱陶しいこと、この上なかった。


そんな懐かしくも、どうでもいい思い出は置いておいて、今は俺の弱体化の成功率を上げる話だ。都合のいいモデルとしては、サクレーヤくらいか。あれくらいの力であれば、ストレイナさんを救出したと言っても、信憑性が出るし、クリムゾニアス程は強過ぎない。俺の強さを主張するのには都合の良い強さだ。


ただし、この考えが彼女にばれた場合は大変なことになるのだけど。


どう好意的な考え方をしても、サクレーヤを下に見ている感じだしな。だが、力の総量で彼女ほど、俺にとって都合の良いモデルはいないのだ。強過ぎず、弱過ぎないという最高の戦闘力モデルなのだから。まあ、サクレーヤよりはも少しだけ弱めに仕上げておこう。俺は意外に気を遣える男なのだ。必ずしも、その気の遣い方が正しいかどうかは、分かっていないんだけれど。


モデルは、黒狼。背丈は今の俺くらいで良いだろう。身長は173セルチくらいか。体重は63キローグぐらいで行こう。髪は首を隠して、背中に届く程度で、ショートカット風だな。顔も体型も男らしい形に変化することはできなくなっている。肉体を変えるにあたっては、大元の肉体である今の俺の、男の娘状態をベースにするしかないのだ。魔力を最小限に使う変化では大きな変化は期待できない。いずれは魔力を大量に使っても、ばれないような隠蔽能力を習得したいものだが、今の俺ではこれが精一杯だ。


独学での魔法行使には、やはり余計な手間がかかってしまう。ちゃんとした人に、きちんとした学問体系によって教えてもらい、しっかりと勉強すべきだろうか。そんなことを考えながら、俺は変身と弱体化の作業を続けていた。


かれこれ、一週間ほどかかって、ようやく実行できた。満足のいく、弱体化と変装である。あちらの世界では一日と少しが経っているころだろう。


今の俺は黒銀と言い表せる髪の色に、狼の耳と尻尾が付いている。髪型はショートカットで目付きは鋭い感じ。立ち姿はやはり後ろから見れば女性的ではあるが、身長が高めなので優男とは見られても女性とは見られない仕上がりにはなってくれた。これで、俺もこの大陸を普通に動ける時が訪れたという訳だ。ストレイナさんには感謝しなければならない。


彼女の助言が無ければ、俺は確実に力を垂れ流しにしたままで辺りをパニックに陥らせながら歩き回る羽目になっていただろう。そして国軍との対決に発展して、戦争状態にまで行ってしまう未来だってあったかもしれない。


そんな未来を一言で回避できたのだから、彼女の功績は大きいものだと俺は思う。これで、ようやく出発の準備ができた。さて、地上に戻るとしましょうか。新しい、俺を見てもらわなければならないからな。


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