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捨てられ勇者の異世界ボッチ放浪譚  作者: 雨森 時雨
第2章 闇の勇者(笑)になったので、人間族に喧嘩を売りましょう、そうしましょう!
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第19話 祭りの後半部分と帝国の危機(確定)

「ああ、祭りの後半部分が始まりますよ、ユウジ様。」

長老が言った。そして、俺は祭りの後半部分という言葉に疑問を持つ。勇者たちと魔族、獣人、亜人たちがいかに戦ってきたかを伝えることが、祭りの全てではなかったのだろうか?俺が疑問をそのまま口に出すと彼女は説明してくれた。


「ええ、前半部分で今もなお、獣人たちは大変な状況にある。だから、種としての力を落とさぬために少年少女に試練を与えた後で祭りをするのですよ。次世代を残すための適齢期の若者同士による〈求伴の儀〉ですな。」

〈求伴の儀〉とは、15歳以上の若者達が、意中にしている人に向けて大衆の面前で求愛することだそうだ。舞台は村の中央広場の高台で行われるそうだ。そこには、今も人々が集まり、というか現在進行形で人が増えて行っていた。


皆、それぞれが意中に思う人に告白する者達らしかった。


何というか、オープンだな。それに、緊迫感が違うのだ。種族の存亡をかけた戦争をやっているという緊張した状況であり、次世代を確実に残したいという本能そのものの行動が祭りになっている。俺はそのことに驚いたが、この儀式で告白に失敗しても別に人間関係は変わらないことが多いらしい。むしろ、儀式の前よりも好感度が上がることもあるのだそうだ。


真摯に力強く自分を求められることに獣人族のみなさんは弱いらしかった。


この儀式は男女共通の儀式であり、モテる男は同時に複数の女性から思いを告げられることもある。逆に複数の男性から思いを告げられる女性もいるのだけれど。そして、毎回振られ続ける猛者もいるのだ。誰に告白しても振られることになる男女だっているだろう。それでも、彼らは手を伸ばし続けるらしい。現代日本では考えられないような祭りだが、この世界の獣人たちにおいては当たり前の儀式らしかった。


何より、村には未婚の若者があまりいなかったのが、儀式の正しさを証明しているような気もする。儀式に失敗した者達でも、それぞれ必死に頑張って自分を磨いて行き、再度挑戦することは許されている。ただし、同じ相手に挑戦できるのは一度だけだ。それも当然のことながら、相手が結婚していた場合は相手の現在の伴侶よりも優れていることを示すため、相手の伴侶と決闘をするのだ。挑戦者は相手の伴侶に勝つことで挑戦の機会を得る。そして、力を示し改めて告白をした上で、なお振られた場合は結婚していた相手に婚姻を求めた償いとして賠償金を準備しなければならない。


挑戦された側の結婚生活を乱した罰だそうだ。更に、この再挑戦の機会を使って失敗をすれば、儀式に参加する機会は二度と与えられない。


だが、結婚自体はできるのだ。


村側が与えた、同じく挑戦に失敗した者同士による婚姻という形で。似た者同士だし、余った者同士だから、断ることは許されていない。そんなことよりも、子孫を残せと言わんばかりのやり方である。なんともすさまじい結婚儀式だ。だから、獣人たちの夫婦像は両極端なのだ。


幸せいっぱいの夫婦か、不満いっぱいの夫婦かのどちらかである。


相思相愛か強制選択かでは結婚生活の内容はだいぶ違ってくるだろう。おまけに獣人社会は離婚がしにくい社会のようだ。日本の様に離婚届なんて便利なものはない。


離婚をする時にも儀式が必要らしい。ちなみにこの儀式も生涯で使えるのは一回だけである。やり直しの機会は少ないようだった。


不満のある結婚生活がしたくないのであれば、異性を引き付けるだけの自分にしかない魅力を身に付けよ、との事らしい。身分でもいいし、財産でも権力や腕力でもいい。いかに相手を愛しているかの主張であっても構わない。まあ、とにかく恋愛であれ戦闘であれ、力こそ正義という脳筋思考に満ちた儀式である。


それが相手に受け入れられるのであれば、だが。とにかく獣人たちの結婚儀式は日本の物よりもかなり、過激だった。確かに独身は居なくなるか限りなくゼロに近くなるだろうが、それにしたってまあ、酷くないかな?俺の意見に長老はこう答えてくれた。

「子を成さぬまま老いる事の罪の方がよほど酷いですよ。我らには余裕がある状況ではないのです。子が増えねば、民が増えねば、争い続けている我らは衰退して滅んでしまうでしょう。もう何百年と、この儀式には不満が出ております。ですが、争いが絶えぬ今の世では、子を成さぬことは罪悪であるのですよ。争いが終わりさえすれば、もっと自由な生き方が許される時が訪れるのでしょうが。」

戦争をしている最中は普通の道徳では語れないという事だな。まあ、戦争状態を500年も続けられるのがおかしいんだがな。獣人、亜人、魔族が連帯して事に当たっているからできているんだろう。でも、人族の方が人口は圧倒的に多かったはずだが、人族の全てが戦争に参加しているわけではないのかな?人口の多い方が兵も多いし、何より秘密兵器の勇者だっているのだから、人族すべての国が参加していればここまで戦争は長引くはずもないか。


…そこらへんも、調べてみるかな?

俺は頭の中で色々と思考を巡らせてから返事をした。

「なるほど。まあ、どんな相手であれ一生を一人で過ごす人はいないんですね。」

俺が言うと長老は首を横に振った。

「いえ、いかなる者とも婚姻せずに一人で果てる者達も居りますよ。それに、婚姻をしてもここから逃げ出す者たちも居りますから。人間側の大陸に渡る者や魔族と婚姻を結んだ者。ドワーフやエルフと共に生きることにした者たちはこの儀式の例外ですからな。彼らは我らの理の外に生きることを選んだ者達ですから。」

「ここから、逃げ出す自由は認められているのですね。一生を縛られたまま終わるのはきついでしょうからね。」

俺は少し安心して言った。はっきり言って、先程までの儀式の内容は俺が押し付けられたらまず、間違いなく獣人社会から逃げ出すだろう事実だったから。恋愛くらいは好きにしたいじゃないか。


なにせ、元々が生まれたくて生まれたわけじゃない世の中なのに、恋愛ですら縛られているのでは生きていたくなんてなくなるだろうさ。夢も希望も抱けない。命とは自由であることが一番尊いと俺は思っている。俺個人の考えを明かしたことは無いし、明かしても理解されにくいことが分かっているので人に話したことは無い。


命とはある程度は生み出す側に望まれて、祝福されて生まれてくる存在だ。


だが、それは命を生み出す側の理屈であって、生み出される側の理屈ではない。生み出される側は訳も分からず、いきなり両親が望んだからという理由で世の中に送り出されてしまうのだから。生み出される側は、〈生み出して欲しい〉と頼んだわけではない。勝手に生み出されるのだ。いつだって、どんな時だって、その事実自体は変わらないだろう。


俺は命とはそういう生み出す側に強制された結果だと思っている。つまり、命を生み出す側のエゴによって俺達は生まれてくるのだし、自分達もエゴによって命を生み出していくのだ。そうやって絶えることなく命は繋がれて文明は継承されていくのだ。


だが、俺はそういうシステムじみたことは大嫌いだ。俺は俺の生きたいように生きて、逝きたいように死ぬのが俺の根本的な望みだ。それは結婚して家族を作ることで得られるものではないのだ。


俺は、恋人は欲しかったのだが、自分の子供は欲しくなかった。


性欲は満たしたいけれども、命を生み出す側には回りたくないのだ。俺は望んで生まれているわけでなく、望んで生きているわけでない。そんな思いを自分の子供にはさせたくないのだから。俺の子供がそんなことを考えるか否かは棚に上げて放っておくことにする。


なら、どうするかといえば、適度に性欲を自分で処理しつつ恋愛は適当にして、結婚はしない。そういうふうに生きて一生を過ごしていくつもりだった。少なくとも、日本で生きていたころには。死ぬ時は猫のように、誰に知られること無く、自分で姿を消しておきたいのだ。家族がいればそんなことはできないから、嫌だった。


結局のところ、俺は他人が信じられないのだ。人に気を遣うのも遣われるのも面倒臭い、他人と絶えることのない関係を持つのも息苦しい。だから、人の輪から適度に離れた位置にいるのが好きだった。孤立ではなく、孤高とごまかせる位置にいたかったのだ。一人は寂しいが、誰かに縛られるのは大嫌いだ。


だから、結婚ということ自体に俺は向いていない。そして、俺は結婚なんてしたくも無い。誰も不幸になることのない選択であるはずだ。少なくとも、結婚せずとも俺は満足して逝ける自信はある。人からは寂しい人生だったと語られるのだろうけどな。


望んで生まれた命ではないのだから、死ぬ時くらいは自分の望みを叶えたい。だから、俺は家族を持たずに生涯を一人で生きる決心をしていた。


ま、一生童貞ではいたくはない。女性に興味が無いわけでもないのだなあ。女を知ること無く死ぬのは嫌だった。


以上の理由から、命を生み出し家族を造り出すことには関わりたくない。正直、俺の遺伝子が入った生物がどうなるかの想像が全くつかないから、怖いのだ。俺自体が体の9割以上が複数からなる魔物と化し、今では龍王に加えて竜や女神の因子まで入っているので余計に訳の分からないものになっている。そんな俺だから、以前に増して子孫を残したいとは思っていない。


なので、結婚という柵から逃げ出す自由は認められていることに少しだけほっとしたのだった。俺と同じ考えの獣人達も何とか生きていけるのだと思って。


そんな俺を長老は不思議そうに眺めていた。

「ですが、貴方の場合は伴侶候補には困りませんでしょうな。むしろ、いかに自信に相応しい伴侶を選ばれるかが重要になってくるでしょう。まあ、複数を娶ってもいいのですが。私達にとっては益のある話ですからねぇ。」

そう言ってにやりと笑う長老には鳥肌が立った。伊達に長く生きていないな。300歳になったという彼女を見て俺は戦慄していた。どうも、若いころは相当の男泣かせだったらしい。俺が彼女の歴史を聞いたところ50を超える名前が彼女の口から告げられていたから。


それは置いておいて、俺は彼女の言葉を頭の中で繰り返した。


結婚願望が欠片も無い俺に対して、結婚願望がある女が殺到してくる可能性があると?


「すいません、無理です。生涯を一人で過ごすと決めていますしね。あまり、家族は持ちたいとは思っていませんから。俺は身軽に生きたいんです。自由に気軽に生きていたい。誰に縛られることも無く、自分が望むように。」

「それは変わっていますね。貴方は一人でいることはお嫌いなのではありませんか?」

寂しがりであることは、ばれているようだった。

「ええ。嫌いですけど、それよりも、もっと耐えられないのが誰かに縛られたまま生きることなんですよ。」

俺は長老の目を真っすぐに見て言った。

「難儀な方ですね。まあ、貴方もお若い方ですから少しずつ考えは変わっていくことでしょう。その時、我ら獣人にとって都合の良い方向に変わってくだされば良しとしましょう。その時は何人でも娶ってください。」

「その時は来ないと思いますがね。俺は気楽に気軽に気侭に生きていたいだけの臆病で無責任な男ですからね。」

そう、なんだかんだ言って俺は誰かと共に生きることで生じる責任から逃げているだけだ。そんな責任なんて取りたくないのだ。自由でいたいし、身軽でいたい。


だから、俺は逃げることにした。


何せ、俺は臆病だしな。


「じゃあ、短い間ですが、面白かったですよ。獣人族の婚姻に関する考えは俺には合ってません。だから、俺はここから去ることにします。それでは、また会う縁があればその時に会いましょう。失礼します。」

「え、な、ユウジ様!?」

長老の慌て気味の声がした後、俺は獣人族の村から一時的に姿を消した。


姿を消すといっても、気配を極限まで薄くしているだけで村からは出ていない。いつ、アルティリスがまた、攫われるかもわからないのだから。それに、こうして一度面倒を見たのだから、そのくらいの責任は取らないといけない。人間族に手酷い打撃を与えてしばらくは、こちらの大陸にまで手を伸ばせないようにしなくてはならない。俺は、グリディスート帝国の軍港の完全破壊と船の破壊をすることにした。後は上層部の無力化もしなければならない。戦争の際に頭になる人材を潰しておかなければ戦争は継続されてしまうだろうし。


頭を潰さねばなるまい。ま、それは急がなくてもいいだろう。


そんなことを考えていた俺は当然のように失敗した。


村の婚活パーティーから逃げ出し、村の近くにダンジョンを構えて暢気にしていた俺を殴ってやりたかった。


パーティーの2日後の朝に息も絶え絶えで走り着いた男がいた。人間族の軍が好き勝手に村々を蹂躙していて3つほどの村が全滅したという知らせを携えてきた。この村に来たのは闇龍王に人間族を撃退してもらおうと考えたのと、危機を知らせることの両方だったと彼は答えてくれた。危うく死ぬところだったが、俺が意地で命をつなぎとめた。


この世界の人間には悪いが、俺はこの世界の人間が大嫌いになった。特にグリディスート帝国の人間は。


とりあえず覚悟はしてもらおうか。色々とやり返してやらないといけないからな。

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