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捨てられ勇者の異世界ボッチ放浪譚  作者: 雨森 時雨
第1章 勇者なはずが、ポイ捨てされました…どうしてくれようか?
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第18話 第7階層での異変と振り返り

おかしい。


あれから体調が戻ったので俺は第6階層を抜けて第7階層にいた。だが、一切の魔力を使えなくなっていることに気が付いたのだった。


魔力が無いのではなく、〈魔力〉という概念があったこと自体を体が忘れてしまったようなそんな感じで力が使えなくなっている。まあ、俺のスキルは大体が肉体に依存する形のスキルで構成されているので、魔法が使えなくなってもあまり不利ではないのだ。逆に肉体系が封じられたらそれはかなりまずい。まあ、魔力で補えないことも無いのだけれども。肉体が強度を失った分を魔力で持って補うということもできる。肉体スキルが無くなったとしても魔力で代用することは可能だ。しかし、慣れ親しんだ肉体変化は一応、魔力でやっているのでこの階層では使えそうもなかった。結構不便である。



昔は、といっても数カ月ほど前までだが、俺は自分の体を嫌っていたし、嘆いていた。どうして、こんな人外の体になってしまったのかと思った。もう、誰かと交際することも結婚することもできなくなってしまったんだと嘆いた。元々、俺の性格では結婚するのが難しかったのだろうけれども、魔物の肉体になってしまっては結婚できるのは同じ魔物しかいないのではないだろうか?そして、家庭的な魔物なんているわけがないのだしな。そこで俺は生涯独身でボッチでありそうな未来に絶望したものだった。


今は違うのだが。


もう結婚とか人間らしい考えに気を取られる必要なんてないよなということに気が付いたのだった。ボッチでもいいのだ、友達なんて不要である。何せ、俺は魔物であり人間ではないのだから。とはいえ、人間ではなくなってしまったからといって所構わずに破壊活動を行ったりはしないし、人間なんか滅ぼしてやるぜぇ!なんてことにもならない。正直な話、人間に関しての興味が薄れてきているのだ。あいつらには人としての尊厳をすべて失ってしまうようなことをしたいと思っているが、人間に関しての関心はそれだけだ。復讐以外の面では関心が抱けなくなっている。むしろ、亜人と会いたいと思うのだ。獣人とか魔族とかは存在していそうな世界だし。彼らとなら、少なくとも普通の人間たちよりかはわかりあえる可能性が高い。


だが、このダンジョン内で過ごしている限り、まだ見ぬケモ耳少女や魔族少女と会うことはできないのだ。美少女に会いたいなあ。


魔物はもう会いたくないのだしなあ。


はっきり言って、もう何体殺したのかもすら分からなくなっている。これが魔物だからいいものの人間であれば、俺は狂気の殺人鬼として長く歴史に語られることになってしまう。


戦って、戦って、戦って、戦った。


腕も足も、目も鼻も、耳も口も傷が付いていないところは無くなるまでに戦ってきたのだ。今では体に傷跡なんて残っていないけれど、魔物たちとの融合が進んでいない頃は全身傷だらけだったものだ。治った端から傷がついて行くのだからいつまでたっても傷だらけで毎日が苦痛だった。だけど、強くなればなるほどに傷つく頻度は減って行き、傷がつくことも少なくなって痛みにも強くなっていた。体は強くなっていったのだが、心はどうなのだろう?


今の俺は強い心を持っているのだろうか?腕や脚がちぎれても泣き叫ばなくなったのは何時からだろうか。魔物を殺しても何の良心の呵責を覚えなくなったのはいつからだったろうか?俺の心は健全なのだろうか。もともとが欠陥を抱えていた心である。今回の事が契機でもう人間らしい心など望めなくなってしまっていたとしても俺は全く不思議ではないと考えるのだ。だから、人間と共に歩む未来を次第に考えられなくなっていたのだ。


今も、考え事をしながらも魔物を殺し続けている。


もう流れ作業のようなものになってしまった。階層が上がるごとに魔物の強さや種類が変わってきているのは知っているが、今の俺にとってはそこまで厄介なものではなくなっている。大体の魔物の強さはわかってきていた。今の俺が手こずるクラスの魔物は外の世界で出た場合いくつかの国が亡ぶレベルの強さであることだ。言い換えれば今の俺は国一つくらいなら滅ぼせるレベルの怪物になっているということでもある。ただし小国に限る。オーストラリアの半分くらいなら確実に滅ぼせるな、たぶん。面積的にはちょうどいい感じだ。そこで魔力が切れると思う。別に元の世界に帰ってもこの力を持ち続けることができたとしてもまず、やらないだろうけれども。興味が無いしな。


ああ、でも核ミサイルを喰らわされた場合俺は放射能に勝てるのかどうかには興味があるなあ。あの毒を生き残る生物はもう生命体として異次元に行っていると言っていいと思う。とりあえず、俺はボスを探しながらも殺戮を繰り返すのだった。正直な話、魔物を殺すのはどうということも無くなっている。蚊とかゴキブリを殺すのと一緒の感覚だろうか?害虫駆除の感覚で魔物を殺して回る俺も俺なんだが。第7階層は広い。魔剣を握りしめながら戦っている。本来であれば体を変化させて戦うのが良いのだが、それは魔力が使えない今はどうしようもなくなっていた。175センチ程度の人間の大きさのままで自身の身長ほどもある女神からもらった大剣を棒きれのように振り回すのは楽しくもあったが、俺の異常さを証明する物でもあった。


ちなみに今回の内装は前の砂漠が広がる世界ではなくて草原が広がる自然豊かな世界だ。魔物がどんどん出てくるのだが、ほとんどというか、すべてが魔法主体で構成されている。おかげで魔法が使えない俺は身体能力のみで魔法を回避せざるを得なくなっていた。もしくは魔剣が持つ魔力までは消されていなかったので件に酔って魔法を切り裂くことを繰り返していた。そうして、物理的な方法で力任せに魔法を回避し続けた戦闘を行った結果、スキルもいくつか覚えてきたが、それは魔法属性に抵抗できる能力が多かった。魔力に対しての抵抗値が高まっている感じだ。本格的に人間を辞めていっているなあと嘆息する。思えば、右腕と左足が魔物の物となったあの瞬間から俺は人であることをやめたのだった。人であれなくなっていったといってもいいのだろうか?人殺しは意味も無くやらないが、意味があればやってのけるだろうという確信がある。そして、罪悪感をまるで覚えないだろうという気もする。今の俺には自分以外の大事なものがまるで無い。友達はクラスの中に一人しかいなかったしな。あいつは俺よりもコミュ力があったから、うまくやって行っているだろうな。まあ、俺よりもコミュ力が無い奴の方が珍しいんだけれども。だだっ広い草原の中、魔物をひたすら殺しながら、俺は自分の事を考えていた。これから、ダンジョンを出たらどうしようかと悩んでいるのだ。まずは情報収集をしなくてはいけないだろう。


俺は間違いなく何かの事故で死んだことにされているか、存在を無かったことにされたか、遠方に出ているという設定になっているはずだからだ。あの35人をまとめるのは簡単だろう。異分子である俺がいない状態であれば特にやりやすいだろう。俺は人の言う事をまず、疑ってかかる癖がある。人間を信じていないのだ。人は裏切るし、必ず誰かを傷つけている。無論、これは俺も含めて人間の大半に当てはまることだ。だからこそ、俺は簡単に人に気を許さないし、気を許している様子の相手が会って間もないのに近付いてきたら最大級の警戒をする。そういう人間は何かしら、よくない事を企んでいるからだ。


例えば、人をノートの代わりにするとか。


宿題マシーンに仕立てるとか。


誰かが悪口を言っていたと俺に吹き込んで喧嘩をさせて、その様子を見て笑うとか。


うん、俺の周りには屑しかいなかったな。まあ、俺も屑の筆頭ではあるが、自覚はあった。自重もした。人と積極的に関わらなかったから、俺が屑であることは広まらなかったしな。誰も彼も簡単に人を傷つけ裏切っていた。俺の唯一の友人である鈴木を除けば俺の周りには屑と傍観者しかいなかった。俺が力を持った奴らにいじめられていても誰も助けてくれないのだ。次は自分に降りかかるからという理由で俺の事は無かったことにしていた。だから、俺は先生に言いつけ、教育委員会に投書して対策をしていた。そういういじめ対策を徹底的にやったところ、俺は何があっても誰かに秘密を漏らす存在として噂を広められていた。数に対してはありとあらゆる手段で抵抗しただけなのに理不尽な話である。


ちなみにその屑たちはこの世界には来ていいない。奴等とは高校にてさよならをしたのだ。理由は簡単で、学力による離別作戦である。あのゴミ共は仲良く底辺校と3流私立高校に行っているだろう。ちなみに傍観者たちは何人かうちのクラスにいた。興味ないけれども、確かに顔は何となく覚えている。不幸になってくれると嬉しい。


まあ、鈴木以外はどうでもいいな。あいつは何か、困っていたら助けてやろうと思うけれども。向こうが俺の事を友人と思っているかは関係が無い。俺が助けたいから助けるのだ。唯一の話し相手の事はここに来てからも忘れてはいない。


さて、これからこの階層を抜けるとしますかね?


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