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捨てられ勇者の異世界ボッチ放浪譚  作者: 雨森 時雨
第4章 女神が動き出したようです、面倒です、逃げましょう!
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第28話 天国から地獄へ

人間族は、光の女神が力を持っている間、長い長い絶頂期を味わっていた。いかなる、無理をしても、いかなる無茶をしても全て光の女神が彼等の後押しをしてくれたから。どれだけ人間族が無謀なことをしてもそれは光の女神からすれば微笑ましいで済まされる範囲だったから。


だからこそ、闇の女神が守護している民族達をどれだけ、人間族たちが酷く当たっていても気にもしなかった。


なぜなら――


人間達が獣人を奴隷にしても、問題は起きなかった。


人間達が亜人達を奴隷にして問題は起きなかった。


人間達がそれを数千年近く続けて問題は何も、何も起きなかった。けれども、流れは変わり始めていたのだ。獣人と亜人達はいがみ合いを止めて同盟を結んで人間達に対抗しようとした。これを人間族たちが知る由も無かった。そもそも人間達は基本的に、亜人達が連合を組んで自分達に反逆して来るという発想自体無かったのだから。


また、光の女神を信仰する人間達が数に任せて追い払った精霊を信仰する者達も少しずつ牙を研ぎ、反逆の時を待っていた。人間達が住んでいる大陸の土地の大半は精霊を愛する民達から奪い取ったものだ。精霊が住まう場所であるから、当然土は肥え、空気は澄、水も豊かであり、日当たりも良かった。それを人間達が侵略した結果、彼等から全て何もかもを奪い取ったのだった。だが、彼らもただ追い払われてしまった訳でなかった。数千年もの間、厳しい環境に耐え、伝承を伝え、体を鍛え、心を強く持ち続けた。転機を待ち続けたのだ。


いかなる場合であっても永遠不変の繁栄など存在しないのだからと、言い聞かせ続けて、待ち続けた。


そして、人間達はついに破滅への第一歩。勇者召喚を行ってしまった。


その後も、何か獣人達や亜人達が大規模な攻勢に打って出るたびに勇者召喚を行うようになった。その結果として、光の女神の神格は落ち続けた。一方で闇の女神は神格を保ち続けて、場合によっては高めてすらいた。光の女神は自身の神格が落ちて居ても闇の女神には対抗できると考えていた。それに、彼女は神と神同士でやり合うことになることなど想像すらしなかった。


闇の女神がどれだけ我慢をしているかも知らなかったし、理解できなかった。


闇の女神は最高神としての権能を与えられていた。ゆえに、光の女神や人類に腹を立てても彼女の力を人類に向けることはできなかった。せいぜいが異常気象による不作を起こさせる程度の干渉が限界だったのだ。彼女の性格的に。父である創星神からは言われていたのだから。


『あまり自分が守護する部族たちに肩入れし過ぎないようにね』

と、言われていた。彼女はそれを厳格に守り抜いた。


それで、人間側は安心してしまったのだった。


どれだけ、亜人や獣人を痛めつけても闇の女神は決して直接的な被害を人類にはもたらさないと。たかをくくってしまったのだ。


その判断がどれだけ甘く、温かったのかは彼女が加護を与えた最初にして災厄の勇者“ユウジ サトウ”の成したことが物語っている。彼女はどれだけユウジが人間に被害をもたらしても決して彼を止めはしなかった。けしかけもしなかったけれども、止めることもしなかった。


それは、彼女が怒っていたからだった。横暴な人類に自分が庇護すべき種族を甚振られ続けたのだから。怒りを抑えきれるはずもない。


結果として人間にとって大きな国が二つ消えることになった。


そして、光の女神によって追いやられていた旧世代の人間達が帰ってくるきっかけになったのだ。精霊と心を通わせる力を持った部族たちが。精霊が使える人間達は獣人や亜人達にとっても敵ではないのだ。同胞に近い感覚で彼らと接している。場合によってはより精霊と結びついた優れた部族として扱ってさえいる。


特に光の女神によって被害を受けることになったという点では大いに彼らは共通点があり、怒りを募らせていた。人間達を恨み、憎み、嫌うことで彼らは団結した。人間達によって住む場所を奪われ、文化を侵され、誇りすら穢されたのだから。


ユウジは彼等のそんな痛ましい歴史など知らなかった。もっと早く知っていれば、なるほど人間族たちはクソなんだと判断して国を数個滅ぼしていただろう。


けれども、人間たちにとって幸いだったのはユウジがそこまで人間族達が為した暴虐に詳しくなかったことだった。それに長い間獣人側の大陸に居たわけでなく詳しい事は知らないのだが、彼の娘であるマリーシャがしでかしていた。邪神である彼女は父親であるユウジを痛めつけた人間全てを嫌っていた。ユウジの同胞である“ニホンジン”以外は何がどうなっても構わないだろうと考えていた。


彼女のユウジと根は一緒なのでムカついたら潰すという考え方が基本だ。


こうして、マリーシャは旧世代の人類に働きかけてグリディスート帝国の領土を割譲することにした。彼女は、魔物達にも働きかけて聖勇国以外の国は壊滅的な被害を受けるような魔物をあちこちに配置した。人間達が対処できそうもないレベル700以上から選抜した精鋭部隊を配置したのだ。ニホンジンである勇者達は決して殺しはしないように厳命していた。それはユウジにとっても大事なことだと判断したからだった。


マリーシャの情け容赦のない方針によって人類側の人口はユウジたちが異世界に来る前の3分の1にまで減った。親であるユウジは人間達がどうなろうとかまわないと心の深い部分で考えていることを知った上での暴挙である。確信犯的にやらかしているあたりは血のつながりがなくとも親子であると、鈴木は語っている。たとえ分身のようなものでも親子は親子なんだなという風に。


ユウジに怒られるのはマリーシャとて歓迎する出来事でない。マリーシャ本人は自覚が薄いが、彼女は父親大好きっ子であるから。そして、父親であるユウジもなんだかんだ言って手のかかる娘を持ったことを楽しんではいる。


結婚もしていないし、彼女も居なかった時期に娘なんかを作って自分は何をやっているんだろうという自己嫌悪に襲われることはあったが。それでも、おおむねマリーシャを創り出したことは自分にとっては良かったのだろうと考えている。


人間性を維持することにつながったし、誰かの面倒を見ることはそう悪い事でもないと感じられたためだ。わずかに残った人間性を繋ぎ止める役割をになったのがマリーシャの役割だった。無論、本人には欠片も自覚なんて無かったのだけれども。


まあ、世界が被った被害というか人間族が被った損害は大して変わってはいない。異世界の住民からすれば堪ったものではなかっただろうが。


魔族や獣人達に自分達の立場を思い知らせ、二度と人間族に刃向かうなんて愚かな夢を見ないために行った勇者召喚が自分達の首を絞める結果になってしまったのだから。この世界の人間族たちが行った勇者召喚は大失敗に終わってしまったのだ。


一人の元勇者、ユウジ サトウが存在したことにより。


彼を迫害しなければ今でも光の女神は人類を支配し続けていたし、獣人、亜人、魔族は人間族に反旗を翻していたことだろう。


彼に闇の女神が興味を持たなければ、やはり人間族にとって平和な時間は続いただろう。闇の女神がユウジに力を与えたことが人間族が衰退する全ての原因だったのだから。


力が無ければ、ユウジは復讐することが出来ず、あの迷宮で朽ち果てていた可能性が高かったのだから。


だが、結果として人間族はかつてないほどの苦難に立ち向かう羽目になった。光の女神はどこにおらず、人間達に味方してくれる存在はもはやない。勇者召喚も永遠に封印されてしまった。人間族はこれから、自分達の苦難は自分達で打破していかなければならない時代に入ったのだった。


神殺しをなした怪物のせいで。


ユウジ サトウの名は、人間族の中で永遠に語り継がれることになった。光の女神を殺した魔神ユジャートとして。


魔神ユジャートは人間族たちの見方であり、亜人達からすると武神ユジャトである。救済の武神ユジャトとして魔族、獣人族、エルフ、ドワーフ、精霊の民に語り継がれている。


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