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捨てられ勇者の異世界ボッチ放浪譚  作者: 雨森 時雨
第2章 闇の勇者(笑)になったので、人間族に喧嘩を売りましょう、そうしましょう!
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第16話 困惑する闇龍王

「本当に、ありがとうございます!闇龍王様!!」

俺を出迎えた村長らしき人の第一声がこれだ。

おかしい、俺はまだ名乗ってもいないのだが。そんなにも有名になっているのだろうか、この名前は?

俺の疑問が読み取れたのか、村長らしき人が補足説明をしてくれた。

「昨日、突如として村の巫女に、闇の女神様から信託が下ったのです。明日、人間どもにさらわれていた者たちがそれぞれの故郷に戻るはずだという女神様の言葉を祈りの最中に」聞いたそうです。そして、解放してくださったのが、女神様の勇者である闇龍王さまであることも伝え聞きました。」

興奮した様子で語る村長さん(仮)。なんかすごいことなんだろうか。ディアルクネシアが俺のためにやってくれたのだろう。いきなり少女と知らない女性を村に連れて帰って来ても、俺の素性は不明なのだから。迎える立場としては微妙な感じになるはずだ。正体は不明だが、村のさらわれていた人を連れ帰ったものとして俺の立場はある程度は確保されるだろうが。信頼されるかどうかは賭けになってくる。

だが、ディアルクネシアがわざわざ骨を折ってくれたらしく、その問題は解決した。きっと、他の村でも同じようなことになっているのだろうか、それとも、この村だけなのだろうか?

「確かに、ベルティーオを始めとして、攫われていた子達を取り返したのは俺ですが。他の、村の子達も皆、元気ですよ。ところで、この女性の素性をご存じありませんか?」

俺はライオンさんを示した。未だに意識を戻さない女性だが、彼女の完治を俺は願っている。名前すら知らないが、この人から得たものは大きい。俺が勘違いをしなくて済んだ、恩人なのだから。

「この方ですか?金色の毛並をした獅子の女性ですから、間違いなく王族の方ですね。他に身分を示すようなものは持っておられませんでしたか?」

村長さんは俺の質問に必死に堪えようとしてくれているようだった。

「いえ、始めは傷だらけで衣服もほぼ剥ぎ取られていた状態でしたから。俺がここまで回復させて、服もある程度は着させてもらいました。無論、着付けたのは少女達に任せましたが。」

「そうですか。それにしても闇龍王様は腰が低いお方ですね。もっと、尊大に振舞われている方が自然ですが。」

村長は不思議そうな顔をして俺の顔色を見ながら言った。

「ああ、見ず知らずの人の前で尊大に振舞うのは好きではないですし、貴方は村長さんでしょう?立場がある人には気を遣うようにしているのですよ。要らぬ、摩擦を起こす趣味もありませんからね。」

俺は苦笑いと共にそう言った。竜人というのはある程度、尊大なのがデフォらしい。まあ、力の面では自信があるが、立場の面では俺はただの身分が無いだけの竜人に過ぎない。部下だっていないし、いるのは精霊の友達だけだしな。

「深い考え方ですね。それにしても、よく私が村長だとお分かりになられましたね。アルティリスから聞いておられたのですか?」

「まあ、そんなところです。そういえば、自己紹介をしてませんでしたね。俺は闇龍王、ユウジ・サトウといいます。闇の女神から勇者として活動するように言われています。人間達に困らされていることがあるのなら、俺が解決しましょう。」

にこやかに言ってみた。すると、村長さんの表情が変わった。微妙に照れているような感じになっていた。ああ、俺の顔は今、かなりの美女だものな。…気にしてなんかいないやい。


「あ、え、私の名はクライド・グラネートと言います。アルティリスの父とは顔も知りでしてね、家族ぐるみの付き合いをしております。恐らく、もうじきやってくるかと思いますが。驚かないでくださるとありがたいですね。」

苦笑いしながら言われたが、良く分からなかったので曖昧に笑っておいた。


「アルティリースッッッ!!!」


一人の大きな猫の獣人の人が走って来ていた。年齢は40代くらいで、身長は200セルチくらいか。体格から判断するに体重は100キローグ近いかな?ただ、太っているのではなく、体格が大きいからだろう。

そんなことを考えていると、アルティリスが嫌そうな顔をしていた。いや、父親相手にその態度はどうかと思うが。


「無事だったか!?無事だったんだな!!いや、お前に何かあったら王族を唆してでも人類を皆殺しにせねばならんかったところだ!!ああ、よかった。ありがとうございます!!ディアルクネシア様―っ万歳!!闇龍王様ぁーっ万歳!!人間ども!死に絶えろ!!光の女神も呪われろーっ!!おお、アルティリス!良かった、無事でよかったぞ!!お前さえ無事ならば私は財産など要らん!本当に…良かったぞ。よく頑張ったな。辛かっただろう?」

俺は目を点にして固まるくらいしかできなかった。何じゃこの変わり身の激し過ぎる人は?口ぶりからして商人かなんかだろう?金はあるみたいだしな。

そんな俺を見ながら、アルティリスを強く抱きしめすぎて、彼女から殴られて、しょんぼりしている父親が俺の方を見てはっとしたように、再起動した。


「貴方が娘を助けてくれたのですね。ありがとうございます、闇龍王様。あの子がいない日々など生きていても仕方がりませんからな。人間どもを滅ぼして私も死のうと思い詰めていましたよ。ハハハッ!」

「いや、どういたしまして。ですが、俺に助けを求めてきたのはベルティーオですよ。彼の願いに応じて、人間どもを叩き潰したらあなたのお嬢さんを含めたとらわれた女性達を助けることができたわけでして。」

すると、父親の顔は固まっていた。そして、何か耐えがたい苦痛をこらえるかのように、ベルティーオの方に向けて話を始めた。

「お前が闇龍王さまに助けを求めたのか、ベルティーオ?」

どこか硬い声でアルティリスの父親が尋ねる。そういえば、ベルティーオは故郷ではあまり良く思われていないのだった。ベルティーオも硬い表情で答える。そして、そのベルティーオの表情を見たアルティリスが父親の脛に全力の蹴りをいれていた。それでも、父親の表情はどこか嬉しそうであり、余裕そうだった。まあ、俺にはかなりのやせ我慢をしていると分かっているのだが。それが分からないアルティリスは悔しそうにしていた。

「はい。僕があの方に助けを求めました。そして、助けていただきました。あの、闇龍王様から報酬を求められているので応じていただいてもよろしいでしょうか?僕もできることは何でもしますので。」

報酬と聞いて、アルティリスの父親の表情が変わり、何かを計算するような顔つきになる。

「言ってみなさい。闇龍王様は報酬に何を求められたのか?」

やや緊張した顔をしながらベルティーオは言った。

「この村でできる最高の料理で、もてなして欲しいとだけ言われました。」

それを聞いて拍子抜けしたという顔をしているのはアルティリスの父親である。村長も、表情は困惑している感じになっていた。

「あの、闇龍王様。本当にそれだけでよろしいのですか?貴方が成してくれたことは我ら獣人にとっては大きく意味があることなのですが。」

「いえ、敵はまだ健在ですからね。殲滅してからが、何とかなったという段階でしょう。それに報酬と言いましたが、俺は別に何も無くても良かったんですよ。ですが、ベルがかなり気にした様子だったから、美味いものを喰わせてくれと言っただけなんです。俺はこいつの事を気に入ってますからね、タダ働きでもよかったくらいです。なんせ、自分の事よりもアルティリスを先に助けてくれてと言った馬鹿野郎ですから。まあ、そんな馬鹿野郎だから俺が動いたんですが。こいつは良い男になりますよ。間違いなくね。闇龍王である、俺が保証しましょう。」

俺はお気に入りであるベルティーオの立場を改善させるべく発言してみた。ちゃんと計算をしてある。何せ、俺はディアルクネシアが任命した勇者で竜人だ。その俺のお気に入りとなれば、無下に扱う訳には行くまい。それに、こういう差別みたいなのは早めに潰しておきたいものだ。見ていて気分が悪い。大変自分勝手だし、獣人側の事情を無視した振る舞いだが、今の俺になら許される振舞いだろう。


何せ、俺は人ではない。獣人も超えている。


紅と蒼の龍王ですらも越しているのだから、俺の振る舞いはかなりのところまで許されるはず…である。こと、強さの点においては俺に勝る存在はせいぜい、光の女神くらいだろうな。闇の女神であるディアルクネシアとはそもそも戦う気なんてないから論外である。彼女の場合はむしろ、崇拝対象であり、恋愛対象でもあったりする。彼女から貰ったもののおかげで俺は今でも生きていられるのだから、惚れない方がおかしいんじゃないか?まー、成就する可能性は高くないけれども、寿命がある限りは挑戦させてもらおうじゃないか。

俺が適当なことを考えながらした発言はアルティリスの父親に衝撃を与えたようだった。

「良い男…ですか。いや、こいつの性根が良いものであるのは私にもわかっていますよ闇龍王さま。ですが、こいつは娘に近付き過ぎている!私の可愛いアルティリスに近付くなんて羨ましいことをこいつは当然のようにしているんです!!最近は私にも話してくれないことが増えました。一緒に風呂にも入ってくれないし、一緒に寝てもくれないのです!!寂しいのですよ、私は!」

アルティリスの父親はかなり興奮していた。そして、娘がすごい笑顔をしている様子に気付いていないようだった。


合掌。


あの顔のアルティリスは近付かない方が良いのだから。ダンジョンにおいて、ベルティーオが無茶をしたときのガチ説教モードに近い顔をしている。あの時のアルティリスは年下といえども、侮れない気迫を感じたものだった。

「父さん、いい加減にしてくれないかしら?さっきから恥ずかしいことばかり口走ってるけど、ユウジ様の前だってこととクライド村長の目の前ということを忘れてるんじゃないでしょうね?」

彼女が右手に持っているのはダンジョン内で俺が彼女に護身用として手渡した杖だ。魔法使いの魔力を増幅させる効果があり、初心者よりは中級者向けの装備である。そして、杖の隠された効果に〈硬化〉がある。彼女の魔力なら、鋼鉄並みの硬さにはできているだろうから、脛をあれほどの勢いで打たれたら、かなり痛いだろうな。というか、未だに名前を知らないアルティリスの父親は痛みと娘に構ってもらえた嬉しさから涙を流して、悶えて喜んでいる。


うん、すべてがご褒美になるから、逆効果だよアルティリス。


ドМは最強なんだと思い知った。娘から与えられる物なら、苦痛すらも愛おしいという父親の様子にはかなりドン退いた様子の彼女だったが、俺もドン退いたよ。


常識人、居ないかな?


俺は40過ぎの男が13才の少女に悪しざまに罵られながらも恍惚とした顔をしているのを見ながら切にそう思った。


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