第29話 異世界生活の終わり
ついに異世界生活が終わるのだなあ。
そう、思うと感慨深いものがある。友人が人外になって、魔王になって、魔神になったみたいな激し過ぎるくらいに変化の多い異世界生活だったけれど。どういうことだろうね。
俺は俺で金髪金眼の訳の分からない姿に変えられるしね。日本人の面影の欠片も無いよね。でも、まあ、今日でその生活も終わりだな。この星を創った神こと、【創星神】が俺達を元の日本に還してくれるらしい。
シャンレイとの関係はどうしようか?
いや、付き合うことに異論はないのだ。あんないい子は日本に帰っても居ないだろうから。でも、戸籍も無い、家族も居ないじゃあ、あの子は暮らしていけまい。俺がこちらの世界に居残るか、もしくは神様にごねるかな?こちらとあちらの世界を行き来できる魔法のアイテムをくださいと。
実際、そうしないと困るメンバーは何人かいる。何せ、俺がそうだし。他の男女問わず、この異世界ではイケメンや美女をあてがわれていたのだから。そして、最初は身体目当てだった男子も、回数が増えるごとに向こうの女の人も愛着を持ってくれたらしくさらに深い中になって行った奴らも居た。というか、孕ませた奴が何人もいる。
異世界での子作りってすごい、バイタリティーあるよなあ。
見習いたくないような、讃えなければならないような。複雑なものがあるな。俺もシャンレイ相手に子作りはしたい!!だって、童貞ですし。でも、こちらで卒業出来て、あちらの世界に帰った場合シャンレイに子供ができていたら俺は彼女をやり捨てて元の日本へ帰りいつも通りの日常を送らねばならなくなる。
何処の屑だよ、それ。俺だよ?ってのは嫌だなあ。しかも、無自覚で屑確定なのだ。
だからこそ、彼女とは良い雰囲気なっても逃げていた。それだから、彼女からしょっちゅうヘタレヘタレ言われ続けていたのだし。
それでも、順序は大事だと思うんだ。確かに彼女のちっぱいを好き勝手にしたいし、ロリな体型も最近ではいいなと思い始めた。でも!でも…彼女をここに置いて行くわけにはいかないし。俺がこちらに残るとも胸を張って言えない。家族には会いたいのだ。こちらとあちらでは時の流れの差が激しいみたいだから、今ならせいぜい俺達が失踪して2,3か月程度だろうし。
俺達は2年近くここで過ごしているから、多少年は取っているけれども、やはり元の世界に帰りたい。
味噌汁を飲みたい。
母さんの作るご飯を食べたい。
日々、当たり前のように見ていた漫画、アニメ、ゲームの続きを楽しみたい。
そして、最後に意外だけれども、学校に行きたいと思った。普通に、糞ツマンネエ毎日しか送っていなかったけれども、失って初めて気が付けるんだな。学校というのはそれほど悪い場所でもなかったんだってことだ。
まず、人間は生まれながらにして不平等だってことを叩きつけてくれるしな。高校ともなると、小さな大人みたいなもんだし。派閥もできれば、いじめも起こる。そして、色恋沙汰が割とえぐいことになる。
学生なのに妊娠しちまった話なんかはうわさ話でも聞くことがあるからな。
そんな感じで小さな社会みたいなもんだろうな。俺は余り適応できてなかったけれども、もっともっと適応する気の無い奴を知っていた。
唯志だ。
あいつの適応を諦めた感じはいっそすがすがしささえあった。どうにも、人と仲良くできない性質の奴だったけれども悪い奴じゃなかったのだ。それが、まあ、見事に人を人とも思わぬ大魔王になってしまって。異世界に来てからのあいつは、俺が知っているあいつとはまるで別人になってしまったみたいで距離を感じた。
そして、怖かった。
ああも変貌してしまった友人が怖かった。きっとあいつも気が付いていただろう。俺が空元気だけで能天気な振りをして、あいつに付き合っていたことも分かってたと思う。そういう妙なところでは敏感なやつだったし。
でも、俺は怖かったけれども、すごいとも思っていた。俺にはできないことを容易くやってのけるし、自慢じみたことはほとんど言わなかった。まあ、グリディスート帝国を一人で滅ぼしたのはドン引いたけれども。いや、体が化物にならざるを得ない環境に追い込まれればああなっても不思議でないか。
その結果がアレである。
さらに奴は国だけでなく、女神と呼ばれる超位種族の存在すら下して見せた。この世界での絶対上位者を降したのだ。弱体化していたとはいえ、相手は何全何万年という年月を過ごした怪物ともいえる強さを持った存在だったのに。あいつは、苦戦こそしたけれども、降して見せた。俺が知っているのは伝聞でだけど。戦いの現場にはいなかった。居れば挽肉になっている自信がある。
そのくらいにはすさまじい戦闘が行われたそうだ。現場にはあいつと闇の女神様しかいなかったらしいけど。まあ、人間だととても耐えられない規模の力がぶつかり合ったそうだからな。
それ以降は、世界は平和になって行った。あくまで俺達にとってはだけど。従来の獣人が人間族に劣るといった価値観は拭われていった。というか、聖勇国以外の人間達は皆、奴隷にされた。人間族全体が、この大陸の住民に憎悪されていたからだ。
やられたらやり返された、それだけのことだったけれども。
俺達が日本へ狩るまでの準備を色々としていたけれど、その間にいくつもの国が滅んで行った。人間がかつてこの大陸で一番発展したというのも嘘だろうというくらいに衰退して行った。わずか半年ほどもたたなかった。
ありとあらゆる人間族の文明に関わるものは焼き払われ、埋められ、破壊された。徹底的だった。わずかな手抜かりも許されないとばかりに人間族たちが居た痕跡が根こそぎ破壊されていった。
それを見ていた唯志がにやにやして言ったのを覚えている。
「殴ったら殴り返されるんだよ。そして殴られた方は、いつまでも殴られた痛みを覚えてるもんな。殴った方は忘れていてもなあ。馬鹿だなあ、ここまで憎まれていたことすら知らなかっただろうに。」
それからは大笑いだった。やっぱり、あいつは人間を辞めているんだなあと思った。俺は可哀想だと感じたが、あいつは欠片もそう思っていないのが分かったからだ。ちなみにこの発言をしたのは人間の方の唯志である。
魔神側のユウジはというと、ニヤニヤしてるだけで何も言わなかった。
ただ、俺がもの言いたげにしてるの気が付いたのだろう、一言だけ言った。
「やられたからやり返されたんだ。初めから何もしなけりゃ、こんなことにはならなかったのになあ。」
それ以上は何も言わなかったけれども。それでも、まあ、何が言いたいのかは分かった。今まで押さえつけられていた雲の大陸に所属する全種族が、情け容赦なく人類を殺していった。
男も、女も、子供も、老人も、病人も、何もかもを血に染めていった。
奴隷になれたのは全人類の5分の1ほどだった。
それだけ、押さえつけられていた雲の大陸の住人の怒りがすさまじかった。ただ、雲の大陸の住人ばかりが人間を殺していったわけではないけれど。古き民とも呼ばれるかつて追い出された人間達もすさまじい勢いで人間達を殺していった。
結局のところ、光の女神が甘やかした人間は皆殺しにされたようなもんだろう。
光の女神が関わるものはすべて破壊され、燃やされた。徹底的に破壊されて跡も残らなかった。雲の大陸の住人たちは人間達を殺しただけで終わった。一切の陵辱も無く、強奪も無く、徹底的に殺し尽していった。
その様は雲の大陸に住んでいた俺ですら、恐ろしかった。
そうして、俺達は日本に帰ることができる日が来た。それからのことはさして語るまでも無い。俺達はみんな、こちらとあちらの世界が行き来できるような魔法の道具をもらえたのだ。
日本へ帰還してからはしばらくマスゴミに追い掛け回されたが、全てクラスメート達と力を合わせて魔法で妨害してやった。勉強も驚くほど、スムーズに頭に入るようになった。良心も、いなくなっていたことには心配していて怒られもしたが、帰ってきたことを喜んでもくれた。
変わっていた髪の毛と瞳の色も戻ったが、上昇したステータスはそのままだった。
本当に、日本へ帰って来てからもあちらで過ごした日々の事を思い出す。隣にはシャンレイがいる。俺の大事な人だ。今はまだ、高校生だけれども、いずれ結婚するつもりだ。その時はあちらの世界に移住しようと思っている。こちらの世界では毎日がこれまで以上に退屈で刺激がない。
能力値がまあ、ガチートになってしまったからだ。他のクラスメート達も大体そんな感じだ。まあ、この世界のスポーツ界で世間をにぎわせている奴もいるけど。
唯志とも時々、あちらの話をする。俺が知らなかったあいつの過ごした日々の話を聞いている。こちらも、あいつの知らなかった話をする。
驚くほど、穏やかな日々だ。
本当、召喚された時は怨みもしたが、今では、まあ、許しはしないが恨みはしない。
本当、異世界召喚されてからは激動の日々だったが、ようやく終わったのだ。俺達が死ねば、こちらとあちらのつながりはほぼ確実に断たれるだろうとのことだった。
魔神となった、唯志が実行する気らしい。
何はともあれ、最終的には平和になってるんだからいいか。