第20話 女神亡きあと
その日、光の女神が創星神によって葬り去られたことは全大陸に知れ渡った。
創星神たる、内海 創の存在は多くの者に衝撃を与えた。創星神は居るとは聞いてはいたが、
本当に存在するとは思っても居なかったのだ。神の存在が確認されたことは喜びだけをも
たらしたわけではない。創星神は異世界の勇者を何度も召喚したことに激怒していたのだ
った。この星の命ある者は自分達の問題をよその世界に丸ごと投げつけるような、不甲斐な
い者達ばかりなのかと大いに嘆かれたのだった。
その創星神の怒りと嘆きが多く入り混じった言葉を聞いた民達は打ちひしがれたのである。
星を創りし偉大なる神から失望されてしまった、と。
そして、創星神の怒りの原因は光の女神だったことに民達はさらに打ちのめされた。光の女
神は神格を剥奪されて、この大陸の何処かに人間として生まれ変わるという。しかも力を封
印され、女神の魂を宿す人間を探すことは叶わないそうだった。
この事実は続けて人間達を打ちのめした。
これから、自分達は誰を頼りに生きていけばいいのか、と。
そうして、亜人族や魔族達からの復讐を恐れた。既に、魔神を名乗る復讐に狂った勇者か
ら十分な痛手を人類は受けていたからだ。狂った勇者だったユウジ・サトウによって大陸
の人類側の文明は大いに破壊されていた。グリディスート帝国をたった一人で崩壊させた
のは記憶に刻み付けられている。
今また、光の女神を失墜させるきっかけになったのも、ユウジ・サトウである。ユウジ・
サトウを庇護するのは闇の女神であった。彼女は亜人族や魔族の守護者である。これまで
ずっと、何百年も我慢してきたようだが、己が庇護する種族を光の女神が守る人間族に虐
げられ続けた怒りが爆発したようだった。
狂った勇者を自分の庇護する勇者として、人類最大規模の戦力を持つグリディスート帝国
を滅亡にまで追い込んだ。彼の国は光の女神の信奉国としても良く知られていた。神聖国・
ディヴァイネーティス程ではないにしろ光の女神を強く信じていた国家だった。それがた
った、勇者を召喚してから1年以内に瓦解してしまった。
それだけの力を個人が有してしまったことに、この星に住む人間族たちは絶望を感じた。そして今まで迫害され続けてきた、亜人、魔族達にとっては大いなる希望となった。
今までとは立場がまるで変わってしまったことに、支配する側に居続けることができた人間達は戸惑った。何せ、自分達がこれまで他種族に対して行っていたことをこれからは他種族から、行われることになるかもしれないのだから。
奴隷扱い。
一方的な侵攻と略奪。
大量殺人。
そんなことを行ってきたのだった。これから、彼らがどうなるのかは誰も知らない。
ただ、彼らの未来は明るくはないだろうことは確かだった。グリディスート帝国によって召喚された勇者達も、今では聖勇国の住民である。そして、聖勇国の住民は基本的に、他種族に対して排他的な振る舞いを一切したことが無かったのだった。
そうなれば、今の今まで排他的な振る舞いを続けていた神聖国ディヴァイネーティスの国民達はどういう扱いを受けることになるのかは明白であった。
すなわち自分達がかつてしてきたように扱われるのだろう。そう考えて、これからの日々に絶望感しか抱けないのであった。
そのころ、聖勇国に居る日本から召喚されて来た勇者達も光の女神がただの人間になり下がったことに衝撃を受けていた。
「これから、どうするべきなんだろうな?俺達はさ。」
今もなお、勇者達の中では頭一つ抜けている神崎 翔輝が言った。彼のレベルは1000であり、ユウジがかつて飛ばしたINAGO達とも戦った経験がある。
ちなみに感想としては二度と戦いたくないというのが本音だった。
虫の癖に固すぎたし、強過ぎた。
あの異常なまでの硬さは何処からくるのだろうかと本気で頭を抱えて悩んだものだ。それでも、クラスメート達と協力して何とか、帝国跡地の怪物(INAGO)達を駆逐したのだった。というか、途中からはいきなりあの害虫たちが爆散しだしたので手を降すまでも無かったといのが正しかったが。
かつて召喚された、グリディスート帝国という国はもう、無くなってしまっている。今では北の方から来たかつては蛮族と呼ばれていた古代民族達によって支配されてしまっていた。彼らの話を聞く限り、彼らはかつて自分達がそこに住んでいたという。
翔輝としては、正直、彼らの話が本当であれ、虚偽の物であれ関心はなかった。今でも、彼は日本へ帰ることを諦めきれては居ないのだから。あの平和な日々を取り返すことができるのであれば、死なない限りはどんな代償を払っても良いとさえ思っている。
「そうだねえ、佐藤の化物っぷりにはドン引きしたけどさ。でも、あいつが俺達の中で一番強くなったことには驚いたよ。あいつはいつも無気力で、何事にも興味ない感じだったじゃんか。」
そう、応じたのは坂本 信一郎。翔輝の親友であり、彼の右腕のような人物だ。翔輝のような派手なリーダーシップは無いし、本人もその気はない。ただ、影で物事を進めていくのが好きと言うタイプだったから、翔輝との相性は結構いい。
基本、マイペースであり物事がすっきり運んで行くのを好む。
もっとも嫌いなのはイレギュラーな事態が多発することだ。だが、それも翔輝がいれば何とかできると考える程度には、翔輝の事を信頼している。自分にはない人望を彼の親友が持っているので、イレギュラーな事態が起きても人海戦術で何とかできるだろうと踏んでいるのだった。
「まあな。話していても普通だったし。あれほどの怪物になるまでどんな経験をしてきたんだろうな。俺達が知らない間に何があれば、平和な日本で生きてきた奴があんな怪物になれたんだろう?」
そこが一番不思議だった。誰かを傷つけることに一切の躊躇が無かった。自分達が同じ、日本出身でなければ皆殺しにされていてもおかしくないほどの殺意を感じた。
「さあね、でも俺達が日本人だから殺さないとも言っていたから。あいつはあれで意外と情が深いのかもしれないね。さて、これからは元の世界に帰る手段を探そうとしてたのになあ。」
光の女神が拘束されて、ただの人間になり下がり、おまけに行方不明となってしまった。
「光の女神の親、創星神だったか。娘の不始末を何とかしてくれてもいいんじゃないかなぁ?」
翔輝がぼやく。
「ふむふむ、なるほどなるほど。その理屈には一理あるね。」
いきなり、見慣れない青年が現れたことに面食らう二人。
「だ、誰だ!?」
信一郎が叫ぶ。マイペースでのんびりしている彼でも、いきなり友人と二人だけのはずだった部屋に新たな人間が音もなく現れれば慌てる。
「俺かい?俺は君達が話していた創星神だよ。見た目は、若いがこれでも大分君達よりも年上なんだぜぇ?敬えとは言わないけど、君達俺に何かして欲しい事でもあるかい?」
翔輝はすぐさま言った。
「俺達を日本へ帰してくれませんか?」
それしか願いはない。
「うん、できるよ。時間はかかるけどね。君達は勇者召喚された時に、気が付かない間に改造されてしまっていてね。本来であれば、君達を元の世界に戻すことは禁じられている。けれど、今回の件は、明らかに俺の管理ミスだ。だから、俺は君達に償わなければならないわけだな。1年ほど時間をくれないか?その間にある程度の辻褄を合わせられるように調整してみるからさ。」
見た目は普通の青年なのに、感じる圧力は普通ではない。間違いなく、神なのだろう。自分達とは隔絶した力の差を感じる。
「お願いします。この世界に来た日本人全員を元の世界に連れて帰ってください。」
翔輝は頭を下げた。続けて信一郎も頭を下げる。元々は日本人だった、創星神こと内海創も彼等の行動に好感を持った。ユウジに比べれば、はるかに劣る力ながら、異世界生活を一年近く送って来られた精神力は中々の物だ。しかも同級生達を取りまとめながらだ。男女混ざった、同級生達を問題なくまとめてみせている彼らは力がある。
ユウジとは違った意味で、力が強いのだろう。率いる力が神崎という少年には有るのだろうと創は思った。懐かしい気分だ。だからこそ、彼らに協力するのも嫌ではない。思えば、自分が放っておいたせいで、光の女神がずいぶんとこの世界に迷惑をかけてしまった。
だからこそ、彼らの世界の神に代償を払うことになってでも元の世界に還してあげようか、そう思っている。
「じゃあ、君達を還すことができるようになったら報告に来るからね。」
そう言って、来た時と同じように彼は消えていった。
「あれが神様?ずいぶんフランクだったけれど。」
翔輝がつぶやく。
「もう知らねえよ。何があっても驚かないさ。とりあえず、もう1年はここに居ることになりそうだから、今のままで頑張ろうか。」
信一郎が言った。
「そうだな、まだ確約されたわけじゃないから、皆に話すのは後にしよう。それに俺達二人が白昼夢を見ていたと思われるのも微妙だしな。」
「確かに、神様を見た、なんてあちらの世界じゃ確実に警察かちょっと疲れすぎている人が行く病院にお世話になる案件だからな。」
そう言って二人して笑い合った。未来はどうなるかは分からないが、これからは帰還の希望が見えてきた。先の見えない世界でも、異世界から来た高校生勇者達は案外たくましく生きていたのだった。




