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捨てられ勇者の異世界ボッチ放浪譚  作者: 雨森 時雨
第2章 闇の勇者(笑)になったので、人間族に喧嘩を売りましょう、そうしましょう!
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第24話 被害確認と女神の試練

改めて、俺は自分の出鱈目さに感動を覚えていた。


うん、まあ、1対2000の兵力差で、余裕で生き残るばかりか相手を殺さずに無効化できたのだからちょっとくらいは調子の乗ってもいいじゃない?


だが、100点満点の結果ではないんだけれども。


獣人側にもかなりの犠牲が出た。


3個の村が壊滅して生き残りは黒猫族の青年一人だけだったしな。


いや、連れ去られている村人たちは連れ戻せたから、生き残りは159人か。


犠牲になったのは、男、醜い女、病人、老人、子供達だった。後は美少年がかなり生き残っていたのは変態のうちどちらかの性癖のせいだろう。村人たちは合計で1798人ほどいたらしい。風の精霊たちと大地の精霊に頼んで村々の焼け跡から、焼かれた村人達の骨などを数えてもらったのだ。そして一か所に集めたうえで、弔いの儀式を行った。生き残った村人たちが全員集まって、儀式を行った。生き残った村人の中には長となる人が居なかったため、ベルティーオ達の村長さんであるクライドさんが取り仕切ることとなった。


俺が滞在している村人たちも皆、怒りと悲しみに表情を歪めながら、儀式を行った。本来ななら殺されなくても良かった命、失われなくても良かった命が無駄に失われてしまったのだから。彼らの怒りは、俺が考えるよりもよほど深くて重いものだろう。


俺が行った復讐がささやかでも彼らの留飲を下げていてくれればいいのだが。


そこで、俺は一つ考え着いた。ディアルクネシアの力を借りよう。彼女なら、こうして無駄に殺された命をしかるべき場所に送ってくれるはずだしな。闇の女神の力ならそれぐらいはできるはずだ。だが、応じてくれるかはわからない。はっきり言って、これは俺のエゴだしな。でも、少しでも心癒されるようなことがあってもいいと思うのだ。


災害が起こるたびに被災地に出向いていた日本の皇族の振る舞いを俺は思い出しながら考えていた。あれも年寄りにとっては辛い被災生活を耐える一助になったはずだしな。立場がある人が、悲惨な現場まで足を延ばすことで被災地にいる人たちは何かを得たはずなのだ。それが何なのかは俺には分からない。でも、訪問があった後と、訪問がある前では表情が変わっていたのも確かだと記憶している。


きっと、被災中の自分達が辛い目に遭っているということを日頃会うことのない偉い人というか高貴な人が気遣ってくれたことが嬉しかったとかそういう理由かもしれないな。国の象徴とも言われる人々が自分達の事を気にかけてくれるというのは力になるのだろう。よし、頑張ろうという気分になるのだろう。


まあ、目に見えるものを得るのではないのだろうな。なんか、知らんが得る物はきっとあるのだ。それは目に見えないだけで大事なものなんだろう。幸いにして、今まで一度も被災者になったことが無い俺には分からないのだが。


…うーん、異世界召喚ってある意味災害か?でもなあ、人が起こしてるからなあ。人災だな。


こればかりは励ましてもらう事もできない。何せ、世界が違っているのだから。元の世界との接触は、一切できないだろうしな。さて、そういう思索も悪くないが、ディアルクネシアへの頼みごとを交渉してみないとな。


『もしもし、ディアルクネシア。いきなりで申し訳ないんだけど、少し頼まれて欲しいことがあるんだが、応じてもらえないか?』

おおよそのところはきっと、彼女ならわかっているはずだ。何せ、彼女は闇の女神だからな。先ほど、俺が放出した魔力や、冥界の門を開いたことで事情を察してはいるだろう。

『まあ、貴方らしいわね。でも、獣人の一部の人が死んだくらいでは私にはできることは無いわ。だって、一度行ってしまえば通例化してしまうでしょ?貴方はただ、私を使って、自分の心の穴埋めをしたいだけ。獣人達のために何かをしたという自己満足のために私を使うのは余り、賛成できないわね。それに、自己本位でとても自己中心的な考えね。私に頼むことがは、間違っているとは言わないけれども、傲慢であることは分かっているわよね?』

ま、分かっていた。断られて当然の事だってのは。失礼なことをしてしまったか。でも、何かをしたいのだ。だが、元は高校生に過ぎない俺に、同朋の多くを皆殺しにされてしまった彼らに対して何ができるというのだろうか?俺は感動的な、言葉で彼らを慰めることなんてできないしな。

俺の思考を読みながら、ディアルクネシアが俺へ発言を続ける。

『もともとの貴方が何であろうとも、今のあなたは何なのかをよく考えなさい。貴方の頭は飾りじゃないところを私に見せてみなさい。ただ、名も無き人々が死んだから、彼らを励ましたいというあなたの意志は間違っていない。その方法さえ間違えなければいいわ。それに、今回は少し楽しませてもらったもの。貴方、冥界から勝手に亡くなった獣人、亜人、魔族たちを連れ出したでしょう?』

俺を諭しながらも俺の行いを肯定してくれる彼女はとても大きい人だと感心させられた。まあ、神様なんだが。そして、勝手に門を開けたことで何かあるようだ。怒られるわけではなさそうだけどなんだろうな。

『普通はね、冥界の門を開こうなんて発想はしないのよ。だって、開き方を間違えれば、自分も死んでしまうかもしれないのに、貴方は躊躇なくそれを行った。貴方は死を恐れていないわけでもないのに、なぜそんなことをしたのかに私は興味があるわ。命は大事だって、考え方が貴方の思考の基本だったはずよね?』

『そりゃあ、俺があいつらをぶち殺すのは違う気がしたからだよ。復讐はさ、ちゃんと果たされなければならないんだ。一方的に殺されて、殺された奴らは罰を受けないなんてのは、とんでもなく、おかしいことだ。それじゃあ、納得できないのさ。罪を犯した奴は当然、罪に見合った罰を受けなきゃいけないんだよ。だから、門を開いた。それに、俺は門に引きずられて自分が死ぬかもなんて、知らなかったし。知ってても、同じことをしたと思うぞ。』

今の俺なら、肉体が死んだくらいでは消滅はしないだろうという嫌な確信もある。魂か肉体かどちらかが生きていれば、それを媒介にして復活するくらいはできる気がする。

『貴方らしい答えね。ええ、犯した罪は裁かれるべきね。貴方の考えは分かったわ。さて、貴方のこれからについて少しお話をしましょう。』

これからとは、また、珍しい話題になったものだ。

ディアルクネシアは基本的に俺に、何かを求めることが無かったというのに急にどうしたのだろうか?

『…貴方の力が急速に発展し過ぎているのが問題なのよ。もう少し、穏やかに能力を伸ばしていけないのかしら?まさか、今まででも存在した事の無い闇龍王にまでなってしまうとは思わなかったのよね。さすがは、お父様に目を付けられただけの事はあるわ。』

どこか呆れたように言ってくるディアルクネシアに返す言葉を俺は持っていなかった。確かに、俺も自身の力の伸び率には呆れているのだし。正直、最近はステータスプレートを見ていない。何が書いてあるか、怖くなっているから。能力値が7桁を超える日が来るかもしれないから、恐ろしいのだよなあ。今でも既に6桁なのに。ちなみに人類でも、魔族でも、亜人達でも、ドラゴン達であっても6桁の能力値は異常としてとらえられるらしい。

スキルがあれば、7桁には到達しているのだけれどもなあ。いずれは8桁に到達しているんだよなあ。


『でも、まあ、力は力だから。俺が使い方を間違えた時には俺を止めてくれればいい。もう、俺を止められるのは、神様くらいしかいないだろうし。物理的な力の面だけではさ。精神的には後、何人かは俺を止めることができる…暴走させないでいてくれるような奴はいるから。今では、すっかり、化物の体になった俺でも元の世界の友達の頼みなら聞き届けると思うんだよ。それ以外の奴等に頼まれても聞きはしないだろうけどさ。』

あくまで、俺と親しかった奴ら限定ではあるが、俺はこの力を彼らのために振るうのは嫌ではない。とはいえ、俺と親しかったと言えるのは鈴木くらいなのだが。

神崎は自分で、何とかしそうだし彼が俺に助けを求めることなんてないだろう。あのリア充の王様みたいなのが、ボッチの俺に何を求めるというのか。何も求めようがないだろう。それでも、まあ、彼が俺に頭を下げて協力を求めてきたのなら、協力してやらないでもない。


何せ、今の俺はこと【力】に関してだけだが、最強に近い地位にいる自信はある。だから、かつて、自分よりも上のヒエラルキーにいた奴が頭を下げてくるのは心地いいものだ。立場が上の人間から頼りにされるというのは自尊心を満たすことでもあるしな。


『後は、貴方が良いと思った事をやりなさい。今回の件にどう対処するかで、私は今後の貴方への対応を決めるから。勇者への、女神からの試練といったところかしらね。』

最後の方へ、わずかに皮肉を滲ませながらも彼女は俺を見捨てる気は無いらしい。今後も試練とやらが何度かあると考えた方が良いな。


その思念を最後にして彼女へは連絡が取れなくなった。


それはそうだ。だって、現段階で俺は彼女の試練を終えていないのだから、彼女は俺の念話に答える必要なんてない。


さて、覚悟を決めるか。もう一度門を開く必要がある。何せ、一番大事なことが済んでないのだから。


死者を弔う儀式で必要なのは、死者との別れである。ちゃんと死者を死者として認識して、こちら側の世界との別れをした後であちらの世界に送ってやることが一番必要なことのはずだ。遺族たちだって、困るだろう。死体だって出てきていないのだから。


だから、俺は死者を残らずここに集めることにした。


今回の騒動で亡くなった人たち全員を今、この別れの儀式の場へと。


俺は別れの儀を取り仕切っている、クライドさんに俺はきちんとした別れの儀式をさせたいという意見を言うため彼がいる場まで歩いて行ったのだった。そのために必要な手段は全て俺が自分で、準備できることだしな。闇龍王として、彼らの勇者としてやらなければならない事だと思うことを俺は初めてみることにした。自分にできることを精一杯やって行こうと思っているのだ。


多分、ディアルクネシアがそれを望んでいるだろうしな。彼女に頼りきりの自分ではなく、彼女からも頼られるような強い自分になって行きたい。彼女の好意に甘えているだけでは、やはり男として情けないし悔しいのだ。今の俺になら、それだけの力はあるはずなのだから。


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