第17話 初代勇者
「さて、大体終わったんだけどね。でも、まあ、俺の生み出したディヴァイナ・ネ・シアの最大の被害者君を呼んでいなかったっけな?彼を呼ばないと始まらないよね、初代勇者君をさ。」
内海さんがニコニコしながら言った。
そういえば、ずっと名前すら出てこなかった初代勇者も光の女神の被害者だったね。というか、光の女神って、ディヴァイナ・ネ・シアという名前だったんだなあ。ずっとクソ女神や光の女神としか呼んでなかったから分からなかったよ。
あれ、そういえば、正しいディアルクネシアの呼び方があるんだな。ディアルク・ネ・シアが正しい呼び方なんだなあ。彼女はずっと俺に本名を名乗ってくれていた訳か。まあ、力の差があり過ぎて、俺が彼女を害せるわけなかったから、本名を教えてくれたんだろうが。
大穴で、俺の事を面白がっていて、名前くらいなら教えてもいいかって思ってくれた可能性があるかもしれないけどな。
ま、今は初代勇者さんの事だ。
「じゃあ、呼び出そうかな。」
気軽に言って、内海さんが初代勇者を召喚した。
ただ、初代勇者は戦神と呼ばれていた訳で、彼の主である光の女神はフルボッコだったんだが。助けには来なかったのはなぜだろうか?従者的な一難だから、主人を助けに現れるのが普通なんじゃないだろうか?
「ここは?何で、俺を召喚したんだ?何か俺に用か?」
そう言って現れたのは、完全にくたびれたオッサンの雰囲気をした10代後半の青年だった。目の下には隈があり、顔色も悪く、背も丸まっている。これが初代勇者か?髪は伸び放題で、好き放題に散らかっていて、浮浪者みたいな見かけになっている。着ている服も薄汚れていた。それでも、体には垢の汚れなんてのが見えないのが神様らしい感じだが。きっと、神ってのは老廃物を出さない仕組みなんだろうな。俺の身体も、排泄物は出ない作りだしな。何せ、食べたもの、飲んだものは全て魔力に還元されるからな!エコである。
震えている右手には、酒瓶を持っていた。左手には酒杯を持っていたな。
駄目だ、これ、アル中患者じゃないか?そして、召喚された初代勇者の顔は青黒くなっていた。間違いなく酒の飲み過ぎだろうな。いくら神でも、限度はあるってことか。それでも死ねないとしたら地獄だろうけどな。
背丈は180センチくらいで、顔は整っている。頬はこけてはいるが美男子と言える顔立ちだろう。金髪金眼であり、俺が知っている勇者達と外見だけは変わらない。ただ、雰囲気が疲れていて、くたびれていて、どうしようもない感じだが。とてもじゃないが、戦いの神様なんてのには見えない。
俺の探るような視線を感じたのか、彼は俺達を見て言った。
「あんたが、あの忌々しい女神をぶちのめしてくれたのか?感謝するぜ。これで、俺をぶっ殺してくれれば、もっともっと感謝するんだがな。」
にやにや笑いながら言った。まるで決してそんなことは叶わないと知っているかのような諦めたような笑みだ。
「いきなり自殺志願されても困るんだがな。」
相手が、態度が大きい感じだったから、こちらも同じように横柄に応じる。俺は相手の態度に応じて、接し方を変える男だからな。
「殺して欲しいなら殺してやるけど、理由は何だ?後は報酬寄越せ、初対面なのに頼みごとされても受け付けないぞ、俺は。」
魔神のオレは殺すことに罪悪感は持たないんだな。理由があれば殺しても良いってんだから。いくらなんでも、初対面の人間を殺すには躊躇するぞ、俺は。
初代勇者はくすくす笑いながら言った。
「へえ、俺が初代勇者だってことを分かっていながらその態度とはな。あんたらにはそれだけの強さがあるってことか。まあ、俺ができなかったことを成し遂げたわけだからな。それくらいの強さがあるか。」
魔神としてのオレと、人間を超えた俺を交互に見ながら彼は言った。まあ、ぱっと見双子みたいだが、強さの中身は魔神の方の俺が持っているからなあ。比率で言えば9対1で、魔神が強い。
魔神のオレが初代勇者に向かって言った。
「なあ、話とずいぶん違う感じなんだが。人間の俺と一緒の時に聞いた話だったら、あんたは光の女神と添い遂げたんじゃなかったっけ?」
その言葉を聞いて、初代勇者は体を怒りで震わせながら言った。
「ふざっけんな!!誰があんな糞女と添い遂げるかよ!!あいつは俺を人間でなくした。俺を死ねなくした糞女だ!!」
その言葉を聞いた光の女神は泣きながら言った。
「どうしてよ!どうして誰も分かってくれないの?!すぐに死んじゃう人間の身体なんて何で大事なのよ⁉不滅の肉体に、無敵に近い力をいつまでも振るえる方が良いじゃない!!私が愛してるんだから、あなたはいつまでも生きていないといけないじゃない!!どうして分かってくれないのよ!!」
それは神様の視点だな。人間だからこそ、人間で居続けたい欲求ってのがあるんだが。何せ、神なんてのは人間の理解を超えたところにある感じだからな。
家族を作って、普通に老いて、普通に死ぬ。
勇者なんて非日常の極みなんてやらされた後では、そういう普通の人生に憧れる気持ちが余計にでも強くなったんじゃなかろうか?
おまけに元の世界には帰ることができなかったんだろうしな。怒りに打ち震える初代勇者を見て、俺は思った。そういえば、俺と初代勇者は同郷人なのか?二次元世界ではよくあるんだが、勇者召喚は大体相性が良い世界から何人も連れて来られるパターンと、勇者の出身世界が全部バラバラなパターンがあるんだよな。この世界はどちらなんだろうか?
光の女神の言葉を聞いてさらに激昂した初代勇者は叫びながら言った。
「ふざけんなよ、糞女。頭がおかしんだよ、あんたは。もう、我慢の限界だ!!いい加減に元の世界に俺を戻しやがれ!!俺はあんたの事なんて好きでもないし、愛しても居ないんだからなぁ!!」
「酷い、酷い、酷過ぎるわよ!!私はあんなにあなたに尽くしたのに!」
「それって、俺を神様にしたことか?俺の許可を得ずにいきなり神様にしてくれやがったじゃねえか。」
それは酷い。今日から、あなたは神様になったからなんて言われて受け入れられる方がおかしいと思う。おまけに寿命が無くなったってのは?俺でも500年の寿命であって不滅ではないのだけど。
「俺の名前を知っている者がいる限り俺は死ねない身体になったんだ。そこの狂った女神がなあ、俺を神様なんてものに祭り上げたせいで、俺は死ねない身体になっちまった。俺は不老不死なんてなりたくなかったのにな。」
「ああ、それはそうだろうな。普通の人間の感性で神様なんてなれるわけないからな。そうなれるのは適性がある一握りの人間だけだな。」
魔神のオレが言った。まあ、魔神のオレは神性があるし、種族も神なんてものが入っているからな。だから適性という点では十分なんだろうな。
そして、内海さんがニコニコしながら言った。目が笑っていないのが超怖いんだけど。
「あのなあ、ディヴァイナ。俺は確かに人間を愛してくれといったけどな、縛り付けろとは言わなかったよな?どうして、こんなことになったんだ?」
「だって、だって、お父様がいけないのよ!!寂しかったのに、寂しかったのに、何万年も私を放っておいて、旅に出ているからぁ!!誰も私を愛してくれなかった、誰も私に言葉を気軽にかけてくれなかった!!」
泣き喚く光の女神。
同情できなくもないが、自身が神として作られている以上普通の人間と同じように生きるのは無理だろう。
「姉さんは本当に救いようが無いほどの馬鹿なのね。」
ディアルク・ネ・シアが言った。普通に切り込んだな、おい。
「私達はお父様から世界を治める【神】として在れと作られた。だから、私たちはお父様が課された役割を全うしなければならないのよ。どうして、そこで人間みたいな幸せを求める必要があるのかしら?」
その言葉に激昂した光の女神は喚きながらディアルク・ネ・シアを睨んだ。
「貴女だって、その薄汚い化物を特別扱いしてるじゃない!!名前を呼ぶことも許して!私と何が違うのよ!!」
その言葉を聞いて、ディアルク・ネ・シアが切れた。
ずかずかと歩いて、光の女神の胸ぐらをつかみながら言った。それも片手一本で、だ。さすがに闇の女神は違うな、神格がオリジナルなままだから出力がまるで違う。ディヴァイナの阿保とはまるで違うんだな。
「あんたがやり過ぎたからでしょうが。私に対して、どれだけの苦情が舞い込んできたと思うの?あの馬鹿姉を何とかしてくれとか、光の女神を殺してくれとか、どれだけの苦情を私が捌いてきたと思っているの!!あ・ん・たが、光の勇者にぞっこん過ぎたせいで私が守るべき種族はどれだけ痛めつけられてきたと思ってる!!だから、私が今度はあんたと同じようなことをしてやろうと思ったのよ!!」
胸ぐらをつかんだ手を離した、一瞬でディアルク・ネ・シアは拳をディヴァイナの顔面に突き刺していた。しっかりと腰が入った、良い拳だった。
「ユウジはとても強い復讐心を持っていた。私との相性も良く、何よりも光の女神を心の奥底から憎んでいた!だから、私は可能性にかけのよ。あの子があんたを殺してくれる可能性にね。何年かかろうとも、彼ならそれを成し遂げるだろうと思えたのよ。あれほど強烈な殺意はなかなかないものね。」
俺達を見ながらディアルク・ネ・シアは言ってくれた。そこまで高く評価されていたとは知らなかったけど嬉しいものだ。俺の執念深さも大したものだ。
で、クソガキじみた光の女神様は地面を転げまわっていた。
「痛い、痛いい!!何で、どうして、私ばっかり、もう嫌!!いつもいつも、私の願いだけ叶わないのはもう嫌!!」
妹に殴り飛ばされ、泣きわめき続ける光の女神。鼻水をたらし、泣きながら愚痴をこぼし続けている。そんなんだから、誰からも愛してもらえないんだろうが。相手の事をしっかりと考えていない贈り物ばかり送っても、決して喜ばれないんだよな。相手の好みとか、、情報をしっかりと集めたうえで贈り物は送らないとな。
独りよがりってのは駄目だな。
ま、デートの一つもしたことが無い俺が言っても説得力がないだろうけど。ギャルゲーだとそうだったから、おおむね間違ってはいないだろう。相手が喜ぶ品を調べて攻略したのは良い思い出だった。何せ俺の勘に任せた結果は、クラスの親友とのエンディングだったからな。友情は全うできたが、恋愛は全うできなかったわけだ。
…まあ、鈴木は一発で正解ルートに辿り着いた挙句隠しキャラまでも出しやがったが。あいつはオタクとして、立派な行き着いた奴だな。
そんなことを考えつつ、俺達は愁嘆場を目の当たりにしたのだった。げんなりするがしばらくの辛抱だな。




