第22話 死霊蹂躙、帝国の暗い未来図(笑)
千を超えて万に至ってもなお、死霊たちは溢れだしていた。こいつらに因縁があるのは村人たちだけではないからなあ。きっとすごい数が出るのだろう。どうも、獣人だけでなく、亜人や魔族も含まれているらしかった。
エルフっぽいのや、ダークエルフっぽい女性、蝙蝠のような翼が生えた女性、角が生えている以外は人と何ら差の無い女性が現れたからだ。
というか8割以上が女の人だった。残りの2割が男性と、老人と、子供だった。どんな基準で人を殺してきたのだか。後はいかにも、病気ですという人たちもいた。ああ、病人は殺せという命令に従った結果か、趣味で殺した下種がいるからかのどちらかだな。俺は集まっている死霊の集団に告げてやる。復讐祭の開始である。
祭りの始めは大きな声で告げてあげないとな。
「お集りのみなさん、そいつらを殺していいですよ。さあ、生前張らせなかった恨みを晴らしてください。皆さん全てが満足するまで、そいつらは死にませんからね。思う存分、復讐をしてください!!」
俺は特別仕様を彼らに施したことを、彼らに教えた。全力で復讐しても大丈夫だし、自分達だけの獲物だと獲物を巡って争うことをしなくても良いということを俺は教えたのだ。何せ、全員が彼らに恨みを持っているのだから、やはり全員に復讐させてあげたいじゃないか。
自称・超敏腕復讐プランナーとしてはさ。死霊たちは俺の方へ向けてそれぞれにお礼を言ってくれる。礼儀正しい人達は好きだな。
【復讐の機会をくれてありがとうございます】
【ありがとうございます】
【必ず殺して見せます】
【復讐だ!復讐できるんだ!!】
【死ね!死ね!!死んでしまえぇぇ!!】
それぞれ情熱的な声が辺りに響き渡る。俺はテーブルと椅子を取り出して彼らが復讐するのをお茶と菓子を食べながら温かく見守っている。ダンジョンハウスに魔法をかけて、俺が必要とするものは直接取り寄せることができるようにしたのだった。
「やっぱり、復讐と断罪の場を見ながら食べる菓子の味は特別だなあ。」
俺はうっとりとしながら、死霊達によって蹂躙される兵士とゴブリンとメガフロッグ君を見ていた。彼らは恐怖と苦痛に顔をゆがませながら無様に逃げようとしていた。命乞いをしていて見苦しい奴等もいる。
まったく、自分達が命乞いをされても応じなかった癖に命乞いなんてしてるんじゃあない。俺は少しばかり不愉快になったのでその男達の感じる痛みを3倍に引き上げてやった。そうすると悲鳴だけが響くようになった。いいことだ。
血飛沫が舞い、肉片が舞い、臓物が飛び散る。
骨が砕け、臓物を喰われ、首を蹴り転がされる。
そんな地獄絵図が繰り広げられていた。それでも、誰も死ななかったし、終わらなかった。無論、俺が兵士たちとゴブリン、メガフロッグ君に不死の呪いをかけているからだ。精神もずっと正常のままというおまけ付きだ。狂って、すべてから逃げるという道は封印してやったので彼らは自身の罪と真正面から向き合ってもらおうじゃあないか。期限は彼らが満足するまでだ。それ以降は通常の寿命を全うしてもらおう。最初は殺してやろうかと思ったが、やはりやめた。生涯、こいつらが殺してきた奴らに復讐され続ける魔法を付けてやる方が楽しそうだったしなあ。ちなみに悪夢の中でなので、肉体的な損傷は一切ないという素晴らしく人道的な仕掛けである。さすがは俺。慈悲深いことであるなあ。
一回死んだだけで、こいつらが犯してきた罪を許してやるなんて甘いことをついさっきまで考えていた自分を反省した。やはり、悪人は苦しんでなんぼだ。そして、悪人には人権なんて上等なものは存在していないのだ。
悪人は苦しむべきだ。
ここにいるやつらは皆、楽しんで獣人を殺してきた奴らだ。命令されて仕方なく獣人を殺してた奴は、復讐は今回で終わるように設定してある。楽しんで、生き物を殺すような奴は生涯、苦しみに沈んでもらわないと困る。命令に従っただけの兵士を苦しめる気はあんまりない。それでも、殺された獣人達には復讐の機会は与えているが。それは彼らが受け取るべき正当で、当たり前な権利だと思うから。
基本的に俺は因果応報論の信者であるし。殴ったら、殴り返されるのは世の中の常なのだ。殴られたくないのであれば、自分から殴らなければいいだけ。後は、まあ、危ない現場には近付かないとかの知恵や注意力は必要だけれども。
「ぎぃぃぃっっあああぁぁ!!!」
「助けて、助けて、助けてくれよぉぉぉぉぉっっ!!」
「殺せぇ、殺してくれぇぇっ!!」
「痛い、痛い、痛いいいいぃいっっっ!!」
苦痛と苦悶と後悔に満ち溢れた悲鳴が木霊して、俺の力になっていく。何せ、人の負の感情というのは俺にとっては絶好の魔力回復剤なのだから。それも、効果がものすごく高い。だから、冥界の門を開いてから、はや2時間もこうしていられるのだ。ただしダンジョン時間で、2時間である。地上では24分しかたっていない。
未だに呼び出した死霊達の誰も満足していない。それだけの怨みを買っていたのだなあと思うと俺は感心してしまう。まあ、この清算法は今後も続けてみようか。俺だけの復讐にして良いわけではないものな。この世界の人間は獣人、亜人、魔族たちに対して好き勝手にしてきたから、こういう怨みを持った者たちがたくさんいるのだ。同じ復讐を志す者として、俺も彼らには機会を与える義務がある。
「総勢、15089名の御霊が集まってくれたか。ドン引きだなあ。よくもここまでひどいことをして何の復讐もされてこなかったもんだよ。やっぱり機会を与えてよかったな。」
ダンジョンのラスボス部屋だから、外からは覗かれない。はっきり言って、内臓や血が飛び散りまくっているので普通の人がこの場を見れば発狂してしまうかもしれない。おまけに俺にとっては心地良い悲鳴が木霊しているのでやはり、誰かに見られるかもしれない環境下ではおすすめはできないだろう。
「♪~♪♪~!!」
思わず、鼻歌を口ずさむほどには機嫌が良い。
やはり正当な報酬を手にしている人達を見るのは気分が良い。
ちゃんと復讐のチケットは与えたから、満足するまで復讐してくださいな。1万5千名の復讐は終わる気配が無い。まだ、始まったばかりだからな。
それから、俺が食事をしながら復讐を見ているとだんだん数が減ってきていた。みんな、復讐の宴に満足してくれたようで、ホストとしては何よりである。帝国軍の兵士たちは皆、ぐったりしていた。それでもひどい目に遭えば悲鳴を上げるのだが、その瞳はどんよりとして死んだ魚のような目になっていた。
発狂はしない代わりに精神は摩耗していくのだ。まあ、いいや。その後も復讐の宴は続き、俺は最後までそれを見届けた。
そして、最後の一体となって一人の老人がその場に居残っていた。どうしたのだろうか?
【ありがとうございました、闇龍王様。貴方様のおかげで我ら一同、生前果たせなかった復讐を果たすことができました。私達全員に復讐を果たさせてくれたこと、厚く御礼を申しげます。】
おじいさんの獣人が俺に平伏しながら礼を言っていた。
「いいえ、こいつらに復讐する権利は貴方方が持っているもの。俺は手助けをしたにすぎません。見事な復讐でした。今後は、この下らない者たちの事は忘れて新たに転生の輪に入ってください。それが貴方達の次にするべきことです。」
もう復讐は終わったのだから、生まれ変わって新しい次の人生を生きていって欲しい。復讐にとらわれ過ぎれば、悪霊化してしまうしな。
【温かいお言葉に感謝します。それでは、闇龍王様の心からのお言葉に従わせていただきます。さようなら、闇龍王様。我ら一同、心より貴方様の事を敬い申し上げております。もし、我らで貴方様の助けになれることがあればいつでもお呼び出しください。それが我らの総意です。生まれ変わっても、貴方様に会えますように。】
「見事な復讐でしたと皆に伝えておいてください。俺の力になるよりも、皆さんが望む次の人生を送ってください。それが俺の心よりの願いです。さようなら、勇気ある民のみなさん。」
俺は、長老のような獣人を見送った。きっと生前は、どこかの村とか町、都市を束ねる立場だった人ではないだろうか?
今のおじいさんの言葉で俺はこの復讐方法が間違っていないことを確信した。何せ、一度は憎い相手を殺せるのだから。それに何度殺しても、蘇る復讐相手を何度も殺し続けるのは思った以上のエネルギーが必要になるものだ。だから、どの復讐者たちも2,3回殺したら満足していた。
まあ、復讐される側は合計で4,5万回くらいは殺されることになったので一人当たり平均で20回以上くらいは殺されているのではないだろうか?
そのおかげで、9割近くが廃人と化していた。俺が発狂できないようにしたため、彼らは正常な感覚のままで殺され続けた。気を狂わせて、精神を守ろうとする防衛反応すら俺は許してはやらなかった。これでいい。だから、彼らはほぼ生きる屍と化している。それでも正常さを保たせてあるから、彼等は狂っているわけではない俺は彼らをそうしたことに罪悪感を覚えたりはしない。
好き放題やって来たただの屑達が、自分達がしたことと同じように好き放題にされて一方的に殺されているのだから。
これで、少しは他人の痛みというものを分かるようになってくれればいいのだけど。どうも、全員狂いはしなかったが、精神を崩壊させてしまったようだ。それではつまらないので、俺は回復魔法を使って彼らの精神をきちんと元通りにしてあげた。
すると、彼らは突如として泣き喚きながら俺に請うてきたのだ。頼むから殺してくれと。だから、俺は断ってやった。死んで解放されようなんて甘いことを言ってるんじゃあない。甘ったれるなと言ってやったさ。
その時の絶望に染まった顔は笑えたなあ。これからも、彼らは復讐され続けるのだ。彼らは獣人だけでなくて、魔族も殺しているようなのできっと、復讐されるだろう。彼らにはそれぞれ刻印を付けてある。夢の世界でのみだが、彼らが殺した罪の無い命と対面できるようにしてあり、それぞれの種族ごとに復讐されるようにしてある。
ちゃんと、復讐の日は分けてあるのだ。
獣人の日、魔族の日、亜人の日、おまけで人間界の中でも帝国に好き勝手にされた可哀想な人々達の日。1週間のうち4日間は夢で殺される日々が彼らには待っている。自分の行いを後悔した者や、罪を償おうとか真剣に考えた者たちは解放されるようになってはいるが、どのくらいの人数が壊れずに解放されるだろうか?
見物である。いや、罪を償う覚悟がある人間を俺は貶めることはしない。ただ、見守るだけにしておく。本気で反省している人間に対して追い込みをかけてもそれは無意味な行為だ。それよりは反省をしようともしない屑たちを叩き潰すことに時間を使うべきだ。
さて、人数の確認をしないとな。
指揮官である、ゴブリン君とメガフロッグ。精神崩壊。
それから、彼らの部下では1901名が精神崩壊した。残りの99名は無事に済んだらしい。今回限りの復讐で済んだようだ。彼らは命令に従っただけの、ただの軍人らしい。獣人、魔族、亜人たちを見下した考え方はしていないようだった。
「じゃあ、生き残った諸君は帰っていいぞ。そこら辺に転がっているゴミの始末を頼むな。ちゃんと人間たちの国に持って帰ってくれよ、その汚物達をさ。同胞の住む地が薄汚い血で汚されるのは困るんだよなぁ。」
俺は今まで人間が獣人、亜人、魔族たちに言ってきたセリフをそのまま彼らに向けてやった。まあ、彼らは悔しさに表情を歪めているのはどうでもいい。よくよく考えると、まだ復讐すべき権利がある女性が一人いるのを俺は忘れていない。ただ、彼女は未だに意識を取り戻さないので正当な復讐者である彼女への生け贄は、まだまだ捧げられそうにはなかった。
「気が変わった。港までは飛ばしてやるからさっさとここから出ていけ屑ども。今回に限り見逃してやる。お前たち99人は特別に今後一切、戦争に加担しないのであれば見逃してやってもいい。お前たちは自身の欲望よりも、上官からの命令に従う兵士達だからな。だが、次にまた、見かけた時は殺す。この大陸に近付いた時点で殺すから。さあ、帰りな。命が惜しくないのなら、また会おう。命が惜しいのであれば、もう会うことは無いさ。せいぜい楽しい夢を見るくらいで今後の人生を送って行ける。」
そう、いくら命令だからと言っても、獣人、魔族、亜人たちは彼らにも怨みを持っている。それに今までここにいた亡者達は氷山の一角なのだ。実際はもっともっと彼らに殺された者たちは居た。
だが、俺の力にも限りはあるので全員に復讐させてあげるわけにはいかなかった。だから、夢の世界限定で彼らを殺せる権利をあげた。
復讐を望む死者たちにとっては理想郷のようなものだろう。誰に邪魔されることなく復讐できるのだから。そして、何度でも殺すことができるのだ。復讐対象の魂が砕け散ってしまうまでは。
さてと、これで帝国への宣戦布告は終わったな。彼らの反応が楽しみな俺である。




