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捨てられ勇者の異世界ボッチ放浪譚  作者: 雨森 時雨
第2章 闇の勇者(笑)になったので、人間族に喧嘩を売りましょう、そうしましょう!
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第21話 死霊乱舞

俺は目の前の青年を死なせないようにすることに集中した。


これ以上、死人を出したくはない。だから、彼の体に元の姿を思い起こさせる。

「慈愛の杯…違うな。回帰の杯。」


そういって、回復魔法を起動した。新たに作った回復魔法は欠損部位回復用の魔法だ。この世界の魔法は傷を癒す魔法はあるが、欠損した部位を元に戻す魔法は無いのだ。俺と同じく、光の女神を基にする魔法なら、欠損部位も回復できる。ただし、消費魔力が馬鹿げて高いのだ。理由はゼロから筋肉、血管、神経、骨、関節など複雑なものを作り上げて回復する魔法だから。そりゃあ、レベル500の人間でも一回しか使えない欠陥魔法と呼ばれることにもなるさ。


逆に俺の魔法は、消費魔力は回復魔法の3倍程度で済む。健康だった時の体の記憶を思い起こさせ、元通りにするだけだからだ。まあ、簡単ではなかったけれども。習得できたのは、ライオンさんのおかげだ。彼女の治療を進めていたら偶然できた魔法だった。回復魔法を使いなれていたことも大きい。おかげで俺は攻撃と回復に関してはかなりの自信が持てるようになった。


過信ではなく、自信だ。


そう言うことから、俺は目の前の青年の左腕をきちんと元通りに再生させた。他の傷は深いものもあったが、欠損した腕を治すことに比べればはるかに簡単なことだった。


「さて、蹂躙だ。」

俺の想像力が欠けていたせいで3つの村の人々が死んだ。もしかすれば、俺がいてもいなくても結果は同じだったかもしれない。背負い込み過ぎなのかもしれない。それでも、気分が悪かった。自分の失敗も多少は影響していると感じたのだ。そう、心が感じてしまった以上、ここで何の行動を起こさないのはありえない。


俺の怒りが広範囲に伝わったのか村人たちが集まってきた。皆、一様に怯えた表情だが、俺の足元に倒れている青年の姿を見て何かを感じたらしい。村長さんがある気でてきて、俺に事情を尋ねてきた。

「この青年が何か悪い知らせを持ってきたのですか?大層、顔色が良くないですが。」

「ええ。彼が走ってきた方向に人間族の軍がいるそうです。狙いは恐らくアルティリスでしょう。彼女を再び攫いに来た途中で近隣の村々を焼き払ったと聞いています。だから、クライドさんは彼女を守ってやってください。それと、保護している金髪の獅子の女性の事もお願いできますか?」

俺の言葉を聞いてクライドさんは力強くうなずいてくれた。後はメルゾンさんに伝えればどうにでもなるだろう。獅子のお嬢さんの事もどうにかなるはずだ。

ベルティーオも出てきている。

「ユウジ様が言ってたことは本当ですか?」

アルティリスが狙われていることだろう。

「ああ、だから君に命令しよう。彼女を守れ、自分を守れ、決して死ぬな。俺との約束だ。俺も人間族を蹴散らしてくるからな。ちなみに無傷で、だ。」

最後は冗談めかしておくが、一応本気でもある。人間で俺の体に傷を付けられる奴がいるとは思えなかった。

「はい、ユウジ様もお気を付けて。僕も自分にできることをやります。それにアリスも守られるだけの子じゃないですしね。」

ベルティーオは複雑な表情を浮かべていた。できることなら守り抜きたいけれども、ともに事態に立ち向かうのは心強いという表情だ。まあ、何となくわかる。歳の割にはずいぶんと賢い彼女といるとこちらも気が楽になるからな。

「じゃあ、俺は行く。連中を血祭りにあげて来てやる。この村には指一本触れさせやしませんから。」

最後の言葉は村の皆へ向けての物だ。そう言って、俺はクライドさんが何かを言おうとする前に走り始めた。村から1キロほど離れたところで少しばかり、本気で走り出した。とたんに足元の地面が陥没するので地面を強化しながら走る羽目になった。力が強いというのもこういう時では不便だ。


おかげで走ってすぐと言っていいくらいに早く、人間族と対面できたがな。新幹線を超える速度で一時間も走れば遭遇できるのも当たり前だけど。


俺は人間たちの前に立ちはだかった。その数はおよそ2000人か。風の精霊の感覚と俺の感覚がそう数えている。


そして、中々強くて良い馬に乗っている指揮官達の顔を見て驚いた。復讐対象者のうちの二人ではないか。いや、世間は狭いなあ。ということはあのクソ野郎がグリディスート帝国の貴族であることは確定事項だな。


「何だお前は?私達の前に立つということは私達に敵対するつもりということか?はっ、これだから浅はかな獣混じりは低能だな。」

金髪の中途半端に顔が良いのが話しかけてきた。前髪をかき上げる仕草を入れないと話ができないのか?金髪の軽薄そうな顔つきをした優男だ。腰には宝石がガチャガチャついた細めの剣を備えている。


隣のヒキガエルは黙っている。うん、ウシガエルでもいいけどなあ。挑発なんて乗ってやらないぞ。豚のような体つきで火を付ければ燃えそうなくらいに脂ぎっている。油まみれのヒキガエルを想像してくれれば、この男の顔と一緒になるな。これまた大仰な杖を右手に持ち、こちらに向けていた。


俺は貴族趣味丸出しの恥かしい二人に向けてクールに言葉を放つ。

「お前たちが同胞の村を襲った犯人だな。裁きを受けてから、死ね。」

あれー?

どうして俺はこんなことを口走ったのかなあ。うん、キレてるみたいでしたね。

ま、いいや。


「かかれぇっ!!」

半端イケメンが声を張り上げた。


「撃ち殺せぇっ!!ただし殺すな!僕のコレクションにするんだからなあ!!」

うげぇっ…お化けガエルにロックオンされている。キモイ。キモ過ぎる。背中から嫌な汗が出てきた。

「気色の悪い、化け蛙は黙っていろ。」

俺はそう言って蛙野郎の片耳を切り落としてやった。鎌鼬の魔法で少し、撫でてやったのだ。首を落としても良かったが、それではこいつを苦しめることができない。


「がぁああっっ!!よくも!よくも!!僕を傷つけたなああああっっ!!死ねぇぇぇっっ!!」

蛙男は、とても鈍い術式展開をした。遅すぎてあくびが出そうだった。大仰な杖を馬上からこちらへ向けて掲げている。どうして、貴族というのは装飾過多な武器を持ちたがるのか分からない。


火属性の最大魔法を打ち出したいようだった。一応、霊式までは使えるらしい。意外に優秀だな、この蛙野郎は。


「遅い。魔法というのはこう撃つのだよ、ブサ蛙君。」

想像の範囲内の優秀さではあったが。だから、俺は収束もせず適当に風魔法を撃っておいた。手加減が効くので便利なのだ。今度は蛙の右腕の肘から先が消し飛んだ。まあ、止血はしてあるのだが。簡単に死なれては困る。


周りの兵士たちも俺と蛙君の戦いには手を出してこない。レベルの差が分かっているのだろう。港にいた奴等よりも強く、戦いに関する目が肥えていてよかった。無駄なことは嫌いなのだ。それに彼らを罰するのは俺ではない。彼らに殺された哀れな村人たちがやるべきことだった。人の獲物を横取りしてはいけないな。


「余所見が過ぎるぞ!ケダモノがぁつっっ!!」

「黙れよ、半端系の美男子気取り。」

剣で俺に向かってきていたので笑いながら弾いてやった。


その結果、彼の右腕は哀れ装飾過多な細身の剣と共に砕けて、潰れてしまっていた。

「ちゃんと、食事はしているのか?体が脆過ぎる。おまけに剣も安物だな、命を預けるのにそんな不良品を選ぶとは持ち主の器も知れたものか。」

ふっと息を吐き、馬鹿にするように嗤って見せてやる。唇の片端を引き上げて見せてやる。嘲笑のように見えて居たら幸いである。


「ああああぁぁっっっっ!!!!」

叫ぶばかりで何もできなくなった装飾過多の騎士君が転げまわっていた。弱い。一応、止血はしてあるので死にはしないだろう。


「おいおい、ここまで弱いというのは考えてなかったぞ。お前ら、身分だけ高くて実力が無い奴等か?」

俺が問いかけるように言ってみると、騎士君は息も絶え絶えに立ち上がりながら答えてくれる。意外に良い奴かもしれん。

「お、お前こそ何者だ。私達二人を相手にしてその余裕。お前のような怪物の事など聞いたことも無いぞ!?」

あら、答えになっていない。俺が求めた答えではないな。

「俺の質問にきちんと答えてくれよな?」

言いながら、俺は装飾過多の騎士の片目を指で弾いた小さな風属性の魔法弾で潰した。未だに名前も知らんのだ。

「あっがあああぁぁぁぁっっ!!!」

叫んで再び地面を転げまわっている。

「おい、そこの蛙野郎。お前たちは国でどのくらいの身分だ?ちゃんと答えてくれよな。」

「僕たちは上級騎士と上級魔術師だ。一応、帝国では騎士と魔術師での上位に属するものだ。」

蛙野郎が苦痛に顔を歪めながらも答えた。うむ、ますます蛙顔に磨きがかかっていて面白いな。

「いや、弱過ぎるだろ。なるほど、この程度の奴等しかいないのであれば、俺一人でも帝国の軍事部門は潰せるな。国ごとは潰せなくとも、軍事で頭を張っている奴らくらいは潰せそうだ。ありがとう、お前らのおかげで帝国を潰せるめどが立った。」

俺は少しばかり機嫌が上方修正されている。

はっきりって、こいつら程度が最高レベルの騎士と魔術師であれば、容易く帝国の軍事部門を麻痺できる。まあ、上級騎士長と上級魔術師長は見ていないがこいつらよりも少し強い程度で考えていればいいだろうさ。周りの兵士たちは石像のように固まったまま動いてはいない


ある程度の頭はあるらしい、上官が俺の考え一つで肉片に変わり得ることを理解できているようだった。まあ、こいつらも殺されるんだけどさ。俺ではなく、こいつらに殺された村人たちの執念によってだけど。

「さーて、お前たちはもう俺にとっては何の価値も無い屑で、ゴミで、廃棄物に等しい。人間としての価値は無いな。だから、新しい姿を与えてやるよ。生まれ変わった新しい姿でも元気に生きていけよ、雑魚共。」

「何をする気だ、貴様!」

「うぇ、う、ああぁっっ!!」

騎士は俺に文句を言い、蛙は怯えて逃げ出そうとした。蛙の方が危機察知能力に優れている。俺が展開した魔法が何なのかを理解できているようだ。


俺は右手を突き出して標的の二人の姿を変えるイメージをして、魔力弾に込めて撃った。それぞれにお似合いの姿があると思うのだ。


装飾過多の騎士は、中途半端な美男子からゴブリンに姿を変えた。人間の言葉を話せるように調整してある。なぜ、ゴブリンなのかといえば、彼が一番嫌っている魔物だったからだ。戦っている最中に心を読んで決めた姿だった。彼は弱く、醜い、魔物をひどく嫌っているようだったので同じ気分が味わえるようにしてあげた。


蛙と似たような顔をした奴は、メガフロッグに姿を変えてやった。ゴブリンよりは強い魔物だが、とても大きな蛙である。2メートルくらいの大きさはあるが、彼もまた人間の言葉は話せるようにしてやっている。自分と見た目が似ているこの魔物を彼は一番嫌っていたのでこの姿に変えてやった。ギガフロッグにしても良かったが、あれは全長が7メートルを超す巨大で強大な魔物で、こいつにはふさわしくなかったので却下した。


身長が1.3メートルほどのゴブリンと、2メートルを超す大蛙の二人は凸凹コンビといったところか。うむ、良く変化できている。おまけに俺以下の魔力量の奴には解除できない、魔改造した術式でやっているから一生このままだな。自殺もできないし、発狂もできない。この、醜い姿で天寿まで全うしてもらおうじゃないか。


「あ、あああ、ああっっっ!!!」

ゴブリンが泣き出した。地面を両手で何度も殴りつけているがレベル1のゴブリンである。手を痛めるのがおちだ。

「お、お、おまえぇっぇぇ!!なんで、なんで、こんなことするんだよ!?僕たちはただ獣人を狩っただけじゃないか!!なんでなんでっっぇぇぇ!!」

蛙君は満足できんかったようだ。まったく、欲張りさんめ。周囲にいた兵たちは固まっている。自分達もあんな姿にされるのではないかと怯えているのだろう。いや、君たちには死んでもらうから大丈夫だよ。


「佐藤唯志という名前に聞き覚えがあるかな?」

俺は分かり易く動機を説明してやる。

「ああ、あの出来損ない勇者か。」

泣きわめいていた、ゴブリン君が話に参加してきた。どうも、人を馬鹿にできる話になると元気になるようだ。

「そういう評価だったわけな、俺の評価ってのはさ。で、どういう気分だ?その出来損ないの勇者に良いようにやられて挙句の果てに姿まで変えられるというのはさあ。どんな気分か教えてくれないかな?」

俺は思い切り笑って言ってやる。良い気分だ。実に良い気分だ。こいつらは、前菜に過ぎないが絶望しきったような表情は俺を非常に心地良い気分にさせてくれる。


「な、何で、何で!!生きてるんだ!?あそこに放り込めば死ぬはずだぁぁぁ!!」

蛙君が喚いた。

「ああ死んださ。佐藤唯志という召喚された哀れな勇者の出来損ないは死んだ。今の俺は闇龍王のユウジ・サトウだ。闇の女神の勇者って奴だよ。お前達人間があまりにも好き勝手しているから彼女の代わりに罰して回っているのさ。特に、グリディスート帝国は厳罰にしないとな。」

俺は周囲の兵士たちも睨みつけて行った。彼らは分かり易く動揺してくれた。うん、君たちも獣人を殺して回っているから、重罪だよ。さて、死んでもらおうか、きっちり復讐されてからな。


「開け冥界の門。恨みを持ちし者ここに集え、復讐を望む者ここに集え、断罪の場はここに築いた。この者たちに恨みを抱きし者たちよ、我が身我が魔力を糧に暴虐を果たせ、蹂躙しろ、正当な復讐の刃を与えてやる!!集え、亡者の暴虐行進!!」

俺はノリと勢いに満ちた呪文を唱える。香しいほどの中二臭さだが、魔法の呪文は効果を言い表すのが良いと聞いたのでこうしている。闇龍王に与えられた権限として、冥界の門を一定時間だけ開いていられるのがある。そして、俺は自分のダンジョンにこの場にいる全員を転移させた。


俺はノリと勢いに満ちた呪文を唱える。香しいほどの中二臭さだが、魔法の呪文は効果を言い表すのが良いと聞いたのでこうしている。闇龍王に与えられた権限として、冥界の門を一定時間だけ開いていられるのがある。そして、俺は自分のダンジョンにこの場にいる全員を転移させた。


この場にいる彼らに恨みを持つ死者達全てを、俺は自身のダンジョンのラスボス部屋に呼び出した。人数が多いので復讐するのに時間がかかりそうだったし、正当な復讐をさせてやらねばなるまいと考えたためだ。俺だって、ついさっき復讐の一部を終えた。死んでいるからといって、復讐の権利は無くなりはしない。


死霊たちが溢れ始めた。そして、それぞれが口々に恨み言を呟きながら続々と数を増やしていった。


その数は千を超えてなお、あふれ出ている。どんだけ怨みを買ったのだろうな。俺の魔力は余裕いっぱいであるが。彼らは俺の魔力を目印にしただけで力を借りるつもりはないらしい。まあ、いいや。自身の力だけで果たすのも復讐の醍醐味というものだよ。


今からが、楽しい蹂躙の時間だな。


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