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捨てられ勇者の異世界ボッチ放浪譚  作者: 雨森 時雨
第1章 勇者なはずが、ポイ捨てされました…どうしてくれようか?
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第6話 人間廃業宣言、中ボスとの遭遇

ダンジョンと思しき場所に閉じ込められてから何日かが経ったと思う。

思うというのは24時間ずっと蛍光灯で照らされているがごとく、このダンジョンは明るいのだ。だから、時間感覚なんてなくなってしまう。24時間戦わざるを得ない状態で、影が恋しい。


寝るときに明るいと俺は落ち着かない方なのでわざわざ寝るときだけ影で俺の体を覆って寝ている。魔法を安眠袋代わりにする事を覚えてからは楽になったものである。そして、この影は鎧のようなものなので魔物が襲い掛かって来ても目が覚める。


というか、いつからか魔物の気配が分かるようになっていた。蝙蝠を食べてからも、蜘蛛の魔物、ゴリラのような魔物、スライムとしか言いようのない魔物を食べていた。そうすると体の比重も魔物よりになるわけで現在の俺の外見はもうほとんど魔物と変わらなかった。


まあ、あえて魔物風にしているというのもあるが。何せ、連続の戦闘で制服が死んだ。完全に破れてしまったのだ。当然、全裸である。となるとぶらぶらさせながら歩くことになるわけで、いくらなんでも俺はそこまで羞恥心が死んでいるわけではないのだ。…結果的に魔物の外見でいることにした。他に誰もいないし、服なども必要ないのが大きい。全裸でも、魔物が服を着るというのも変な話であると理論武装しているので全裸でいることに抵抗は無くなっていた。人間でなく魔物だもの。


もう、俺は人間社会では暮らしていけないかもしれない。


そんなことを考えていると、強力な魔物の気配がした。今まで喰ってきた奴よりはかなり強そうな気配がする。

「喰い出があればいいがな。」

俺は歯を剥き出して笑う。美味い魔物、強くなるための糧、俺は魔物をそう言う風にとらえるようになっていた。価値観も徐々に魔物寄りになっているし、人間らしさが失われている。でも、どこか心地良いと思ってしまうのは俺が人間でいることに苦痛を感じていたからだろうかとも考える。


気配が近付いた、余計な考えを頭からふるい落とす。


戦闘だ!


「グルアアアァァッ!!!」

そこには体長が5メートルほどある巨大な虎がいた。牙など1メートルはあるのではないのか。サーベルタイガーのような魔物だが、尻尾は2本ある。そして、全体的に雷を帯びていて接近戦は相性が悪そうだ。奴が来た。


「うるあああぁぁぁ!!」

俺は尻尾から蛇を生やして虎を絞める。だが、絞めている最中で虎に尻尾を食いちぎられた。中々痛いが、強さも分かって嬉しくなる。こいつを喰い殺せば俺は更なる高みに行ける。魔法を展開しつつ俺は虎へと飛び込んだ。


全身に黒炎を纏わせながら俺は虎へと突っ込んだ。猪の突進力により俺はかなり加速されている。人間ではないゴリラの右腕で虎を殴り飛ばした。剛腕による一撃は虎へ多少のダメージを与えたようだ。虎へ火が燃え移り、奴が嫌がっているし火傷も負わせた。同時にこちらも雷を受けて少し痺れている。長期戦は不利だ。


2本の尻尾の先に雷の力を集め始めている。俺は溜めのいる攻撃をしようとしている虎の眼を潰した。俺の前で、溜めなど油断もいいところである。影のナイフで足元を固定して、3秒ほどで解除されてしまうも奴の両眼をえぐることはできた。あの虎は強いが、頭は悪いみたいで助かる。


俺は蝙蝠の羽を出して高く飛び、虎の背に飛び乗る。そして2本の尻尾を喰い取った。


「あ。ぐあああああ!!!」

さすがに痛い、痛過ぎた。雷が俺の体を焼いて行く。自分の体から焦げた匂いがするのが分かる。だが、黒炎で虎の体は焼き続けているのでお互い我慢比べである。しかし、俺の方が有利だ。本体が痺れていても、新しく生やした部位は痺れていないのだから。魔力が削れていくが、今の俺は魔力量には不自由していないのだ。

俺は腹から新たに2本、ゴリラの腕を生やして、虎の大きな背中を全力で打った。俺は腕が4本ある異形と化していた。体も電気に慣れ始めてきた。本当、この体の頑強さと回復力には助けられている。


「さて、糧になってもらうぞ。」

俺は虎の血を吸い始めた。そして尻尾から新たに蛇を生やして毒を注ぎ込みつつ肉を喰わせる。スライムのような触手を生やし、虎へとまとわりつかせて溶かし始めた。あのスライムは、強さはそれほどでなかったが溶解液が脅威だった。黒炎が出せなかったら詰んでいただろう魔物だった。焼き尽してから灰を俺は捕食したのだから。そして、スライムの肉体を手に入れたのだ。

虎が抵抗をするように上下左右にはね始めた。まあ、生きながら食われればそういう反応になるだろうな。

だが、喰い尽くすまで俺は、虎を解放する気が無い。地上から、頭まで高さが5メートルもある巨大な虎である。喰い尽くせばしばらくは、食事は不要だろう。その時間を全てダンジョン探索に使えるのだ。そのうえ、強い魔物を食べるとステータスが上がるし、しばらくは寝ていなくても平気で良いこと尽くめだ。虎の抵抗が弱まってきた。俺も体力がかなり減っているが、虎を喰うことでそれを補充している。ずっと、電撃をくらっているのだから、俺もつらい。だが、相手は俺に食われて、溶かされて、挙句の果てに燃やされているのだ。そうなると俺が負ける要素はもう無い。

魔力で強化した俺の攻撃が通用しないような装甲の厚いゴーレム型の魔物ならわからないが。この虎は生命体型なので、俺との相性がいい。生やした蛇に毒などの状態異常を起こさせれば弱まるし、怪我もするし、毒も効く。やはり亡霊とか、機械系が駄目だろうな。


俺の体は普通の魔物にとっては悪夢のようなものだが、同時に機械や亡霊などは苦手なのだ。金属と俺の相性は良く無い。物理攻撃が得意だが、魔法攻撃はあまり得意ではないし。闇魔法は攻撃よりも状態異常を引き起こすものが多いからだ。それも生きている相手を対象にしたものが多い。だから、死んでいる亡霊や。そもそも生きていないゴーレムは相性が悪い。だが、奴らも食うことができると確信はしている。そうすれば俺に弱点は無くなってくるだろう。


余裕が出て来たので余計なことを考えている。


これはいけない。食事に集中しなければならない。蛇の尻尾を通してさらに毒を送り込む。虎の動きが止まった。体内に毒が蔓延したのだろう。

「いただきます。」

そう言って俺は影の魔法を起動する。無詠唱で使えるようになった魔法だ。悪食影牙。


影が虎を覆い尽くして、俺の腹も満ちた。


「食った食った。」

腹が太ると俺は身体の惨状を見やる。回復は始まっているが、体中に傷はある。虎の力は中々強かったのだ。一歩間違えれば死んでいた戦いなので俺は虎に感謝する。本当、俺が喰ってきた魔物たちには感謝しないとな。蜘蛛のおかげで俺には麻痺が効かず、蛇のおかげで毒は効かない身体だ。


そうして今日は虎の体を手に入れることができた。


機動力確保のため、俺は下半身を全て蜘蛛にして8本脚となった。今の俺の姿は、下半身は蜘蛛で、上半身にはゴリラの両腕、背中にはかなり大きい蝙蝠の羽、顔には複眼も付いている。眼の数は自前のも含めると驚きの8個である。視野はかなり広くなったし動体視力も上がっている。


口には鋭い牙も生えているし、溶解液も吐き出せる。もう、人間なんて言っても絶対に信じてもらえない外見である。尻尾は3本あり、そのうち2本は雷を出せる虎の尻尾で、もう1本は5メートルほどの蛇だ。きちんと蛇には意思があり後方の安全確保を命じてある。


種族は何なんだろう。アラクネをベースにした合成獣といったところだろうか?上半身は人擬きで、下半身は完全に蜘蛛である。機動力は高くなった。それに蜘蛛の手足には虎の瞬発力も含んでいるので、かなり早いのではないか。少し全力で移動してみたくなって俺は全力で走る。


カサカサという乾いた音が連続して生理的嫌悪を呼び起こす。だが、早い。天井だろうが壁だろうが、糸を出して足場にできる。何だろう、怪物っぽいハリウッドの蜘蛛男になった気分である。糸は当然、彼を模倣して手から出している。かなり便利だ。口からも出せるんだけど、ゲロを吐いてるみたいでいやなんだよなあ。


蜘蛛は強い。こうして、俺はダンジョン内を魔物の姿で徘徊して外に出るべく日夜戦っているのである。


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