第1話 基地を蹂躙しよう
俺はクリムゾニアスと共に小高い丘の上から人間が建てた港らしきものを見ていた。広さは少し小さめのスーパーくらいだ。無論駐車場込みの。多分50台くらいなら駐車できる程度かな?あまり広くは無いが狭くも無いという何とも言えな広さの基地だった。
中にいる兵士たちは定期的に外を見回っているが、全員がほとんど同じくらいの強さで構成されていたのが気になった。あれが精鋭なのだろうか?
あの程度で重要拠点らしきここを任されるなら、人間界の征服はそう難しいことではないなあと俺達は話していた。
弱過ぎるのだ。
あれでは俺達がパンチを一発当てればミンチを通り越して液体になってしまうだろう。血まみれの軍基地というのもインパクトがあっていいが、意味の無い殺しは好きではない。例えるなら、大人になってからわざわざ、アリの巣に水を流し込んだりはしないということに近いのか?子供の頃はやってたんだけどね。うん、子供って残酷だよね。
ここに来るまでは虫には触りたくないくらいに遠ざかっていた。
でも、ダンジョン生活ではゾンビ肉すら食わなければいけなかったからなあ。腐った食べ物の味は忘れられないぜ。文明万歳、初代勇者君ありがとう。君の尊い犠牲は忘れないさ。ヤンデレ女神を引き付けていてくれてありがとう。
んでも、召喚式を残したことだけは許せない。
初代勇者はきっと強かったのだろうから、召喚儀式そのものを破壊してくれれば俺達が召喚されること無く追われる可能性があったのになあ。まあ、そこまで期待してはいけないだろうけれども。はっきり言って、召喚式の内容すら知らないのだから、迂闊なことを言って批判もできない。
もしかしたら、俺達の世界のために召喚式が破壊できなかったのかもしれないし。色々な可能性があり過ぎてこの話は意味が無いと考えられる。よし、放置しよう。
「さて、クリムゾニアスはあいつらを殺さない自信あるか?」
俺は彼に問いかける。
「そうだな、無理だ。あれでは弱過ぎるからなあ。正直撫でても挽肉になってしまうだろうよ。…もう私達だけで人間族を皆殺しにできるのではないかと思うのだがな。間違いだろうか、傲慢が過ぎるだろうか?人間たちの戦力情報が欲しいところだな。特に勇者共のが至急必要だ。」
クリムゾニアスが冷静に言った。もともと俺達は二人とも、そう手加減が上手なわけでない。何せ、二人とも生きていたのはダンジョンの中である。そんな場所では手加減する必要などまったくないから敵はまず、ぶっ殺すのが基本になっている。
もう脊髄反射で敵とみなした相手は殺してしまうレベルだ
もうすべての行動が必殺技に昇華されているといってもいい。
必ず殺すという意味での必殺技だ。派手な名前も派手な演出も必要としないただただ、相手を殺すための技を俺はダンジョンで鍛え続けてしまった。ゆえに手加減は一番難しい部類に入る行動だ。何せ、殺すことしか考えていないし、壊すことしか考えてこなかったから、大変である。
クリムゾニアスもドラゴンであるため相手を屠るのは得意だが、殺さないというのはかなり難しいといっている。そう、俺達は二人とも戦闘に特化し過ぎていて潜入とかそう言うことはまるでできなくなっている哀れな脳筋コンビなのだ。クリムゾニアスが脳筋という言葉に不服そうにしつつもどっか誇らしげなのはもう、だめかもしれん。
脳筋。
脳味噌まで筋肉でできているくらいに強いという解釈をしたのだろう。あながち間違っていないが。敵をフルボッコして屈服させるのが得意だしなあ。
まあ、いいや。とりあえず幻影纏って基地に行って敵をミンチにしないようにダンジョンの初層当たりの敵のステータスを物まねしよう。
「なあ、俺と貴方じゃあステータスがやばすぎるからダンジョン初層のレベル300くらいのモンスターのステータスを再現しようと望んだけどどうかな?」
「ああそれがいい。それぐらいに弱体化せねば我々の力は強過ぎる。まったく、本当にここは重要拠点なんだろうな?あんな弱い奴等が守っていてはすぐに突破されるぞ。獣人たちはあんなもやし共とは比べ物にならんくらいに厳しい鍛錬をしているからな。」
クリムゾニアスは獣人たちを認めているようだ。確かに人間たちよりステータス的に強いはずだと聞いたことがある。だからこそ、人間たちは優れた彼らの能力を逆に利用して言う事を聞かせているのだけれども。人間たちには聞こえないが獣人たちには聞こえる音をものすごくうるさい音量にして首輪としてくっつけて意思を奪うのに使っているそうな。主に奴隷に対して使う手法だと聞いた。それに魔法式の複雑さでは人間たちは獣人たちよりもはるかに先を行っている。その複雑な魔法を悪用して隷属魔法を開発して獣人たちを隷属させていたりもする。
「まあ、そう言うことで人類をボコすのは抵抗を感じないんだけどな。…そうだ、ここの基地の奴を全員殺さずにボコボコにしてから放置しよう。そして基地にある備品などを盗み、船も借りパクしようぜ。」
良い案だ。嫌がらせには持って来いと思う。俺の脳細胞は嫌がらせを考えるには優れた反応速度をたたき出すな。
「それは一向に構わないが、カリパクとはなんだ?何かの専門用語か?」
うん、ドラゴンさんに現代日本の言葉は難しいよな。しかも正しい使用法でないしな。
「借りたまま返さないことさ。要は盗むのと変わらない。借りるだけと言っておいてその実盗んで持って行こうという事だよ。人間も獣人たちから色々と盗んでるんだからいいだろう。まあ、俺は獣人じゃないけれど。」
「くくっ。良いだろう。人間どもに一泡吹かせようという魂胆だろう?ならば、乗った。私は人間が嫌いだからな。勇者を召喚してからは特に嫌いになった。傲慢さに拍車がかかったし、他種族の事を以前にもまして考えなくなった。」
クリムゾニアスは憤懣やるかたないという感じで話す。元々は召喚された人間である俺には少しだけ耳に痛い話だった。が、今の俺は捨てられた身である。俺を捨て奴らが苦しんで苦しんで悶えながら地獄に落ちる一歩手前を眺めつづけるまでは俺の復讐は終わらない。とりあえず、今回の事は嫌がらせの第一歩だ。
クリムゾニアスに幻影魔法をかけて二人ともステータスを下降させる。俺とクリムゾニアスは身長以外は何が何だか分からなくなる幻影を纏った。この魔法は見る相手によって姿が変わるという魔法だ。
例えば、ABCという3人が俺達の姿を同時に見たとする。すると、彼らが俺達の姿を語るとこういうことになるのだ。
A:醜いゾンビが二体居ました。
B:大きめのゴブリンが二体居ました。
C:コボルトが二体居ました。
という結論になる。3人は誰も嘘を言っていないが本当の事も見えていない状態だ。本当のことを言っているのにだれも真実を話すことができない幻影魔法を俺は復讐のためだけに開発した。身長だけでは犯人を絞り込むなど夢のまた夢だろう。しかも俺よりも魔力が低い相手では絶対に見破ることはできない。
「さあ、行くぞ相棒!」
「応!」
俺とクリムゾニアスは断崖絶壁を駆け下りて一気に基地の中央へと飛び降りた。
面白いほどに警戒されるが、彼らが警戒する間にも俺たちは次々に兵士たちを倒していった。脆い、脆過ぎる。これでは本当に暇つぶしにもならない。準備運動にしても体が温まらないとは、情けない限りだ。まあ、ほんの少し前までは俺は彼らには手も足も出なかったことは忘れていないが変われば変わるものである。
種族ごと変わるなんて思いもしなかったけれどもな。
「「「あぎっいいあああ!!!」」」
「「「ぐぼぁあああぁぁっっ!!」」」
「「「がっはああぁぁぁっつ……!!」」」
などの悲鳴が木霊する。俺達は順調に二時間ほどで手加減の練習を終えた。二人とも手加減はとても上達した。これでこいつらよりも弱い兵士が出て来ても一発で液体にすることは無いだろう。全身骨折で死にそうになるくらいまでには手加減することにもなれた。
「やったな、相棒。俺達は手加減できるようになったんだ。脆過ぎる相手だったが、何とかなるもんだな。」
俺は達成感に満ちていた。
「そうだな、相棒。手応えがまるで無いが殺さずに何とか無力化する練習台にはなった。」
俺とクリムゾニアスは互いの事を相棒と呼ぶことにしていた。わざわざ、名前を名乗って警戒されたくないしな。さてと、とりあえずは人類の事は良いからここから適当に色々と持ち去って行こう。
こうして、俺はまず、兵士たちが宿舎に使っている建物を地面ごとアイテムホールに入れた。普通にしまい込めるのだからほんとうにこのアイテムは凄い。後は、なんか最新鋭っぽい船を1隻いただいて行く。とりあえず、ここの戦線は崩壊気味にしたから獣人たちも少しは安心できるのではないだろうか?
安心できないと向こうについて獣人たちから言われたら、今度は根こそぎ基地を爆破して餓死させてやればいいかな?俺とクリムゾニアスは海へと向かって駆け出すのだった。あの船は運転するのが楽しそうだからな!
船なんか運転したこと無いけど、何とかなるだろう。いざとなれば水面を走るし。
第2章始まります。拙い作品ですが、みなさんこれからもお付き合いよろしくお願いします。




