第3話 絶望への招待①
ダンジョンの中の最下層で、俺は鍛錬を続けていた。ダンジョン内で40日ほどの間ずっと、俺は鍛錬を続けていた。現実空間だと8日ほどか。もう、十分なはずだ。
籠り続けた、成果として、クリムゾニアスに匹敵するクラスの龍を三頭同時に相手していたのだ。以前の俺なら決してできなかっただろうが、今の俺なら無理せずにそれができてしまうのだ。ただし、一人であった方が都合は良いけれども。考え事をしながら、発狂した神龍クラスの相手を無事に終えた。それも三頭同時に俺の血肉にしたのだ。我ながら、人間離れが著しいものだなと、感心してしまった。
はっきり言って、俺の性能は単独戦闘に特化した魔法戦士なのだ。使う魔法は基本的に威力が高いので随行者がいれば、巻き添えにしてしまう危険性が増す。だから、俺の随行者には戦闘能力が高いものでなければ務まらない。シルフィンなら、合格だが彼女は精霊だ。
あまり人間である俺の都合のために振り回すのも気が進まない。グリディスート帝国の糞ったれな貴族や王族どもならいくらでも振り回してやるつもりなのだが。というか、今回の攻撃で帝国の8割は機能不全に陥っているはずなのだが。侵攻状況の報告は俺が派遣した魔物達がきちんと行っている。
現在彼らのレベルは700に到達した。
彼らに侵攻させてから、俺が改めて蹂躙する手はずになっている。ストレイナさんと話してから一週間ほどが経った。そろそろ、彼女も出発したい時期かもしれない。俺も10日ほどで用事は終わると言ってあるし、そろそろ用事を終わらせてやるべきかもしれないな。もう、人間達に関わるのも飽きてきたしな。
獣人の国に行ってみたいものだ。どんな文化があり、どんな書物があり、どんな食事ができるのかで楽しみが一杯である。そういった興味は人間側の国に対してだって、持ってはいる。ただなあ、今の俺は思考が人間よりも獣人側になっている。エルフやドワーフの里だって見てみたいしな。それに魔族の国々だって巡ってみたい。人間の国はその後でもいいんじゃないだろうか。
俺がこれから起こす大騒ぎでしばらくは、人間社会は大騒ぎになることは間違いないのだ。
例えるなら、アメリカ合衆国のホワイトハウスがある日突然、テロリストによって爆破されるようなものだろうか?
そんなことが起これば、同盟国の日本だって、大騒ぎになるだろう。他人事ではないはずだ。何せ、自分達を外敵から守ってくれている国の屋台骨が揺らぎかねない事態になるだろうから。俺がこれから、始めるのはそういうことだと思っている。
グリディスート帝国は色々な国を吸収・合併してできた侵略行為によって成り立ってきた大国だ。その価値は軍事力にあるはずであり、俺が帝国にはそこまでの力なんてないことを他国に示せばどうなるか?
当然、これまで行ってきた振る舞いが返ってくるだけだ。
正しい、振る舞いをしていたのであれば怖れることは無いが、帝国のクソ共がそんなことをしているはずもない。滅ぼされた国の人々によって復讐されるだろうさ。それも、また一興だ。人間同士ならいくらでも殺し合ってくれればいい。数が減れば、俺がいるこの大陸に向ける関心も減るはずだしな。余裕がなければ侵略なんてことはできないはず。それに旨味が無ければ戦争は起こらないだろう。今のグリディスート帝国は俺が施した加工によって環境汚染レベルが最悪の事態になっている。
魔物たちが徘徊しまくっているので、瘴気立ち込める暗黒地帯になってきているのだ。普通の人間であれば一週間ほどいれば体調が悪くなり、一月もいれば死に至るような濃度の瘴気が立ち込め始めているようだった。
すっげえ、楽しいな♪
人の不幸は蜜の味というが、本当にそう思う。俺を不幸にした国がどうなろうと、俺の良心はちっとも痛まないのだから。むしろ、もっと不幸になれ、もっと悲惨なことになれと重思っている。さて、あのクソ野郎をぶちのめしてやらないといけないのだ。
だが、どうやれば、あいつを不幸のどん底に落とすことができるのだろう?
あいつの愛するもの、あいつの幸せ、あいつの希望は何だろうか?
それらを全て打ち砕いてやりたい。今のところ、魔物の群れは王都を襲ってはいない。俺が最後のお楽しみに取っているのだ。今から、それも解除されるのだけど。ただ、俺が勇者たちを戦闘不能してからが本番だから、今はまだ休んでいてもらおうか。うん、ここ最近ずっと、働かせていたしな。しばらく、魔物たちに休憩するように命じた。さてと、俺も準備をしないとなあ。
俺は自分の原形を思い出す。
頭に生えている二本の角は、赤と青の美しい変化が見て取れるものだ。角の先端部分の色は透き通った綺麗な紫だった。角の根元は血のような紅だったが、角の先端に行くにつれて青い色を経てから、美しい紫色になっていく色の変化の美しい角だった。角は三方向に分かれており、外見は鹿の角に少しだけ似ているものだった。
上半身は巨大な人型であり同時に龍のような形もしていて、下半身は蜘蛛の姿の自分を思い出す。腰の辺りからは6本の凶悪な効果を持つ尾が生えている。それぞれが高い殺傷力を持つ尾だ。
そして翼も生えている。右の翼は白く、ぼろぼろでいて強く丈夫な翼だ。
左の翼は闇そのものが翼と化したような形になっている。普通の龍種の持つ翼だが、その色は光を反射しないほどに黒く、暗く、不吉な雰囲気を醸し出していた。
体長は20メートル、体高は10メートルほどの姿に体が変換された。体長は頭から尻尾の先までの長さだ。ダンジョンの最下層だからこそ、遠慮なく自分の姿をさらすことができる。あまり外で変化してしまうと無意識の威圧で倒れる人が出てしまって、困ったことがある。花嫁騒動の時がそうだったしな。あの時はあまり気にしなかったが、倒れた人や気を失った人が何人か村の中で出たらしかった。俺の力は物理的な圧力を持つほどの強力なものであると改めて認識したのだった。
俺以外からすると、もう少し気を付けて力を振るってもらいたいところなのだろうが、俺としては普通に過ごしているだけなのだ。だからこそ、普段は力を下げている。意図的に体にステータス低下の魔法を固定してかけ続けている。そうでもしないと俺の力は封印しきれないのだから。
有り過ぎて困らないのはお金くらいだろう、な。
力なんてあり過ぎても、そこまで便利なものではないと俺は今更ながらに悟ってきていた。気軽に生活ができないのだから。ちょっとでも制御を甘くするとガンガン気絶者が出る。何せ、俺の力は龍神をも上回る巨大で常識外れのものなのだから。だから、少しばかり帝国の事を思い出してイラッとしたりもしにくい。俺の感情の変化に当てられてしまう人が少なくないのだ。実際、猟師さんから頼むからあまり感情を乱さないでほしいと懇願された。
俺がイライラしていると、獲物が軒並みこの辺りから逃げ去ってしまうそうなのだ。
特に何もしていないのに、動物が逃げ出すとか、天災レベルなのか、俺の力はと自身に少しばかり呆れてしまう。まあ、やろうと思えば星だって砕けるだろうし。無論、一発でとはいかないが。大陸の一つ二つ程度なら、そこまで難しいことでもないなあ。じっくり時間をかけさえすれば、この身に宿る力は星を砕くにも事足りるものだと俺は理解している。
一応、達成するには年単位の月日がかかるんだけど。
できることは、できるな。ちなみに、こうして考え事をしている間にも俺のステータスについて考えると鬱になれる。またまたレベルが上がっていた。まあ、新しいスキルが手に入って手加減はできるようになった。
【新規獲得スキル】
一分生存:敵性対象のHPをいかなる攻撃を行っても必ず1%残せるようになる。任意で発動および解除が可能。過剰ダメージはMPを削り、それでも過剰である場合は敵性対象をすり抜ける。必ず、相手を生き残らせるためのスキル。
助かる。
これで、元クラスメート達を地面の染みにしたり肉片に変えたりせずに済みそうだ。さすがに、彼らも俺と同じ被害者であるしなあ。興味もないけど、積極的に殺すほどの感情もない。できれば、俺に敵対しなければいいんだけどな。
だからこそ、俺はこの姿で行くのだ。はっきり言って、意識して威圧をかませば俺に刃向かえる奴はいないと思う。ただ、クソの光の女神が勇者たちをサポートしたらわからないけどな。さすがに、まだ光の女神の魔法を無効化したりとかはできない。だが、いずれはそれをやって見せよう。そして、可能であるなら元の世界に帰ることができるようにはしたい。俺の両親の事も気になるしな。
また、この身が本物なのかを女神に確認したいのだがな。女神によって作られた精巧なコピーが今の俺なのか、元々の俺自身が今この場にいるのかは理解できていない。本来の俺は将来、魔法使い(30を超えてなお清い身でいる漢のことだ。)になれる素質と才能はあった。自慢になるが、俺はバリバリのボッチ気質であり、女子との会話力なんてなかったのだ。いや、それも事実だが、俺が考えているのは異世界に召喚されただけでどうして、魔法が使えるようになるのかということなのだ。
魔法なんてなく、科学文明万歳の世界で生きていいたのに、この世界に来てからは魔法を当たり前のように行使している。違和感がないのが、おかしんだけど。それでも、そう考えてもなお俺は魔法を当たり前のように使えてしまう。鈴木だって、そうだった。あいつも違和感などなく、疑問など俺に言われるまで持つことも無く魔法を使っていたと話したことがある。だから、俺たちのこの世界で生活している体は何らかの細工が施されたものなのではないかと、俺は個人的に考えている。そうでなければ、どうしてただの高校生が普通に魔法を使えるようになるのかが説明できないのだ。
しかし、俺の疑問はクソ女神に尋ねれば解消することができる。召喚魔法に関わっている、あの馬鹿が知らなければおかしいからだ。俺の静かな生活を邪魔し腐った、あの屑だけは許せない。廃棄物にする予定の宰相ともどもに俺がぶっ潰したい相手だ。未だに顔を見たことも無いが、きっと甘ったれた顔をしていて、甘ったるい喋り方をするに違いない。声だって、無駄に高く、アニメのような声だろう。ちなみにプライドもエベレストのごとく、高いだろう。俺の光の女神に対する印象は最低である。
光の女神が選んだ勇者たちをぼろ雑巾のようにすれば、あいつが出て来てくれはしないだろうかと俺は期待している。自分が選び、力を与えた者たちがボコボコにされて行って、自分が技術を与えた国が滅びそうになれば出て来てくれないだろうか。俺のかなり都合の良い、妄想に等しい思い付きが叶えばいいのだが。
勇者達をぶちのめすのは、そうした計算の上に成り立っている。一応、俺だって、今回の召喚の原因を知りたいのだから。それに、元の世界に自分が変えることができるか、否かは今後の生活で重要になってくる。
そう、彼女というか嫁を作れるか、否かに関係がある。
今の俺は力だけで言えば最強を名乗ることができる。ということは、獣人など力を重視する女性達には好意的に見てもらいやすいはずなんだ。ただし、元の世界に帰れる場合はよく考えなければならない。せっかく嫁さんを作っても彼女をこの世界から連れ出すわけにはいかないだろう。自分と同じ境遇を嫁に迫るのもかわいそうだ。
だから、今回の作戦は結構大事な戦いだ。帝国の面子と希望を踏みにじり、元の世界の同級生を蹂躙する。同級生の事だけは気乗りしないが、それ以外ならやる気に満ちている。
そうして、俺はグリディスート帝国へと扉をつなげるべく意識を集中させた。
願わくば、有益な情報と結果が得られますように、と祈りながらだ。




