第13話 足りないなら、足せばよい
さて、俺じゃあ存在の強さが追い付いていないのは百も承知。だったら、俺よりも歴史がある奴に力を借りればいいんじゃね?そういう事で、クリムゾニアスの召喚である。久しぶりだなとは思うが俺と彼との関係は特に変わるもんじゃないだろう。
「力を借りたい!来てくれクリムゾニアス!」
彼を呼ぶ。
すると、きわめてタイミングよくやって来た。なんでもディアルクネシアが補助してくれたらしい。
「ついにやるか、ユウジ。」
人の姿だった。2メートル近くの長身に、厳めしい顔つき、体格も相変わらずごつめだが、少し細くなった気がする。
「筋肉付けたのか?人の姿で。」
「ああ、人の姿で徹底的に鍛え上げたぞ。お前がいつ、光の女神に挑んでも良いようにな。おまけに、獣人に極めて優れた武術家が居たのでな。気とやらの使い方も教わってものにしたところだ。」
とんでもない才能だが、戦いのために生まれた龍なんてそんなもんか。俺は人間だが今では魔神である。戦うための本能は持って生まれたものなんだろうか?まあ、良く分からんが、今はクリムゾニアスの積み重ねた年月の力を借りたいのだ。そういえばクリムゾニアスは何年生きているのだろうか?
「私の年齢?ふむ、確か万は超えているぞ。生きている年月など私ぐらいの龍になると感覚は薄れるからな。普通の龍でも2千年は生きていられるのだ。私ともなると何万年生きるのかも分からんな。」
つまりそれだけの存在の強さがあるということ。ありがたい事だから拝借させてもらおう。大陸中から力をかき集めている光の女神は今の俺の出力を超えていく可能性を持っているのだ。そんな状態の奴をぶちのめすためには俺とクリムゾニアスが一つになって当たるしかない。
「なあ、クリムゾニアス。俺に力を貸してくれないか。こう、俺と一時的に融合するかなんかして。」
前に言っていた降るというのはそういう事だと思うんだが。
「確かになあ、お前に降るしかないな。お目なら私の力を取り込んでも返してくれるだろうしな。」
クリムゾニアスが俺に試すかのような視線を向ける。紅蓮龍王の力を我が物顔で使おうとは思わん。今は必要だから融合して戦う道を示しているだけだ。力では圧倒できても、殺し切れないでは意味がない。殺す寸前まで追い込んでから封印だ。
「ああ、当たり前だ。でないとサクレーヤに恨まれる。」
娘に追い掛け回されるのは勘弁してほしい。しかもサクレーヤは強いだろうから。
「そうだな、確かに私も孫が見れなくなるのは困るからな。という訳で、この戦いが終わればお前はサクレーヤに会いに行け。あれも、お前と戦えるのを楽しみにしているのだからな。」
「まー、力を借りる条件としては安いもんだ。良いぞ、行ってやる。ただ、魔族領と亜人領に挨拶をしてからでも構わないか?光の女神の事で色々と話さなけりゃならんだろうし。」
「分かった。来てくれさえすれば私としては、不満はないさ。やるぞ。」
「応とも!」
拳を打ち付ける。お互いに開始の合図は要らなかった。必要だから、龍神クラスの相手を自分に降らせた。そして、クリムゾニアスも同様に必要だから、魔神に自分の存在の全て貸し与えた。普通の関係でない二人だからこそできた気がするなあ。俺もクリムゾニアスでなかったら拒絶反応が出たかもしれないしな。
クリムゾニアスの古き龍としての知識が俺の脳内を満たしていく。戦った敵も様々で、神の使徒らしきものとも戦っている。使徒というのは俺と同じで神の加護を与えられた人間の事だ。どうも勇者を召喚する前からクリムゾニアスは女神ともめているらしかった。
力をかき集め終えたらしい女神を見る。
確かにさっきまでよりは成長していた。クソガキから、20代前半の女性の姿に戻っていた。だが、感じられる力はディアルクネシアには遥かに劣る。せいぜい、小指一本分程度の力だろう。彼女の力は完全無欠のままだからな。おまけに神格もオリジナルのままだ。劣化し尽した、目の前のバカ女神とは格が違う。
「おう、クソガキ、それでようやく本気なんだな。」
確認する。それでいて相手を超えて叩き潰すことに意味があるのだ。
「はぁ、糞トカゲと融合したのね汚物。ますます薄汚さに磨きがかかったわね。美しい私と言葉を交わせるだけでも、身に余る栄誉なのに。あまつさえ戦わせるとはね。本当に野蛮な獣の考えはついていけないわ。」
そう言いつつも、殺意に満ちた顔をしている糞女神である。まあ、俺に漏らさせられたもんな。恨みはかなり買っているよな。
「そうかい?汚物の前で漏らした女神さま。獣でも下の世話は自分でできると思うぞ?ああ、それともあんたは獣以下か?無様に垂れ流しだもんなあ。」
クククっと笑って見せてやる。内側に居るクリムゾニアスは俺の記憶を見て爆笑しているが。まあな、女神が漏らすなんてことはありえないだろう。というか、肉体を持ち始めている時点でやばいだろう。寿命が見え始めたという意味もだし、神格を失い過ぎたというのは本当らしかった。本来であれば、女神と言いうのは力の塊なので、何があっても漏らすなんてありえなかったのだ。排泄行為は不要な存在だったから。エネルギーの塊が人間の姿をしているのが神という存在らしいからな。
人間には知覚すらできないほどのエネルギーの塊をまとめたのが神ということになる。
そんな存在であれば、俺なんかの攻撃は通らなかっただろう。だが、今は生身を持ったまま強化されているので、俺達の攻撃は通るはずだ。ちなみに、排泄をしないとという点では俺の方があのバカ女神よりも神格が高いということになる。
まあ、俺の場合は排泄物が出るほど、体のエネルギー変換効率が悪いわけでないという事だけど。力の全ては魔力に変換されているからな。俺が吸収したありとあらゆるものは魔力に変換されるように体を作り変えているし。今の俺は、半分はエネルギー体であり、もう半分は肉体を持った存在だ。きっと、あと千年ほど鍛え続ければ、完全な神として覚醒できるはずだ。今でも半神半人といったところまで来ているしな。
「き、き、きぃいいぃぃぃあああぁぁっぁっっつっ!!!!」
お?ヒステリー起こしやがった。
辺り一面に光弾をばら撒き始めた。なんて迷惑な奴だ、俺は事実を言っただけなのに。
≪さすがにそれは無いな、ユウジ。私でも、今のはちょっと同情するぞ。≫
クリムゾニアスは寛容だなあ。あんな奴なんかは、ヒスを起こしたいだけ起こさせてから駆除すればいいのだ。
「さて、試運転と行きますか!」
俺は女神目がけて空を駆けた。何で、ああいう女神ってのは空に居たがるのかが分からん。こちらを見下ろしておきたいんだろうが。白くて、ごてごてした飾りだらけの神官服のようなものを着た馬鹿を相手にする。
全体的に、青とか金とか、おまけにアクセサリーを付け放題の成金趣味みたいな神官服がこいつの私服みたいだった。馬鹿ってだけはあって趣味が悪い。
「獄炎拳!!」
鍛え抜いた拳で、意味も無く技名を叫んでぶん殴る。こういうのもお約束だろう?
俺の拳は易々と女神の腹に埋まった。そして、突き抜けた。おお?紙みたいに薄い装甲でしたか。トイレットペーパー並みだぞ?手応えが。
「気を抜いてんのか?お前さ。やる気あんのか、おい?な、それで本気って冗談だよな?冗談て言ってくれよ?なあっ!!弱過ぎる!!」
更に殴りつけて、とどめに蹴りつけて地面へと埋めておいた。腹に空いた穴を修復できていない間に、更に内臓を内側から焼いてやった。回復速度は早いが、俺が壊す速度の方が早い。
なんか拍子抜けだな。これで本気なんだろうか?
相手の表情を見る限り本気みたいだ。
何やら泣き喚いて、こちらを射殺しそうな視線で見つめている。目障りなので、顔面に全力で蹴りをいれておく。ついでに、クリムゾニアスが修めたという闘気の使い方もばっちり取り入れた蹴りだ。ぐしゃっと熟れた柿が地面に落ちて飛び散ったような音がした。やっちまったかもしれん。
「おい糞女神、生きてるう?」
呻き声はするから生きているだろう。それにしてもなんて脆いんだろう。これは豆腐くらいに脆いぞ?ディアルクネシアであれば、今の一撃は受けてみたろう。ふむ、こいつは本当に力を無くしているんだな。
大陸中からかき集めた力も、そこまでは濃くなかったんだろうな。俺が大陸中の光の女神を信じる一番大きな国を破滅させたことが大きい効果があったのかもしれん。あの国も、遅かれ早かれ古き民達に占領させる予定だし。
俺にとっても、古き民達にとってもハッピーな選択肢だと思う。聖勇国の民たち以外は俺にとって価値のある存在はいない。あの国は、俺達と一緒の日本人が作り上げた国だからな。さすがに壊すわけにはいかない。よって、この世界の人間達が作り出した国はとことん滅ぼしていいと思うんだが。だって、この世界の人間たちは俺の敵だから。
敵であれば、別に滅ぼしても構わない。刃向かってくるのであれば、誰であろうと、俺は潰してやる。
俺の人生を奪い、好きに弄んでくれたんだから、そのくらいのお返しをしても良いとは思っている。
やられたから、やり返しているだけのこと。何が悪いのか?阿保の女神は俺を見て茫然としているだけで動かない。
「どうした?人間にここまでやられて黙っているだけか?糞女神。」
「ありえない…ありえない、ありえないわよ!?どうしてなの?どうして私がこんな風にされなくちゃならないの!?どうして?どうして?ふぉうしてよぉぉぉぉおっっ!!!」
「やかましいってんだろうが、糞!!」
また、脳天を消し飛ばしてやった。何度でも叫びやがるな、このクソは。当たりに肉片が飛び散るが、しばらくすると元に戻ろうとして動き始めるのだった。執念深い糞女神め。
「親の顔が見てみたいな、こんな糞を作った親の顔が。まったく、どうしてディアルクネシアみたいにしっかりした神様を作ってくれなかったんだ?」
俺が首をかしげると、急に声がした。
「いやあ、ごめんごめん。ここまで駄目になるとは思っても居なかったんだよ。俺の認識が甘かったかな?」
聞いたことのない声だったが、同時に決して敵わないと体中の細胞が訴えていた。絶対に勝てない、この男には何があっても勝てない。そんな、感じだ。声からして若い男。俺は警戒しつつ後ろを向く。
そこには、ごく普通の日本人の兄ちゃんがいた。
170センチ程度の身長、中肉中背、ぼんやりとした。けれど古い古い年月を感じさせる不思議な光を讃えた瞳。見た目は若いのに、中身だけは酷く年を喰っているような感じがする。20代前半くらいのはずなのに、気配は獣人の村に居た長老と似通っている。
「あ、あんたは、誰なんだ?何でここに来た?」
「いやー、君がそれを聞くかい?親の顔が見たいって言っただろう?だから、来てあげたのさ。ちょうど、この子に関する苦情もシャレにならないほどの数になって来てね。更生させるか、作り直すかのどちらかにしようかと思ってね。」
ニコニコと、男はとんでもないことを言ってのけた。神クラスを作り直すだって?どんなチートだ、こいつは?
まったく、ここに来て増々分からないことが増えたぞ。
まあ、説明してもらうけどな。何があっても。
「お父様!?どうして、ここに?」
いきなりディアルクネシアが飛んでくるほどの案件だってことも知ってた。というか、お父様ってさ。マジかあ。
今日は、驚くことが多過ぎないかなあ?




