第17話 6層での蹂躙虐殺激情
俺の感情が希薄になっているのを感じている。特に復讐に関しての意欲が希薄になっている。やはり感情を込め過ぎたのだろう、あの界蝕には。というか、この階層に来てからはどうも、体の具合が悪くなっている。以前よりも心において鋭さが維持できないと言った感じだろうか?
判断力は低下していない。
集中力は低下している。
戦闘意欲と復讐心が低下している。
よって、俺は現在問題を抱えていることとなる。証明完了である。
「はあ…やる気は出ないが動こうか。」
これがこの階層の課題らしい。何だか階層ごとに課題がある気がしているのだ。この階層においてはやる気というか意欲の低下と姿の見えない敵への対処をどうするかといった感じに試されているのだろう。不調の時でも強敵に勝てるかどうかは生き残るうえで重要な要素であるしなあ。
とにかく俺は外へ出て歩きながら対策を考えた。この階層は空があるが、植物は無い。砂漠の中にあるのだから、そんなものがあるのはおかしいのだけれども。だが、砂漠だからと言って暑いわけではない。聴覚のレベルを引き上げておき、尻尾を蛇に変えて熱を探知するようにする。おまけに体の周辺に砂を漂わせている。
感あり。
迎撃する。
尻尾の蛇が喰い殺したのは、透明なトカゲだったものだ。喰い殺した時に出血したのですでに透明ではなくなっていた。体に力がほんの少し湧いてきた気がした。魔物を殺すごとに力が湧いてくるのだろうか?とにかく、この気怠い感じが取れるのであれば魔物など何千何万体でも殺してやろうじゃないか。ヤル気も沸いてきたのだから、良い傾向である。
だから、俺は今まで取り込んだ魔物たちの特技を思い出しながら使うことにした。蝙蝠は超音波、蛇は熱探知機能、あとはウサギで聴力、そしてフクロウの翼による隠密行動と鷹の眼を生かすことにした。いずれも迷宮を探索する間に喰い殺した魔物たちである。今は俺の体の一部であり、かけがえのない能力だ。空から探し、地上からも探して俺は迷宮中をさまよった。そして、透明になっている魔物や体温を消している魔物などを探して、殺して、喰らっていった。そして、彼らを取り込むうちに最初は感知できなかった魔物たちの存在を探知できるようになっていった。俺はとうとうステルス性能までも手に入れてしまったらしい。静音移動、体温消失、気配隠蔽、偽装能力とかなりの能力を俺はここで手に入れることができた。
まあ、基本的な雑魚としての魔物たちを全種類殺し終えたのは丸1カ月以上はかかっているのだけれども。ボスはさらに1カ月かかった。簡単に見つかれば苦労はしないのだから。透明とか気配が無いとか体温が無いとかは本当、こりごりである。
特にステージボスである砂漠の中に潜み続ける吸血砂が一番厄介だった。正しい名前が分からないけれども、吸血砂だ。魔物を蹂躙しながら歩いているといきなり血を吸われて、俺は一気に血の気が引いたのを覚えている。
まったく気配に気づかなかったし、接近されている前兆もなかった。耳を澄ませて音を聞くも心臓の振動は伝わってこなかったしな。そいつらは個体ではなく、群体として生きている魔物だった。しかも、一匹一匹は小さすぎて、俺がすごい聴力を持っているのに全く気が付けなかったのだ。正体が分かれば、ただ辺り一面を焼き尽すだけの簡単なお仕事だったが。基本的に透明であっても、気配がなくても、広範囲を吹き飛ばせば倒せることに気が付いた俺は、圧倒的な高火力で周囲を焼き払う作戦に出た。ただし、行為自体は簡単でもその面積と手間のかかりようは酷いものだった。
そうして、なんとかすべての吸血砂を倒し終えたら、次階層への扉が開いてしまった。あれが最終ボスだったらしい。確かにいくら焼いても後から後から湧いて出てくるあいつらは厄介だった。結局、俺は広範囲を吹き飛ばすことでしかあいつらに対処できないことを学んだのだから。まあ、この階層自体がボスというのは新しかったけれども。まさか、砂粒一つ一つが意思を持って俺を殺そうとしているとは想像もしなかった。
一度、襲い掛かられてからは朝も昼も夜も関係なく追い回されたものだ。さすがに空を飛びながら休むわけにはいかないし、いちいちセーフハウスに戻れないときもあった。そういう時の俺は徹夜明けの頭で朦朧としながらも淡々と砂を焼き続けた。焼いて、焼いて、竜巻を起こして火災旋風のような状態をたくさん巻き起こして階層自体を焼いた。おかげで火魔法と風魔法の位階が上がったしな。ただし、地魔法と水魔法はほとんど使っていないので位階はあまり変わっていないのだった。闇はなぜだか、あまり使えなくなっていたから基本属性に忠実にステージをこなしていった。どうも、闇魔法は休眠状態に入ったらしい。さらに強くなれる前段階というところだろうか?
まあ、今はやることは決まっている。さっさと寝よう。
セーフハウスに帰って寝よう。ここ最近はろくに眠っていないのだから。丸一カ月はろくな睡眠をとっていないが、俺の体は元気であった。やはり、人間を辞めているというのを自覚するよな。普通なら、もう体を壊しているが俺の体が壊れるなんてことは無い。いつの間にか気力も充実してきているのだから。鈍くなっていた精神も元通りになっているし、索敵能力は飛躍的に跳ね上がった。音、温度、気配、匂い、それらすべてを同時に探索できるようになったのだ。ただし、短い間だけだ。
あまり長いことやっていると頭がおかしくなるくらいに負荷が脳味噌にかかっている気がする。いや、かかっているに違いないのだ。何せ、頭痛がひどいのだから。とはいえ、あまり無茶しなくても大抵の魔物ならば今の俺なら苦も無く探索できてしまう。本当、ひどい目にしかあっていないけれども、俺は元気である。復讐もしたいしな。
全裸で王都を走らせようか、それとも「私は敗北主義者です」と書いた札を股間にだけ張ってさらし者にしてみるかと色々と考えてみた。全員をアッーな関係であると各国にさらしてみるのも楽しそうである。どこの世界でも同性愛なんてのは理解されがたいだろうし。特にあいつらは貴族だから余計にきつい目に遭うだろう。
殺すつもりはないのだ。
ただただ、ひどい目に遭わせたい。歴史書の中に不名誉な形で名前を残してやりたいものだ。それもとんでもなく最低な方向で。そうだな、ホモでロリコンでショタコンで強姦魔というのも面白そうである。四重苦の変態貴族というのも面白い。間違いなく史上稀に見る凶悪性犯罪者の完成だ。そんなろくでもないことを考えながら鼻歌交じりで料理をする俺も俺なんだろうけどさ。魔物の肉を料理するのも面白くなってきた今日この頃である。
魔力を含んだ肉は上手いのだ。
俺は今、体温を消失させて俺をさんざんに苦しめてくれたインビジブルスネークを食べていた。肉は鶏肉の味に近いが、脂がのっていて淡白でありながらもジューシーである。歯ごたえも抜群に良いのだ。気のせいでなく体の力が上がっているのを感じる。本当、今の俺にとっては一番栄養のある食材は魔物の肉とか魔物化した植物になってしまった。普通の食事をしてもどこか満たされなくなってしまったのだ。ずっと自分が作ったものを食べ続けているからかもしれないけれども。誰かが作った手料理なんてのを食べてみたいなあ。ぶっちゃけ、いつここから出られるかはまったくわからないんだけれども。