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捨てられ勇者の異世界ボッチ放浪譚  作者: 雨森 時雨
第1章 勇者なはずが、ポイ捨てされました…どうしてくれようか?
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第20話 殺戮の果て

第7階層で魔物を殺し続けていたらいつの間にか階層をクリアしていた。訳が分からないんだけれども。頭の中にダンジョンが攻略できた理由が浮かんでくる。恐らく俺がなぜ攻略できたかを本気で知りたがっているとダンジョンの意志のようなものが判断したからかもしれない。


〈一週間の間一度の休憩もなしで戦い続ける精神力があったため攻略条件が成立した〉


ということらしい。確かに腹が減れば魔物を食べ、喉が渇けば血を啜っていたので休憩はしていない。別に休まなくても俺の体力ならば、一カ月でも戦い続けることができると確信している。そして、魔力を無しにされた次は筋力を無しにされた。


最悪だ。


幸い、耐久や敏捷などはゼロにされていないが筋力だけは完全にゼロである。いや、最低値程度はあるんだろうが、先程までのように大剣を持って敵をぶん回したり格闘の攻撃で魔物を殺したりということはできそうもない。そもそも大剣が持ち上がらなかった。重くて持てなかったのはショックだった。先ほどまではまるで自身の手足のように動かせたのに。身体強化を限界までしてもなお、持ち上げるのは難しい状態である。…どれだけ、重い剣を俺にくれたのだろうな、闇の女神さまは。


ま、剣は仕舞っておくしかできないな。どうせ持てないんだからあっても意味が無いのだ。アイテムホールに放り込んでおく。その収納能力は本家の75%しかないというけれども今のところはまるで限界を見せていないので俺は素直に驚いている。先ほどの魔物の死体を全てあの中に押し込んであるのにまだ、物が入るのだ。恐らく魔物の死体は数千体は超えている。だから地上に出た時に少しずつ売って行こうと思っていたりするのだ。いざ、収入が途絶えた時の保険である。そして、緊急時の食糧でもある。用意周到な俺だが、以前はここまで用心深くなかった。…良くも悪くもこちらに来てからは常に最悪を想定する癖が付きつつあるのだ。


最悪を考えていればいざ何か悪いことが起きた時も想像していたよりもなお悪いということはあまりない。最悪の想定を超えてしまった場合はもう笑うしかないのだが。それでも、心には若干の余裕が生まれていたりもする。一番怖いのは全くの無策の状態で最悪の状況に直面することだと俺は思っている。少しでも策を巡らせていれば考えることができているので最悪の事が起きた時でも思考停止状態になることは無く何とか行動ができるはずだ。実際、俺は行動できているしな。行動を止めることこそが俺にとっての最悪の状態である。今は魔力が満ちている代わりに筋力がほとんど失われている状態だと分かった。


ならば、どう動けば最善近くに持って行けそうなのかを考える。まあ、完全変化の魔法を使うことが一番だろう。この階層に入る前までの俺を思い出して変化して再び大剣を持ってみる。


……持ち上がらなかったです。


やはり全盛期の状態を思い浮かべて変化しても筋力の増強は望めないらしい。つまりだ、俺が今まで取っていた蛮族スタイルはこの階層では全く使えないということである。魔法で捕食しまくるのがこの階層での過ごし方になりそうである。まあ、いいや。


〈捕食結界〉


新しく覚えた集団用捕食魔法を早速展開して魔物の群れを捕食した。どぷんという大きなものを水の中に沈めた時の音が響いてしばらくしてから俺の体に力が満ちるのを感じた。ここも魔物を殺せば殺した分だけ力が戻る仕組みらしいですよ?となると、答えは一つである。


殺せ!殺せ!!殺せ!!!


殺せ!殺せ!!殺せ♪殺せ☆


まったく、どこの軍隊だと思うくらいにこのダンジョンに入ってからは〈殺す〉ことしかやっていない。おかげで魔物を殺すことに罪悪感じみたものを一切感じなくなった。生物を殺すことには多少の嫌悪感があるがそれだけだ。人としてはもうまともな道には戻れないなあ。それでも、人間はここまで簡単に殺せはしないだろう。もう少し躊躇はすると思う。いや、躊躇したいなあ。魔物を殺す感覚で人まで殺してしまうと俺は多分大量殺戮を行ってしまいそうで自分が怖いのだ。何せ、人間なんて大嫌いなんだから、性格がどうしようも無くなっている自分も含めて。


俺が好きなのは家族くらいである。後は親戚や知人はほんのり好き。それ以外がだと鈴木とかオタ友くらいかな。クラスメート?興味ない人物は俺にとってはどうでもいいですよ。生きていようと死んでいようと好きにしてくださいな。向こうも俺が生きていても死んでいてもそんな感じであろう。


興味が無い他人に俺がむける感情はゼロである。


時間の無駄、感情の無駄、脳の記憶領域の無駄である。別に殺したいほど憎んでいる相手はあの7人を除けばいないのだ。だから、敵対することがあってもバッキバキに心を折ってもう二度と戦いに立とうと思えなくなるような負け方をさせたうえで勇者を引退させようと思っている。ある意味では優しいと思うんだけれどな。もう二度と戦えなくなるまで叩き潰せば、それを周囲で見ていた人間も戦いを強制しようとは言えなくなるだろう。まず、周囲の兵士たちを皆潰してから勇者を蹂躙して士気を挫いたうえでさらに敗北させる。これで勇者と兵士たちは戦うことが難しくなるはずであり、クラスメートたちも死に向かう確率が減るはずである。


そうなればベストである。何で自分達の世界でもないこの世界のために異世界の住民でしかない俺達が血と汗と涙を流さねばならないのか?まあ、異世界に住むことで恩恵を受けたのなら戦えるかもしれない。ただし、俺はこの身が化物になり、大臣らしき人間からは化物になる前から化物扱いされて挙句の果てには廃棄物扱いである。恨まれないと思う奴はきっと人とのコミュニケーション能力が足りていないか、想像力が著しく足りていないのだ。


本当、ここから出たらどうしようかな?まあ、ここまで来たら地上に出ない選択肢はない。出られたとしてもまずは自分がどこにいるかを確認しなければならないし。更に路銀は確保できそうであるとはいえ、俺を召喚したのがどこの国かもはっきりさせなければならない。復讐相手の住処が分からなければ復讐のしようがないのだから。どうやって復讐するのかを色々と確認しておかなければならない。とりあえず、この世であらん限りの苦痛を味わわせてやらないといけないのは確かである。その様子を記録しておいて召喚した国全体に広めてやることも忘れてはならない。


そもそも自分達で蒔いた種なんだろうから、自分達で刈り取りやがれ。


魔王軍に侵攻されているのも亜人たちと連携されて追い詰められているのもどうせ、人類は偉いとかふんぞり返ったことをやってしっぺ返しを喰らったのに違いないのだから。奴隷制度とか、この世界にはありそうだしファンタジー界ではおなじみだ。まあ、ファンタジー世界だとハーレムになるんですけどね。俺は今現在もボッチだしな。


ダンジョンの中にもう何日居るのかもわからなくなってきているけれども、ボッチである。


困る。人と会話がしたいなあ。魔物を殺す簡単なお仕事には飽きてきたんだけれども。目の前をまだまだ魔物たちが元気いっぱいに走っていやがるのです。まったく、もう元気いっぱいの生ゴミ共め。まとめて葬ってくれるわ!という勢いで俺は魔物たちを殺していった。


喰いまくったが、俺の影には限度が無いらしく、いくらでも魔物たちを飲み込めている。普通は限界が出てきそうなんだけれど。


『普通ならそうなんだけれどね。…うん、貴方の限界はとてつもなく遠いところにあるから。だから、今のまま殺して殺して殺し尽しなさない。それだけあなたは強くなれるわ。』

久しぶりに聞いた闇神様の声である。相変わらずいい声である。高過ぎず低すぎない。どちらかといえばやや低いが耳には心地良い声である。俺は高い声よりかは少し低い声の女性の方が好みなのだ。キンキン声は聞き苦しいものだ。


それよりは柔らかく低い声の方がはるかに好みだ。それに大人らしさを感じられるしな。

『唐突に私をほめても何もでないわよ?』

何かくれるならもらうけれど、大剣をもらっているからもういいですよ。今は欲しいものが無いけれど、ダンジョンから出た後では地図が欲しい。

『ま、それくらいならあげてもいいけれどね。ダンジョンを攻略してからね。次に話せるのは。じゃあ、このまま闇に深く身を浸し続けてこの忌々しいダンジョンを攻略しなさい。また会いましょうね。』

喜んで。さすがは闇神様である。どこぞのヤンデレ光の女神よりははるかに俺に優しいのである。


それではまた会うその時まではさようなら、である。俺の貴重な話し相手が去ってしまったのを感じた。やはり光の女神が作ったダンジョンだから侵入するのも意識を飛ばすのも難しいのだろう。俺の中で光の女神の株は暴落を続けている。大体、この世界の事を他の世界の人間に任せようとするから俺みたいな歪みが生じて大変なことになるのだ。


だから、俺は光の女神をいつの日にか必ず―――すことに決めたのだ。


ダンジョンの奥底で魔物たちの怨念にまみれながら俺は決意を新たにするのだった。


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