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捨てられ勇者の異世界ボッチ放浪譚  作者: 雨森 時雨
第4章 女神が動き出したようです、面倒です、逃げましょう!
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第25話 世界を跳んだバケモノ

身体がきしむ。


頭が痛い。


吐き気が止まらない。


内臓がひっくり返ったような変な感じが止まらない。これが世界を越えた衝撃かあ。


久しぶりの日本だ。俺にとっては4,5年ぶりになるか。体感時間だけど。ダンジョンには3年近くはいっていたから。問題はまあ、金がない事だ。ただ、今回は日本時間が何時であるかを確かめるだけだから、金が無くても問題は無かった。


俺が出発させられたのは2016年5月23日だったと思う。それから向こうで、他の勇者達が過ごしたのは2年だったから。今は2018年でなければならないはずだよな。


俺が今着ている服は適当な模様の白シャツに、青いジーンズ。黒革のブーツだった。幸い、今の時期は夏に近い春といった感じで、俺の格好は周囲に溶け込めていた。気配を限りなく薄くしているので街行く人は俺に注意を払わない。


ああ、でも、懐かしいな。


そんなことを考えていたら泣いてしまった。悲しくも無いのに、涙があふれて止まらない。人通りが無かったからよかったものの、人が他にたくさんいる時に泣いてしまったのは本当に久しぶりかもしれないな。異世界生活を送っていても泣いたことはほぼ無かったしなあ。悔し泣きは数えきれないほどあるけど、今回みたいにいきなり涙があふれてしまったのは初めてかもしれないな。


ああ、帰ってきたんだなあと思う。元々召喚された学校から極めて近い場所に出ることができたのはラッキーだった。後は、覚えている知識で、コンビニに入る。


そして、雑誌を立ち読みしたんだけど、そこで重要な事実に気が付いた。


2016年5月25日。


それが今の日付だった。まて、そうなると、初代勇者の神宮さんの両親って生きてるんじゃなかろうか?


図書館に行ってみないとな。もしも、俺の考えと、光の女神の思惑が一致していれば思惑通りに事は運ぶだろう。


そして、驚くことに阿保女神の足跡が俺の世界でも見つかった。初代勇者の名前を検索したらヒットしたのだ。両親は今でも、彼の事を探し続けているようで、ホームページまで作成されていた。


神宮 迅。


俺達勇者の不幸過ぎる先輩。でも、異世界とこちらの時間軸がずれているパターンでよかった。それも俺達に都合の良いほうにずれていてくれて助かった。例えば、今が2200年代とかだったりしたら、俺は異世界から日本へは帰らなかったと思うし。皆にも帰れることは言い出せなかったろう。


誰だって、完璧な浦島太郎は嫌だろう?


あれはおとぎ話だからいいのであって、それが現実になるなんて笑えないことこの上ないからな。


知り合いは誰も彼も死んでいて、親類縁者も頼りにできない状況というのはきついものがあるもんだ。まあ、クラスメート達もいるだろうけれども、彼らはしょせんクラスメートであって、血縁も無いしな。いや、血縁関係というか、家族になる事はあるのか?


クラスメート同士で結婚すれば、そりゃあ、家族関係になるわけだが。とりあえずは、異世界に行っても、俺たちが居た期間は短かったのが幸いした。2年近くの期間が、こちらでは2日にしかならないってのは意外だけれども。


お陰で、神宮さんは500日ぶりに両親に会えるってわけだ。俺達は2日ぶりに両親達に会えるってわけだな。さて、どうしておくべきか?記憶を吹き飛ばしておいた方が不都合がないか?いや、いくらクラスメートとはいえ記憶を吹き飛ばしてもなあ。


それに異世界に行っていたと言っても、信じてもらえないだろうからそれでいいんだけど。でもなあ、やってもいないクスリの調査をされても困る。俺達はクスリではないが、女神からの“加護”をもらっていただけで決して怪しいクスによって体が変わったわけでないし。やれやれ、これだから異世界に召喚されるのは面倒なんだ。


2日間とはいえ、警察にも誰にも見つからずに行方不明というのはそれなりに世間を騒がせたようで、新聞にもちゃーんと載っていた。


“高校生たちが集団で行方不明”

“近隣住民も一切の目撃情報なし”

“不審車両無し、不審者なし”

“謎の閃光”


などと色々な情報が錯綜していて、元の世界に帰ったとしてもこれらの情報についての釈明をするよりも記憶が無いという設定にした方がいろいろと都合がいいような気がする。記憶が無ければさぐりようも無いし。それに俺個人では異世界からこちらに帰還できるけど、クラスメート達はそうもいかない。


あんな消費MPを支払うのは俺だってつらい。


一度に最大魔力の6割を消費するのは身体に負荷がかかるし、何より異世界からこちらへ来た時には体力もだいぶ減っていた。おおよそ、9割近くのHPが減っていたのだ。MPも発動させるのは66万だったけれども、その後なんだかんだで使ったのは100万近く。


異世界からこちらの世界を渡る際に体の強化や回復などに使ったものが多かったらしい。それでもこうして生きている訳なのだから、俺という人間も中々化物ぶりが直っていないという事だろう。世界を跳躍できたのは良い事だけれども、今度は世界をもう一度超えて帰らなければならない。


憂鬱だ。


あの苦痛をもう一度味わわなければならないなんて。


一度は耐え得られたのだから二度目も絶えられると分かってはいても嫌なものは嫌なんだよな。だって苦痛なんだから。快楽なら何度でも味わいたいもんだけどさ。そういう訳にもいかないんだからなあ。


本当に、嫌だけど仕方が無い。適当にぶらぶらしていれば自然に消費したものは回復する。できれば、何か買いたかったけれども今の俺は文無しだ。あちらから持ち込んだ食べ物でも食べて待っていよう。


魔法は使えるから問題ない。俺の身体にある魔力なら遠慮なく使えるしな。ただし、回復速度は遅くなっている。外から取り込む魔力が無いからだろう。この世界には改めて魔力が無いことを確認できる。本当にひとかけらも魔力が無いのだ。星の生命力的には大丈夫なんだろうか?


魔力って、いうなれば星の生命力っぽいしなあ。余剰生命力みたいな感じ?余っている体力とか、そんな印象だ。つまり、異世界のあの星は若いんだろうな。だから、魔力が存在している。で、こちらの星はまあ、若くは無いんだろう。おまけに、地球に住む人間というのは地球にある資源をこれでもかと消費しているからなあ。


星の寿命的には短いんだろうな。多分、興味本位で探った地球の残り寿命は10万年ほどだな。星から感じ取れる生命力があまり強くない。人間で言えば、70代前半程度の生命力かな?


まあ、そのころには俺は死んでいるから問題ない。それよりも問題は今夜の宿だな。文無しだからなあ。10代前半の若者が当てもなくふらふらしていれば警察官に補導されてしまうしな。今の俺の姿は人間だったころの俺の姿とは、また違う格好だ。


どこにでも良そうな平凡な顔立ち。


平均的な身長、平均的な体格。適度な長さの黒髪に、黒い瞳。


ステータスも魔力値以外は軒並み、地球人でもおかしくない程度には偽装しているし。まあ、あれか。気配遮断を本気でして、図書館にでも泊まっていよう。いや、古い図書館でないとだめだ。今時の公共施設というのは、案外監視などに金がかかっている。高い金をかけて建てた箱だからなあ、大事にしたいのだろう。


おまけに所蔵しているものも、図書館が金を払って手に入れたものだからな。盗まれでもしたら堪ったものでないと考えるのは普通なことだ。


となると24時間営業の古本屋にでも行くしかないな。立ち読みしても、今の俺の身体能力では疲れようがないから。ずっと読んでいられるんだけど。


でもまあ、たった2日間しかいなくなっていないのでは大して漫画などは変わっていないな。まあ、たった2日の話で済んでよかったけど。そうでなければ、20年とか、200年とかになっていた場合考えるだけで恐ろしい。


タイムトラベル物は勘弁だ。異世界に召喚されただけでも、お腹いっぱいだってのに、ここにタイムトラベルまで追加されてしまった日には神を呪いたくもなる。というか、この世界の神様も対価もらったからと言って、ホイホイ俺達を送り出さないで欲しいもんだけど。


神様って人間の思考回路とは全然違うからなあ。文句言ってもしょうがないのかも。


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