第11話 人質奪還作戦開始!
ベルティーオ・ファンウィン。
俺が新しく出会った人物だ。
わずか、10才にして身長、2メトル50セルチの巨漢である。だが、中身は普通に良い子であり、むしろ良い子過ぎて辛い。ただ、体が大き過ぎるだけであの子には何の罪もないのに故郷では友達ができなかったそうだ。ただし、一人だけ女の子の親友がいたのだが、その子が帝国の人間にさらわれてしまった。
そして、帝国の人間をやっつけるため、帝国の人間の危なさを知らせるために単身、捕えられていた場所から隙をついて逃げてきたらしい。
イケメンである。
魂がイケメンだと思う。見た目はかなり怖い方だが、目は優しい。体は大きくて気の優しい力持ちという感じの少年だ。頭も良いし、性格も素直である。ただ、体が大き過ぎるだけで本来なら、簡単に手に入るものを手に入れられなくなってしまった少年だ。俺よりもよほど、まともな人間性をしている。だから、俺はこの子に力を貸すことにした。俺の巨大すぎる力もこういう使い方をすればいいのだろうしな。
すなわち、人助けである。
普通の人なら躊躇するような過酷な状況であっても俺なら簡単に生き残れてしまうのだしな。というか、この体で危機を迎えるのは恐らく、神レベルの奴等とやり合った時くらいのものだろう。最低でも龍神以上でないと、俺の体は傷つかないし。
さて、少年のためにも俺が出てこよう。
「シルフィン、俺は今から少し出てくる。連絡は取れるようにしてあるから、何か起こったら連絡をくれ。じゃあ、ベルティーオ。君の宝物を取り返しに行ってくるからな。」
俺はニヤリと笑って彼に言う。彼は照れ臭そうにしていたが真剣な顔をして俺に言ってきた。
「気を付けてくださいね。ユウジ様もどれほど強いかは知っていますけど、万が一はありますし。あまり無理をしないでください。僕は無事を祈ることくらいしかできませんが、よろしくお願いします!」
やべえ、良い子過ぎてやべえ。人間なんぞ、俺にとっては敵でもないのに、ここまで心配してくれるなんてなんていい子なんだろう。この子はきっといい親、良い友人に恵まれて育って、本人の気性もあってここまで立派な人格者なんだろうな。無傷で帰ってくると決意した。
そして、この子の友人以外にもとらわれている人が居るなら助けよう。
そこで俺は転移魔法陣をダンジョンの中に構築した。影渡の応用の一つだ。空間転移なんて魔法そのものでも俺は行えるようになっていた。
さてさて、ベルティーオの気配を辿ってやって来ました。
敵の本拠地です。
ええ、チートボディに感謝しなければいけませんなあ。ベルティーオが来て、もう何時間もたっているというのに、ベルティーオの思念が残っていた。そう、残留思念という奴である。俺はその残留思念ですらも確認できてしまう目を持っていたようだ。まあ、闇の龍王なのだから、人の感情や心に敏感でも全くおかしくはないのだけれども。このスキルが人間だったころにあればな、もっとましな人生を生きることができたはずなのに。
人生とはままなら無いものである。
とりあえず、アジトを確認する。森の中に不自然に大きい建物があった。外見はログハウスのような感じだ。なんか、プレハブっぽさもあるが。敵の気配はそう多くはないが、100人はいる。本隊は居ないか、少数精鋭なのかはわからない。だが、強い気配は感じられず、あの軍港の連中よりは弱い気配だったかな?
ステータスが確認できないから、相手の戦力は把握できない。
ならば、どうするか?
答えは簡単でシンプルだ。
TO☆TSU☆GE☆KI!!
それしかないな。早くしなければ、幼気な美少女たちがエロ同人みたいな目に遭わされてしまうかもしれないし。ロリ物はちょっとなあ、二次元ならいいとしてリアルでは引く。それはもう、どん引くレベルだ。あくまで空想上で楽しむにとどめておこうな。紳士たるものそうでなければならない。
ロリキャラは好きだが、その年齢の少女に興味はない。
なぜなら、3次元はクソだから。少女は二次元に限る、キリッ。
…もう、俺は駄目である。困難だから、友達ができないのだろう。異世界に召喚されても、人間を捨てても俺って奴は変わらない。
そのことを誇らしく思い、呆れ果てる思いでもある。
まあ、馬鹿なことを考えている暇はない。とっとと突撃をしてしまおう。俺は力を解放する。そうすると異常に気が付いたのか屈強な男が80人ほど出てきた。20人は人質の確保のために残っているらしい、慎重なのか舐めプなのか。気配からすると後者の方だ。
まあ、今の俺は仮面をかぶっているけれど、体格は良くない。華奢な体格だ。コートを羽織っていて性別は不明になっているはずだが、頭の角が人間でないことを示してはいるだろう。竜人という種族をこいつらが知っているかまでは知らないが。
「お前らか、罪のない子供たちをさらっているゴミ共は。」
煽ろう。
「ああ、それが俺達の仕事なんでな。金払いも良いし、金持ちの変態ってのは良い商売相手だぜ?お前も売ってやろうか?」
相手は乗って来なかった。でも、死亡フラグは建ててくれたようだ。まったく、もう!
死にたがりは嫌いなんだぞ♪
「なるほど、可哀想に。脳味噌が入っていない空っぽな頭の持ち主だったか。ああ、俺も人間と思って話をしていたが、ゴブリンが相手だったとはな。すまない、会話にレベルの差があり過ぎたな。まあいいや、不愉快だから失せろ。」
そういって、俺は80人を同時に標的に設定して、魔法を展開した。風魔法の上級魔法である風の刃の嵐が吹き荒れる。たちまち、辺りに鉄の匂いが充満した。内臓の匂いも交じっている。
そんな、呻き声しかしない空間に俺は立っていた。弱過ぎるし、脆過ぎる。これはあの軍港の奴等の半分くらいの力しかないのではないだろうか。ぎりぎり五体満足で終わらせてやるつもりが仲良く部位欠損である。度合いの差はあるものの全員今後はまともな生活が送れるとは思えない身体になっていた。罪悪感なんてないけどさ。腹が裂けて中身が出てる奴等は死ぬかもしれんが、別にどうでもいい。俺を殺しに来ていたし。そもそも、子供を誘拐ような奴は死んでしかるべきだよな。
「じゃあな、ゴミ共。あ、この辺の魔物は血の匂いに敏感だから、気を付けろよ?」
俺はそう言って、建物の中に入って行った。外からは断末魔の悲鳴が絶えない。うん、きっちりハイエナとかゴブリンとかに食われてるなあ。どうでもいいや。子供を苛めた奴らが喰われるなら、むしろ魔物たち頑張れ!
建物の中を探索していると、残りの20人のうちの一人とエンカウントした。うむ、見事なまでな雑魚臭がする。匂うなあ、雑魚の匂いがするぞぅ。
「てめぇ!外の奴等に何をしやがったぁぁぁっ!!」
男が激高して剣を振りかぶりながら、襲い掛かってきたので俺はじっくりと相手を観察してから、こう言った。
「特に、何も。」
そう言って相手の剣をへし折りながら、右腕をつかみ放り投げた。すると、相手の右腕が肩から外れて取れてしまった。脆過ぎやしないかい。そんなので俺に喧嘩を売ってくるとか、馬鹿でないかと。
「いぎぃぃっつっっあああぁぁぁ!!」
ありゃ、これほど脆いとは計算外かな。五月蝿いなあ、せっかく人が考え事をしてるのに。
うーん、人間って魔物と違ってすごく脆い。あの軍港の奴等は結構硬かったのに。もしかしてあいつらを基準にすると普通の人間だとペーストを大量生産してしまうのではないだろうか?
要らないなあ。
そんなゴミ始末に困るし。ところかまわず、人を殺していれば目立ってしょうが無い。人を殺すことに忌避感を全く覚えない俺だが、獣人や亜人、魔族を殺すことには忌避感を覚えるのだ。獣人、亜人、魔族は人間だったころに人を殺してはいけないと教えられていた通りに「殺す」という行為への嫌な感じがある。
だが、人間を殺すことにはゴキブリを殺すことや、害虫を殺すのと同じ感覚になっていた。蟻を踏み潰す、蛙に爆竹、ゴキブリを殺虫剤で殺すといった程度の感覚でしかない。なんか、子供に帰った気分だよ。残酷なはずである行為も、今の俺にはなんか重大なことと捉えられない状態になっているようだ。うん、立派な異常者として成長していますね。
本当、とことん元の世界には帰れない仕様になっている。こんなのが元の世界にこの力を持って帰ったら、大量殺戮が待っているだろうよ。政治家、官僚は大嫌いだからな。
力の無い民から税を搾り、自らが肥え太る塵芥共にかける慈悲なんてない。全員死すべし!
が、俺の基本的な思考である。要は自分よりも生まれの差だけで恵まれている奴等が大嫌いなのだ。何の努力もしないで手に入れた身分だけで世の中を渡っている奴らが俺は一番嫌いだ。だから、この世界でも貴族は潰す。あくまで、俺に刃向かってきた奴ら限定だけど。誰にでも喧嘩を仕掛けていれば、それは狂犬ではないか。節度は大事である。
そんなことを考えながら、俺は流れ作業のごとく敵を駆逐していた。高々、雑魚が19人ぽっちである。今なら19万人くらいでないと、俺の相手は務まらないのではないだろうか?
屑たちに捕えられている少女たちの部屋までもう少しだった。血生臭いから怯えているかもしれないなあ。よし、辺りの空気を洗浄しよう。水魔法を展開して、辺りに散らばった血や臓物の匂いを洗い流す。ついでに死体もアジトの外へ放り出しておこう。汚れ物は消毒せねばなるまい。更に濡れてしまったアジト全体を、火魔法を使って、とにかく乾かす。そして、風魔法で辺り一面を吹き払う。この時、ハーブ系を粉砕して風を爽やかにしておいた。
そうして、少しはましな空気の匂いになって行った。
外からは命の気配が一切しなくなったが、それは些細なことだと思う。おまけに魔物たちは思わぬ大量の餌に満足してくれたみたいだしな。俺に向かって尻尾を振っているマッドウルフたちが可愛い。ゴブリンたちも俺にお礼の踊りを向けてきている。見かけはあれだが、意外とかわいいかもしれん。話の通じない人間よりもよほど、愛着が持てる時点で、俺はもう人間の思考を捨てているなあと改めて思うのだった。
うむ、俺が君たちに餌をやったんだぞ。感謝したまえよ。
そう思っていると、彼らは遠吠えを上げながら去って行った。礼儀正しい可愛い奴等めぇ。気配は5人分だ。とりあえず、怯えさせないようにさせないといけない。
殺気を解き、力を限界まで押さえつける。封印術でさらに厳重に力を封印する。これで俺の出力はかなり抑えられたはず。いきなり入室しても、怯えて失神はしないはずだ。
さあ、お姫様達とのご対面である。




