第17話 祭りへのお誘い
仕事が忙しく、なかなか時間が取れませんでした。
いつの間にか、10万PVということになって驚いています。
これからも、未熟なこの作品を引き続き読んでくださると嬉しいです。
よろしくお願いします!
俺はアルティリスの父親が落ち着くのをベルティーオと共に待った。暇なので、アルティリスの動きをベルティーオに解説しながら待っていた。なぜ、シャイニング・ウィザードを使えるのかは知らないが、彼女はそれを使って父親を沈めていた。
ちなみにその時ですら、彼は恍惚の表情を浮かべていたから、始末に負えない。ドMは最強なのだなと俺は感じた。うん、痛みすらエネルギーに変えてしまうのだから、どうしようもないだろう。…殺せばいいんだろうけどな、でも、初対面の相手をいきなり殺すとかって、キチガイではないのだから。それに、アルティリスの父親であるから殺すなんてのは論外だしなあ。
「父が迷惑をかけて済ませんでした、ユウジ様。」
アルティリスが額に浮かんだ汗をハンカチで拭いながら俺に言ってきた。
「いつも、ああいう様子なのか?」
俺はアルティリスの蛮行には目をつむって彼女と話し続けていた。
「はい、大変気持ち悪く、自身の父であることを呪いたいレベルですが、その通りです。」
容赦ないな。
「そうか。ところで、アルティリスのお父さんは名前なんて言うんだ?俺はもう、名乗ったが、君のお父さんの名前は知らないからね。」
「誰がお義父さんだ!?娘はたとえあなたが相手でもやりませんぞ!!」
「いや、貴方の名前を教えていただきたいのですよ。一応、こちらは名乗っていますしね。」
俺がそういうと、父親は少し理性を取りもどせたらしい。
「ああ、すいませんでした。娘の事となると私はいつも行き過ぎてしまうんですよ。それで娘から酷い目に遭わされるのですが、一撃一撃に込められた愛というものは痛くも心地良いものですよねぇ。あ、私の名前はメルゾン・ウィンスノーと申します。一応、商会の主でもありますね。」
メルゾンさんが理性的に語りかけてくる様は、見事な変わり身だった。発言内容には目をつむらなければならないだろうが。さっきまでの醜態はまるで無かったかのように振舞っている鋼の精神力については賛美することしかできないな。そういえば、なぜアルティリスは変態達にさらわれてしまったのだろうか?村の中でたまたまさらわれたのだとすれば、この人が気付かないはずはないだろうに。だから、俺は彼にそのことを質問してみた。
「ええ、私が愛しい娘を一瞬たりとも見失うことなどありませんよ。ですが、今回は仕方が無いことだったのですよ。獣人族に長く伝わる伝統行事を行っていたのですよ。大人の力を一切、借りずに幼い子供達だけで半月ほど森の中で過ごすという行事があったんです。精霊術が使える我々にとっては大したことではありませんし、森には危険な魔物がいない地域を選んでいました。まさか、薄汚い人間どもが侵入していたとは気が付かなかったのです。誠に恥ずかしく、屈辱的なことですが。今後はありとあらゆる守りを強化せねばなりません。」
メルゾンさんは表情を憤怒に染めて言っていた。この人は本気で娘の事を思っているんだな、と思った。だから、不意に自分の親の事を思い出してしまう。もう、帰ることも、会うこともできなくなってしまった相手だ。いや、できなくされてしまったのだ、クソの光の女神によって。
「俺も、子供たちを守ることができるように、できることなら協力させてもらいますよ。」
だから、子供を守ろうというこの人の意志は尊重してあげたい。俺にできることといえば、精霊に頼んでみることくらいだけれども、やらないよりはやった方が良いだろう。
シルフィンに頼んで風の精霊たちに警備を強化してもらおうかな?俺が近くにいる間のみ、彼女は上級精霊を遥かに超える力を出せる、変わった精霊であるシルフィンである。普段の彼女は良いとこ、中級精霊どまりだ。それでも、生まれてすぐの精霊の力としては異常過ぎるらしいが。大体、俺と会話する時点で色々とおかしいらしい。そもそも、生まれたての精霊には3歳児程度の知能しか存在せずに100年くらいの時間をかけてやっと大人になるらしい。確かに始めて会った時のシルフィンは子供のような話し方をしていた。俺の近くにいると、力を得られるということは闇の女神と精霊族は相性がいいのだろうか?
精霊の居る世界では上級であればあるほど、長く生きているため、歴史にも詳しいそうだ。ただ、詳しいのは獣人が住んでいるこの大陸だけみたいだが。人間族が多く住んでいる大陸には今、一体も精霊がいないらしい。過去に色々と会ったらしいが、幼いシルフィンは記憶にかすかにあるだけの知識らしかった。それでも、生まれたての精霊にすら埋め込まれるほどに、人間族と精霊たちの交流状態は悪いらしかった。
「本当ですか?ユウジ様。闇の魔法によって子供たちのことをお守りしていただけるのでしょうか?」
「いや、風の精霊達の力を借ります。彼らの協力があれば、かなり有利な情報戦ができますからね。」
闇の魔法での守護はあまり向いていないので、精霊の方が現実的だ。闇魔法は相手を追い詰めたり、傷つけたりするのには向いているのだが、守護なんてものには向いていないのだ。攻撃的な魔法であるし、外道的な魔法でもある。とことん、相手を傷つけることに向いており、敵を無効化するという点では守りの魔法としても使えないことは無いかもしれない。
「あの、精霊達ということは、もしかしてユウジ様は複数の精霊と契約なさっているのですか?」
複数の精霊に言う事を聞かせるのは獣人たちの間では常識外の事らしかった。まあ、言う事を聞かせるのではなくお願いするのだが。シルフィンを通して、お願いすれば下級の精霊は従ってくれる。
獣人の子供達が変態達に襲われている場所さえわかれば、レッドワイバーン達を発進させればいいのだ。彼らなら見事に幼女たちを変態どもの手から守り抜いてくれるだろう。きちんと死なないようにする手加減付きで。俺は油断すると消し炭にするか、ペースト状にしてしまう恐れがあるので、あまり変態達を相手にするのには向いていないのだ。
強過ぎるのも考え物である。
まあ、強いのも悪いことばかりでもないのだが。
「いえ、俺と契約している精霊は一人だけですよ。でも、彼女は特殊な精霊なので、下級の精霊にお願いすることでこの村だけでなく、この大陸中の獣人の子供達に近付く変態達を監視できます。できるのは監視だけですが、連絡手段さえ持っていればいつでも、子供たちを守ることができますよ。」
それが一番の問題なのだが、俺はそれを先延ばしにしてしまっている。そういう魔法を開発して教えればいいのではないかと思っているからだ。魔力の使い方はだいぶできてきたし、シルフィンに尋ねて電話のような魔法は無いかと確認してみればいい。トランシーバーのような魔法でもいいし、超広範囲の念話でもいい。とにかく、手ならいくらでも考えられるのだから、やってみればいいだろう。
「は、あ。貴方といると、どんどん自分の常識が壊されていくのを感じますよユウジ様。」
メルゾンさんはどことなく疲れた表情で言ってきた。なんだか、俺が非常識の塊のような物言いではないか。いや、まあ、仕方が無い。
「まあ、我ながら非常識な力を持っているとは常々思っているので。気にしたら負けだと思っていただけるとこちらも気が楽です。」
俺はもう自信が規格外であることを認めきっているので、周りに理解してもらう事を諦めている。でも、理解して欲しいとも思っているので我ながらややこしい。どこかに俺と同じくらいに強くて力に悩んでいる奴はいないものだろうか。
「いえ、こちらのとるべき態度ではありませんね。今から協力していただこうという相手に対して取るべき態度ではありませんでした。貴方は私達の窮状を助けて下さり、これからも助けて下さろうとしているのですから。ありがとうございます。ご協力、感謝いたしますユウジ様。さて、これからの話ですが。貴方様はいつまでもこちらに滞在されるおつもりですか?」
メルゾンさんがわざわざ俺に謝ってくれた後に、俺の都合を尋ねてきた。特に予定を立てて行動しているわけでもないし、この獣人大陸に詳しいわけではない。地図があればいいのだが。
「いえ、特に予定など立てていませんよ。そういえば、この大陸の地図があればありがたいのですが。これからこの大陸をぶらぶらと回りたいと考えていますので。」
人間の世界は一番、最後に回ろうと思っている。まずは獣人の住む大陸に来たのだから獣人の大陸を回らないとな。きっと面白い旅ができるはずだ。
「それは良かった。もうすぐ、この村ではお祭りがある予定なのですよ。試練を乗り越えて帰ってきた子供たちの成長と今後の村の繁栄を願う祭りがあるのです。人間どもにさらわれた子供達も、貴方様のおかげでほぼ全員無事に帰ってきましたのでこの村に限ってですが、祭りを開こうと思います。」
〈ほぼ全員〉という言葉を俺の心を重くした。
救えなかった子供達もいるのだ。幸いこの村の子供達は全員救えのだが、他所の村の子供を救うことはできなかった。既に出荷されてしまっている子供たちは俺にはどうしようもないのだ。できれば、死んでいないことを祈ることのみだ。死んでさえいなければ、俺がいくらでも直してやれる。ただ、心に与えられた傷が深ければ生きているだけの状態になってしまうので色々と考え物でもある。この力を使ってできること、できないことをしっかりと考えていかないといけない。
「そうですか。なら、参加させていただきます。こちらに来て祭りに参加するのは初めてですから、楽しみにしていますよ。」
俺は思わず笑いながら言った。祭りとはどんな祭りなんだろうか?
「そうですか、皆も喜びましょう。今回の事も含めて祝うので飲めや歌えや騒げや踊れの祭りになると思いますよ。賑やかになりますが、ユウジ様はそう言う催しはお好きですか?」
「ええ、ずっと誰とも関わらない生活をしていましたからね、ありがたいですよ。騒がしい状況というのも久しぶりに経験できるとなるとなんだか、嬉しいと思います。」
俺の言葉にメルゾンさんは考え込むような顔つきをした。なんかおかしなことを言っただろうか?
まあ、いいや。祭りには上手い食べ物が出てくるというし、酒も飲めるみたいだ。この体で酒を飲むとどういうことになるか試してみたい。あちらでは、未成年だったが、こちらでは15歳から飲酒してもいいらしい。いや、楽しみになってきたぞ。