第3話 勇者の確認と異端の追放
こうして、俺達は勇者ルートに乗っけられて行ったのだ。
そして、ここでも問題が起こる。いや、テンプレか。
俺達私立陽江学園の1年3組、全35名のステータス確認が終わった。
この世界にはさまざまなスキルというものがあり、魔力を持つ者が普通である。ありとあらゆる能力は全て数値化できるそうだ。そうした古代魔法を作った大魔導士が過去にいたらしいと説明された。
俺のステータスは以下のものである。
筋力98魔力253
耐久128知力223
敏捷113器用298
魅力87幸運34
佐藤 唯志:ユウジ サトウ
種族:人間 属性:闇
レベル1 HP192 MP380
スキル:????
効果:????
地雷臭がするステータスだった。
周囲が自身のステータスや他人のステータスの事で盛り上がってきていた。まずい兆候だ。俺のステータスは地雷臭しかしないのだから。多くの者は和気あいあいと比べている。きっと極端に開いた差が無いのだろう。誰もが比べるのを避けている、俺に話しかけてきた男を除けば、だ。
「おい、佐藤、お前のステータスを見せてくれないか。他の奴らは教えてくれないんだよな。」
クラス内どころか学校内でも上位にいる神崎が言ってきた。俺は特に何も考えずにステータスを見せる。奴の反応は思ったよりも俺のステータスが高かったのか、興味が無いだけなのかは知らないが馬鹿にはされなかった。ただし、属性とスキルを除いてだが。
「お前、属性の闇って何だよ?他の奴らは皆、光だったぞ?それに、スキル不明ってさ、何なんだ?」
俺に聞かれても困る。
「じゃあ、神崎君のステータスはどんな感じなんだ?」
「俺はこんな感じだ。」
なんだか嬉しそうに見せてくる。きっといい数値が出たに違いない。神崎はイケメンで頭も良く、空気も読める。ちなみに背は180以上あるのではないだろうか、モデルのような足の長い体型だ。顔立ちも整っていて、鼻が高めで目の形だっていい。絵に描いたような美系の顔立ちをしているといえば伝わると思う。運動神経だって抜群でリーダーシップもある奴である。俺のような変人にも分け隔てなく話しかけてくる奴だ。完璧に近い高校生といえばこういう奴のことを言うのではないだろうか。
見せられたステータスは確かに胸を張って良い内容だった。
これで自信無さげにしていたら、すごく嫌味だ。
神崎 翔輝:ショウキ カンザキ
種族:人間 属性:光
レベル1 HP479 MP468
筋力332魔力312
耐久319知力298
敏捷336器用289
魅力338幸運298
スキル:英雄の意志
効果:自らが英雄として認められれば認められるほど、ステータスが上昇していく。上昇度は英雄としての行動や他人からの認知度によって変動する。
「なんだか、すごく勇者そのままなステータスだね。本当にいるんだなー、こういう人って。」
と、俺は返す。そうとしか言いようのないステータスである。リアルチートだ。
「これはすさまじいですね、神崎様。かつてでも確認されたことが無い数値でございます。」
クソ野郎が言ってきた。心底驚いているようだ。俺のステータスを見た時の奴の眼はかなり嫌な光を放っていた。害虫を見るような眼である。
「それに引き換え、貴方は少々特殊ですね、佐藤様。」
苦々しい顔をして俺に言ってきた。
「何が特殊なのでしょう?」
どうせ、属性だろう。
「属性とスキルの両方が、ですね。前例が全くない事態ですので私では対処のしようがありません。専門の者に見せる必要がありますので、後程ご一緒していただけますか?」
やばい、悲惨な未来しか浮かばない。
「え、ええ。自分でも困惑しています。スキル不明というのも、属性が闇というのも…。」
俺はさも困っているように言った。ただの馬鹿と思わせないと生き残れない気がするのだ。とにかく馬鹿の演技をするしかない。不安がっている馬鹿を演じ切るしか生きる道は無い気がした。
その後、俺は宣言通りに別室に連れて行かれることになった。
他のクラスメートにはクソ野郎がステータス表示に一部不明な点があったので専門家に店に行くと説明していあった。クラス内の空気である俺のステータスに興味は無いのだろう。他の皆は神崎の超人じみたステータスと自らの平凡に感じられるステータスを比べて一様にため息をついていた。
ただし、地球側の感覚での平凡であって、この世界の人間にとっては異常である。この世界の人間のレベル1での平均ステータスは、各項目とも10~20くらいだ。20を超えるものはほとんどいないし、40近くが人類の限界ともいわれている。HP、MPも同様で二つともレベル1では20くらいが普通である。やはり40近く行っていれば人類の最高峰である。全ての数値が40近くあれば将来は確実に軍の最高戦力、冒険者の頂点に立つことは約束されたようなものである。更にスキルが絡めば、その可能性はスキル次第でいくらでも高まるのだ。
異世界の勇者たちはというと異常である。
レベル1での平均ステータスは最低でも80以上で最高は300の大台に乗っている。HP、MPは最低でも130以上で最高は450を超えている。数値の幅は広いものの強力な異界の人間を勇者として召喚したがる背景も理解できないことも無い。ステータス以外にもスキルもほとんどが確認されていないユニークスキルという固有スキルを持っていることがほとんどである。だからこそ、過去の魔導士は勇者召喚システムを完成させたのだろう。ゆえに、彼は今でも古の救世主とも大賢者とも言われて死んで500年近くの時がたった今でも敬われているのだから。
王城と思しき場所の地下の方に連れて行かれながら、俺はもう覚悟を決めていた。これはまずい流れだ。もうどうしようもなく、致命的なにおいがする。クソ野郎は屈強な騎士4人で俺の周囲を固め、さらに騎士たちの後方に魔法使いが二人もいた。
どう考えても詰んでいる。
俺の人生はここで終了らしい。勝手に呼び出されて、勝手に殺される。誰からも価値を認められなかった俺にはふさわしい死に様なのかもしれない。抵抗する気は無かった。できるだけ痛くなければいいと思っていたし、死ねば異世界転生ができるかもとほんの少し期待もしていたりする。
まったく抵抗しない俺を不気味そうに眺めるクソ野郎の考えはわからなかった。俺には人の表情を読むスキルなどないのだから。
重々しい金属の扉の前にクソ野郎が立つ。それから手をかざし何事かを呟いて扉を開ける。そこにはただ闇があった。
「さようなら、化物君。」
その宣告と共に俺は文句を言う暇すらなく闇に向かって突き飛ばされた。強力な風を吹かされて俺は抗えなかった。だから、俺には7人をただただ睨むことしかできなかった。憎悪の念を込めて奴等を睨むことしか。
どうしようもなかったが、首謀者であろうクソ野郎の顔は刻み込んだ。一緒にいた連中の顔も覚えた。
「必ず、復讐してやるからなあっ!!」
間違いなく届かない叫びを上げながら俺は落ちて行った。どこまでも暗く、何も見えない暗闇の中をひたすら下の方へと。恐怖は無かった。
ただ、必ず復讐する。
その一念しか俺の頭には無かったのだ。生きていられないかもしれない状況であるのに、俺の頭はそれしか考えていなかった。
その後、異端者を排除した宰相は異界の勇者がいる大広間へと戻って行った。今の男は危険だと判断したから、初心者にとっては最悪のダンジョンにつながると言われているゲートへと放り込んだのだ。魔王を倒す際の勇者が最後に修行をするためのダンジョンであるゆえに王城に当時いた最も優れた魔法を使う勇者の仲間達によって王城の地下からのみ行けるようにしたうえで封印されていたのだ。レベル1の異端者が生きていられるはずもなく、宰相は鋼鉄の笑顔に己が行ったことを封じ込めて、勇者達に王への面会に行くようにと促していた。