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捨てられ勇者の異世界ボッチ放浪譚  作者: 雨森 時雨
第2章 闇の勇者(笑)になったので、人間族に喧嘩を売りましょう、そうしましょう!
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第10話 僕と強過ぎるお姉…お兄さんと精霊様

僕は知らない場所で目を覚ました。


傍に人の気配がする。ただ、敵意は無いし、僕は自分が助けてもらったことを分かっているつもりだ。たとえ、記憶が無いまま場所をいつの間にかどこかの家の中に移動していてもだ。


「お?目を覚ましたか。まさか、狼の姿から人型に変わるとは思わなかった。」

黒と銀を混ぜたような髪の色、紅と紫の綺麗な角。


細い体、長い髪。


何処から見ても女の人だと思ったので、僕はこう答えてしまったのだった。


「助けてくれてありがとうございます、お姉さん。本当に助かりました!」


あれ?何か失礼なことをしてしまったのだろうか。僕はちゃんとお礼を言ったし、お姉さんも聞いていたはずなのに。そしてじっと見ていると、お姉さんが僕にこう言ってきたのだった。


「…俺は男だよ。やっぱり、男として見てもらえなくなってるぅ…。へこむぜ。ベッコリとな。」

眼をドヨンとさせたお姉…お兄さんがいた。とてつもなく強そうなのに、案外繊細な人らしかった。とてもでないが、僕を殺しにやって来たあいつらを簡単に追い払ってしまったあの、さっそうとした姿とは似ても似つかなかった。


ただ、笑みを浮かべることだけは全身全霊の思いで止めておけた。


僕だって、だてに10年生きてない。大人とか子供とか関係なく言われたくない言葉は誰にでもあるんだって、母さんが言っていたから。


「ごめんなさい。」

「いいや、まあ、仕方が無いな。ところで君はあんなボロボロになってどこへ行こうとしていた?というか、何があった?」

真剣な目でこちらを案じてくれている彼はとても良い人だと思う。

「僕の大事な友達が悪い奴等に捕まったんです。だから、それを知らせに村まで走って帰っていたんだ。でも、あいつらが追っかけてきた。そして、僕がやられそうなところをお兄さんに助けてもらったんです。」

僕がそういうと、お兄さんが不思議そうな顔をしていた。


きっと、僕の外見と僕の話し方があっていないせいだと思う。


僕は身体だけがやたら大きいのだ。2メトル50セルチもあるんだから。


おまけに体は銀色の毛で覆われており、人化した時の肌の色はかなり茶色だった。よく焼いた肉のような、土のような色の濃い茶色だ。筋肉だってすごいのだ。全身にみっちりと詰まったような肉の付き方をしている。


これは僕にはるかな昔にいた聖獣・フェヴリーズ様の血が蘇っているかららしい。


父さんも、母さんもみんな喜んでいた。でも、僕には友達がいなかった。力が強過ぎたのだ。10歳で成長は止まるらしいから、これ以上大きくならないで済むのは嬉しけれど。そう、僕の唯一の親友で大事なあの子に言ったら脛を殴られてとても痛かった。


無論、彼女は頭が良いので硬い木の棒で僕を殴っている。さすがに僕でも脛は痛いのだけど。


そんな思い出話と事情説明を僕は行っていた。そして、大事なことに気付いてしまう。僕は恩人である、彼に名乗っていない。そして、もう一人の精霊様にもだ。


「すいません、自己紹介しますね、僕はベルティーオ・ファンウィンと言います。よく、大人と間違われますが、10才です。」

その言葉にちょっとだけ、驚いた様子だったので僕は意外に思った。大体の人は凄くびっくりするんだけど、この人は違うみたいだ。少し嬉しいかもしれない。いちいち、年齢を言うだけなのに驚かれるのは好きじゃないし。


あの子も、ただ『あなたは大きいのね』、と言っただけだった。


「俺は、ユウジ・サトウだ。見ての通り、竜人だ。」

彼はそう言って自己紹介を終えてしまった。もう一人の精霊様は紹介してくれないのだろうか?

「あの、精霊様は紹介してもらえないんでしょうか?」


僕の言ったことに、お兄さんは少し驚いたみたいで目が大きく見開かれた。そんなに意外なことをしたんだろうか?

僕が不思議に思っていると、精霊様が姿を現して説明をしてくれた。

「私はシルフィンという名前よ。よろしくね。それにしても、君は目がとても良いのね。私の姿を見るなんて普通じゃないわよ。今は姿を隠しているのに。」

綺麗な緑の髪をした女の子に見える精霊様が姿を見せてくれた。姿を隠しているのに、精霊様を見つけることができたのは、僕のご先祖様のおかげだと思う。


「僕のご先祖様は聖獣・フェブリーズ様だからと思います。あの方の血が入っているから、精霊様の姿を見つけられたんだと思います。」

「ふーん、聖獣ってのもいるんだな。色々と知らないことが出てくるなあ。」

竜人様でも知らないことがあるんだなと、僕はぼんやり思っていた。


「ところで、君が厄介ごとに巻き込まれてるのは分かったんだが。これから、君はどうするんだ?」

お兄さんが僕に話しかけてきた。とても真剣な顔をしている。だめかもしれないけれど、僕は素直に頼んでみることにした。子供は歳上に甘えてもいいと村の皆は言っていたことだし。どう考えて、この竜人様と精霊様の強さは普通じゃない。

だから、素直に頼ろう。それくらいしか子供である僕にできることは無い。


「僕は友達を助けたいです。それに僕の友達だけでなく、あちこちの集落からさらわれた人が居るんです。だから、お願いします!さらわれた人たちを助けてください。僕にできることなら何でもしますから!」

僕は頭を下げてお願いする。


いや、最上級の礼を示さなければならないと思い直す。


僕は地面に膝をつき、胴体を下げ、頭も伏せる。両方の掌を上にして見せて腕を伸ばす。絶対服従と絶対忠誠を示す礼だ。

「お金なら今は払えませんけども、村の皆と何とかして払います!みんなを助けてください!あの子を助けたい、皆をお願いします!」

途中から、何を言っているのか分からなくなってるけども、僕はお願いをした。僕にできることはお願いすることだけしかない。後はあいつらのアジトまでの案内くらいだ。


「分かったよ。顔を上げるといい。」

僕は顔を上げる。

「ありがとうございます竜人様!精霊様!本当にありがとうございます!僕にできることは何でもやらさせてもらいます!!」

僕はしっかりと竜人様と精霊様を見る。目をそらすのは失礼だと教えられているから。

「よくしつけられてるな、君は。それに最初から、君を助ける気でいたからな。こんなにしっかりとしたお願いをされるとは思ってもみなかった。」

笑いながらお兄さんが言ってくれる。

「それとな、いちいち竜人様とか精霊様とか言わなくていい。んなこと気にするな。君は俺より年下で、俺は君よりも年上だから。年下の願い事くらい聞いてやるよ。報酬は君の村で一番美味い飯を食わせてくれればいい、飛び切り美味いものだぞ?」

にこっとして言ってくれたその言葉はとびきり温かかった。僕は幸運だ。あの時殺されたかもしれなかったのに、殺されなかったし、こうして今もお願いを聞いてもらえているのだから。

「さて、犯人はどんな奴らだ?」

「人間です。帝国軍の人間がここ最近、あちこちの村から女の子をさらっていくんです。」

「分かった、皆潰せばいいんだな?ちなみに女の子って何歳くらい?」

「あ、あの、皆、13才くらいと思います。大人の女の人でもないし、若い女の子でもなくてちょっと大人になりかけの女の子をさらっているみたいです。…わかりにくくてすいません。」

そういうと、お兄さんはものすごく怖い笑顔をした。三日月のように綺麗な弧を描く口は綺麗だけれども。目が笑っていない、いや、目から温度を感じられない。この目は見たことがある。


あの子が僕が無茶をして痛い目に遭った時にする目だ。


背中に脂汗が流れる。いいや、全身が少し震えてくるような。


「悪いな。ロリコンは全員駆逐する。君たちの集落の平和を侵させはしないさ。…どこの世界にでもロリコンいるな。本当、変態だけは世界共通なのかな?」


ろりこん。


きっと、竜人様の独自の言語だろう。僕にはわからないけれども、少なくとも良い意味でないのは分かる。


「あの、いつごろあの子達を助けに行かれるんですか?輸送がどうのとか言っていたから…心配なんです。」

どこかへあの子が連れ去られてしまう。それが一番怖かった。もちろん、他の女の子達も心配だけれど、あの子と比べるとかなり心配度が落ちてしまう。僕の一番大事な女の子だから。なんとしても助けてもらいたい。自分で助けてあげられないのが本当に悔しい。

「ひょっとして、君の大好きな女の子がさらわれてるのか?友達にしては気合が入ってるからなあ。」

「えーと、内緒にしておいてください。」

僕は顔が赤くなるのが分かった。

「良いって、良いって。よし、今回の騒動が終わったら俺が君を強くしてやろう!男の子だもんな、好きな女の子くらいは自分で守りたいだろ?俺だってそうだしな。」

「はい!お願いします!!お世話になってばかりですいません。」

そこで僕は額に衝撃を感じる。少し痛い。

「子供が気にするなよ。報酬は美味しい食べ物でいいからさ。獣人の食文化は楽しみなんだぞ?」

ああ、美味しいものをたくさん作ってもらわないといけないな。お母さん、お願いします。僕も材料は採りに行くから。でも、きっと、皆手伝ってくれるはずだ。大丈夫。


だって、あの子達が返ってくるならどんな財産も要らないって。一番ケチなおじさんが叫んでいたもの。あの1エヌを落としたことだって見落とさないおじさんが、である。


だから、きっと大丈夫だ。


僕が勝手に約束したことはそこまで怒られることではないはずだし。だって美味しい食べ物を食べてもらうだけなのだから。…これは本当に竜人様と精霊様が無欲なおかげだというのも分かっている。


僕は彼らにどんな恩返しができるのだろう?


あの人たちはとても強い。強さを比べるなんて考えが出てこないくらいに強過ぎるのだ。でも、何かを返したい。


お世話になりっぱなしで終わるのはいけないことだし。僕だって〈感謝している〉だけでは表現できないほどの思いを持っているのだから。


そのことはあの子が帰ってきたら一緒に考えてもらおう。僕よりも頭が良いあの子なら何か考えてくれるかもしれない。


竜人様と精霊様が協力してくれるのだから、きっと大丈夫だ。ああ、呼び方を変えなければならないのだった。ユウジ様とシルフィン様と呼ぶことを許してもらった。大分もめたのだけど、恩人を呼び捨てになんて聞ないとずっと言い続けていたら二人とも折れてくれた。


うん、駄々も込めて見るものかもしれない。…あの子が教えてくれたことは本当に僕を助けてくれるな。


だから、もう少しだけ待っていて欲しい。ユウジ様とシルフィン様にくっついて僕も助けに行くから。


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