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捨てられ勇者の異世界ボッチ放浪譚  作者: 雨森 時雨
第1章 勇者なはずが、ポイ捨てされました…どうしてくれようか?
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第24話 魔人と狂紅龍

龍は一度叫んだあとはひたすらこちらを殺しに来ていた。基本的には巨大なブレス攻撃の後に翼を使って発生させた真空の刃をこちらに叩き付ける攻撃だ。時折、バク宙をするような動きでたっぷりと遠心力が載せられた尻尾の攻撃を繰り出してくる。ただ、モンスターを狩るゲームで竜種のそうした攻撃を見慣れている俺にとっては見切りがしやすくありがたかった。よくもまあ、あそこまで本物の龍を見ることもできないはずなのに考えてあるものだと、戦闘中にもかかわらず日本のゲームクリエーター方に尊敬の念を覚えている。まあ、一度攻撃に当たれば今の俺の体でも結構なダメージを喰らいそうではあるので気は抜いてはいけない。


漆黒の大剣で龍の尻尾を斬るも斬り落とすと同時に再生が始まっている。呆れた再生力であり、この龍は本当に強いと思い知らされる。さすがは竜種だなと素直に感心した。だが、俺はこいつを何としてでも倒さなければならない。倒さないと俺が外に出られない。


つまり、復讐を開始することができない。


「悪いな、完璧に俺の都合だが死んでもらう!!」

【ワタシカラウバウノカ!!マタ、ウバウノカァァァッッ!!】


微妙に会話が成立しているのが不思議だ。だが、一体何を奪われたのだろうこの龍は。そして、誰に奪われたのか?いつ奪われたのか?なぜ奪われたのかにも興味があるがいかんせん戦闘中である。高速で迫る、紅い龍の猛攻をしのぎながら俺は考える。反撃で腕を斬り落としてもそこからすぐに再生する。再生する端から切り落とした部位は回収がてら食っているので俺の体には竜種の力が満ちて来ていた。竜種が使えるスキルも使えるような気がしてきた。


だから、この龍には手に入れたばかりのエンシェントヒュドラの毒をくれてやることにした。この毒であれば竜種であってもダメージを受けると体が理解しているのだから。俺の体は多種多様な魔物によって構成されているから、自分の体にとって嫌なものに非常に敏感である。ほとんどの毒物に耐性を手に入れた俺だけれども、このヒュドラの毒だけは喰らいたくはないと心から思える。


ゆえに、ヒュドラの毒を紅い龍にぶち込むことにした。そうしないと命がけのやり取りをずっと続けていられるような精神力と体力は俺には無い。理由は簡単で、相手は狂っているので精神的な疲労の蓄積は望めないし、体力は無尽蔵であるようだし、再生力も同様である。また、狂っているので恐怖によって判断を誤ることも自らの体を気遣って攻撃を防ぐ事も一切しない。


以上の事からベースが人間な俺の方が長期戦は不利だと理解できていた。というか、俺の攻撃をもう、何発も喰らわせているのに未だに死ぬ気配が無い。レベルも鑑定できていない。つまり俺よりレベルが圧倒的に上であることを意味している。レベル差が2000以上開くと、上級鑑定能力では相手のレベルやステータスを鑑定できなくなるのだ。スキルを獲得した際の情報だと、万能鑑定であればそんなことは無いらしいが。今の俺のレベルは700くらいなので相手は最低でも2700のレベルを誇る。ステータス強化がバグ仕様の俺でなければ間違いなく鎧袖一触されていただろう。今頃ミンチであった可能性が極めて高い。…もしかしたらペースト状かもしれないが。


まあ、竜種の最上位臭いこいつでも、オリハルコンは砕くのに苦労はするようで、俺の体にはダメージがあまり通っていない。若干のダメージは通り続けているので地味に痛いし、しんどい。俺の体は1分ごとに体力の最大値の10%を回復するようになっているので10分もすれば体力面だけは不安が無い。傷も失った血液までも再生するので本当にすごいスキルだ。さすがに精神力は再生できないんだけどな。MPは魔法を使う力であって、精神力とはまた、別物臭いしなあ。MPが回復すれば魔法を使うことはできるようになるけれども、気疲れとか気力の低下といったものは治らないのだ。別にそこまで人外街道をひた走るつもりはないのでいいといえばいいんだが、中途半端な気持ちにもなる。


いっそ完璧な人外を目指すのも悪くは無いかな、なんて最近は思い始めているのだ。


考え事をしながら相手の攻撃を死ぬ気で避けて、反撃をしている今が一番生きている感じがする。ここ最近は魔物との戦いもなんだか習慣じみて来ていた。慣れてきたら戦うことなんて、呼吸とか食事とかとあまり変わりない。当たり前の事として戦っているとだんだんつまらなく感じてきたのだ。どうにも俺は戦いを楽しめるような精神構造に作り変わったらしい。そうならないと孤独のまま、傷だらけのままの日々を過ごすことなどとうてい無理だった。それにしてもここまで精神的に微妙な感じになっても、俺は外に出たいのだなあと妙なことに感心している。


別に外に出たからといって、この人外ボディが人間ボディに戻るわけでもないし、俺が勇者として行動できるようになるわけでもないのに。まあ、勇者として活動する気はさらさらないけれども。むしろ以下に足を引っ張ってやるかとかも考えているけれども。


俺のクラスメートには被害が及ばないように気を付けてだが。


クラスメートは興味が無いから、どうでもいい。だが、復讐対象が不利になるようにしたい。勇者召喚を推進した奴らの成果が出なくて追い詰められていくのを見たいのだから。魔物の姿で勇者たちの前に立ちはだかって、ぼろぼろになるまで任してやれば希望を打ち砕く意味ではいいと思うんだけれども。この龍の姿を借りるのが良いと思う。俺でも気圧されたくらいだから、魔物との戦いをそこまで経験していないうちなら圧倒できるんじゃないだろうか?


【カエセエエ!!】

「何を返して欲しいんだよ!?誰に奪われたんだ!?」

【女神ィィィッッ!!憎キ光ノ女神!!】

「いや、奪われたのは何だってんだよ!!」

俺は狂っていながらも不思議と会話が成立しかけている龍との対話を少しばかり楽しみ始めていた。

【ワタシノ伴侶!!ワガ半身!!】

「あー納得。災難だったな、あんた。」


そりゃ怒り狂って壊れるわ。光の女神ってろくでもねえな。むしろそういう事するのは闇の女神とかじゃないか?一般的な価値観では、だが。俺にとっては闇の女神の方が光の女神よりもよほど手厚く俺の事を気にかけてくれていると思っているので、一般的な意見には当てはまらないのだけれどもな。さて、これで理由も分かったことだし、この可哀想な龍を本格的にぶち殺してやるというか、解放してやろうと思う。あっちの世界に逝けば、奥さんとも会える可能性は存在するわけだしな。正気に戻すにはどうすればいいものか。はっきり言って、ただ殺す方がよほど簡単なんだけど、俺はそうしたくないんだよな。無限再生を止めないことには勝利もままならない。


だから、俺は傷を与えては再生させて、奴の体のどこに力が流れて、どう再生しているのかをずっと探っていた。大剣で斬りつけながら、脚で蹴り上げながら、拳で内臓を爆砕しながらも探り続けた。普通なら、もうとっくの昔に死んでいるはずなのにこの龍は全く勢いが衰えない。なんだか本当に可哀想になってくる。こいつも俺と同じで光の女神に踊らされているのだろうと思う。


俺をこちらの世界に召喚したのにも深く光の女神が関わっているはずだ。そうでなければ、闇属性の俺を化物扱いするはずはないのだから。闇を断固として認めないあたりに狂気と窮屈さを感じ取れた。窮屈で狂っている社会に行くよりも自由な社会に行きたい。つまり人間社会はここの俺にとっては生きていける場所ではないということ。


【死ネェェェ!!】


紅い龍がものすごいハイペースでブレスの連続発動を行ってきた。俺はそれに何発か躱し切れずに当たりながらも、逃げ続けた。そして分析がようやく終わった。ただ殺してしまわないように龍の再生速度などを分析しながら戦い始めてから実に2時間近くかかっている。


再生力の根源を分析する前も含めると、俺とこの龍は4時間ほどずっと互いに殺し合っている。龍の胴体の中央部になんだか人間の腕みたいなのが埋まっている。心臓とは別の重要機関らしいことが分かっている。心臓を爆破しても、すぐさま再生して俺の腕を食いちぎってくれたのは、ついさっきの事だ。とうとう、この龍はオリハルコン製の体ですら食いちぎることができるようになってしまったのである。狂化が進んだのであろうか?だんだん会話が成立しづらくなってきているのだし。なんとしても俺を殺したい思惑か、最初からそういう仕掛けなのかは不明だ。いや、まあ、魔物と話すことができるのは俺がさんざん魔物を種族問わずに喰い続けた結果、奴らの言葉まで吸収したことが原因である。

だから、今のこの状況は龍の体に仕掛けを施した女神の野郎にとっては想定外であろう。意識を集中する。竜のあの体で一番分厚いであろう黒く染まった鱗を破壊して、腕らしきものを取り出すために精神を研ぎ澄ませる。大剣に意識を向ける。自分が流せる最大量の魔力を大剣に注ぎ込む。俺のどす黒い魔力がもともと黒かった大剣を更に黒く染めていく。圧縮して、収束して、大剣にため込む魔力の容量を増したうえでさらに魔力を極限まで注ぎ込み、相手に叩き付けた時に一気に爆発するように仕込む。


近接で高密度の魔力と圧倒的な腕力によって堅い鱗を食い破り、再生力の源をもぎ取る作戦だ。もぎ取った後は当然、俺の体に吸収する。なぜなら、それがあれば俺の体でも無限に近い再生力を手に入れることができてパワーアップにつながるからだ。


「吹き飛べぇぇっっ!!」


俺は喉から絶叫に近い叫び声を響かせながら奴の胴体を切り開いた。そして大爆発が起こる。正直、仕掛けた俺が想像していない範囲で魔力が解放され、炸裂してしまった。腕らしき物体も跡形もなくなってしまうかも…。


少しばかりしくじったが、何とか龍は殺せるようになったのではなかろうか?


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