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捨てられ勇者の異世界ボッチ放浪譚  作者: 雨森 時雨
第1章 勇者なはずが、ポイ捨てされました…どうしてくれようか?
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第25話 魔人と紅き狂龍の真実、前編

【ギィィィイイイイァァァァッッッ!!】


狂った紅い龍が絶叫を上げた。


今までで一番の手応えだったから、今度こそは傷ついただろう。そして再生はしないだろう。俺は闇の魔力爆発が収まらない龍の体を見た。龍はもがき苦しんでいるようで煙が晴れない。だから、俺は風の魔法を発動させて煙をすべて追い払い戦闘態勢を維持しつつ龍の容体を確認した。


胴体にはどでかい風穴があいていた。あれでよく、体が崩れないものだと感心するくらいに彼の体はボロボロだった。だが、まだ再生能力は残っていたようだ。ゆっくりと穴が塞がりつつある。だが、塞がってはいっても龍の体力は失われたままのように見えた。つまり、不死身の時間はもう終わったという事だ。


ただし、問題は残っている。龍の眼にはまだ狂気が残っている。これでは、俺としては殺す気にはなれないというか、ここから出られさえすれば龍を殺さなくてもいいとは思っている。よくよく考えてみるとこいつも俺と同じで、自分の意志ではなく閉じ込められているだけなのだから。


【ガィアアアッッ!!】


うん、こちらの闘志に反応したのか、まだまだ元気な様子を見せてくれる。俺は龍の足元辺りに転がっていた龍の胸の中、心臓の傍辺りに入っていた腕らしき物体を回収してみた。人間の腕らしいものだが何だろうか?


〈光の女神の右腕〉


と鑑定できた。俺は特に深い考えもなく腕を影に放り捨てた。こいつがある限り、竜はいつ無敵で不死身な存在になるかわからない。だったら、原因そのものである腕を俺が喰ってしまえばいいんだ。なんかの役には立つだろうし。


……?


体の具合がおかしい。というか、目の前に見たことのあるはずもない風景が浮かぶ。その間にも龍の攻撃は続いているので俺は一旦、落ち着くために龍を全力で蹴り飛ばして、俺自身も反動で距離を開かせた。そして、浮かんでくる風景に意識を向ける。無論、龍の方は自動発動する魔法結界で警戒している。


狂ったように叫ぶ紅い龍。


憎悪と測り知れない怒りに狂気を浮かべた瞳で信じられないような速さでこちらに向ってくる龍。


そして、自らの体の一部がもぎ取られ、かじられる、あのおぞましく、ぞっとするような嫌な感触と狂いそうになる激痛。


腕が龍に組み込まれた後で強制的に竜を自身の結界内に封印して事なきを得てほっとする感情。


どうも、これは女神側の感情の断片が浮かんでいるようだ。龍側の意見も聞いておかなければ、問題には対処できないな。そこで、竜がこちらに向かってきているとの警報が結界から発せられて俺は意識を再び竜に向ける。まだ、狂気の色は濃い。


ならば、狂気を喰い尽くしてみるのが良いだろう。

俺の捕食魔法ならそれができるはずだ。それに奪い取った腕から回復魔法の情報も流れ込んできて狂気を全て食った後でなら正気に戻せる可能性ができてきた。ゆえに龍を狂気から解放して、二人ともここを出ることができるようにするために少しばかり骨を折ってみよう。せっかく見つけた同類だし、光の女神がどんな理由で、彼の伴侶を奪ったのかを知っておきたい。


一般的に、恋人や伴侶を奪われた後では残された男だろうと、女だろうと不幸になるのだ(俺には恋人がいないが、このくらいの事はドラマでも小説でも扱っているし容易に想像できる)。力が無ければ狂気を胸に秘めたまま、自分を許せないままで一生を生きていくだけだが。目の前の紅い龍のような大きな力があると何もかもを破壊する方向に持って行きかねない。実際、この龍を何の対策もせずに外に放り出した結果は、たぶん血生臭いものとなるだろう。

一片の慈悲も無い大虐殺をやってのけそうである。そしてなぜ虐殺をするのかもわからないままやってのけてしまいそうだ。うん、救えない。だから、この龍と会話をするためにもぎりぎりまで弱らせたうえで狂気を解除できたらいいなあと思っている。というか、ダンジョンであるここには出口は無いのだろうか?


「まあ、やってみるかな。」

俺は女神の右腕から得た莫大な魔力を溢れ返らせて、竜と対峙する。魔力の量が、けた外れに上がり竜が警戒した様子を見せる。そして、俺は一息に捕食魔法を発動した。龍の狂気だけを喰い尽くし、彼の理性を取り戻す。そのために捕食魔法を使った。龍を拘束して、彼の心に宿る狂気を吸い出して、無害化させる。拘束から逃げようとする龍と逃がすまいとする俺との間で魔力を通しての戦いが行われた。基本的に消耗がほとんどない俺の勝利に終わったが。何せ魔力など使う端から回復するし、体力もそうなのだから。気力だけはどうにもならないがそこは意地でカバーする。それに、この龍は回復の根本を俺が奪っている状態だから、龍という種族本来の回復力のみで勝負しなければならないから俺の方が現状では有利だ。


勝負の結果は火を見るよりも明らかだ。


魔物の捕食を繰り返して、魔物の良いところだけを取ったスキル構成を実現できている俺が負ける要素は無い。代償としては人間に戻れることは二度とないだろうということだけ。死ぬことに比べればはるかに安い代償だ。


そして、狂気を全て排出してから、そこに女神の腕から学び取った回復魔法をかけてやる。だんだん龍の瞳に知性が戻り始めて焦点があってきたように見える。少しずつ知性を回復してきているようだ。良いことだ、俺が骨を折ったかいがある。


そうして竜が暴れなくなり、俺は龍をじっと見つめていた。横たわっている龍は身体の大きさが中堅のスーパーの店舗ぐらいはあった。高さは電信柱よりも高いくらいだから、彼の体積はかなり大きい。尻尾を覗いても優に50メートル以上の体のでかさで、尻尾を入れれば100メートル級ではないだろうか?


「もう、話せるか?そして、俺とまだ戦う気はあるかい?」

俺は龍に向けて語りかけた。言葉が間違っていなければ彼に通じるはずだ。龍族の言葉は統一されているようだから、捕食した龍たちのおかげで言葉が理解できる。

【ああ。もう私は戦うことができない。お前の勝ちだ。お前は人間ではないようで、人間の気配もする不思議な存在だな。】

「種族は魔人となっているよ。」

【なるほど…魔物を喰らった人間か。恐ろしい男だな、お前は。普通ではありえない存在だ。】

呆れたように、納得するかのように竜が言った。

「失敬な、好きでこうなったわけじゃあない。どこかの馬鹿が俺をこんなところに閉じ込めたから仕方が無く魔物を喰っていただけだ。最初は吐きそうなのをこらえて無理矢理食ってたよ。」

少しばかり懐かしくなって言った。好きで魔物を喰うわけはないだろう。いくら俺でも、そこまでゲテモノ趣味ではない。

【そうか。それはすまなかった。だが、良く生きてこれたものだ。今の私はここに閉じ込められていた時よりもはるかに力を増していたのだが、まさか負けることができるとは思わなかった。これでやっと、この牢獄ともお別れできる。感謝するぞ、人間。】

龍は俺の事を人間といってくれた。俺が魔人といった時に嫌な表情でもしていたから気を遣ってくれたのだろうか?

「生きたまま出られそうで良かったな。だが、ここから出られるのか?俺は貴方を倒してないんだけれどな。普通、こういうダンジョンはボスを殺さないと出られないものなんだが。」

俺は偏ってはいるものの自分の見解を龍に話す。

【問題ない。むしろこれが正解なのだ。お前は私を否定せずに、かといって簡単に殺すこと無く理解しようとした。だから、私はこの者になら降ってもいいと思えたのだ。あの女神は想像もしていなかっただろうがな。私が人間相手に降参することなどは。】

龍は愉快そうに笑う。といっても、表情は牙を剥き出しにしている、見方によっては獰猛であり攻撃的に見えるだろう。笑顔とは本来攻撃的なものであるという考えもあるしな。

「そういえば名乗ってないな。いつまでも人間と呼ばれるのは会話しにくい。俺はサトウユウジだ。貴方の名前は?後、俺に降るというのはどういう意味だ?」

【私に名を名乗るとは豪胆なものだ、サトウユウジ。名を相手に教えるのはこちらが絶対に裏切らないと確信している時だけだぞ?後は力の差が明確にある時だな。まあ、お前にはその資格があるが。さて、私の名前はクリムゾニアスだ。全ての炎に関わる龍の親玉をやっている。紅蓮龍王とも言われるな。】

クリムゾニアス、紅蓮龍王は俺に向かって言ってきた。まあ、とにかく、俺は信頼してもらうことが出たということか。後は、クリムゾニアスが武人肌で助かった。俺は相手を倒したとはいえ人間のようなものだ。そんな相手に心から降るなど、プライドが高そうな龍には我慢できないことではないだろうか?そこを尋ねてみると彼は簡潔に答える。


【己より強い者の強さを認められずして、真の強者たりえんさ。あくまで今は、お前の方が強いというだけで、今後はわからんよ。】

竜はこちらを試すように言ってきた。

「そうかい。ま、俺も負ける気は無いよ。勝者の責任として今後誰にも負けてやる気が無いからな。貴方は俺に負けたことを誇れるようにしてやるぜ。」

にやりと笑いながら言う。

【ク、クククッ、ハーッハハハッハハハハ!!良いだろう、そこまで言われてはな!これほど愉快なのは久方ぶりだな。今ならお前に降ってもいいと思ってるぞサトウユウジ。】

「いや、全部の名前をいちいち律儀に言わなくても俺はユウジで良い。貴方の事はクリムゾニアスと呼ぶからさ。」

俺は王である龍相手に言葉遣いを改めるかどうか、考えつつ彼と話す。俺も非常に愉快なのだ。自分と会話ができる相手で、目の前にきちんと存在しているというのがこれほどありがたいとは思わなかった。闇の女神さまもありがたいが、彼女は声だけだったり夢の中だったりとまだ現実空間で姿を見て言葉を交わしたことは無いのだから。


こうして、俺は歳も種族も何もかも違うが、友人になれるかもしれない相手との対話に花を咲かせるのだった。さて、ここからどうやって出ようかな?そこもまた、クリムゾニアスと考えていこう。


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