第4話 迷宮探索と絶望、逆転と希望
俺は目を覚ました。
覚えている男の人数は7人だ。偉そうなクソ野郎。金髪青目の中年で背は高め、体型は細め、表情は冷たく人間性を感じないタイプだ。だが、嘘をつくのが異様に上手いはずだ。
そして、騎士4人だ。それぞれ特徴は、あまり無かったが金髪に青目であったのは覚えている。どうも、この国では金髪に青い目を持っている奴が貴族的な立場にいるらしい。騎士の4人は細めの体型が二人、がっちりした奴が一人、もう一人は背が俺と同じくらいだが極めて落ち着いた気配をしていた。まるで何も考えていないようなそんな妙な気配がする騎士だったので俺は覚えている。俺にも、他の人間にも一切の興味を感じていない顔。なんだか親近感を感じたが、奴もぶちのめす対象である。
最後に魔法使いの奴らだ。ノッポとチビだった。それ以外の特徴はやはり金髪に青い目だ。チビはデブで不細工だった。あれは女にしつこそうなストーカーみたいな奴だったな。ノッポは目つきが暗い男だった。過去にも人を殺していそうだ、特に陰湿な方法で。
そこまで考えて俺はダンジョンであろう、今俺がいる場所を見る。
まず、イメージに反して明るい。暗くて、松明のあかりしか頼りにならない洞窟内のイメージを完全に破壊してくれている。
次に、標識がある。危険なモンスターがいるところには案内表示、弱点などが明記されている。…温いダンジョンなのか?
最後に、俺の温いダンジョン説をぶっ潰すことが書いてある。魔王討伐に向けての最終調整用のダンジョンだと説明が書いてある。
絶望した。基本モンスターのレベルが最低でも50以上と書いてあった。詰んだ。ちなみにダンジョン最奥に潜むボスのレベルは2000だそうだ。たまたま見つけた狂った龍を捕えてあるとご丁寧に書いてある。
あのクソ野郎、俺が死んだら化けて出てでも殺してやらないと気がすまない。
そして、明るい通路の奥から猪のような魔物が出てきた。俺を見つけた瞬間興奮状態と化し、突っ込んできた。早すぎる!辛うじて避けたが、次は避けられるかどうか怪しい。
体長が2メートルはあろうかという大猪である。重量は最低でも普通車くらいはあるのではないだろうか?いや、中型トラックくらいか?
地球にいたころの俺であれば即死であったが今は強化された体だ。逃げることはできる。とりあえず、猪から目をそらさずに少しずつ体を後方へと下げていく。だが、猪は獣面に笑みを浮かべる。人間の顔だったら嘲笑していたような感じになっているだろう。まっすぐにこちらへ突っ込んできた。
慌てて避けるが、牙が俺の右脇腹をかすめた。それだけで出血が始まる。じわじわとにじみ出るような感じなのが救いだ。そして、また高速でターンを決めて今度は俺を蹴り飛ばした。腹に猪の蹴りを受けるなど初めてだ。しかもご丁寧に後ろ足で両方の足を使って蹴り飛ばしてくれやがった。
「あぐ、あああぁぁぁ……っ!!!」
痛みに呻くしかできない。腹を抱えて俺は蹲り胃液と血を吐き散らした。
「おぼぅおあああぁぁ……う、ぐうぅ。」
猪は俺の足を踏みつけた。右足が折れた。
「あっ、がああぁぁぁぁっ!!」
悲鳴を上げる。痛みで目の前が真っ白になるが、痛みは感じ続けている。
猪がやはり嗜虐心でもあるのではないかという顔をして俺の左足を食いちぎった。今度は悲鳴すら上げられなかった。にちゃにちゃと嫌な音がする。肉を食い、骨をかみ砕く音が俺の体からしている。今度は右腕を食われている。指先からばりばりと大きな音をさせながら肉を、骨をどんどん食われている。
ダンジョンに入ってものの5分で俺は右腕と左足を失った。意識が霞む。もう、痛みは感じていない。
だが、許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。ユルセナイ。ユルセナイ。ユルセナイ。ユルセナイ。ユルセナイ。ユルセナイ。ユルセナイ。ユルセナイ。ユルセナイ。ユルセナイ。ユルセナイ。ユルセナイ。
…ユルサナイ!!!
ならばどうするのか?決まっている。
殺す!殺す!殺す!殺す!殺す!殺す!
屈辱と苦痛とありとあらゆる手段を持って苦しめたうえで、辱めたうえで殺す。
俺の人生をもてあそんだ奴らを血祭りに上げずになるものか!!
このままでは死ねない。俺の体はずっと喰われているから、ずいぶんと軽くなっている気がした。しかも、あの猪わざわざゆっくりと時間をかけて喰っている気がする。性格が悪すぎる。
〈貴方に力をあげるわ。暗く、醜く、おぞましいほどの憎悪を身に持つ貴方に!!〉
よこせ!!!
俺はそう、思う。もう口を開くだけの血が残っていない。思考は断片だ。だが俺はにぃと笑う。牙を剝く。諦めはしない。
そして脳裏に音声が響く。
『スキルの覚醒を確認。発動条件を満たしました。発動しますか?』
当然、発動する。俺は最期の力を振り絞って猪に触れた。左腕は残っていたのだ運良く。左足は全て喰われていて、右足も膝から下は無かった。右腕はとっくに胃袋の中らしい。肩口から牙の跡が見えて、吐きそうになった。
ぶしゃっん…
何かが弾ける音がした。猪の姿は見当たらなかった。水音がしたのは猪が弾け飛んだ音だったのではないか?
そして俺の体に違和感が生じ始めた。痛いし、熱い。
失った手足が再び生えそろうのではないかという苦痛と期待に満ちた時間が始まる。
「あ、がっああああああああああ、ごう、ぅぎぃ、ああああああああっ!!!■■■■■■■!?■■■■■ッ!!」
途中からは言葉にならない。なりもしない。
地獄のような苦痛の時間の中俺はのたうち吐いていた。血を吐き、胃液を吐き、その中に沈んでいる。無様だなあ、俺は。
でも、さっき聞こえた“声”は何なんだろう?あのおかげで俺はかろうじて力を取り戻し、猪を殺せたはずだが。うん、おぼえていないなあ。
そして、俺は痛みが解けた後に全身を確認する。左足は毛むくじゃらなものに変わっている。予想はしていたけれども、キモイな。右腕も毛むくじゃらになっている、右足の膝から下も毛むくじゃらだ。どうも、猪の血肉を使って失われた手足を再生したらしい。ちなみにちゃんと人間の時と同じように五本指だった。ただ、どこか見た目は魔物的であるが。
「化物の仲間入りだな、あのクソ野郎の言う通りに。」
頭に浮かんだスキルをステータスプレートで確認する。
スキル:絶対復讐
効果:相手から与えられたダメージを相手に対して10倍にして返す。ダメージは使用者が受けたダメージと同様の割合を10倍にしたうえで相手に受けさせることができる。発動条件はダメージを受けること。そしてダメージを受けた後、スキルが発動している間に相手に触れれば発動する。その時、相手に与えられていたダメージはスキルによって相手に与えたダメージを自身の体に取り込むことで回復する。
「何とも、俺らしいスキルだなこれは。」
巨人殺しのスキルだ。同格相手にはそれほど使えないスキルになりそうだ。要するに逆境でしか生きてこないスキルであるし弱者相手には手加減に使えそうではあるか。
にしても、頭に謎の声は響くし、右手は喰われるし、右足と左足も食われたし、ダンジョンに落とされたしと、ろくなことは無い。
まあ、五体満足には戻ったから良しとしておこう。
さてと、ステータス確認しておこうか?
佐藤 唯志:ユウジ サトウ
種族:人間 属性:闇
レベル34 HP2685 MP3077
筋力2157知力1328
耐久1790魔力2051
敏捷1980器用1564
魅力50幸運34
スキル:絶対復讐
効果:相手から与えられたダメージを10倍にして返す。与えるダメージは自分が受けたダメージの10倍の割合で、相手の体力を削ることとなる。発動条件はダメージを受けること。そしてダメージを受けた後にスキルが発動している間に相手に触れれば発動する。その時、相手に与えられていたダメージはスキルによって相手に与えたダメージを自身の体に取り込むことで回復する。
ひでえな、こりゃ。人間やめてる感じしかしないな。…ステータスが。