第7話 探索と鍛錬、そして大苦戦
俺はダンジョンの中を、魔物を喰いながら、さまよっていた。このダンジョンは一体どれぐらいの階層があるのかもわからないのだ。既にダンジョンに入ってからは数日、少なくとも10日は経っていると感じている。
けど、まったく出口も次のフロアも見えねえんだよな。まったく一つも次のフロアへの手掛かりが無い。そして俺はふと気が付いた。ダンジョン中を歩き回り、魔物を食べまくっている間についに宝箱を見つけたのだ。
ダンジョン探索では宝箱とマッピングが基本だ。それができて少しだけ俺のテンションは上がっている。そのテンションのままに俺は宝箱を開けた。
そして全力で後悔した。
宝箱を開けた瞬間からダンジョンの中身が変わっていく。今までいた病院の廊下の様に清潔で均一な雰囲気は無くなっていた。古代の決闘場のような感じになり、俺の周りは石の壁で囲まれていた。石の壁の天辺からは檻が天高く伸びていて、まるで鳥籠のように俺を閉じ込めていた。逃げ場はない、と目の前にいるあいつが告げている。
俺、今の俺にとっては最悪の敵がいる。
生き物の相手は得意だが非生物の相手は苦手としているのだ。
だが、今回の相手はダンジョンの御供、宝の番人、もしくは守護者である。
ゴーレムだ。
それもただのゴーレムであるはずがない。絶対にとてつもなく強いゴーレムであることは間違いない。俺は全身に魔力を流して体の調子を高めていく。相手もなんだか力をためているように見える。
「やるか!!」
俺は叫ぶと同時に飛び出した。下半身は虎と蜘蛛による複合体で昆虫のように硬い表皮に動物のようなしなやかな跳躍と疾走を可能としている。そしてゴリラの腕に猪の筋力も足す。ゴーレムも真っ向から俺と殴り合う覚悟をしているようだ。同時に拳が激突する。俺はスキルも使う。これで相手に打ち負けることだけは避けられる。
「な!?」
俺の予想は覆された。俺の右腕はゴーレムとの相討ちによって砕かれていた。だが、俺の腕は即座にスキルの効果によって復元される。だが、ゴーレムも復元された右腕を再び振りかぶっていた。俺は即座に闇魔法を使用して、影の刃で奴を切り裂いた。影の刃はかなりの抵抗の末奴を切った。しかし、いつも切れ味よりもはるかに鈍いものだった。明らかにゴーレムの素材は考えたくないが魔法に強い素材を使っているようだ。どうか、ミスリルとかオリハルコン、ヒヒイロカネなどでありませんように。あんなチート金属を使われてはかなわない。
ゴーレムは無音で殴りつけてくる。拳が空を切るが音はぼっというような空気を無理矢理突き破るような音がした。切り裂いているのではなく突き破る音だ。そんなものに当たってはただですまないので俺は回避する。死ななければ勝てるのだが、この拳をくらって俺はスキルを発動できるかが分からない。即死すれば俺の報復スキルは意味をなさないのだ。先ほどの砕けた右腕の感触は忘れない。あれだけの痛みを味わったのはここに来て猪に腕を喰われて以来だ。闇魔法で全身を強化する。魔力を“筋力”に変換する。莫大な魔力を生み出せる限り全て筋力に変換した。全身を同時に硬化してもいたが。右手を手刀の形にして限界まで全身を使ってひねりを加える。槍を突くようなイメージだ。ゴーレムの体内にある核を見やる。闇魔法を会得してからは敵の弱点が見えるようになった。どうすれば、敵にとって最悪の攻撃ができるかにこの魔法は長けているらしい。嫌われないわけがない、ろくでもない魔法だが、俺にとっては好都合だ。
「うっあああああ!!」
もはや特攻を仕掛ける気分で行く。少しでもあいつを万全の状態から遠ざける。そして切り札を切って勝つ。もうそれしか、手段は無いのだし。
ゴーレムも俺の方へ向かってきた。巨体で地面を揺らしながら高さ10メートルほどの巨体が俺を潰そうと走ってくる風景は中々に堪えるものがあった。恐怖と戦って俺もゴーレムへと走り出す。相手が打ち下ろす必殺の右拳を俺の槍代わりの右手が迎え撃つ。こちらから打ち上げるので相手の方が圧倒的に有利だが、それは百も承知の上での行動だ。
ただ打ち抜けばいい!!
それだけを思い、俺は腕をあらん限りの力で打ち上げる。指が全て折れ曲がって右腕が潰れていく、骨も折れていくが構わずに攻撃を続ける。自身の腕を破壊しながら魔力を込め続けて相手の構造を弱体化させる。闇の魔法を使えるのも残りわずかな時間だけだ。もうすぐ、魔力が切れてしまう。そうなれば、俺の負けだ。
「がっあああああ!!」
何とか気合で相手の右腕を肩口から木っ端みじんに砕いた。そうしてゴーレムはバランスを崩してよろける。俺も力を使い果たして隙だらけだった。そんな隙を見逃す敵ではなく、俺は左腕の強烈な打ち下ろしの攻撃をくらった。血をたくさん吐いて、地面を数回バウンドした。高く上げられた後は重くなったはずの俺の体を軽々とゴーレムは地面へとめり込ませていった。全身をできるだけ強化しているので俺は死にそうにはなりつつも死んではいない。…死んだら楽ができるけどなぁ。
「ぜ……う、は、…う。」
残った左腕で俺はスキルを発動しながらゴーレムに力無く触れた。そして、あっけなさすぎるほどあっけなくゴーレムは砕け散った。ゴーレムの核も砕けたようで、安心だ。ゴーレムは再生する様子もなく砕けた欠片を散らかしていた。
「さて、いただきます。」
しばらくじっとして回復に努めた後、俺はゴーレムをいただくことにした。そして閉口する羽目になる。
硬いのだ、異様に。全くかみ砕ける気がしない。仕方が無いので影によって捕食した。そちらはどうも問題なく上手く行った。
だが、魔法は上手く行っても体はそうはいかなかったらしい。生き物ベースで作られた俺の体に非生命型で全身金属の人形を封印するのだ。全身の構造が全て組み替えられるような痛みを感じる。痛い、とにかく痛い。
これだけしか考えられないほどに俺の体は痛んでいた。そしていつの間にか気を失っていた。全身が組変わっていく不快感を覚えていた。今の魔獣となり果てた体でも痛みを感じるのだなと妙なことに感心していた。
そしてどれくらいたっただろうか、俺は立ち上がる。
「うん?」
全身がメタリックである。生身っぽい場所もあるが、体のほとんどは銀色に染まっていた。手で顔も触ってみたが、金属的な感触を感じた。だが、生きている証拠の熱も感じていた。どうも、金属生命体という新しい生命体に進化したようだ。下半身も蜘蛛型の8本足だったが、そこには機械と生身を思わせる複雑な模様が描かれていた。ゴーレムの金属によって強制的に強化されてしまったようだ。それにしてもこの金属は何なのか?
いい加減魔物の知識くらい与えて欲しいものである。
痛む体を押して、俺は肉体操作も試す。
やはり以前よりも反応が良い。それに電気が体を通る感覚がする。やはり、手に入れた金属の通電性が高いのだろう。2本尻尾の雷虎を倒した時に手に入れたスキルに思いもしない場所で助けられた。
戦闘用のスキルで、俺が個人的に持っている〈絶対復讐〉とはどうも、違うものらしい。種族スキルとでも仮に名付けておこう。本当に、ここに来てからはスキル頼みになっているなあ。ちょっと地力を上げる修行でもしてみた方が良いのだろうか?