第16話 6階層にて、変貌に…驚く!!
やあ、俺だ。
5階層で極大魔法をぶっ放して意識を失って女神さまに新しい祝福とやらをもらったらしい俺である。
今、俺は魔法でラジコン式カメラのようなものを創り出して、自分の姿を見ている。ああ、また姿が変わってるんだよ、これが。
何というか、ずいぶんと格好良くなっている。俺の趣味ではないだろう?たぶん、きっと。そりゃイケメンになれたらいいなあとは思っていたけれども。
だが、男の娘キャラになりたいわけではなかったんだよ?
今の俺の容姿は、白に近い銀色の髪で長髪。それもひざの裏辺りまであるかなりの長さだ。
おまけに瞳の色は紅である。濃い、血のような瞳と化している。
肌はまるで東欧の女性モデル並みに白い。
顔はなんというか、俺の顔を基本にはしているがここまで整ってはいなかったという顔になっている。顔のパーツが左右対称になっているし、鼻の高さも変わり、全体的に小顔になっていた。ただ、今までよりはるかに女性らしい顔だけれども。目つきは最悪の顔だが、美女顔だ。ヨーロッパの美女って感じである。
ただし、身長が170センチ以上はあるだろう。足もすらっとしていて長いし、腰の位置が高い。どこのファッションモデルだという感じである。今までの自分よりは少し背が高くなったくらいだと思う。確か俺は170センチに1センチ足りなくてなんだかなあと思ったのが最近の身体測定の記憶だからだ。
筋肉も表面上は減っているが力自体は下がったわけではない。筋力はこれまで以上のものを感じている。筋肉の質が大幅に向上したのだろう。体格は華奢な体型だが筋力はそこいらの怪物なら握りつぶせるレベル。どうなっていくんだろうね、俺の体はさ。あの女神さまがやったに違いないが、あの女神さまは男の娘が好みなのだろうか?それとも、俺の深い潜在意識が男の娘みたいに可愛らしい顔の姿に憧れていたのだろうか?
……無いとは言い切れないのがブサメン以上イケメン以下の俺の悲しい性だろうな。
うん点数で言うと100点満点で53点くらいの顔だったな。なんとも言えないが普通にモブっぽい顔だった。少なくとも、ここまで目立つ顔立ちではなかったんだがなあ。
「さて、ミスリルボディ展開してみるかな?」
俺はいつもお世話になっているゴーレムボディを呼び出した。右腕だけをゴーレムに変える。そこで変化が起こっていた。ミスリルはまばゆい白銀だったのに今は黒い銀色という感じになっている。すっかり黒くなっているとは言わないが、鋼色といえばいいのだろうか?それとも黒銀といえばいいんだろうか?
とにかく、慣れ親しんだ白銀から黒銀へと腕が変わっている。
なんだこりゃ?やはり極大魔法の影響だろうか?もしかして、作品によってはある魔力を使い過ぎて云々という奴か。魔力によっていろいろと体が変わってしまう現象がファンタジー、おおむね主人公チートの時にはあるのだ。
俺もチートに近い位置に入るのだろうから、なんか主人公っぽくて悪い気はしない。ただし、主人公張りに厄介ごとには巻き込まれたくはないけれどもな。
この第6層はどんな階層なのかが気になる。例によって光の女神特製のセーフハウスを利用する。会ったことも無いが、苦手な相手だろうなということは感じる。何せ、本物のヤンデレ臭いしな。いつの勇者かは知らないが、彼は彼女の魔の手から逃れることはできたのだろうか?それとも喰われたのだろうか?そこまではわからないが、光の女神ならヤリかねないしなあ。怖い女神様である。俺を守ってくれている女神があんなんじゃなくて良かった、と心の奥底から安心したよ。ヤンデレ女神なんて誰得な属性なんだろうか?
少なくとも、俺は御免こうむる。
まあ、この階層のテーマが分からない。とりあえず、セーフハウスの中に入ったから、ここは安全な位置なはずだ。敵が出始めるのはここから少し距離を空けてだろう。ステータスやスキルの確認はしなくてもいい。何となく、今の自分はどこまでのスキルが使えて、どのくらいの間魔法を撃ち続けていられるかが分かっているのだから。ずいぶんと戦闘思考に馴染んできた気がする。元々が一般人だったのだけれどなあ。そんなことを言っても信じてはもらえないだろうくらいには戦闘には慣れたし、こなしてきた。
据えられている食料庫から食材を取り出し、適当に料理をしてから食事をする。味噌や米があることに広く驚いたものだ。利用し始めたころは本当に勇者が愛されていたことに感謝した。ただし、俺は愛されたいとは思えない相手だから、うらやましくも無いけどな。ヤンデレよりクーデレとかツンデレだろうよ。ロリでも可だ。そちらの方がよほどに可愛らしい。ま、今の俺はそう言うヒロイン談義など不要な場所にいるからどうでもいいけどさ。何せ、俺以外には人が居ない。光でない方の神様とは時々やり取りできるけど、あんなのは本当ただの偶然レベルだし。はあ、早くここから抜け出して、俺は人とコミュニケーションを取りたいなあ。
極大魔法を使った怠さがまだ抜けていないので、俺はベッドに横になった。本当、あれ以来体の具合が悪くて上手く体に力が入らない。そして、眠りについた。
夢を見ることも無く俺は目が覚めた。頭がすっきりとしていて気分が良い。本当、俺がここに来てからどれくらいだろうか?あの屑どもが俺をここに捨ててから結構な数の夜を越したように思う。魔物を殺した数など数えきれないほどだし、腕や脚が千切れたのだって同じくらいだ。死ぬような思いしかしていない。
クラスのメートたちはどうしているんだろうな?鈴木以外には特に親しかった奴はほとんどいないけれども、俺がいなくなってもどうせ、丸め込まれているだろうからいつか再会した時に本当の屑どもの姿をしっかり知らしめてやりたいなあ。自分がどれだけあいつらを憎んでいるかは極大魔法を撃つときにわかった。今後もあいつらを復讐するまでは俺は時々復讐心に憑りつかれてしまうだろう。その時に俺を止めてくれる奴がいればいいけど、俺は友達を作るのが苦手だし、どうも人間不信が深まっているような気がする。なんというか、ここから出ても人間のいないところに行きたいなあと考えていることが多いのである。
むしろ、人間が魔族に滅ぼされる原因によっては魔族の味方をしてもいいとまで考えているのだから。ほとんどのファンタジー作品で魔族は悪役なんだけれども、本当にそうなんだろうか?人間にも何一つ落ち度がなかったなんてことはあるのだろうか?作者の都合と言ってしまえばそうなんだろうけれども、魔族の全てが悪いわけではないだろう。人間だって尊いところもあるけれども唾棄すべき醜いところだってあるんだから。俺のこの考えは変わっているかもしれないが、何というか魔族の多くが生まれついての悪と決めつけられていることがあまり好きではないのだ。はっきり言って、この世界に来てからは人間の方が害悪だって学んでいるしな。
そうでなければ、自分達の都合で召喚した存在をこんなところに打ち捨てたりはしないだろう。そして、そんなことができる人間がいるというだけで、俺は人間を信じることができなくなっている。自分の都合のためならどんなことでもやるのがこの世界で会った人間の全てなのだから。まあ、会った人間の数が少ないから決めつけるべきではないけれど。人間が相手でも、自分の目の前困っていたら助けるべきなのだろうか?はっきり言って俺が助ける義理なんて欠片も無いのだけど。異世界から召喚された人間に血を流させているだけの利益をただ受けるだけの人間たちに尽くしたくはないのだ。まあ、国が召喚儀式を行ったということは農民や身分制度の仮想にいる人々に何らかのペナルティを払わせているに違いないと俺は思うが。特に貴族は絶対に農民たちにデメリット分を負わせていると思う。
だから、貴族にだけは絶対に味方はしてやらないと決めている。生まれた時から特別な訳でないのに偉そうにしている奴は嫌いなのだ。貴族の家を作った功績を打ち立てた人物が特別な奴だっただけでその初代の奴以降は親が築いたものにすがっているだけだろう。例外はあっても、ほとんどがそうであろうと俺は考えた。親が築いた物に縋り付くだけの存在しかいないような国のはずなのだ。もし、そうでなければ異世界召喚という儀式を何度も行わないはずなのだから。
また、眠くなってきたので眠ることにする。このダンジョンには気配が無い。魔物がいる気配が全くしない。ずいぶん遠くまで気配を探れるようになったのに全く何も感じないなんておかしい。ということは、ここはそれが試練なのだろうか。気配を完璧に遮断できる魔物を討伐しなくてはならないのかと思うと気が重い。
良いように考えるとすさまじいステルス能力を身に付けることができると考えればいいんだけどさ。