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ファンキー・ビート!  作者: 十山 
第四章 うねり狂うビート
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 時刻は午後の三時。

 僕は昨日と同じように、教室の清掃に精を出していた。

「ふむふむ。どうやら昨晩はしっかり眠れたようだね明晴くん。朝から欠伸は少な目だよ? 感心感心」綱介もまた昨日と同じように机に腰を掛け、人を茶化すような口調でそんなことを言う。

 体のコンディションは彼の言う通り可も無く不可も無くと言ったところだ。つまり昨晩はきっとよく眠れたのだろう。どういった状況で、何時ごろに床に就いたかの記憶に関しては無論残ってはいないが。

「あぁ、またお前が心配するだろうと思って早めに寝たよ」

「ふぅん? そりゃあわざわざどうも」彼はモップの持ち手を顎に当て、教室掃除に対しての無気力をアピールする。

「今日は雨だけど、部活はあるのか?」僕は彼の無気力の原点を、言葉を以て狙い撃つ。

「室内練習だな。階段をいろんな方法で上り下りするんだよ。ケンケンだったり兎跳びだったり全力ダッシュだったりと、レパートリーは数多く取り揃えてる。楽しそうだろ?」彼は憂いを帯びた笑みを見せる。

「あぁ、とっても……」帰宅部員の頭では想像しただけで貧血になってしまいそうだ。

「部活の話はしなくていいって。練習前にブルーになりたくない」彼の目線は空を切る。

「気持ちはわからないでもないけど、掃除に関しては班のメンバーにも迷惑が掛かるからしっかりやれって」

「真面目だねぇ明晴は。でもそんな真面目な明晴くんだからこそ、今日は気になる点が一つあったんだな~」綱介は突然妙なパターンで会話を切り出す。彼がこういう性格だからこそ日々に退屈しなくて済んでいるのは確かなのだが、今回に関しては彼の浮かべるその不敵な笑みが堪らなく僕には不快だった。

「な、なんだよ……、気持ち悪いな……」

「五時限目の社会」僕の罵倒を物ともせず、彼は話を継続させる。「ぼーっとしていたのか知らんが、お前、ノート取り損ねてたよな?」

「……後で見せてくれたことには感謝してる。お前が望むのならパンやジュースの一つや二つ奢るさ」

「いやいや見縊(みくび)ってもらっちゃあ困るなぁ明晴くん。俺の事をそんな卑しんぼだと思っていたのかい?」

「……人並みには卑しい奴だと思ってるよ。何なんだよそのくさい喋り方は……」

「俺はお前のことを心から心配してるわけよ。俺の知ってる安倍明晴は間違っても板書を逃すような男じゃない。なぁ、なんかあったんだろう? 織媛ちゃんと……」彼は悪代官に耳打ちをする悪徳商人の如く、自らの口元を隠し、そう言った。

「な、なんでアイツが出てくるんだよ」彼女に関しては現状が現状の為、事態を把握している立場の僕としては、その名前を耳にしただけで焦燥を露わにしてしまうというのは当然の反応の筈だった。

 しかし、今回の件に無関係の綱介が、織媛の犯している誘拐と殺人未遂の罪についての情報を押さえている訳が無い。

「動揺を見せたな明晴くん。いいねえピュアだねえ。ピュアで誠実で鈍感だ」

「ち、違う! お前の考えているそれは勘違いだ!」綱介の思考を修正しようとすればするほどに、彼の世界は膨張を続けた。

「そんな焦らなくてもいいぜぇ? 男と女だ。色々あろうよ」

「色々無いし、アイツとは男と女の関係でも無い。只の幼馴染だ」

「またまた~。二組の部員の奴に聞いたけど、どうやら織媛ちゃんも今日は一日中しょんぼりらしいぜ?」

「織媛、今日学校来てるのか?」今朝の通学路は一人だった。彼女は迎えに来なかったし、現状から察するに当然学校は休んだものかと思っていたのだ。

「は? なんだよ通学まで別々だったのか? そういうのは男の方からさっさと折れないとだな……」

「まだアイツ、居るかな?」

「はぁ? 隣のクラスなんだ、パッと見て来いよ。長くなりそうなら俺から賀茂ちゃんに適当に言っておくから」

「代わりに掃除頑張ってくれるか?」僕は彼に箒を差し出す。

「しゃあねえなぁ……。今度なんか奢るんだぞ?」彼はしぶしぶ箒を手に取る。

「なんだ、卑しんぼじゃないか」

「あたぼうよ。ほれ、早く行け」渡した箒で彼は僕の腰を教室の出口に向かってパンパンと叩く。

「あぁ、ありがとう」僕は体を翻し、尻を箒で叩かれながら駆け足で教室の扉に向かって行った。

 きっと今日の夜に織媛はペペさんに倒される。

 これは憶測だが、きっとビートでの解決は生きている人間相手にしていいことじゃない。フィールドを喰い、存在を斬る。あれは多分相手の心を傷つけている。

 人間同士では話し合いでの解決がきっとベストなんだ。出来ることならば、やはり僕は彼女を傷つけたくない。

 彼女は苦しんでいた。今回の件で罪人がいるとするならば、きっとそれは彼女では無く、幼馴染でありながら彼女を見つけられなかった僕なのだ。

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