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捨てられ勇者の異世界ボッチ放浪譚  作者: 雨森 時雨
第2章 闇の勇者(笑)になったので、人間族に喧嘩を売りましょう、そうしましょう!
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第27話 花嫁(仮)の大規模攻勢と俺の原形公開

俺が体力を回復するためにダンジョンに入ってしばらくしてから地上に出て、村まで行くと大変なことになった。地上では、あの儀式から3日ほどたっていたらしい。ダンジョン内で日付を数えることも無く、食っては寝て、食っては寝てを繰り返していた俺にとっては大変な事件が起こった。


なんか、花嫁候補がたくさんいた。


それも、うら若き乙女が100人くらいも。


何じゃ、そりゃ…。とりあえず、クライドさんに事情を聞く。

「あの、彼女達は何なんですか?」

何とはひどい良いようだが、俺の方も戸惑っているので勘弁してほしい。

「貴方の花嫁候補ですね。先日の儀式の際に、各村の村長さんとあの娘たちの家族たちが決めたようですよ。」

生き残っていたのは美女と美少女と美少年からなる159人だったはずだ。美女と美少女が91人、美少年が68人いたそうだ。ぱっと見で、100人くらいと判断できた俺も中々大したものではないだろうか。で、なぜ全員が俺の花嫁になりたいなどと寝言を言っているのだろうか?

「いや、俺の性格とか原形とか力の全てを知らないままですよね。俺の原形を知れば、花嫁になりたいなどという寝言は言えなくなると思いますが。…こういう、恩の返し方は嫌いなんだけどなあ。悪意が無いだけ性質が悪いしな。参ったな。魔族の所にでも出ていくしかないかな、こりゃ。」

途中から素が出ていることにも気が付かず、俺はぼやいた。それを耳ざとく聞きつけたクライドさんの顔色が変わって行った。俺は素が出たことで、動揺していたがすぐに立て直した。何せ、クライドさんの方がよほど慌てていたから。自分よりも慌てている人を見ると、案外冷静になれるんだよな。

「あ、あの、ユウジ様は花嫁となる人には何を望まれますか?」

「俺の力と性格を理解して尚、俺と共に歩める強い心を持った人が良いですね。」

はっきり言って、今の俺のこの外見は本当の物ではないのだから。この姿は、ディアルクネシアが与えてくれたものであり、俺の本来の姿は怪物そのものであることを理解させてからの方が良い気がするな。今後もこういう話があるかもしれないから、俺の原形と本来の力を見せておけば、評価が変わるかもしれないし。

「俺は聖人君子じゃないですし、英雄なんて器じゃない。俺の事をそんなふうに勘違いしている人には、俺の花嫁なんて務まらないですよ。」

俺はため息をつきながら、広場に集まっている人たちの処へと向かった。



「あの、皆さんはどうしてここに集まっているんですか?」

俺は何食わぬ顔をして、広場にいた女性に聞いてみた。俺よりも少し年上の女性は丁寧に応えてくれる。20才くらいかな。年上は5歳までは良いから、守備範囲だが。


いかんせん俺はまだ16歳である。結婚とかよりは恋愛がしてみたい年ごろなんだ。


女性は緊張した顔つきで俺に言ってきた。

「村を救い、私達の家族の思いも救ってくださったユウジ様に何らかの形で報いたいと考えて集まったのです。ですが、私達は特に金品なども持ち合わせておりません。ゆえに、貴方の花嫁とさせていただけないかと思い、ここに集まり待っておりました。」

ああ、強い種である俺を獣人の世界に繋ぎ止める役割かね。そういう事をされると、俺は出て行きたくなるんだけど。お礼をしたいのは事実だろうけれども、そこに義務感が生じているのは好みじゃあない。本当に俺を好いてくれるのなら、それよりもうれしいことは無いんだけど。俺の性格じゃあ、それは期待できない。花嫁になんてならなくても、俺はお礼を言ってくれればそれでいいのにな。


ただ、お礼を言ってくれるだけで、俺は満足なんだけど。


あまりにも、欲がなさすぎて警戒されてるのかね?でも、俺の力なら今では望めば大抵のものが手に入ってしまうし。ダンジョンの中にはいくらでも、金を生み出せるものがあるしな。


こういう生け贄じみたことは好きじゃない。だから、俺は確実にここから、人が居なくなる選択肢を取ろうと思った。俺の原形と本気の力を示しておこう。それでも、俺に付いてくるという人が居れば、俺の負けだ。その人には好きにさせておくしかない。

俺はいかめしい顔をして彼女に向き直る。すると、彼女の顔の緊張はさらに増した。その緊張が周囲にも伝わり、広場にいる美女、美少女の表情が強張って行った。俺が力を解放し始めていることも影響しているだろう。

「俺には強い力があります。ですが、いつもはそれを封印しています。でも、俺の花嫁になりたいというのなら、俺の本気の力にも影響を受けないでくれた方が良い。いちいち、妻が俺の力に当てられて倒れているようじゃあ、困りますからね、色々と。」

色々と、の所に力を入れて話すと幾人かは表情が変わった。まあ、下ネタだしな。さて、これで全力を出すとともに、原形をさらせばみんな脱落だ。俺の花嫁なんてなるよりも、もっといい男の方へ行きたまえ。いくらでもいるから。


「さあ、試験を始めましょうか?皆さんはこの外見に騙されているところが大きいと思われますので。俺の本当の姿をさらそうと思います。」

力を解放していく。


人間らしい外見を維持することを止める。


俺の気性、魂、心を全て開放した姿をイメージする。


村の広場は広いから、俺が少々原形をさらしたくらいではびくともしないだろう。体長20メートルほどの謎生物になるだけだしな。体高は10メートルくらいかな。


身体が、音を立てて変形していく。美しい顔は鱗と思しきものに覆われて行った。体の方も二本だった足がまるで蜘蛛のような、八本脚に変わって行った。そして、腰の辺りからは尾が生えはじめる。巨大な蜘蛛のような下半身から生えだした6本の尾はそれぞれが違った恐ろしさを出していた。蜘蛛のような下半身にもびっしりと黒い鱗が生えていて、非常に硬そうな外見をしている。その要塞のような下半身からさらに生えてきている6本の尾の様子は凄いものである。


蠍の様な尾。先端の棘からは、凶悪な毒気が漏れている。


紅い鱗に覆われた高温な鱗に包まれた尾。


何十組もの骨が寄り集まってできた、呪われた骨によってのみ構成された尾。


虎のような毛並だが、非常に強力な電気を帯びた尾。


オリハルコンの剣を並べて作ったような、触れることもできないような尾。


最後の尾は、闇そのものだった。黒いことはわかるし、紫の燐光が周囲を飛び回っているのも分かる。だが、決して近付いてはいけない気配を出していた。


6本の尾はそれぞれが死を示すような強力な気配をしていた。どれか一本を振るわれただけでも、大抵の生物は死に至るだろうということは分かる。


そして、体の方の変化は翼が生えることでも示された。背中から、一対の翼が生える。尾が6本なのに対して翼は2枚しかないが、その翼も問題がある翼だった。


右側の翼はズタズタに切り裂かれたぼろきれのような白い翼だった。それでも、妙に力強く、存在感がある翼だった。傷ついているもののどんなものでもあの翼は引き千切ることはできないだろうと思わせる奇妙な強さがあった。


左側の翼は、6本目の尾と同じような不吉さと凶悪さを出していた。


漆黒の翼で、普通の龍種の翼だが、鱗は全てなにもかもを飲み込みそうな黒色によってのみ構成されている。翼膜だって、漆黒だった。ただただ、黒い翼だ。


そして、体の方も巨大化している。美しかった顔は黒い鱗に覆われているので表情はまるで分らなくなっている。ただ、一対の紅い瞳のみが人型であることを示している。表情はほとんどない。肌も鱗に覆われており、その色はやはり黒だった。頭に生えた角の美しさだけが目立っている。


赤と青の美しい変化が見て取れる角だ。角の色は幻想的な紫だった。角の根元は血のような紅だったが、角の先端に行くにつれて紫水晶のようなきれいな紫色になっていくのだ。耳の上辺りから天を目指しているかのごとく生えていた。イメージは鹿の角と似ている。3つに枝分かれしているからだ。


蜘蛛型の下半身の上に乗るのは巨人の上半身だった。鱗に覆われているから、鎧に身を固めているような姿だ。それも、極限まで鍛えこまれている肉体を押し隠すような格好になっている。先ほどまでの柳のような腰つきももはや、大木のようなそれに代わっている。腕も丸太のような太さになっており所どころから太い棘が飛び出ている。


蜘蛛型の下半身に上半身も逞しい巨人の上半身が乗っかっているような状態になっている。美しい青年の姿の面影は、もはやどこにも感じ取れなかった。



一分ほどの間に瞬く間に変わっていく唯志の姿に、広場にいた女性たちはただただ圧倒されている。少なくとも、先程までよりは唯志との距離が開いた女性が多かった。


【さて、これでも俺と婚姻を結びたい人はいますか?】

その声すらも、恐ろしいものに変わっていた。低く、重く、体にずしりと響くそれは不快な声だった。恐ろしくて体の震えが止まらなくなっている人が多い。それは本能的な恐怖をこの姿が引き起こしているためだろうと、思っている。


さて、これでもまだ、花嫁になりたいなんて言えるのかね?はっきり言って、今の俺の姿はモンスターと一緒だからな。クライドさんは辛うじて、恐怖を押し殺して俺の姿を見ているけれども、俺から目をそらしている女性は結構いる。

【将来の亭主から目を逸らしている人は帰ってくださって、結構ですよ。貴方達が感じている恐怖は正しいものですから、大事にしてください。お礼を言ってくれるだけで、俺は満足なので花嫁なんかは不要ですから。】

俺は本音をさらしておく。ほんっとうに、花嫁なんて欲しくないのだ。今のところは。


まだ、焦る年齢じゃない。あと14年は猶予があるのだから。


いや、魔法は既に使えるけれどさ。そこは、置いておこう。


「申し訳あり、ま、せん。助けて、いた、だいたこ、と感謝しております。あ、りが、とおうご、ざい、まし、た。」

辛うじて、そういって、俺と一番最初に挨拶をした美女はふらふらとしながら去って行った。彼女に引き続くように美女と美少女は俺に恐れをなしたかのような表情をしながらもしっかりとお礼を述べながら去って行った。それはまるで、蜘蛛の子を散らすかのように人が居なくなっていた。


やれやれ、これですっきりとしたな。


俺相手に大して求めてもいない女なんて持ってくるから、こういうことになるんだぞ☆


誰が、女を欲しいなんて言ったのか。まったく、高校生男子だからといって馬鹿にするな。ああいう、生け贄じみた感じで来る女の子に囲まれて楽しく生きていけるほど、俺は腐ってはいない。本当に、俺の事を好いてくれる子のみ残ってほしいものだよ。


あれ?


一人だけ残ってる。


ライオンさんだった。でも、表情があるし、立って歩いている?


あるえぇ?何がどうなっているんだか。


「貴方の本当の姿はこんなにも強いものなんだな。たとえ、ドラゴンであっても貴方には敵わないだろうな。」

ライオンさんはにこにことしてそんなことを話している。

【調子はもういいのですか?俺は闇龍王のユウジ・サトウ。貴女を助けた者です。ですが、貴女は今まで、どんな回復魔法をかけても目覚めなかったのに。】

俺が疑問を持ったことをそのまま伝えると彼女は分かり易い答えをくれる。

「こちらも名乗りましょう、私はストレイナ・レオナストームといいます。目覚めることができたのは、貴方が本当の力を示してくれたからです。私は強い人が大好きだから、それで目を覚ますことができたのだと思います。こんなにも強い気配を感じたことは今まで一度も無かったから。」

俺の言葉が丁寧だったことに対してあわせてくれる彼女は空気が読める人だ。それに分かり易いのもいい。ただ、これから、彼女はどうするんだろう?

【ところで、これから、貴女はどうするんですか?家があるでしょうから、送って行きましょうか?どうせ、俺は根無し草ですからね。どこにでも護衛として付いて行きますよ。一度助けた相手を最後まで送り届けないのは、どうにも助け終わった気がしないですから。】

そこで彼女は考え込む仕草を見せる。

【何か問題でも?】

「ああ、私を助けて下さったことには非常に感謝しているのです。ただ、もし、貴方と一緒に実家へ帰った場合は大変なご迷惑をおかけすることになりそうでして。」

彼女は困ったようにそう言った。…ファンタジーの物語にありがちなことだと、家族が戦闘狂とかかな?

【ご家族が俺と戦いたがるかもしれない、とか。】

冗談めかして言ってみる。すると、すぐに彼女の表情が変わった。どうも、正解だったらしい。

「なぜ、お分かりになったのです?」

【似たような話を読んだことがあるんですよ。俺がいた世界は娯楽作品が多くありましたから。】

今ではどれも読むことが叶わなくなってしまったけどな。糞女神をぶっ飛ばさないといけない理由がまた増えたな。月の果てまで吹き飛ばしてやる。

「なるほど、貴方はもしかして、今代の勇者ですか?叔父上たちが頭を抱えていましたからね。異なる世界から、自身の従僕足り得る人間を召喚する光の女神の所業には。」

【好きで来たんじゃないですよ。あの糞女神をぶっ飛ばすために俺はここまで力にこだわって生きてきたんです。まあ、一番最初に人間どもに捨てられたんですけどね。】

「⁉人間達は馬鹿ですね。貴方に不興を買って一番痛い目に遭うのは人間でしょうに。見る目が無い者が人間に多くて助かりましたよ。貴方が人間に味方をしないだけで我々にとっては朗報ですから。私達も貴方とは断じて敵対する気はありません。」

ストレイナさんは真剣な顔をして言った。いや、俺もせっかく助けた人と敵対する気は無いですよ。

【わざわざ、助けた相手と敵対する気はありません。それにあなたは普通の身分の人ではありませんよね?話したくなければ、無言で示して下さい。】

彼女は、首を縦に振り俺の平民じゃないですよね?という質問に答えてくれた。つまり、貴族様である可能性が高まった。うん、無事に助けることができて何よりだ。それに、まあ、彼女は性的には嬲られた形跡はなかったしな。違う用途で連れられてきたと聞いたが、思った以上に抵抗が激しかったのだろう。あの虎の女性にもそういった形跡はなかったし。ただ二人とも、立派に子供を守っていただけだった。

「あの、貴方は今から何をされるのですか?私にできることがあれば、何か協力させていただきたいんですけれども。」

【獣人達の世界での美味しいご飯を食べさせてくれれば、それでいいですよ。ああ、首都に行ってみたいですね。この国の中心部分に興味があります。】

「そうですか。分かりました、私も一度は家に帰らなければならないと思っていましたので。あらかじめ、手紙で貴方と共に帰郷することを知らせておきます。そして、出迎えには豪華な食事だけで言いと念押しをしておきます。貴方は、どうも大仰なことを嫌いそうな方と思えるので。」

彼女は、俺の事を良く分かっている。さっきまでの花嫁達(笑)と俺の会話を聞いていたんだろう。


さて、グリディスート帝国に向けて宣戦布告してやろうっと。


俺は魔力を練ってから、魔力弾を発射。帝国の軍港の9割を破壊した。


ついでに、クソったれ宰相にもあいさつしておいた。声だけだから、反応が分からんが中々楽しかった。獣人大陸に来る手段は空路以外無い状況にしたから、しばらくはこの大陸も戦争から遠ざかることができるはずだ。


そんな俺の様子をストレイナさんはどう見ていたかは知らないけど。まあ、ビビられたのは確かなんじゃないか?ま、いいけどさ。


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