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ファンキー・ビート!  作者: 十山 
第一章 舞い降りる災厄
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9

「死がプラスの意味合い?」冗談にしては毒々し過ぎる。「その考え方はどうなんですかハセガワさん。個人の思想にしては随分と暴力的な気がしますけど」

「暴力的? 残念ながら私達の時代では、その考え方はもう古いのさ」

「……死は哀しいものでしょう?」

「死は崇高なものだ」

 言葉は出なかった。なんというか、呆れにも似た沈黙だった。

「哀しいものは死じゃないだろう?」

「……なんですかそれ?」決して早々に答えを知りたかったわけではない。ハセガワさんの言っている意味が理解できなかったための返答である。ニュアンスとしては「なんですか、その感じ?」に近い。

 しかし、それに対して一羽のフクロウは、その回答を、その解答を、あっさりと口にするのだった。

「人を哀しくさせているものは死じゃない。別れだ」

 フクロウは続ける。

「死という現象は生物の正統進化だ。『肉体』という名の繭から解き放たれた魂は、三次元存在から四次元存在へと昇華する。人間は宇宙に産み落とされたとき、魂が存在できる限界の低次元、三次元から存在をスタートさせるのだ。そして、繭の中である程度魂を進化させてから、次の次元へと存在を旅立たせていく。そうやって生物達は、世界を形成する多種多様な要素を知りながら、次元の波を上り、宇宙そのものに成るのだ」

 頭の中でハセガワさんの言葉を噛み砕く。

「でも、もしそうだとしたら、何故幽霊達を駆除しなくちゃいけないんです? 崇高な存在じゃないんですか?」

「駆除じゃない、昇華だ。彼らは四次元存在でありながら、三次元空間に留まろうとする不届き者であるからな。我々同族がしっかり背中を押してやらないといけないのだ」

「それが、僕のすることですか?」

「あぁ、ハート・ビーヅを用いて、心臓の音、三次元存在特有の音を聴かせてやるのだ。そうすれば彼らは自分と三次元存在との差異を見つけ出すことができる。するとそれは認識に繋がり、四次元存在である彼らは、自らを大きなエネルギーによって昇華させることが可能になる」

 何となくだけれど、理解は出来た、と思う。つまり、幽霊に自分の死を自覚させてやればいいわけだ……。

「協力してもらえないだろうか、安倍明晴くん。ほら、ペペも頭を下げないか!」

「ふえっ⁉」

 食事中のペペさんの後頭部に片翼を回し、辞儀を強要するハセガワさん。鳥類、霊長類分け隔てなく、一つの文化を共有している未来があることに、僕は少しばかりほっこりした気分になった。

 が、いかんいかん。今の話題はそこじゃない。

「概ね了解はしてますけど。最後に二つ訊いてもいいですか?」

「うん! いいよ~!」何故かペペさんが返答する。

「一つは、どれくらいの時間を消費するのか。それと……」

「大丈夫大丈夫! ビーヅが少しでも触れたら、大抵のゴーストはあっちの世界にいっちゃうよ!」

 食い気味に答えが返ってきた。

 触れさせるだけ、か。それくらいの手間ならば、学校生活を浸食したりはしないだろう。

「じゃあ最後です。なぜあなた達未来人は、幽霊をそこまで嫌っているんですか?」

「嫌っている訳じゃないよ」答えたのは、またペペさんの方だった。

「彼らにとっての進化と、私達にとっての進化が正反対だっただけ」

「正反対?」

「黄泉返りをやってのけたんだよ。ゴースト達が」

 空腹を満たしたせいか、しっかりとした面持ちでペペさんは続ける。

「私たちの時代では、既に火星、月、金星、エウロパのテラフォーミングに成功しているの。でも、当然それらを完了させるためには莫大な時間と費用がかかっちゃったんだ。だから、火星と月のテラフォーミングを完了させた頃には、もう既に地球はかなりのダメージを受けてしまっていたんだ。環境的にね。だから、金星のテラフォーミングが終わった頃かな? その頃には地球はゴミ処理場とか死体廃棄所としての役割を担うことになっていたんだよ。そしたら、地球には大量のゴースト達が蠢いているといった状況になるでしょ? 彼らが集まって何かしらの進化を遂げるのも時間の問題だったってわけ。まぁ、今になって考えてみればなんだけれど……。で、結局、彼らにとっての進化、黄泉返りは、ある一人の強力なゴーストによって行われてしまったんだ」

 ……。話が膨大過ぎる……。

「……驚くことがいっぱいありましたけど。とりあえず今のところは色んなことに目を瞑ります……。で、その強力なゴーストってどんな人なんです? ただの興味ですけど、名前だけでも」

「う~ん。私たちの時代は歴史保存がかなり雑だから、有名な人かは解らないけれど……」

 そういった前置きをしたうえで、彼女はこう続けた。

「タイラノマサカドって人」

「…………」

 思いっきり著名人だった。

 そして彼女は、何も知らない少女のような表情でこう付け加えるのだった。

「その人を明晴が昇華させてあげられれば、万事解決!」

 純粋無垢な表情から繰り出されるその発言に、僕の背筋は凍りついた。


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