第10話 魔法怪物ボッチ(笑)の放浪録
とりあえず、さまよっていて見かけた相手を魔法で吹きとばす。
なんだか馬鹿でかい鳥だった。フクロウみたいな感じだ。サイズはかなり違っているが。あんな大型トラックみたいなフクロウがいてたまるか。
火属性の魔法に闇を少し込めて黒炎としてから爆発させる。黒炎とか中二臭いなあ。でも、こうした方が早い。相手の鳥は消えない炎に戸惑っているようだが俺に果敢に攻撃を仕掛けてくる。勇敢だな。
続いて風属性を発動して、巨大な風刃を創り出す。そして相手の翼を切り下ろす。相手の巨鳥は翼を落とされて地上へと激突した。こうなってからはもうどうしようもない。
「いただきます、成仏しろよな。」
俺は闇魔法を発動して相手を喰い尽くした。そして、頼りになる翼を手に入れてご機嫌となった。やっと空を飛べるようになった。今までの迷宮型のダンジョンらしさが打って変わって、第2層ではただただ目の前には普通の景色が広がっていた。フィールド型ダンジョンとでもいうのだろうか?空はあるが太陽は無い。だが、空は明るくなるし、暗くもなる。昼と夜とでは出没する魔物の強さが違う。夜の方が厄介な奴が多く出る。だから、最近の俺の探索は基本夜になってからである。昼の魔物はもう喰い尽くしてしまったのだ。
フクロウを美味しくいただいた俺は空からの視察に入りたいと思って動き始めた。俺は蝙蝠とフクロウの羽を同時に展開して、金属製に変えてから飛び上がる。魔力を十分に流し込んで、強度を上げて空を飛ぶ。肉体操作を繰り返していたらこんなこともできるようになっていて、どんどん人間を辞めていくことに俺は慣れて来ていた。
「おおっ!!」
思わず感嘆の声が出る。このダンジョンは広かった。空の上から見てもかなり遠くに境界線があるのが分かるだけだった。だが、その広さはどのくらいなのか?ちょっとした町以上はある気がする。翼を使って、飛ぶ。地上すれすれから上がれる限界高度まで飛び上がる。というか、高度はかなり高めだった。空気が薄くなるのを感じて、限界まで上がろうと思って上がり続ける。俺の人外ボディは空気の薄さをものともせずに、風魔法によって酸素を創り出して尚も上がる。そして、物理的限界に行きあたる。もう境界線だったのだ。だが、ここまで上がるのに要した時間は中々のものだった。20分くらいは飛び続けていたはずだ。
なかなかいい景色だ。これが外ならばどれだけ良かったことか…。
とりあえず、地上に獲物が見えた。本能的に気が付いたら地上めがけて急降下していた。そして、一撃で獲物をしとめて、俺はそいつを喰っていた。狼型の魔物だったが、細かいことはどうでもいい。空を飛ぶと腹が減ることが良く分かった。それにしても、もう、雑魚の魔物は俺にとっては餌に過ぎなくなってるなあ。姿形も人間を辞めたら、思考まで人間の物を辞めて行ってるなんてなあ。
「まったく、本当に参ったな。これじゃあ、マジモンの化物じゃねえか。」
俺は自分の現状を諦めつつあった。
人間と関わっていない限り、どうも俺は化物の思考に引きずられやすいらしい。もともと、人間も好きではなかったし、やはりなるべくして化物になったようだ。種族は恐らく怪物になっていくんじゃなかろうか?
とりあえず、狼型の魔物は意外に上手かったな。それにしても最近は、血の味、肉の味、内臓の味とただ、肉を喰らうだけでもずいぶんと味の違いが分かるようになってきた。調味料が欲しいし、焼きたいとも思う。ただ、焼いて食ったこともあるが、どうも血の味があまりしなくて好みでなかった。本当に肉食系の思考である。無論、男女交際のあれではないけれども。そちらでは絶食系である。何せ、コミュ障気味なのだ。女の子との楽しい会話など、ハードルが高過ぎて死にそうである。
いや、そこは置いておいて。
そもそも、ステーキはミディアムが好きだったのに。いつの間にか生が一番好きになっていた。いや、血が滴る感触が良いし、粘つく血の喉ごしも始めは気持ち悪かったが慣れると何とも言えない旨味がある。とうとう、血の味も語れるようになってしまった。内臓も、まあ、美味いものは上手いがこれは種族によって旨い不味いがはっきりしている。基本的には鳥型の魔物の内臓が一番あっさりしていて俺は好きだが。
…ちなみに内臓の味談義ってもう、俺は人として終わってるんじゃなかろうか?
そうこうしているうちに魔法の修業をしつつ魔物を喰い殺しながらも数日後に俺は主の部屋を見つけた。他の土地に比べるとやや高い位置にあったのが主の部屋らしいといったところだ。
主の部屋に入る。
威圧感を感じられなかった。…俺は何処まで強くなっているのだろうか?俺にとっては主といえどもただの肉と血袋に過ぎなくなっていたのだ。2層はこんなものなのだろうか。まあ、手軽でよかった。1層のボスが強過ぎたのだと思おう。あれを乗り越えられて、この2層の雑魚ボスを殺せないなんてなかったのだ。グリフォンというのは結構珍しかったが、今の俺の敵ではない。
せいぜい、中型トラック程度の大きさの魔物で俺を殺すなど片腹痛いわ!
風を纏って突進してきたので、俺は翼を切って頂いた。中々、美味い翼だった。そして、脚も引きちぎり、炎を出して焼き鳥にして食う。腸を引きずり出して、焼いてから喰う。やはり塩くらいは欲しいかもしれない。塩さえあればもっと食生活が向上するのではないだろうか?グリフォンは捕食者である自分が捕食されていることに絶望を覚えている様子だったのが滑稽だった。グリフォンのスキルは使えるものだったが、それを使われること無く俺は喰い殺してしまった。
物事に絶対などないし、永遠なんてないのだ。俺は強くなることをさらに決意して、グリフォンを一頭丸ごと骨も残さずにいただいた。
「ごちそうさまでした。美味かったよ、お前は。」
次の第3層ではもっと手ごたえのあるボスがいいものだ。これでは強くなれるかどうかも怪しい手ごたえだし。手抜きされてるのかね、この第2層は。全体で何層あるかを知らないが、こいつよりも弱い魔物しか出てこない。第3層ではこのグリフォンよりも強い魔物が待ち遠しい。俺は性格が変わっていくのを感じていた。
以前はここまで強さを鼻にかけることは無かったはずだ。まあ、強くなんてなかったけれども。でも、まあ、今の俺は自由だし周囲に気を使うこともしていいない。これが俺という人間の本能全てが解放された姿なのかもしれなかった。…考えたくないが、そもそも人間として生まれたのが何かの間違いだった気もしてきた。
両親は普通だったが、俺は異常だったということらしいな。弟が2人いるから俺がいなくなってもまあいいだろう。二人とも俺よりはよほど人間ができているし。いや、あの世界にまだ俺の居場所が残っているかどうかわからない。テンプレ異世界召喚ものだと、元から俺という存在はいなかったものとされているパターンもあるし。こっちの世界の神が、俺がいた世界に干渉して俺という存在を消し去っていることもある。運が良いというか、良心的な召喚ものは俺と俺がいた世界での俺という形で二分化しているというパターンもある。つまり、俺という存在を2人に分けるのだ。異世界に行く俺と元の世界に居続ける俺。二人は存在は同じだが、その後の人生は全く違う、それでも同一人物ではあるのだ。
ま、この世界の召喚システムはどうなってるかなんてさっぱりわからないのだけれども。
そして、異世界に召喚された人間は存在が消されたことによる報酬のような感じでステータスが基本的に高く設定されているのではないだろうか?そうであるなら、異世界から来た人間の方がこちらの人間と比べて無双できる傾向が強いのも納得できるし。
俺は異世界召喚ものの小説の異世界人補正について考えていた。本当に、このステータスは補正と言う外ないくらいに強化されている。それに俺はなんだか、良くない奴に気にいられているみたいであるし。敵意は感じられないから別にいいんだけど。
まあ、何はともあれ油断しないようにしなければならない。もしかして、ここが雑魚ボスなのは後々に俺に油断させてからぶっ殺すつもりかもしれないし。
俺は気を引き締めて第3層に入って行った。そして、そこで見たものに呆れ果てるのだった。
そんな未来が待ち受けているなど、グリフォンを喰った後の俺は考えもしなかった。…世の中は不公平だらけだよな、ということを強く意識した一件であった。