第13話 巨人の群れ
第4層に到達した俺が見たのは巨人だった。
身長15mくらいはあるだろう巨人がたくさんいた。俺は何となく身長を目測で測ることができるようになっていた。以前では考えられないくらいに目が良くなっている。目測がかなり正確な距離や数値を出せるようになっているのだ。知性が高くなったのかもしれないな。
だが、巨人がたくさんいる中で俺はちっぽけな気分がしてしょうがない。何せ俺の身長は今2m程度なのだ。人間だったころに比べればかなり背が高くなってはいるが、それでも巨人達には到底及ばない。これは何を競うダンジョンなのだろうか?恐らく一撃の破壊力を鍛えるダンジョンな気がする。さっきの第3層は光の魔法を鍛えるにはうってつけの層だったから、気が付いたのだ。あくまで普通の勇者であればという言葉が付くが。
俺のように闇に魅入られたというか好かれた存在にとっては鬼門でしかなかったしなあ。炎と風の魔法が使えなかった場合はかなりの負担を覚悟していた。本当に第2層でありとあらゆる魔物を喰って属性と魔法を獲得していてよかったと思う。とりあえず、この階層のセーフハウスを見つけたのでそこに入って俺はステータスの確認をした。
佐藤 唯志:ユウジ サトウ
種族:??? 属性:闇
レベル117 HP33680 MP34202
筋力 17207(51621) 知力 16430
耐久 16840(24720) 魔力 17101
敏捷 17030 器用 14014
魅力 60 幸運 1034
*()内はスキルによる補正
固有スキル:絶対復讐
獲得スキル
剛腕・絶、風纏尽走
新規取得スキル
ダメージMP変換:ダメージを受ければ受けるほどMPが回復する。
高速展開:魔法を通常の半分の速さで展開することが可能。
亡霊体・極:発動している間は物理攻撃を受けた際ダメージを無効化する。物理接触能力は持っている。ただし、敵対者が貫通スキルを持っていた際は、ダメージはそのまま受ける。
異常回復・極:耐久が通常の3倍になる。常に1分間につき最大HPの5%を回復する。
腐食葬技・極:ゾンビ族全体が持つ特技。相手を腐らせる技を放てるようになる。ありとあらゆる敵や物質を腐食させることが可能になった。
ミスリルボディ:全状態異常無効、全魔法の効果半減。
疾風牙:足に風を纏い、相手に攻撃を仕掛ける技。攻撃の威力は筋力と敏捷と魔力を合わせ体力になる。
完全吸収能力:相手を倒しさえすれば相手の能力や魔法を自分の物にできる能力。相手の攻撃を喰らっても容量を超えない限り自らの力に変えることもできる。繰り返し、攻撃を受け続ければ学び取ることも可能となる。
固有魔法
闇魔法
暴食拷牙:相手を喰い尽くす魔法。相手を食べた数に応じてステータス成長値に補正が付く。相手の持つ耐性を手に入れることも可能になっている。
影刃爪牙:相手に影の刃を飛ばす。レベルに応じて扱える刃の数が増える。また、刃の威力も向上する。相手の影から刃を生やすこともできる。
魔力吸収:相手の魔法攻撃の半分の魔力を己の身に吸収する。ダメージは普通に受ける。
完全変化:闇魔法の中級魔法。肉体を変化、操作することができる。使用者のイメージ力によって性能は変わるが、他者に成りすましたり、自身を従来とは異なる姿にしたりする事が可能となる。
獲得魔法
火魔法二式、水魔法、風魔法二式、土魔法
闇魔法の扱いだけが他の属性とは違う。えらく細かく書いてある。…闇以外は表示したくないとでもいうのだろうか、このステータスプレートは。まあ、不便は感じていないからいいのだけれども。頭の中にどんな魔法が使えるかは常に浮かんでいるので問題無い。それとも、闇魔法が個人によって発現する内容が違うから、わざわざこんな表示なのかもしれない。他の属性は基本的に習得できる魔法が決まっていて誰もが知っているから表示されないのかもしれない。多分、そうだろう。
属性的に見ても基本的に光と闇は別格なのだ。後の基本属性は大体火、水、風、土の順で価値が下がっていく。あくまで破壊力という点においてだけれど。回復とかも含めれば土が一番バランスが良いと思う。地味だがな。土魔法に地味ってのもなんだか微妙だが。まあいいや。
俺のステータスはどうなってるんだろーねー。はっきり言って人間の限界値じゃあないかな?でも、俺のレベルは異世界人的にはまだ、限界でないのだけれども。現地の人の限界も知らないしな。
『普通の人間ならレベルなら400までが限界よ。選ばれた人間でも500までが良いところね。後は召喚された勇者なら2000までが限界ね。でもね、安心していいわよ。貴方のレベルは限界がかなり遠いみたいだから。』
「ご丁寧にどうも。助かるけどさ、貴方は何者なんだ?」
微妙に丁寧なような荒っぽいような言葉になる。敬語にした方が良いんだろうか?この声の主の行動がいまいち読めない。
『敬語なんて使う必要はないわよ?貴方らしくも無いし。私は貴方がこの不愉快なダンジョンを攻略するのを見届けたいだけなんだから。気にしなくてもいいわ。でも、普通に話してくれるのね?』
「姿は見えなくても、俺を助けてくれるから怖くは無いな。実際、ステータスや魔法とかでは助けられてるし。今の俺は強いのか?」
気になっている自身の強さを恐らくはかなりの強さを誇る相手に尋ねてみる。
『なかなかのものよ。勇者の中でもトップクラスだけど、闇の適性がここまで高い勇者も初めてね。今までの勇者の中には居なかったわね。貴方ならいつか、契約してあげてもいいかな。』
「ふーん。俺って強いのか。ならば、この階層も頑張っていくか。契約云々はまた今度な。何せ、俺はまだ、闇魔法の修業中だし。これ以上の面倒事は増やしたくはない。」
ろくに扱えもしない力を更に強力にしてもらっても無駄な気がする。宝の持ち腐れ的な意味で、だ。
『そう、残念ね振られちゃったわ。』
どこか楽しそうに言う声の主。
まあ、これが正解だったんじゃあないだろうか?すぐに力に飛びつくのもなんだかがっついているようで、俺好みじゃあない。今は未知なる力よりも既知の力をどうにかする方がはるかに重要だしなあ。そういう訳で、巨人の群れへ突っ込もう、そうしよう♪
『いってらっしゃい。本当、体のほとんどを魔物と同化させながらもそれだけ楽しんでいるのは貴方くらいよ。』
「楽しむしかないしな。悲観的になっても始まらんだろ?それに俺をこんな体にしたのは俺を召喚しやがった屑どもと、俺の属性を見て捨てた奴らに復讐をせずにはいられないしな。自分の都合で異世界の人間を巻き込むな。…俺の人生を捻じ曲げた罰は10倍返しくらい、いや100倍返しで償って、贖ってもらわないとなあ。」
俺は思い切り人の悪い笑みを浮かべる。
『うん、決めたわ。貴方に渡すものがある。受け取ってもらうわよ?良いものだから。』
「くれるのなら、もらうけど。」
俺は現金に答える。そんなものだろう、神様らしき存在がくれるものだから良いものに違いない。まあ、闇っぽいものだろうけどな。
『魔剣を貴方に上げるわ。敵対者を殺せば殺すほど斬れ味と耐久性が上がる不思議な魔剣よ。この剣で斬れないものはほとんどないわ。今頃、あの勇者たちも似たような聖剣をもらっているだろうから、貴方にもあげておく。エコヒイキは良くないんでしょう?』
俺の発言というか、思念を読み取っているのだろうか?まあ、強い武器がもらえるならどうでもいいが。
「ありがとう。これで、また俺は強くなることができる。」
『気にしないで良いわ。貴方に必要なものだしね。貴方が強くなればなるほど私の力も強まるし。貴方は光の女神の敵対者になるでしょうからね。先行投資という奴ね。さあ、自分のため、私のために踊りなさい。』
それを最後に謎の存在との通信というか会話が切れた。外ではそれなりに時間がたっているようだった。そして俺は彼女から贈られた剣を見てみる。
黒く、重く、長く、分厚く、無骨な大剣だった。
長さは全長1.7メートルほどで刃渡りが1.3メートルほど。刃は塗りつぶされたように黒かった。ところどころに紅い線がたくさん入っているのが不気味だった。なんだか邪悪な剣という雰囲気がプンプンしているのだ。鞘も一応準備されていたが、やはり真っ黒だった。柄も黒かったしこの魔剣で黒くない箇所は一切なかった。とことん黒さにこだわった剣らしい。刃こぼれもし無さそうなので手入れは不要みたいだしな。剣の手入れなど仕方も何も知らないのでちょうどよかった。
「さーて、試し斬りに行きますか!!」
俺は巨人へと向けて大跳躍をした。
ステータスで確認した筋力を使って大跳躍をして間近にいた巨人の首を切り落とした。驚くほど抵抗が少なく刃が入って行ったのに感動した。どれだけの切れ味があるのだろうか、この剣。巨人は可哀想な事に何もすることなく崩れ落ちていき、その音を聞きつけた巨人が俺を睨みながら襲い掛かってきた。いきなり仲間を切り殺されたのだから正しい反応だ。
俺は笑いながら巨人5体へ向けて駆けた。
恐怖はまるで無く巨人の内一体の足首を切り裂いて、膝の裏辺りまで駆けてから筋肉を切り取る。
「ギィィィッッアアアア!!」
すさまじい悲鳴を上げて巨人が叫ぶ。
うるさい。
そんなことを考えながら別の巨人の首を切り落とす。
斬り落としてからまた跳躍して、さらに別の巨人の腕を斬り落とした。今まで3体の巨人を無効化した。残り二体になったので、棒立ちになっている彼らを使って試したかったことを試す。魔剣に魔力を流し風の魔法を込める。
「大風刃!!」
何となく大剣で風刃を使うのだから、そういう名前にしてみた。風は俺の思うよりも多く集まり一気に彼らへと殺到して炸裂した。
二体の巨人は大きな風刃によって上半身がひき肉みたいにぐちゃぐちゃに吹き飛んだのだ。グロい風景を作ってしまったが、俺は剣を鞘に納めた。
さて、今度は炎の刃を飛ばしてみようか?