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捨てられ勇者の異世界ボッチ放浪譚  作者: 雨森 時雨
第2章 闇の勇者(笑)になったので、人間族に喧嘩を売りましょう、そうしましょう!
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第26話 扉を開けて、お別れを

さて、村長の許可も取ったので門を開いてしまうとしよう。儀式の会場は俺が今いる村の外なのでかなり広かった。青空の下で死者との別れを行うのが獣人流らしい。


青空の下で、俺はこれから行う大儀式のことを考える。


そして、俺は村人たちの生き残りに今から自分がすることを説明して、ざっくりとだが理解してもらった。普通であれば、疑う声も出ようものだが、俺に限っては出ないらしい。まあ、規格外なことしかしていないから、もう俺ならどんなことをやっても驚きません、という心境なのかもしれない。


「このたび、犠牲になられた罪なき村人たちよ、眠るべきでなかった者達よ、今ひとたび戻りたまえ。我が身、我が力を道しるべとし、かつての故郷に戻りたまえ。我が名は闇龍王。冥界の門番にして主神の使徒なり。我がなと力において、汝らの帰還を許可し、歓迎しよう。」

偉そうな文言を吐き続けて、それを呪文として魔力を練る。


こうした方が、気分が出るし儀式っぽいではないか。頭は中二病なのだ。というか、今の俺の状況自体が中二病であれば、歓喜する状況ではないだろうか?


人外、異端の能力、排除、人間から怪物への覚醒、怪物としての規格外の力、闇の女神との契約。闇の勇者、復讐者。


まあ、どれをとっても立派な中二病患者が喜びそうな設定である。


とはいえ、実際になった身としてはあまり笑えないのだが。そんなことを考えながらも体から一気に魔力が流れ出していくのを感じる。1798人分の魂だけを冥界から引っ張ってくるのはそれなりに重労働だ。はっきり言って、こちらの世界に戻りたい魂などいくらでもいるのだし。死にたくて死ぬ奴など一人もいないのだ。


ま、自殺志願者を除くけれども。後は発狂している奴。


死にたくて仕方のない奴と自分の命を正しく認識できない奴は冥界から動こうとしないのだ。ノリと勢いで適当に紡いだ呪文だが、獣人の方々が思いもよらず、こちらを尊敬したような熱い視線で見つめてくるのでやり辛かった。何せ、適当な中二ポエム的なものを読んだだけなのだし。こんなものは過去に何作も作った妄想ポエムのストックがいくらでも、存在している。決して、表に出せないそれらは、俺の頭の中にのみ存在しているので誰にもばれていない。


この世界の魔法は割と不思議な点がある。感情を込めずに魔法を発動させた場合と、感情を込めて魔法を情感たっぷりの呪文で発動させたときの威力には大きな差が出るのだ。俺の場合はそれが顕著だったから、俺の魔法はテンションが高ければ高いほど効果が高くなる。


そういう訳で、俺は中二ポエム的な発言をしてテンションを上げている。俺のテンションを上げれば、魔法効率は格段に良くなるのだから。だから、決して、俺が今もなお現役の中二力を維持しているわけではないんだ。ただ、まあ、その、楽しんでいるのは認めざるを得ない事実であるのだけれども。


本当に俺の中二病は治らず、これからも加速し続けていくのだろうな。主に能力面のせいだけれども。一応、これでも一度は中二病を完治にまで持ち込んだことはあるのだから、油断しなければ再発はしないだろう。俺の趣味は創作だったからな。決して発表はしなかったが、自分自身を投影して書いたキャラが無双する物を好んで描いていたものだ。


その当時のキャラは生まれからして特別で、両親もすごい力の持ち主で、と。大いに中二要素を持っていた。今の俺も中二キャラではあるが、男の娘属性は望んでいなかった。できれば、性別が変わるか、姿が変わっても漢らしく在ってくれるかして欲しかった。自分の望みは叶わないのが世の中の常とはいえ、なかなか世知辛いものがあるのだよ。


そんな世知辛さを噛み締めながらも、俺は目当ての人々を呼び寄せることに成功した。

「さあ、皆さん短い間ですがご家族との別れの時を過ごされてください。これは1時間しか維持できない時間ですから、有効に使ってくださいね。俺への礼はあちらに帰ってからでも十分ですので!さあ、急いでください。」

俺は帰ってきたばかりで戸惑っているらしい亡者の人々に一方的に語りかけた。すると、彼らは目礼のみを俺に向けて行い、各々の家族の元へと向かっていった。彼らはおていた傷は一つもなく生前とほとんど変わらない姿のまま、彼らが別れを告げたい家族、友人、恋人たちのところへと向かっていった。


最初は生きている側の人達は整然とまるで変わらぬ姿の亡くなった人たちに戸惑っていた。だが、たとえ死んでしまっているとはいえ、もともとは自分達の家族や友人、恋人なのだから受け入れられるのは早かった。これまでに積み上げてきた絆がそれを可能にしたのだろうと思うと感慨深いものがある。彼らの方をちらりと見ると、生前と変わらぬ様子の死者と生者がそれぞれの思いの内を語り合っている。


そして、時間が区切られているというのは俺の様子を見て理解してくれたようだ。俺は目を閉じその場に胡坐をかいて座った。精神集中のためだ。この結界は維持するのが面倒臭いものだ。自分が保持しているダンジョン内であれば、魔力供給はそれほど難しくないのだが、今この場においては自分自身の魔力で全てを賄わなければならないのでなかなか大変なのだ。


死んだはずの家族が生前とほとんど変わらない姿で帰ってきたことに戸惑っていた人たちもそれぞれがぽつりぽつりと自分達の家族と話し始めた。生きている人も死んでいる人もそれぞれが戸惑った奇妙な会合はだんだんとにぎやかになって行った。本来なら決して交わることのない世界との交流は恐怖心や疑問、不安などを押しのけて、好奇心を刺激するらしい。


そして、何よりもきちんとお別れできるだけの時間が与えられたことが大きいようだった。帝国の人間が襲ってきたのも突然であり、彼らによって命を奪われたのも突然の出来事だったから。帝国軍が捕まえた亡者たちの家族は俺が解放しているので、彼らは無傷だった。けれども、心には深い傷を負った人が多かった。何せ、自分がさらわれてしまい、自分の事を取り返すために人間どもに挑んだ獣人たちの多くが命を落としてしまったのだから。助けに来てくれてうれしかった半面、自分のせいでかけがえのない人達を亡くしてしまうことになる皮肉を味わった人々はたくさんいた。


逃げて欲しかった。生きて欲しかった。


助けて欲しかった。救って欲しかった。


同時に持った矛盾する感情だろうが、それを持つのが感情のある動物である人間が行うことである。俺も彼らを助けたいけれども、帝国の兵士たちは皆殺しにしてしまっても気にならなかった。敵を殺すことを欲して、人を助けることも欲していた。人間は殺すけれども、獣人は助けたのだ。元々が人間であった俺にとっては人を殺すことは悪いことであるはずだった。


けれども、その価値観はダンジョンに潜っている間に死んだ。


だって、俺をダンジョンに放り込んだのは他なんらぬ人間だからだ。この世界の人間の自分勝手な要求によって俺は歩むはずだった人生を全て奪われた。他のクラスメートはどう思っているのかも知らないが、誰一人望んでここに来た人間はいないのだ。まあ、ここでちやほやされているから、あちら側の〈自分が特別ではない〉世界には帰らなくても良いという人間もいるかもしれないけど。


俺は集中を維持しながら、会場の様子を探っているとあちらこちらで家族の別れを果たしている人達がいた。


悲しみに暮れながらも死んだ家族を送り出す、遺族がいた。


ここに残ることはできないのかと、亡くなった人に詰め寄る遺族もいた。


死んでいる人も生きている人もわんわん泣いている家族もいた。それでも、彼らは互いを思いやっているのが分かった。


それぞれの家族の様子を気配で察している俺は、結界を維持しながらも思うのだ。こうして、無理して結界を維持していることは間違いなんかじゃないんだと。


あの世の人間をこちらに連れ戻して、こちらの人間と話をさせるのは、場合によっては未練を生んでしまってよくないことかもしれない。けれども、人間達の勝手な思惑によって家族を奪われた人たちが亡くなった人たちとお別れもできずにいきなり、葬式を行うとは残酷だとも思った。日本人だった俺の感覚からすると、やはり死者と聖者のお別れはきちんとしておくべきだと思ったのだ。


この世界の事はよく分からないが、それでもこのお別れの時間を作りだしたことだけは間違いではなかったと思う。


たとえ、ディアルクネシアから間違っていたと言われても、俺は自分の信念に従い、行動したのだ。彼女に迷惑をかけるかもしれなかったけれども、彼女に頼り切りにならずに済んだことだけは良かったと思う。彼女ならもっとうまくできただろうけれども、俺にはこれが精一杯だ。


さて、彼女と次に話せるのはいつになることやら。試練てのは何時頃、終わるんだろうか?


「あの、闇龍王さま。本日は大変貴重な時間を作っていただいてありがとうございました。皆も、亡くなった者達と別れをすることができて喜んでおります。」

クライドさんが皆を代表して俺に礼を言ってきた。


他の家族たちはまだまだ、彼らとの別れの最中だったから。


とはいえ、あと15分くらいしか残っていないのだけれども。だからこそ、村長さんは俺に礼を言いに来たのだろう。全身、汗だくになっている俺は余り格好良くは無いけれども村長さんの言葉を素直に受け取った。

「どういたしまして、と皆さんに言っておいてください。俺はこの後少し、出かける用事がありますので失礼させていただきますから。」

少しばかり、過激なパーティーをしに行かないといけない場所があるのだ。グリディスート帝国には煮え湯を飲ませてやらないといけないからな。あのゴブリンと蛙のおかげで帝国の帝都の位置が分かった。帝王が居を構えている城の位置も分かった。だからこそ、そこに強力な魔力弾を撃ち込んでやらないといけないのだ。威力は控えめにしておくつもりはある。ロケット花火をいたずらに打ち込むのと同じ感覚なのだが、うっかりやり過ぎてしまうかもしれない。


そう、うっかり、だ。


その時は仕方が無いな。だって、悪気や計画性は無いのだから。うっかり間違って強力な魔力弾を帝都に打ち込んでも罰は当たるまい。この世界の人間はどうも、自分達の事を光の女神に選ばれた特別な存在だと勘違いしている風がある。ただ単に仕事の割り振りで決まっただけなのかもしれないのに、よくもまあそこまで無邪気に自分達に都合の良いように考えられるものだ。俺はこの世界の人間の無邪気さには呆れている。


そして、この世界の人間の事が俺は大嫌いである。


困難なことがあっても、すぐさま、女神に縋り付き俺達のような関係の無い世界から人を連れて来て勇者という装置に祭り上げてくる。そんな世界の仕組みに俺は腹を立てているのだから。ここで良い気分にさせてもらったのは良かった。一旦、心を落ち着けたうえで、改めて行動に移すことができるのだから。


ああ、そろそろ時間だ。


「すいません、皆さん時間が来てしまいました。名残惜しいでしょうが彼らと語り合えるのはここまでです!!」

俺の声は良く響くようにしてあったので、亡者の方々は俺のすぐ近くまで駆けて来た。別れたくないと泣き叫ぶ人たちもいたが、俺は無視した。これ以上、門を開いてはおけなかったのだ。体力が限界近くまで落ちていた。冥界の門を開いたままにしておくのは魔力と共に体力まで削るものらしい。



「閉じよ、冥界の門。さらば、勇猛で慈愛に満ちた者達よ。いずれまた会うその日まで、別れの時だ。また、会おう。壮健で。」

そして、門を閉じた。


門を閉じるとこれまで、この場に居た死者の皆さんの姿が、まるで霧が晴れるかのように、ふっと消えてしまった。残されたのは生きている人達だけだった。すすり泣く声、別れたくないとむせび泣く声が辺りに響く。別れをきちんと行えた安心感と、もっともっと彼らと触れていたかったという無念の双方が渦巻いていた。


重い体を引きずりながら、俺は会場を後にした。


ひとまず、ダンジョンに入って魔力と体力の回復に勤めなければならなかった。


何せ、気を抜けばすぐにでもぶっ倒れそうだったから。別れの儀式に参加していた村人たちから、何か言われていたようだったけれども、ほとんど聞いていなかった。


悪意はほぼ感じ取れなかった。


だから、大丈夫だ。彼らはきっと立ち直れる。人間と再び関わるかは知らない。


とりあえず、俺も自分の復讐の準備をすることにした。まずは回復だな。


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