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捨てられ勇者の異世界ボッチ放浪譚  作者: 雨森 時雨
第2章 闇の勇者(笑)になったので、人間族に喧嘩を売りましょう、そうしましょう!
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第18話 祭りと酒、そして戦争の背景

酒を飲んでみてわかったことだが、この体は酔わない。


酩酊もしないし、二日酔いもしないだろう。うん、ちっとばかし、物足りない。でも、まあ、いろいろな酒を楽しめるのは良いことだ。それに嬉しい発見があった。


米があったのだ。いや、おまけに味噌まであった。というか、普通に和食のような料理が作られていた。なんでも初代勇者が作り方を広めていったらしい。女神は嫌いだが、初代勇者は良い仕事をしてくれた。俺にとって故郷の味が楽しめる事は、本当にありがたいし、嬉しい。二度と帰ることのできない身となれば、なおさらだ。


獣人のお祭りの内容は、外国の祭りみたいで面白かった。日本の祭りとは何となく違うのが分かる。何が違うのかまでは上手く言えないが、とにかく外国風であることは確かだ。


祭りの内容は、まず光の女神が人間を引き連れて獣人の国を攻めに来ることから始まる。勇者もそれに加担しており、次々に獣人たちがやられていってしまう。だが、獣人たちも負けたわけではない。魔族、エルフ、ドワーフなどと協力して人間たちを大陸の外に追い出すことに成功したのだ。


一回目の光の女神と勇者の侵攻ではほぼ、なにもできずに負けた。魔族側の乱心していたが強大だった魔王が討たれたことで世界は少し平和になった。


二回目の侵攻では一回目の勇者よりも弱いものが集まっていただけだったので、魔王が勇者の中で一番強いものを殺した結果、人間たちは撤退していった。その代り、こちらは獣王と勇者と相打ちになった魔王の両方を失ってしまった。


三回目の侵攻では、勇者を追い返すことに成功した。前の勇者と強さは一緒だったが、闇の女神が力を貸してくれたのが大きかった。あまりにも人間びいきが過ぎる光の女神への警告だそうだ。


そして、四回目の今では、勇者を召喚した国を弱らせることに主軸を置いている。国を傾けさせれば、こちらの大陸に攻め込んでいる場合ではなくなるからだ。


500年にわたる人間と魔族、獣人、亜人たちの戦争は泥沼化して久しい。国民たちの戦意は未だに高いのが唯一の救いだ。多くの者がこの無駄な戦争で泣きを見た。そもそも、戦争の発端はといえば、人間族が許可なく獣人や魔族にとっての聖域で魔石とかいう鉱石の採掘活動を行ったからだ。


こちらに交渉さえしてもらえれば、聖域以外の山を紹介しても良かったのだが、聖域を侵されては許し難かった。そもそも、勝手に大陸に侵入されたこちらにも落ち度はあったが、あまり交流の無い人間族の事など考えもしなかった。魔族、亜人族、獣人族でこの大陸の全てを使った戦争が終結してから100年目の出来事だった。人間達は獣人たちが戦争を行っている間にずいぶんと文明を発達させた結果、深刻な資源不足に陥ったらしい。


そして、手付かずだと考えたこちらの大陸に侵攻してきたのだった。おまけにそのころから、獣人、魔族、亜人たちを奴隷として狩ることも覚えてしまっていた。人間族の欲深さは恐ろしいものだった。資源に人に盗れる物はすべて取って行こうという強欲な姿勢に、大陸の住人たちは全て憤った。そうして、人間と魔族、獣人、亜人連合の戦争が開かれたのだった。


最初の戦争はきっかけが人間側だったものの、世界に混乱をもたらしたのは魔族側だったので、まだ勇者がやって来たことに納得ができた。乱心した魔王は獣人、亜人たちも皆殺しにしようとしていたからだ。彼は生粋の魔族中心主義者だったからだ。いわゆる自民族中心主義者と考えれば良さそうだ。


だから、初代勇者が彼を討ったことでこちらの大陸は平和になったので、獣人たちや亜人は彼に対しては怨みを抱いていない。むしろ作物や文化などを発展させてくれた恩人ですらある。この事は、魔族も認めていて獣人や亜人たちが彼の事を悪く言わないのを黙認してくれていた。


ただし二代目以降の勇者は魔速や獣人、亜人たちにとって等しく敵でしかなかった。こちらの事を自分達と同じように生きているものとみなさずに、物語に出てくる登場人物であるかのようなぞんざいな扱いをされた。嫌がる獣人、魔族、亜人たちの娘を無理矢理連れ去られたという記録もある。大体、男の勇者が女性を連れ去り、人間たちが便乗して奴隷狩りをして、資源を持って行った。女の勇者たちは両者を嫌悪の目で見つめているだけで、止めてはくれなかった。


辛酸をなめ、屈辱にまみれた戦争は続いている。ただ好ましい変化として、人間族の方に先に疲労が見えてきているので今度の戦争はこちらが勝てるかもしれないとのことを、俺は村人たちから教わった。光の女神が人間に対して力を使い続けた結果、神格が落ちているのだそうだ。従来のままであれば最上級神であったものが今では中級神程度にまで下がっているそうだ。これだけ格が下がると、非情に優れた術士が数百人集まりさえすれば彼女を封じることも夢ではなさそうだという。獣人や魔族、亜人たちにとってはとんでもないチャンスであるので、女神の神格が下がったことは彼女の親である、創星神からの罰ではないかと、村の長老っぽい人が教えてくれた。


後は、人間の中にも変わった国があり、現在もその国とはやり取りがあるとも教えてくれた。彼らは、光の女神を強く信仰しており彼女の妹である、闇の女神が庇護している獣人、亜人、魔族達と事を構える気は無いと主張したのだそうだ。そして、自分達は魔石が欲しいので、売ってはくれないかと通商のための交渉まで行ったそうだ。無論、魔石は言い値で買うし無理矢理そちらに攻め込んだりはしない。我々は光の女神様を信仰しているので、決して侵略行為もしないし、闇の女神が守っている者達に対して失礼なこともしない。だから、自分達とは関係を持っていて欲しい、と変わった国の者達が言い続けてきた。


獣人達も他の民族たちと話し合って、その国の人々とだけは交渉の場を持つことにしたらしかった。それが、神聖国・ディヴァイネーティスという国だそうだ。俺とは肌が合わないだろうが、獣人達にとってはそう悪くない話だったらしかった。お互いの技術が良い刺激になっているらしかった。


創星神ってのは、どんな存在なんだろう。やはり、ディアルクネシアたちの親的なあれだろうか?


「創星神というのは光の女神や闇の女神の父親のようなものですか?」

俺は長老に尋ねた。祭りの活気の中でも長老は独特な存在感を持っていて、彼女の声は喧騒をすり抜けるかのように俺まで、すっと届く。

「ええ。人間どもが貴方を手放してくれたおかげで私らはこの争いを終わらせることができるでしょうな。奴らの無知には感謝しておりますよ。闇龍王様が人間を嫌っていてくれたおかげで、この争いは終わるでしょう。貴方は辛い時を過ごされたようだが、私らにとってはそれが、瑞兆だったのです。申し訳ないですな。」

彼女は俺に謝った。俺が元々は勇者として召喚され、偉そうな屑に捨てられた事情はこの村に住む人みんなが知っているし、獣人側の各村に伝わっているはずだ。だが、俺が迫害に遭うことはありえないと断言できる。闇の女神である、ディアルクネシアが自ら、俺の事を〈私が選んだ勇者〉として紹介してくれたからだ。おかげで俺は使徒様と呼ばれることもあるくらいだ。彼女のおかげで俺は嘘を吐くことなく、獣人の住む国を好き勝手に歩けるだろうと思う。なぜか、獣王にまで連絡を済ませていたと後から教えてくれたしなあ。


だから、今回の戦争は俺のおかげでこちらの住民全てが勝つと信じてくれているのをどこか、嬉しく思った。こんな俺でも、彼らの希望にはなれそうなのだし、化物そのもの力を有効に使えそうなのは嬉しいものだ。

「いや、まあ、気になさらず。俺も勝手に召喚されたこの世界の人間達に対しては愛着もありませんし。それに、今回のみなさんの祭りに参加したおかげで色々と発見がありましたからね。勇者たちとこの大陸の住民との確執のきっかけが分かったのはとても良かった。一番良かったのは、味噌と米など俺の故郷の食べ物が味わえたこと!それは本当に感謝していますよ。」

俺がそう言うと、長老は不思議そうな顔をした。

「貴方は初代勇者と同郷だったのですか?」

「ええ、時代は違うでしょうが、住んでいた国は一緒だと思いますよ」

初代勇者はちゃんと、「様」付けで呼ばれているのが少し不思議だったのでどうしてなのかを彼女に尋ねてみた。二代目以降はただ、〈勇者〉とだけしか呼ばれていなかったのに。初代は敬われているのが不思議だった。

「あの初代勇者様は私達の大陸に新しい作物の知識を与えて下さった。じゃがいも、大豆、サツマイモなどいろいろと種を分けて下さった。全てあの方が居た世界の物を光の女神が再現したものだそうですが、栄養価が高かったし、どこでも育つように改変されていたのですよ。おかげで飢饉に会う村は減りましたよ。光の女神は嫌いですが、戦神様の事は嫌いにはなれません。彼は私達獣人にとっては新しいものをもたらしてくれたありがたい人なのです。まあ、魔族にとっては、彼は最悪の戦士でしたが。」

それはそうだろう。狂っていたとはいえ、魔王は魔王だ。自分達の手で落とし前を付けようとしていたら余所者に持って行かれたとあっては魔族の立つ瀬がなかっただろう。おまけに当時の魔王の信奉者は意外と多く、獣人や亜人たちはずいぶんと狩られて数を減らしていたらしい。


そんな遺恨が、残りそうな相手とでも同盟を結び、人間達と戦っているのだから、いかに人間族が召喚した勇者が脅威と捉えられているかが分かるものだ。そして、人間族がやらかしたことがどれほど彼らを怒らせたかもわかる。これは今更謝ったところで許される問題ではないような気がするのだが。謝って済むようなやらかし方をしてない上に、現在進行形でやらかし続けている。何だろう、この世界の人間て勇者と光の女神がいなければ今頃、魔族、獣人、亜人たちの連合軍によって滅ぼされていたんじゃないだろうか?


光の女神も人類を守るために勇者を召喚して、余計に自分の首を絞めた感じなのが何となく、笑える。とりあえず、俺が必要とする情報はある程度集まってきた。内容も被害者である獣人側から見たものだから嘘は少ないだろう。人間側から見れば、おそらく両者の主張の違いを比較できて都合がいいかもしれないが、あいにく人間側の大陸には行く用事が無かったりするしなあ。


また、基地を潰しにでも行ってみようか?それとも、この間薄汚い屑どもから読み取った国名前を思い出す。


グリディスート帝国。


俺が滅ぼすべき国の名前だ。別に国民を殺し尽すなんてことはしない。ただ、地脈とかに亀裂を入れたり、洪水が起こりやすいように小細工をしたりするだけの事だ♪



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