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捨てられ勇者の異世界ボッチ放浪譚  作者: 雨森 時雨
第1章 勇者なはずが、ポイ捨てされました…どうしてくれようか?
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第27話 旅立ち

ひとまず、主人公視点はここまでです。


次話からはエピローグという補足説明のお話が始まります。


読んでくださった、皆様ありがとうございました!!


もう少し続きますので、よろしく願いします。

『さて、貴方には勇者をやってもらうんだから私の名前を教えておくわね。私の名前はディアルクネシアという。まあ、この名前はわたしの真名だから外で私の事を呼びたいのであればべつの名前で呼んで欲しいけどね。』

「…クリムゾニアスが聞いていても問題無いのか?」

俺は疑問をそのままぶつけた。

【私には彼女の名前は聞こえていない。闇の女神がそう簡単に自身の名を明かすような愚は犯さんさ。】

「名前を知られるというのはこの世界ではまずいものなんだな。俺の世界ではそんなことは無かったからさ。…俺の時代よりもずっと昔は、そうじゃなかったけどな。」

言霊思想という奴である。名を知られれば相手に支配されるという考えだ。だから、自分の本当の名前は明かすこと無く借りの名前で日常を過ごすのが一般的だったはず。親だけが子供の本当の名前を知っていたんだよな。この世界は魔法が本当にあるからそのくらい名前を大事にしても不思議ではないか。


『まあ、本当の自分の名前を誰かに知られるのは良くは無いわ。というよりも、神が自身の名前を知らせることは一般的ではないのよ。いつでも神と触れ合える存在がいたら大変な争いが起こるわよ。実際、初代勇者はあのバカ女が傍に常に実体化して張り付いていたからね。勇者がどこの国に所属するかでずいぶんともめてたわよ。』

ディアルクネシアさんが呆れたように言った。

「…信じられないくらいに惚れこんでたんだな。初代以降はどうだったんだ?」

俺は気になったことを聞いた。

『初代勇者は戦神となって神界に行ったわ。そこで光の女神と暮らしていると思うわ。勇者が実際、どう思ってるかは知らないけれど、あの女はいつも楽しそうだわ。』

可哀想に。ヤンデレには勝てなかったんだな。俺は喰われたであろう初代君に黙祷を捧げた。多分性格は最悪でも姿は良かっただろうから。それに自分にだけ絶対的な好意を向けてくる女性には気を許すだろうし、それなりに楽しくやってるだろう。


「じゃあ、初代以降の勇者はどうしてるんだ?」

気になっていることを質問する。初代にぞっこんであればそれ以降の勇者にはどれくらいに興味を持ったのだろう?

『初代以降はあまり興味を持っていないわ。人間族が勇者をたくさん欲しがるから召喚儀式を改変して人数を多めに召喚できるようにしたから個々の強さは低下した。けれど、国ごとに勇者を配置できるようになったから人間同士のもめごとは減ったわね。そして、魔族との戦いはだんだん不利になって行ったけれどね。個々の強さが低くなったのだから当然なんだけどね。』

あまり関心が無いような様子で彼女は言う。魔族と獣人族が協力して人間族に対抗するようになり、他の亜人族も一丸となって人間族へと対抗するようになったからいくら勇者が強くても数の差で難しくなったようだ。そして、闇の女神も指をくわえて光の女神の行動を見ていたわけではないらしい。彼女が行ったことは人間族に飢饉を起こさせたことだ。天候を操る龍族に入れ知恵をしたようだ。


自分が手を下すことなく、望んだ結果を引き寄せる女神さまは知的である。それに犠牲が少ないのは良いことだと思う。人間族はかなり多くの犠牲が出たのだが、彼らは亜人族や獣人族、魔族を奴隷として売ったりこき使ったりしているので…まあ、仕方が無い。俺は博識なクリムゾニアスから聞いた話を思い出しながら考えた。


自分達がやったことが自分達に返ってくるのだから。


因果応報はちゃんと仕事をしているようで何よりである。まあ、俺も魔族や獣人、亜人族の勇者となるのだから人間族へと何らかの動きをしなければならないだろう。

「じゃあ、俺はここから出たら何をすべきかな?人間族にとって有害なウイルスでも作るかな?それも感染力が強くて、今ある医学では救えないクラスの奴。」

俺は思いついたことを口にした。女神の右腕からは人を治す知識の他に人を困らせる知識も手に入れられるのだ。病気を治す魔法が多いので、逆の事を行えば病気を流行らせることもできる。


『貴方本当に、人間?そういうのは私が考えることのはずなんだけど。』

ディアルクネシアが呆れと同時に怖れを含んだ口調で言った。

「だって、この世界は俺が生きていた世界じゃないからな。自分の大事な人が一人も居ないのであれば、俺は何処までも残酷にどこまでも冷酷に、非情に徹することができるさ。それに、これから俺がやるのは一種の八つ当たりであり復讐でもあるんだからな。…普通に生きていたかったのに、それをぶち壊しにされたことを俺は怒ってるんだそ?」

俺は少しばかり怒気を漏らしつつにこやかに言った。

『…ああ、貴方はなるべくして私の勇者になったのね。うん、貴方の性格じゃあ光の勇者はとてもじゃないけれど、務まらない。むしろ、私の下で輝く人材ね。おめでとう、貴方には魔王になる資格もあるわね。』

彼女はおどけたように、でもその瞳は真剣に俺に言った。力に飲み込まれれば、俺は狂ってしまいこの世界を滅ぼす存在にもなり得ると彼女は言ったのだ。

「ああ、でもいいのか?そんな危ない俺を勇者に選んでも。」

『いいのよ。貴方くらいの劇薬じゃなければ、この世界の傲慢過ぎる人間族は他の民の痛みなんかを想像することもできないんだから。』

ディアルクネシアは不快そうに言い捨てた。彼女は守護すべき存在を人間族によっていじめられているためかなりの人間嫌いのようだ。クリムゾニアスもそんな闇の女神に同意している。人間族はかなり嫌われてるみたいだな。まあ、俺は魔人ですけど。


魔人なんて種族は現時点では俺以外には居ないんですけどね。ま、いいのです。そういえば、クリムゾニアスの呪いは俺が解除したから彼も俺の旅に連れて行けるはずだ。肉体はどうなったのかは知らないのだが。


「そういえば、クリムゾニアスはこのダンジョンから出ることができるのか?俺が呪いというか、狂気の方は何とかしたけれど体は何回も殺されてるから使えるのか?」

俺は不思議に思った事を尋ねた。

【私の体には何度でも、このダンジョンの主が変わらぬ限り再生し続ける魔法がかかっているから問題ない。何度も死んで蘇っているように見えるのは、私が何度も私が死ぬ戦闘の前の肉体に戻されているからだ。戦闘で傷が付かなければ、私は死ななかったのだからな。原因そのものを排除してしまえば私は生きるしかない。今はお前のおかげで私にはちゃんと実体のある体が得られている。】

何度も復元されては殺されて来た彼が言う言葉は重いものだった。命は軽く扱ってはいけないものである。まあ、俺は何度も大量虐殺を行ってきたのだが。他の魔物たちも同じように蘇り続けているのだろう。まあ、ダンジョンの核とかがそういう役割を持っているのだろうと俺は思う。人工的に調整された魔物を生み、倒させることで人類を育てるのが、この世界におけるダンジョンの役割らしいしな。


だが、光の女神の力が弱まり、多くの種族が人間族をと光の女神をまとめて嫌っていることから今のこの世界は力のバランスが崩壊しているそうだ。光の女神が崇拝されていれば、力のバランスは保たれていたのだが、むしろ闇の女神さまが信仰されてしまっているので今の状態は世界にとっては良くない。闇の女神は信仰されれば力を増すのだが、強過ぎる闇は光を飲み込んでしまう。その結果、何が起こるのかはディアルクネシアですら予想できないと言った。過去に例が無い状況なので女神様たちも戸惑っているらしい。特に光の女神は強いショックを受けており、伴侶の戦神が日夜慰めて太陽の運行を維持しているそうである。…お気に入りの初代勇者といえども、限界があるのだろうか、最近は地上世界において雨の日が多いそうだ。


俺がいた世界で起きていたゲリラ豪雨みたいな感じだろう。後、気温の乱高下とか。気象がやばいと人間以外もやばくなるので、この世界は特にひどい環境破壊もされていないのに順調に滅びへと向かっているようだ。俺が手を下さなくとも、勝手に終わるんじゃなかろうか?いや、人間はしぶといのが基本設計だから、よく考えないと分からない。


「よし、準備を終えたら俺と一緒に旅するか。クリムゾニアス、とりあえず娘さんのところまでよろしくな。俺はその後の事は決めてないから、流れに身を任せる感じでぶらり旅をしようと思っている。」

俺はまだ見ぬ、クリムゾニアスの娘さんの事を思った。今まで死んでいたと持っていた親が元気で帰ってくるのだから、いろいろと戸惑うことが多いだろう。クリムゾニアスも娘に会うのはかれこれ500年ぶりである。光の女神ぶちのめし隊は状況に応じた編成ができるのが魅力であると俺は思っている。やはり、親子の再開はきちんとすべきだ。


【気を遣わせてすまんなユウジ。お前と娘の意向が一致すれば、私の息子にしたいところだがな。あいつもいい男を見つけていればいいんだがな。】

クリムゾニアスが急に親の顔をしてぽつりと言った。俺としてはまだ娘さんの顔を見ていないので何とも言えない。それにやはり人型が良いんだがな。

俺の人型が良いという意見を聞いてクリムゾニアスは納得した顔になり、そして言った。

【この姿では目立つから私も人型になるとしよう。】

そうして、クリムゾニアスは巨体をあっという間に2メートル近くの筋肉がついた赤褐色の肌に燃えるような紅髪が特徴の大男に姿を変えていた。瞳は翡翠のような緑色だった。顔は彫りが深く、鼻は高めで眉も太くて濃い。顎がしっかりとした意志の強そうな顔立ちをしていた。体格も筋肉隆々と言ったかんじである。だが、渋い男といった感じでむさくるしさは無い。歴戦の勇士といった容貌だ。ま、良い男である。外見年齢は30代半ばといったところだろう。髪の長さはごく一般的な男性よりも長めな感じだ。俺よりかは短く、背中を覆う程度だった。…髪というよりも鬣と言った方がしっくりくるんだが。


「どうだ?これが人型の姿なんだが。めったにならないから、なり方を忘れかけていたな。」

豪快に言って笑う。

「まあ、その方が俺としても気を遣わなくていいな。街とかに行ったら、龍の姿の貴方だとどこかに隠れてもらわないといけなかったからな。これだと、一緒に行動がしやすい。」

俺は少しホッとして言った。このダンジョンの位置が分からないが、人間と全く会わないということはあまりないと考えていたのだ。でも、これなら新米とベテラン冒険者の二人が旅をしているとみてもらえるだろう。特に今の俺は外見が銀髪に、地のように赤い瞳でものすごい美女顔である。…そんな俺と漢そのものの外見をしているクリムゾニアスの組み合わせだと薄い本的な意味で見られかもしれないが、そのくらいの事は我慢しよう。クリムゾニアスは薄い本的な知識は無いだろうし。そんな俺の顔をディアルクネシアが面白そうに見て言った。

『髪の色の違いが気になるなら、貴方が髪の色と瞳の色を変えて親子ということにすればいいんじゃない?』

もっとも過ぎて、俺は反省した。もう少し、自分の力を完璧に把握しないといけないな。彼女のツッコミが無ければ俺は不必要な気を遣い続ける羽目になっただろうし。

「ありがと。俺はもう少し自分の持つ力を把握してしっかりと使いこなしていくよ。でないと、女神をぶちのめせないしな。反省反省。」

俺は呟きながら、髪の色を銀色から赤色に瞳の色も血のような紅から翡翠のような緑色に変えていった。これで、俺とクリムゾニアスは親せきか年の離れた兄弟くらいには見えるようになった。まあ、俺の方が肌が白くて体格も少し小さめなのが原因だけど。二人とも顔は良いので、相手が女性であれば少し安くしてもらえるかもしれないな。

「ディアルクネシアはこれからどうするんだ?俺の旅に付いて来るわけはないだろうから、ここでお別れなんだろうが。」

だって神様の仕事があるだろうから。俺と違って、彼女はこの世界の運営をしているという最重要人物であるしな。

『残念ながらここでお別れね。ああ、これはこの世界の地図よ。貴方との約束通りに上げるわ。また、貴方が何かやらかしたらその時に会いましょう。』

そう言って、彼女は俺に地図を手渡しながら消えていった。


嵐のようにやって来て疾風のように去って行く女性である。


まあ、地図をくれたのはありがたいのだが。

「さあ、クリムゾニアス。行こう。」

俺はクリムゾニアスに言った。

「ああ、これからよろしく頼む。外に出たら、自分達がどこにいるのかと娘の位置を探らねばな。」

彼はかなり嬉しそうにしながら言った。ここで2500年もの間狂っているとはいえたった一人で彼は今日まで過ごしていたのだ。俺なら、こうまで理性的ではいられないだろう。やはり、王という事だけの事はあるな。


「ダンジョンの主として命ずる、地上までの扉を開けろ。」

『かしこまりました、我が主よ。』

機械的な音声と共に地上まで続くであろう扉が現れた。俺も嬉しくなって、少しばかり勢い良く、扉を開けて外に出た。クリムゾニアスも後に続いた。


こうして俺と彼の二人旅が始まることになったのだ。


やっと旅の連れが増えたな。男だけど。でも、ボッチよりはずっといい。


きっとこれからは今までより刺激的なことが起こるはずだしな。魔物を殺すだけの簡単なお仕事といった日常にはならないはずである。


俺達の旅は始まったばかりだ!


いや、これじゃあ、話が終わってしまうだろ。違う、違う。


異世界の景色を初めてまともに見た。日本とはまるで違う景色に俺は見とれていた。なんというか、古いヨーロッパというのはこんな感じだったのではないだろうか?昼の晴れた空の下でももう一度じっくりと景色を見てみたい。


今は夜だ。夜目が利くといっても、やはり太陽の下を歩きたいものである。


満天の星空の下、俺はそんな馬鹿なことを思っていた。これからは少しは人と関わって行こうかなあ?まあ、適当でいいか。現在地は大陸の一番端っこで、海を渡れば魔族と獣人の国があるという軍によってしっかりと守られた港近くの山頂が俺達のいる現在地であった。


「ユウジ、娘がいる位置が見つかったぞ。あの港を越えて行った先の深い森の中にいるみたいだ。これ以上は近付かないと分からんな。やれやれ、娘と会う前に人間どもと一戦やらかさないといけないみたいだな!」

どこか楽しそうに笑うクリムゾニアスであった。

「皆殺しはやめてくれな。まあ、全員気絶が妥当だろ。俺も人間相手の手加減の練習がしたかったからちょうどいいや。軍人なら簡単には壊れんだろ。」

と、第三者からすると危ない発言をしていることの自覚が全くない俺だった。テンションが上がっている時には大抵まともなことを考えていないのは本当だなあ。


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