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捨てられ勇者の異世界ボッチ放浪譚  作者: 雨森 時雨
第2章 闇の勇者(笑)になったので、人間族に喧嘩を売りましょう、そうしましょう!
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第23話 蹂躙の終わりと、これからの道

帝国軍の兵士たちを俺は丁寧にも獣人たちの大陸側の海岸まで送り届けてやった。俺が人間たちの軍港を破壊してきた方向だ。


ほとんどが廃人と化しているので抵抗もなくて楽だった。残りの兵士たちは俺を、とてつもない怪物を見る目で見てきているものの、ろくに抵抗はしない。勝てないと刷り込んでやったかいがあるものだ。いちいち雑魚と戦って肉片をばら撒いても楽しくもなんともないしな。


「さっさと帰れ。そして、次にここに来るときは死を覚悟してくるんだな。獣人、亜人、魔族に手を出す奴はもれなく俺の敵だ。俺は彼らの勇者だから、お前達人間を殺すことに躊躇いは無い。今、侵攻している奴等もお前らと同じようにして送り返してやるから待ってろと王様に伝えておけよ。」

俺はにこやかに笑いながら彼らに言った。


「…分かった。確かに伝言承った。」

兵士の中でも隊長クラスっぽい人が俺に言ってきた。俺から目をそらさずに話す気骨がある人である。うん、こういう上等な人もいるんだな。それでも、俺は帝国を潰すことはやめないけど。だって、あの偉そうなジジイがいるんだから。あいつは俺の獲物だ。誰にも渡す気は無い。


「いい返事だ。で、そこのゴブリンとメガフロッグの上司に当たる人間にも伝えておいてくれ。佐藤唯志は怨みを忘れずに、力を得た。いずれ、お前を叩き潰しにそこまで行く。身辺整理を良くしておくように伝えておいてくれ。満足には動けない身体になるだろうからさ。ああ、ついでだ。俺以外の勇者にも妙なことをしたらぶち殺すと伝えておいてくれ。一応、彼らも同郷人だから、敵対はできるだけしたくないんだよ。」

別に鈴木以外がどうなろうとも、知ったことではないが不特定多数にしておいた方が無難だろう。鈴木の存在はその他大勢にしておかないと俺用の人質にされかねないしな。俺を止めるための交渉人にされても困るし。


「はい、確かに伝えておきましょう。それでは失礼します。」

どうも、俺に刃向かうことを完全に放棄したらしい。良い感じだ。無駄に抵抗されなければ俺だって、手は出さない。楽しみだな、彼らが持ち帰った情報でどれだけの騒ぎが巻き起こるかが実に楽しみでしょうがない。どうしても、笑いが漏れてしまうな。


俺が我慢できずに、クククと笑っていると、隊長さんが気味悪そうに見ていた。俺が睨むと目を慌ててそらして船へと走って行った。帰り道は船酔い地獄になるとも知らずに暢気なものである。


エタナウォーディンに頼んでおこう。


『すまない、今から頼みごとをしたいんだが、応じてもらえるか?』

『ああ、構わんさ。我の手が必要なほどの事態が起こったのか?』

エタナウォーディンはこちらの急な要請にも応用に応じてくれる。やはり力を示しておくというのはドラゴンに限ってだが、非常に交渉が早く進むので楽だ。

『今から、海を大荒れにして欲しいだけだよ。獣人たちの国に攻め込んできた馬鹿どもをズタボロにしてやったからな。帰り道もひどい船酔いにしてやりたいのさ。こちらに攻めても良い事は無いと骨身に染みて分からせないと、人間という種族は諦めが悪いから。少しでも利益が損害を上回ると判断すれば、性懲りもなく攻めてくるからなあ。』

自分も元は人間だっただけに彼らのしつこさは良く知っている。それにも解いた世界でも、戦争の基本方針は自分達が得られそうな利益が、自分達が被る損害を上回ると判断されている間は戦争状態が続いたものだ。だから、戦争を止めるために必要なことは圧倒的な損害を生み出すことだと思う。獣人や亜人、魔族たちの大陸に攻め込むことで得られる利益をはるかに上回る損害を奴らに与えてやることで、戦争継続を不可能にする方法だ。


利益を得ること無く、損害を生み出され続ければ、国内にも厭戦気分が蔓延するはずだしな。俺が戦争についてのことを考えて、話しているとエタナウォーディンはすでに、手配を終えてくれたようだ。海が目に見えて荒れ始めた。というか、ものすごく高い波が上がったり下がったりしていて、人間たちが乗ってきた船が沈むかもしれない勢いだ。沈まれるのは困るんだけどな。


『奴らの国に着くまでに幼い海龍達に遊ばせておくことにした。喜んで、人間たちの大陸近くまで遊んでいるだろうさ。我が選んだ、問題児ばかりだからな。クハハハハッッ!!同朋共を甚振った罰を受けるといい。それにしても、先ほどの殺気は良かったぞ、ユウジ。』

いつの間にか、名前呼びになっている。俺はいつフラグを建てたのだろうか?ああ、散々建てたわ。だって、こちらに来てからは力しか示してないからな。なぜかは知らないが次から次に喧嘩を売られていたのだから仕方が無いことだ。

『さっきのことか。あれは人がせっかく良い気分でいたところに、人間たちが獣人の村を3つほど襲ってかなりの人数を殺したって教えられてな。思わず、キレちまったのさ。無論、襲ってきた人間の兵士たちは全員生かしてあるが。俺の脅威を語ってもらうためにな。それでも、また攻め込んで来ればあなたに大きなお願いをする事にしようか。』

グリディスート帝国内の河川を全て氾濫させてもらおうかな?もしくは港を全て使えなくしてもらうかだ。

『なるほど、無駄な流血は好まないお前らしい怒気だったわけだな。それで、大きな願いとは何だ?』

『ああ、グリディスート帝国内の港を全て使えないくらいに破壊してもいたいんだ。人間達は空を飛ぶ術はまだ、持っていないんだろう?』

そうしてもらえれば、かなりの間人間はこちらに攻め込めなくなるだろうと俺は考えている。万が一、飛行手段を持っていた場合はクリムゾニアスに頼んで飛龍を大量に呼び寄せてもらい、獣人側の大陸の上空警備をお願いするところだった。エタナウォーディンも、俺の交通封鎖をしようという考えには賛成してくれると思うが。

『大した手間ではないから、構わんぞ。たかが、港を破壊するくらいは軽いものだ。できる限り、民間人は殺さぬように配慮してやろう。戦う者は殺すが、戦えない者をむやみに殺すのは好かないからな。それにしても、お前がいた世界では人間は空をも飛べたのか。この世界ではまだ人間には、空を飛べる者は居ない。』

どこか感嘆したようにエタナウォーディンは人間が空を飛んでいることに驚いていた。多分、翼も無い人間がどうやって空を飛ぶのか理解できなかったんだな。しかし、飛行機の概念をどうやって説明してみたものか。はっきり言って、俺たち日本人、地球出身者にとっては飛行機なんて常識の物なんだが。この世界にとっては未知の物だよなぁ。当然だが。


うーん、どうやって説明するかなあ。難しい。自分達にとっては既知でありふれたものでも、こちらの世界では未知でありえないものだったりするからな。


『人間が直接空を飛ぶことは無いんだ。俺だって、あちらにいたころは魔力なんか持っていなかった。その代りに科学という技術が発展していた世界に俺は住んでいた。人間たちはな、空を飛べるだけの動力を備えた乗り物を作って空を飛んでいるんだ。けれどな、その乗り物を動かすには大勢の人間が付いていなければならない。俺達の世界では、人間は空を飛ぶ術を手に入れたけれども、それは多くの資源や人手を使ってやっと成し遂げられることだ。この世界みたいな魔法なんてないからな。人と資源と金がかかって、何とか人間は空を飛べるのさ。』

『ほう、それは興味深い話だな。この世界では、空くらい魔法を使えば飛べてしまうだろうが。なぜ、人間どもはそうしないのだろうか?』

『発想が無いんじゃないか?それに俺個人としてはむやみやたらに自分達の居た世界の技術を持ち込むことはどうかとも考えているからな。特に飛行機なんて、便利だけど、一歩間違えれば戦争に拍車をかけかねない力を持っている科学技術の産物だから。おいそれと教えられなかったんじゃないか?少なくとも、今までの勇者たちは自重して、教えていなかったんだろう。』

そうであってほしいと思う。何せ、飛行機なんて優秀過ぎるくらいに優秀な輸送手段だ。特にこの世界では石油の代わりに魔法なんてものがあるし、魔石だってあるのだから。魔石は魔力の高密度結晶体だという話は聞いている。人間が生み出せる魔力よりも濃くて密度の高い魔力が籠っているそうだ。だから、人間たちは自分達の大陸にあるそれが枯渇しそうになってきたので、新天地を求めてここまでやって来たという事だ。獣人の村で聞いた話と、俺達の居た世界での石油とかの地下資源の扱いを考えてみればなんとなくわかる。


獣人達は魔石を価値のあるものとは思っていない。何せ、精霊に頼めばたいていの事は何とかなるし、自分達も高い身体能力がある。人間達に比べて恵まれた面が多いからか、あまり魔石に関することでは獣人の関心は薄いものだった。魔族にしてもそうで、彼らはは人間以上の魔力を持ち、自分達でも魔石を造り出すことすらできるのだそうだ。そうなると、彼らにとっては魔石などそれほどの価値があるものでは無いものらしいというのも納得できる。


そして、亜人たち。エルフとかドワーフなどだが、彼らは生活を良くしようとか快適に生きようとかそういう欲求自体が無い種族らしい。昔からの暮らしを守り、それで生きていくのに満足しているのだそうだ。規律正しい民族で、問題も無いから、獣人達とも魔族たちとも問題は起こしていない。森や山を荒らさない限りは、彼らは他種族と争わないようだった。数百年前には大陸全土を巻き込み、魔族、獣人、亜人たちで大戦争を行った結果今に至ったのだそうである。


結局は外から攻めてくる人間達の方がよほどに目障りだと判断したらしい。何せ、数が多いのだ。自分達と比べても弱いけれども、数が増えるのは早いし、諦めが悪い。そうなってくると、内輪もめをしている場合ではなくなってきた。そうして、獣人達がいる大陸ではすみわけをする事によって無駄な争いを減らしたのだそうだ。



ちなみに、彼らの種族はいずれも魔石を必要としない種族である。


だから、彼らは人間達が必死になって自分達の大陸にまで魔石を採掘しようと攻めてくるのかを理解できない感じだった。


エタナウォーディンと今後の事で話し込んでいる間に人間たちは全員船酔い確定の船に乗り込んだようだった。ちょうどいいところで会話が切れたものだ。魔石と人間の関係は、この大陸に住む獣人や魔族、亜人たちがそれぞれもっとよく考えていかないといけない問題だ。


いつの時代でも、世界が変わっても、戦争が行われる原因というのはあまり変化が無いものであるなあと虚しくなった。何でただの高校生だった俺が、戦争のことを考えないといけないのだろうか。


でも、この問題を蔑ろにしていると、いずれは俺にも被害が降り注ぐようになるだろう。何せ、俺は闇の女神に選ばれた勇者(笑)なのだから。


まあ、人間達に対しては容赦が無いけれどな。むしろ、俺は被害者で損害賠償を請求しても許されるはずだ。さてと、船酔い地獄に2000名ほどを案内したけれども、これからはどうしようかな?


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