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捨てられ勇者の異世界ボッチ放浪譚  作者: 雨森 時雨
第2章 闇の勇者(笑)になったので、人間族に喧嘩を売りましょう、そうしましょう!
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第25話 闇龍王への感謝と思惑

いつの間にか、ブックマークが200件になっていました。


ありがたいことです。これからも書き続けていきますので今後もお付き合いいただけると幸いです。

「冥界の門を開いて、今回亡くなった人たちを一時的に呼び戻してやりたいのですが構いませんか?」

闇龍王様からとんでもない発案を聞いた私は驚きに固まった。もしかして、死者を蘇らせることもできるのだろうか、このお方は?だが、怖れ多いことだが彼に言っておくべきことがあるので私はそれを言うことにした。

「貴方の意図は分かりませんが、もし死者を蘇らせるということであれば、それは我らにとって禁忌に触れるので止めて頂きたいのです。」

獣人の集落の長として言っておかなければならないことだった。だが、闇龍王様は軽く笑いながらその言葉を否定された。

「死者は蘇らせることはできませんよ。俺はただ、別れる時間すらも奪われた亡くなった人たちと、彼らの遺族たちにちゃんとしたお別れをして欲しいだけです。恐らく、結界を張っても1時間も持たせられないでしょうが、それでも俺は彼らに死者との別れを済ませて欲しい。そうでなければ、きっと今回の事も区切りを付け辛いと思うんですよ。」

思った以上に我々の事を思い遣ってくださっているこの方に私はあらぬ疑いをかけたことを即座に謝罪した。しかし、なぜ彼は我々にこうも優しくしてくださるのかはわからないままだ。人間達に酷い目に遭わされたとだけは聞いているが。いきなり、この世界に呼び出された挙句、戦争のための道具にされそうになったと聞いている。

だから、私は彼に直接、聞いてみることにした。きっと、直接質問すれば答えてくれるだろうと思ったからだ。彼はかなり誠実そうであるし。

「ユウジ様は、かつては人の身であったにも拘らず、なぜ私達獣人に良くしてくださるのですか?様々なことでお世話になっているままなので、差し支えなければ理由を教えていただきたいと思うのです。」

私の言葉を聞いてユウジ様は非常に困惑したようだった。機嫌を損ねていないようので、ほっとしているがそれが表に出てしまわないように気を付けておく。


「ああ、それは俺が闇の女神から貴方達の勇者となるように言われているからですよ。彼女と俺は契約関係にありますしね。それに人間には捨てられているので、協力する気なんて起こりませんね。…獣人、亜人、魔族たちの味方となって人間どもを地獄の底に叩き落としてやらないと気が済まない程度には人間が嫌いです。」

にっこりと、とても美しい笑顔で言われた言葉の内容は酷かった。だが、彼を信頼できる材料は増えていた。やはり、理由が無い善意というのは得体が知れないので、ありがたくも薄気味悪さというか、居心地の悪さがあったのだ。


闇の女神様と勇者になるという契約を結び、女神様や彼女が守護する存在達からこの世界の情報を得るために働き、人間が嫌いだから我々を助けてくれる。無論、魔族、亜人達も助けるそうだ。


正直に言って、彼を捨ててくれた人間達には心底感謝している。何せ、彼の戦力は我々の大陸に住むすべての者達を結集させてようやく拮抗するかどうかというほどに差がある。魔族、獣人、亜人達だけでなく龍族や精霊様達にも助力を請い願って集まってもらってやっと戦いになるレベルだ。

「良く分かりました。失礼なことを尋ねて申し訳ありませんでした。」

私は自身の非礼を詫びておく。そして、これは私だけの疑問ではなかったから、村人たちや他の村や町、都市の人々にも話を広めておこう。今後、ユウジ様が獣人の国を巡られた時に、余計なトラブルを起こしてもらいたくない。情報を広めるのは、幅広い人脈を持つ、メルゾンに任せておこうと思った。闇龍王様についての情報は、早いところ広めておいてもらわないと後々になって祟る気がするのだ。万が一でも、闇龍王様の機嫌を損ねてしまえば、この大陸は消えて無くなってしまうだろうから。


冗談抜きで、この大陸に在るすべての国々の存亡がかかった事態に発展しかねないのだ。彼に対しては決して、無礼な振る舞いをしないこと、外見の事で余計な人ことを言わないことを徹底的に知らせておかねばならない。ベルティーオたちから得た彼の性格に基づいた対策である。これは亜人や魔族たちにも伝えるべき情報なので拡散は早めにするように頼んでいる。


まあ、娘のことを除けば、ウィンスノー商会の長であるメルゾンは優秀な男だから。娘の事さえなければ、この国の財務大臣にだってなれただろう才能豊かな男なのだが。かつては貴族であった身分を簡単に捨てて、この村の小さな道具屋に過ぎなかったウィンスノー商店を獣人の国の中でも最高位の店に仕立て上げた才能は凄まじい、の一言に尽きる。


ただし、その才能は主に娘と奥方のためにしか使われることは無いのが、非常に残念である。家族思いの暑苦しくも良い男であり、頭は切れる。儀式が終われば、彼と今後の闇龍王様への対応策を練らなければならない。今後も我々に味方していただかないと、非常に困るのだから。


正直、獣人、亜人、魔族たちには今まで勇者がいなかったのだからこのくらいの反則は許してもらいたいものだ。500年もの長きの間自分達だけの力で戦い抜いた私達の種族としての力は、かなり上げられている。それに、私達の事を決して見捨てなかった闇の女神様の存在も大きい。


今回の闇龍王さまを我々の元に派遣してくださったのも、大いなる手助けの一つだろう。


「あの、ユウジ様が先ほどおっしゃったことは、どのくらいの準備が必要なことなのですか?大がかりな儀式が必要そうな内容でしたが。」

私は自分が持った疑問を解決すべく、ユウジ様に質問をした。死者の魂をこの場世に引き留めるなどどれほどの魔力があれば実現可能なのかが、まったくわからないのだ。我々、獣人は、魔力を使い精霊様達と共に戦うことができる。そうして戦う術を〈精霊術〉と呼ぶことにしている。精霊様あっての戦術だからだ。だが、その精霊様の力を以てしても冥界の者をこの世に短い間だけでも、固定させておくことなどできはしないのだ。彼らは基本的に、地火風水の自然を操ることしかできないのだから。

冥界は自然に属していないし、精霊様達も住んでいないのだ。もしかしたら住んでいるのかもしれないが、闇の精霊様と接触できた獣人は伝説の獣人の中にもいなかったはずだ。


だから、ユウジ様はおそらく闇龍王としての力をお使いになるのだろう。それでも、一人の個人としてできることは限られていると思うのだが。

そんな、至極まっとうなことを考えていた私に対して、ユウジ様は闇龍王という存在の規格外さを改めて教えてくれた。

「ああ、俺一人でやりますよ。何せ、権限を持っている俺にしかできないことですし。それに、俺が持つ力はたかが1時間くらい門開いているだけで枯渇するようなものじゃありませんよ。まあ、楽ではないですよ?この術式を使うには俺の持つ力の半分ほどは使わなければいけませんから。」


気負いなく言ったその発言がどれほど、私達獣人にとって驚きに満ちたものになるかは決して理解されないのだろうな。何とも、力を持つ者と持たない者の認識の差に驚き、そして、もはや呆れてしまう。嫉妬することや、羨むことすらできないほどの圧倒的な力の差が彼と私たちの間には在った。本当、圧倒的な力は怖れるよりも敬う我らの精神性と彼の存在はかなりあっているのではないだろうか?


亜人、魔族たちも圧倒的な力に対してはやはり、怖れ敬う方向の考え方なので彼らとユウジ様が摩擦を起こすことは無いだろう。


「そうですか。ユウジ様の体には負担がそれほど、かからない儀式なのですか?内容は我々からすれば、理解の及ぶ範囲ですら無いものなので。どれほどの負担が御身にかかるかも想像できないのです。」

もし、彼の肉体にかなりの負担がかかるのであれば、少しばかり儀式を行ってもらうことに躊躇いが出てくる。なんだか、申し訳無い気がするのだ。

「いえ、それほど大した負担がかかるわけではないんですよ。ただ、ものすごい、空腹に襲われるのは確かでしょうね。何せ、自分が持つ力の半分を一気に使う経験は今回が初めてのことになりますから。」

やはり、彼の発言は我々の認識を軽く超えている。


だから、私はいちいち驚くのを止めにすることにした。


きっと、これからもこの方に驚かされ続けるのだろうし。


闇龍王様にとっては、当たり前なのだな。我々には想像もできないことが、彼にとっては当たり前のことに過ぎないのだろう。ただ、あまりに甘えすぎないようにはしたい。彼は凄まじい力を持つとはいえ、まだまだ子供に過ぎないのだから。


一体、どのような目に遭えば、ここまで枯れた物言いをするようになるのかを思い、彼が負ってきた苦労を思うと胸が苦しくなる。だが、彼に同情をしてはいけない。


一人の男が背負うと決めた重荷の事を親でもない私がとやかく言うのは良くないことだ。だから、彼には感謝をするだけでいい。常に感謝の念を忘れないようにしておかなければならない。

「我々の事を慮ってくださって、誠にありがとうございます。何も返すことのできない我が身が不甲斐ないですが。貴方には感謝をしています、ユウジ様。」

そう言いながら私は彼に頭を下げる。

私には何の力も無い。ただただ、彼が起こす奇跡にすがることしかできない無力な男だ。それでも、彼に礼を示すことくらいはできる。感謝の念をただただ抱くことしかできなかったが。

「はい。どういたしまして。俺はただ、俺のやりたいことをやるだけですのでそこまで気にしないでください。ちゃんとお礼を言ってくれるだけで俺には十分過ぎますよ。何せ、この身は既に人でも何でもなくなってますからね。」

彼の言葉の半分は聞き取れなかったが、その表情から察するにあまり良いことではあるまい。ただ、彼が気に病むことなど何一つとしてないのだと言ってやりたいが、それは私の役目ではないだろう。きっと、その役目を持ったものが現れてくれるはずだ。彼のような善人が、いつまでも不幸でいいわけはないのだから。


「それでは、儀式の方をよろしくお願い致します。」

「ええ、承りましたよ。」

そういって、彼は背を向けて去って行った。

去り際に片手を上げて、私に別れの挨拶を軽く済ませて行った。その姿だけ見ると、どこにでもいるような若者に過ぎないのだが。まあ、少々、小生意気な、という飾り言葉が付くけれども。


それでも、彼は実に自然に片手を上げて去って行った。彼がいた世界ではそれが普通だったのかもしれない。世界が違えば、何もかも風習が異なり、言葉が異なり、文化が異なっているのだから。一概に彼の事を無礼だとか、失礼だとかでは片付けられないだろうと私は思い直す。


それに小生意気なは、私の方かもしれないのだから。


強大な力に縋り付くだけの癖をして、我々獣人の文化などを理解して欲しい。こちらの味方で居続けて欲しいと思っているのだから。できれば、獣人の誰でもいいから婚姻を結んでこの地に住み続けて欲しいくらいなのだから。


彼には深く感謝をしている。それは私の純粋な思いでもある。


だが、同時にの村長としての感情はこうも告げている。小さい集団ながらも私とて「長」なのだから。


なんとしても彼には婚姻を結んで欲しい。そして、この地に居続けて欲しい。そうすれば、我々の大地は二度と薄汚い侵略者共の手に渡ることは無いのだから。浅ましい願いだとはわかっている。


彼に背負わせていい願いではないと分かっていても、願わずにはいられない。500年もの間ずっと、争い続けた我々は既に戦争に倦んでいる。だから、その海を全て吹き飛ばすだけの薬が必要なのだ。


もしかして、彼は薬などではなく毒にもなるかもしれないが。それでも、きっと争いは終わるだろう。人間族との争いは。


彼には申し訳ないが、今後も彼の行くことになる道は決して楽な道ではないことが確定している。だが、祈るだけはしておこう。


闇の女神さま、彼にどうか、良き道を用意してあげてください。もし、彼に良き道が用意されるのであれば、私はどのような責め苦も負いましょう。この、身一つで済むのであればそうしてくださっても結構です。彼には幸せになってほしい。


これまでも、これからも苦労することになるだろうから。


苦労をさせる原因になっていると思うと、申し訳なくなるが、それを押し殺そう。人間達を追い払ってしまうまでは厚顔無恥にも彼にすがり続けよう。全てが終われば、彼に誠心誠意仕えることで償っていこう。


我々と彼の歩む道に多くの幸がありますように。


欲にまみれた私の願いは、本当に醜いものだが。それでも本心だ。だから恥じることなどない。これからも私は、彼の歩みを見続けて行こうと改めて決意したのだった。


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