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捨てられ勇者の異世界ボッチ放浪譚  作者: 雨森 時雨
第3章 無知とは哀れなものですよ。だから希望は全部潰してやりましょう!
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第12話 神化の秘密と理由

ストレイナさんと穴掘りに励んでから数日後に、俺の下に美しい来訪者がやって来た。ダンジョンハウス内でお茶を飲んでいた時だった。

「本当、貴方は私の予想をことごとく裏切ってくれるわね…」

呆れた表情すら美しい女神、ディアルクネシアが俺の元を訪れてくれたのは突然の事だった。わざわざ、実体化してくれてまで俺のところに来る理由には心当たりが多過ぎて、逆にわからなかった。


うん、逃げるのはやめておこうか。


いつの間にか、闇竜神やら、邪神(中級)やらになっているからその件だろう。


というか、勝手に神様になってもこの世界的には大丈夫なのだろうか?


「…ああ、大丈夫なわけないでしょう。人間から、竜神や邪神になった例はないもの。でも、貴方の事はお父様が直接承認されてしまったからね。星の総意としては問題ないわね。」

それでいいのか、この星の主神。あ、お客様が来ているのだから、彼女の分までお茶とお茶菓子を用意しなくてはならない。



彼女は俺の準備が整うまで待っていてくれたので、もてなしの準備を終えてから俺は話を始めた。クッキーと紅茶の組み合わせを気に入ってくれればいいのだが。いや、それも大事だが、今は俺の神様変身についての話もしなければならない。

「いや、俺が言うのもなんだけど、それでいいのか。俺がやったのは大規模な復讐行為で、全部俺のエゴで行ったことだぞ。すごく楽しかったけどさ。いやあ、俺を苦しめた奴らが苦しむさまは最高に面白かったけれども。…こういう危険な人間を神の座につけていいものなのかな。」

神といっても邪神だけれど。だからこそ、こう、危険なものは管理するという方向には行かないのだろうか。ディアルクネシアの父親である主神様の考えはさっぱりわからない。そして、神になったからこそ、ディアルクネシアのすごさも改めて分かるものだ。彼女が生きてきた年月がそのまま俺との力の差となって表れている感じだ。


戦いにすらならないレベルで力が離れている。なんというか、この世界には俺よりも強い存在がまだ、居てくれたことに嬉しさを感じるな。何せ、俺が地上最強であっても世界最強ではないことが証明されたのだし。何か、こう、自分よりも強い存在がいる方が良い。その方が目指すものがあって鍛えることもできるしな。まあ、鍛える気は、無いのだけれども。


「そういえば、貴方は世界最強を目指さないの?それができる実力も器も持っているのに。」

ディアルクネシアが不思議そうな顔をしながら、俺に尋ねてきた。

「別に俺は戦うのは好きじゃないからな。正直、邪神になったのでお腹いっぱいなところだよ。まったく、信仰もされない神様なんていても仕方が無いだろうに。」

俺に特定の信徒などできるわけがない。


「残念だけど、貴方はこの人間が住んでいない、この大陸においては圧倒的な支持を集めているのよ。無論、この私ほどじゃないけれどね。新興の神としては破格の勢いで信者を獲得して行っているわ。だから、貴方が神の座から落ちることは信仰者が全て居なくならない限りは起こらないわね。貴方は夢を叶えられるかもしれない位置にまで登ってきたのよ。」

彼女はさらに追加説明をしてくれて、このままであれば俺は第二の信仰対象になるほどの勢いで信者が増えているのだそうだ。元は力に恵まれていなかった者が、大帝国をも滅ぼす毒となるまでに成長したという実例が受けているらしい。そう考えれば、俺の行ったことはサクセスストーリーの一つとして数えられないことも無いような気がする。大変だったけどな。更に大変なことも待ち受けているけれども、それは彼女が手は届くと保証してくれたことで自身が持ててきた。


おまけに、帝国滅亡を有言実行したところも霊験あらたかそうで好まれている模様。どうしようもない霊験だと思うんだが。何せ、俺にできるのは壊すことだけで作るなんてのは苦手だし、既存の権力を握っている存在を破壊することに特化しているのだから。権力者絶対殺すマンという活躍でしか使い道のない権能だしな。


まあ、自分よりも上位の者に対しては強い権能だと思うが。


俺は基本的には弱者だったから、そういう権能になったのだと思う。弱者であったからこそ、強者を妬み、憎み、羨んだのだし。大嫌いだけれども、どうしようもなく憧れる立場であったのだ、強者という立ち位置は。誰だって、弱者であるよりは強者で居たいに決まっている。でも、世の中そうは上手くいかないものだ。だからこそ、俺のような存在は必要なのだろうし、ありがたがられるのかもしれないな。とはいえ、俺は神になったのだが、特別変わったことは無かったと思うんだけどな。別に体が神っぽくなったわけではないし。


霊体化しているわけでもないし、肉の体を失ったわけでもなし。ふむ、神って何が違うんだろ?


そこら辺の疑問を彼女に尋ねてみた。


「ああ、貴方の場合は〈神〉とはいっても混ざりものが多過ぎて純粋な神とは言えないわね。亜神というのが正しいところでしょうね。何せ、体の中がほぼ魔物の物になってるからね。好きでそうなったわけではないでしょうけど、純粋な神性は身につかないわね。神の紛い物というのが、神である私の立場から見た貴方の姿ね。過去には例が無いもの、正しい評価なんて下せないわ。これは決して、貴方の事を貶める発言じゃないから勘違いしないようにね。新しい邪神さん。」

最後の方は俺の事を気にかけてくれたのか、茶目っ気じみた振る舞いをしてくれた彼女は優しいのだと思う。はっきり言って、俺の体の9割以上は魔物の物になっている。今の力なら人間の物へと変換もできるんだが、正直魔物の体が便利過ぎてあまりそういう気にもなれない。なんだかんだで利便性が一番大事なところだしな。


例えば、腕を落とされても、別の魔物の肉体のストックから作りだせばいいし。


喪失感への恐怖が薄れているのだ。再生能力も馬鹿げているから、そもそも喪失すること自体がありえない仮定と化してきている。神性を帯びていないのなら魔性は帯びているのだろうか。


「じゃあ、俺は神性は無いけれど、魔性は持ってるってことになるのか?」

俺が尋ねると彼女はうなずいた。

「ええ、それも伝説の大魔獣を軽く飛び越えるくらいの魔性をね。後少し、貴方が殺した人間の数が多ければ間違いなくあなたは邪神ではなく、魔神になっていたでしょうね。この世界では現れたことのない最新で最悪の神にね。」

ディアルクネシアは溜息をつくように言った。魔神はいなかったけれども、邪神はいたわけか。俺の他の邪神は誰なんだろうね。まあ、邪神なんだから、あまりお会いしたくはないが情報くらいは知っておきたいな。


「俺が邪神になることで、貴女は困ったりするのか?もし、そうなら少し罪悪感が湧くけれども。俺は美人さんを困らせるのは好きじゃないからさ。」

気持ちの赴くままに言葉を吐いた。そして後悔した。これでは、ナンパ男みたいじゃないか。なんか、俺のキャラじゃないよな?本音をそのまんまに言うなんてのは。いや、いつ死ぬかわからないからこそ、正直でいようとは思ったかもしれないか。


「……つくづく、変わってるわね、貴方は。貴方が神になったことでは困ってないわ。むしろ、良かったとも思ってる。けれどね、私の姉の事では頭が痛いのよ。あいつ、また神格が落ちたのよ。信者から見放され過ぎて、とうとう天候もまともに操れなくなったみたいでね。人間界の天気は今、相当すごいわよ。…荒れてるわぁ。そのせいで私が龍族に頭を下げ、精霊達にも頭を下げてどうにかこうにか、落ち着かせたんだから。…本当、貴方とあの馬鹿を交換したいわね。」

半ば本気の顔で俺の方を見ている彼女に俺は心底同情した。というか、親近感がわいてきた。なんというか、これまでは何か、神様という感じがしていて、どうにも人間上がりの俺とは考え方とか違うんだろうなと思っていたんだけれども。何のことは無い、彼女だって、この世界に二柱しかいない神様だけれども、姉の不始末のせいで頭を悩ませたりする感性は持っているのだ。


つまり、俺達人間とあまり変わらないのだ。


無論、力や寿命、存在の強度なんかは根本的に異なって履うけれども。あまり構え過ぎないように今後は接して行けそうだった。ただ、まあ、駄姉の事は同情するな。俺だって、自分が好きなことに没頭し過ぎて、自分の仕事を放棄するような姉というか家族は持ちたくはないからな。


でも、神の姉とかいうのはどうやって決まるんだろうか。人間みたいに誰か女神の腹から生まれてくるのだろうか?俺のイメージだと、神様本体の分身みたいな感じで子供が増えていくイメージなんだが。そう、分身であるけれども、力や性格は全くの別物の存在として生まれるというか降臨する?という感じで思い描いている。


「俺が太陽を司る神様になったらイメージが違いすぎて困るだろうに。だって神話によっては最高神の名前だって冠するような尊い存在だぞ。…個々の世界の神様はちょっとその基準から外れるけどさ。うん、最高神にはしたくないな。残念さでは最高だと思うよ。」

俺が気持ちを込めて言うと彼女もうなずいてくれる。俺と彼女は分かり合っている感じだな。俺の妄想でなければなんだけどさ。


「まあ、貴方の場合は夜の神に任命してあげるわ。私が太陽神をやるようにするから。あの馬鹿姉のフォローをしていたら太陽の運行はできるようになっちゃったのよね。」

ディアルクネシアが達観したような顔で言った。目は遥か遠い水平線を見つめてしまっている。駄目だ、これは良くない傾向だ。


「さっき、馬鹿神の神格が下がったと言っていたけど、どのくらい下がったんだ?」

俺は下がり方によってはブッ殺!するつもりなので話を聞きたかった。敵の戦力は正確に把握しておきたいものだし。


「今のあの馬鹿の神格は下級神に近い、中級神ね。はっきり言って、上級に近い中級神であるあなたの方が神格では上回ってるわ。まあ腐っても、数千年を超えて生きているから、存在の強度という点では貴方の遥か上の神なんだけどね。でも、助っ人にもよるけれど、貴方達があいつを封印するなり懲らしめるなりは夢物語ではなくなってきたわね。…貴方の急成長が原因だけどね。正直、もう千年くらいは今のままで行くものと思っていたわ。貴方達があいつに近付くにはそれくらいの時間がかかるだろうと踏んでいたのだけれど。私の計算違いね。本当、貴方はいつも私の予想を裏切るわね、そこが魅力的なのだけど。」

そう言って、彼女は悪戯っぽく笑う。それがまた可愛らしい笑顔だった。ふう、良いものを見れたから今日はもういいや。


それからも、ディアルクネシアとは他愛のない話をして、穏やかな時間を過ごせた。次は酒を酌み交わしながら話ができたらいいな。今日は座りながら、お茶を飲んでいたからお茶会スタイルなのだった。


こんな日々が続けばいいなあ。


そういえば、あいつらはどうしているのかな?俺が化物に変えてやったあいつらは。きっと、俺を憎んでくれていることだろう。何せ、俺の<邪神>化の原因であるはずだし。かなりの怨みを買ったはずだしな。まあ、俺の気持ちが少しでも理解できるようになるのではなかろうか。そろそろ、今までグリディスート帝国に痛い目に遭わされていた国々が反乱とか起こさないかな?


少しばかり、俺の協力者たちに探ってもらおうか。


美味い飯が食えそうなニュースがあればいいけどな。他人の不幸で飯が旨い!本当に俺はろくでなしだな。まあ、俺らしく在れてよかったけれど。


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