第12話 お姫様達との出会い
今回の話は暗めです。合わないと思った方はそっと、戻るボタンを押してください。
ゴミは掃除し終えた。
匂いも、もうしない。龍王である俺の嗅覚をもってしても嗅ぎ取れないレベルの匂いにまで落ち着いた。
さて、扉を開けるとしようかな。扉を開けるとそこには、5人の女性がいた。そのうち、3人は少女で後の二人が、彼女達よりも年上の女性だろう。ただし、彼女達の見た目にはかなりの問題があった。
誰があんなひどいことをやったのかという意味で酷い。
片方の黄色と黒で構成された虎のような毛並を持つ女性は右腕が折られていた。おまけに顔にも切り傷が複数あり、左目が潰されている。毛並だって血と汗のせいで薄汚れているし、風呂などにも入れてもらえていないようだった。彼女は、まだましな方だったというのが、嫌なことだが。
最悪なのがもう一人の女性だった。これをやった奴を誰か問い詰め、同じことを3回はしてやらなければならない。無論、苦痛は徐々に上げていく方針で。加えて、発狂できないようにして、きっちりと苦痛を味わわせ続けてやるのだ。
顔が潰されている。体の数か所は皮が剥されている。
隻腕隻脚の姿にされている。耳などが無い。
体には無数の傷跡がある。無事な個所などないから種族も不明だ。
さて、怒りを覚えないでいられるだろうか?無理だが、ここは気合で抑え込む。今の俺が殺意を漏らしてしまった場合、最悪のことが起こるからだ。つまり、俺が意図しなくても、目の前の少女と女性たちが壊れてしまうリスクがある。俺の種族は闇の龍王であり、レベルは1000を超えている。能力値は、もうシャレにならないレベルであるし、戦闘経験を積み重ねた俺の放つ殺気は大抵の魔物を退かせる効果がある場合によっては発狂させることだってできてしまうのだ。実際、レベル1000より下の魔物なら俺の意のままに操ることもできるのだし。さっきで脅しつけて、行動させるのだから、脅迫に斉しい行為だけれども。
二人とも、回復魔法が使えるから、俺ならすべての傷を跡形もなく治してやることができる。大体女の人にあれだけの傷を負わせるとか、何考えてやがるのか。殺すぞ?人間はもう、滅ぼしてもいいんじゃあないかな。うん、俺一人でも国は潰せるしなあ。
蒼海龍王のエタナウォーディン。
彼の協力があれば国一つを水の底に沈めるのは造作もないことだ。
いや、人類自体を死滅させることだって軽いのだが、おそらく光の女神の邪魔が入るだろうと思っている。今の俺にはまだまだ女神の邪魔に対抗できるだけの力はない。
ま、そこは置いておこう。
今はお姫様達を助けるのが一番だしな。
「俺は闇龍王のユウジ・サトウだ。ベルティーオの友人が捕えられているというのでここにやって来たんだが、彼の友人は誰だ?」
何となく、龍王っぽい喋り方をしておく。偉そうであるが、こちらの方がスムーズに話が進むのではないだろうか?ベルティーオの言葉と態度から察するに、龍王というのはかなりの敬意を払われる対象のはずだしな。ん、あ、俺あの子に自分が龍王だって話してなかったわ。…まあ、いいや。
だって、あの子俺の事ずっと様付けて呼んでるし。
「あの、ベル…ティーオから話を聞いたというのは本当ですか。」
一人の少女が話しかけてきた。真っ白な髪に、サファイアのような瞳。綺麗な碧い瞳に雪のように白い肌。間違いなく輝くような美少女だ。少し吊り目がちなところも、またいい感じだ。
おまけに猫耳だ。純白の猫耳少女。これはレベルが高い変態が涎を垂れ流すレベルだろう。
声だって鈴を転がすような声というのが的確な表現に思える涼やかな良い声だった。落ち着いているし、胆力も中々の物だ。若干は青ざめているがそれは年齢からくるものだろう。良い女になるだろう、きっと。ベルティーオは女の子を見る目もあるらしい。
「ああ、死にかけている彼をたまたま拾って助けたんでな。その時に人間が獣人の女の子達をさらっていくという話を聞いたから、不愉快なんで潰しに来たんだよ。」
「ありがとうございます、ベルティーオは無事なんですね。」
彼女はベルティーオの親しい友人のようだった。恐らく一緒の地域に住んでいるとかだろうな。
「ああ、今はまだ、血が足りないから無理はできないけれど。命には全く別状はないよ。後遺症も絶対に無いと言い切れるくらいだ。さて、そこの二人の女性には何があったか話してくれないか。俺なら彼女達を元の姿に戻せると思うからな。」
二人の女性は意識を失っており、話すことはできないと判断して俺は白猫ちゃんに話かける。他の白い犬耳少女と銀色の犬耳?少女は怯えていて話ができないからだ。うーん、銀色の子が得に俺を怖がっているような気がする。あれか、血の匂いがまだ消えていないのだろうか?それとも殺気が漏れているのだろうか?
「あの人たちも人間どもに連れて来られたんです。私達とは違う用途で連れてきたといっていました。」
彼女は白い顔で言う。かなり嫌な話になりそうだが、続けてもらわねばならない。
「すまないな、嫌なことを話させてしまって。だが、必要なことだから、勘弁してくれ。」
俺は頭を下げる。すると彼女は慌てて手を振りながら続けた。
「いいえ、過分な言葉をありがとうございます闇龍王様。私達3人は、王族に差し出すとか言っていましたが、彼女たち2人はここの下種共が楽しむために連れてきたんです。」
額に青筋が浮かぶのを感じる。髪や全身の毛が逆立ってくるのも感じた。うん、落ち着け、俺。
今はまだ激怒する時間ではない。腹式呼吸だ、腹式呼吸で息を整えろ。
落ち着け、深い呼吸で酸素を脳に巡らせろ。短慮を起こすな、ここには怪我人と子供しかいないんだ。良いか、俺。落ち着けよ、くれぐれも殺気を漏らすな。
良し、善し、落ち着いてきたな。うん、落ち着いた。
「…それで、彼女達は私達を助けるために彼らと戦ってくれたんです。多勢に無勢でも彼女達は決して折れませんでした。けど、何日もずっと嬲られてあんな姿にされてしまったんです。あいつらは悪魔です。魔物の方がまだましです。あんな醜悪な奴等はこの世にいるべきでは……な、いんです。」
白猫ちゃんは俯き涙を流しつつも俺の問いに答えてくれえた。その様子に俺も次第に心が落ち着いてくるのを感じた。
俺はこの時決めた。
殲滅だ。
この件に関わった人間は限りなく早く殲滅して、彼らの母国、故郷も全て火の海か水の底に沈めてやると決めた。幼い少女を泣かしたのだ。
罪もない子供の将来を歪め、女性をしての尊厳を破壊し尽した外道に与える慈悲などない。
殺そう。壊そう。この力を以て思う存分に蹂躙してやろうではないか。
「ああ、一緒に帰ろうか。ベルティーオも待っているよ。さて、君たちで最後かな?」
俺は他の被害者がいないかを確認するために問うた。
「はい、他の子達はっ、…既に帝都に送られていませんから。みんな、壊れたってあいつらが言ってました。」
新しい情報だな。ロリコンは少女たちが〈壊れる〉ほど酷く扱った身分の高い誰かだろう。それか、金持ちかな?まったくもう、そんなに俺に滅ぼされたいのなら早く言ってくれればいいのになあ。
切れた。
本当、この世界に来てから、かなり久しぶりにマジでキレたわ。いいや、もう人間の事なんて知ったことでない。元の世界には帰れない身体になった以上、俺は人を殺すことをいとわない。差別される側にいる、獣人や亜人、魔族たちを守って行こう。もう、人間に味方をすることは無い。光の女神が勇者を遣わしたからと言って調子に乗っているような奴らに生きる価値はない。
蹂躙し、破壊し、駆逐しよう。
そして、獣人や亜人、魔族に手を出せば俺が出てくると記憶に刻み付けてやろう。もういいんだよな。俺が人間を大事に思う必要はないんだよな。そう、元は俺と同じだったかもしれないけれども、こんな酷い事をする奴らがいる世界を俺は好きになれない。だから、人間たちの世界に入り込んで静かに愉快に暮らしていくプランを俺は破棄した。同時に俺は人間として生きてきたことを〈記憶〉から〈記録〉に変えることになった。そう、人間として生きていた時期もあったなという感じに思考が切り替わったのだ。もう人としては決定的に外れていくのを感じたが、それでもいいと感じた。新人の龍王だけど、守らなくてはならないものが何なのかは本能が語りかけてくる。
同胞を守れと体が語り掛ける。同じ大陸に生きる仲間達を傷つけられた借りを返せと心が語る。体の中の血が騒いでいるのが分かる。やられたから、やり返す。二度と立てないまでにやり返す。そして、静寂を手に入れるのだ。平和で静かな時間を手に入れるために俺は戦おう。
この体と力があればなんだってできるだろう。
肝心なのはこの子達をこんな酷い目に遭わせた奴等だけをピンポイントで滅ぼすことだ。他の有象無象はどうでもいいのだから。国ごと消えてもらおうか。不愉快だし、国民たちもどうせ、屑ぞろいだろう。そんな国が消えても特に世界は変わらないだろうしな。まあ、その結果として人同士が争ってくれれば魔族や獣人、亜人たちが静かに暮らせるだろうからそれも良しだ。
「そうか、辛かったな。だが、俺が来たからには安心してくれていい。少なくとも、体に傷だけは完璧に直してみせる。俺は龍王だ。同胞にやられたことはきっちりとやり返してくるさ。」
俺は白猫ちゃんに語ると彼女はうなずいてくれた。他の俺に怯えていた子達も俺にお礼を言ってくれた。そして、嬉しいことに彼女達から怯えが抜けていた。
そこからは特に話すべきことは無い。だって、俺は彼女達をダンジョンに連れて行った後、二人の女性の治療にかかりきりになったのだから。後の事はベルティーオとシルフィンに任せて俺は医療活動に従事していた。虎耳の人は治せたが、もう一人の種族不明の人は大変だ。
何日かかるかな?ダンジョンハウスの中だから、日にちは結構かかっても外ではそう時間がたっていないだろうからいいんだが。はぁ、その間はずっと引きこもりだ。
ストレス解消もできないが、何としても傷を全て治す方向で力に変えよう。怒りを力に変え努めるのだ。誰かは知らないがそんなことを本に書いていた人が居た気がするのだ。何の本だっけ?
まあ、いいや。とりあえず、俺は食事を摂りながらひたすら回復魔法を使い続けるのだった。というか、女神の魔法でなければ回復しきれないような傷ばかりだったことに俺は腹が立った。そこまでひどい傷を負わせるとは、なんて奴らだという意味と、嫌いな光の女神の力でなければ回復しきれなかったという意味で、だ。
本当に腹が立つし、不愉快だ。でも、彼女を救えるのだから、まあ、こらえるとしよう。回復次第、詳しい事情を聞かせてもらわないといけないしな。




