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ファンキー・ビート!  作者: 十山 
第四章 うねり狂うビート
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 飛行距離は一キロほどだったが、到着には二秒と掛からなかった。

「こんばんは、お二人さんっ!」二匹の幻獣の吐く火球。それらが衝突する座標に満は現れる。一度は爆炎が彼を包み込んだが、やがてその火煙は彼の大鎌の一振りによって跡形も無く消し去られた。

「流石にロンリービート二つとなるといい火力だ。でも僕、ビートに関しては精通してるから。そんな火球、三重奏もあれば火の粉同然だね」

 煙の中から現れた彼の衣服には、砂埃一つ付いていなかった。

「グルルルルルル……!」「ハァァァァァァァァ……!」

 突然戦場に現れた異物に対し、一方の幻獣は喉を鳴らし、もう一方の幻獣は両翼を広げ、静かな奇声を上げた。

「しかしまあ二人とも暴走かい? ロンリービートの使い方がなっちゃいないね。女の方はともかくとして、ハセガワくんがそのザマってのは未来人としてどうなんだい……?」

 ――なんで? ロンリービートはビートの暴走の形。この子達の今の状態はなにも間違ってないと思うけど……―― 彼の脳内に未来人ティアラの意識が一筋流れる。

「本質はそうだけど、そのまま使ったんじゃあ効率良く力にはなり得ないだろ。お前の時代ではビートの使い方を一通り年上の同族から習うんじゃなかったのか?」

 ――ロンリービートの意義は、ビートの暴走であること、通常のビートより相手の存在を多く奪えること、その強化が重奏と逆方向に働く力であること。それしか習ってないよ。テーマにならないくらいに内容としては浅い部分。補足程度のものだったよ――

「オンリービートは?」

 ――オンリービート?―― 彼女の反応は生まれて初めて見聞きしたものに対するそれだった。

「そっか、そっちの時代ではオンリービートの概念は消えてるのか……。良い時代になったもんだね。おっけ。そういうことならハセガワくんを責めることは出来ないね。彼の評価を下げずに済むよ」満の他人の底を開示したがる癖は、決して好きが高じて身に付いたものでは無い。彼は出来ることならば他人に失望を感じたくはないのだ。底の見える人間は道端を蠢く障害物に過ぎないが、底が見えない人間は退屈を忘れさせてくれる貴重な幸せの種なのだ。彼にとっては。

「グルルル……」「ハァァァァ……」彼らは威嚇こそすれどなかなか彼に攻撃を加え始めなかった。彼のあまりの登場のインパクトに、本能的に自分たちの劣勢を感じ取ったのだ。

「で? ティアラはどうして欲しいんだい? 喧嘩を止める、といったって殺す訳にはいかないだろう?」

 ――考えてなかった。どうしよう。出来る限りは穏便に済ませたい、かな。今晩の戦闘を無かったことにする、みたいな――

「幾らなんでもそれは我儘過ぎるな。平常時でのロンリー開放の返しに関してはどうしようもない。女の方は憑依しているゴーストが負担を担ってくれているから問題は無いけど、ハセガワくんは明日一日寝たきりだな」

 ――解ってる。どうしようもないことはいいよ。どうにかなることだけ元に戻して?―― 彼は彼女の真面目な返答に失望を感じることは無かった。将門討伐と歴史への不介入は彼女のタイムトラベルに当たっての最優先事項なのだ。これに関しては情報が曖昧に伝わってはいけない。

「わかったよ。それじゃあ各々寝床に返すとしようか。そうすれば万事解決だな」満は大鎌で空間を一閃し、十メートル程のワームホールを起動させる。

「よっと」満は先ずリヴァイアサンの背後へと瞬間移動し、大鎌の持ち手の部分でトンと背中を突いてやった。三重奏接触のインパクトは大きく、龍の長く立派な体は、先程彼が作ったワームホールの黒の奥へと溶けていった。

「よいしょ」間髪入れず彼は恐鳥の背後へと二度目の瞬間移動を決めると、龍の時と全く同じ要領で、彼の体もまた黒の中に入れてやった。満の洗練されたテクニックは、彼らに叫ぶ暇すら与えなかった。


 僅か数秒の間に二体の巨大なクリーチャーはその姿を消し、領域内は静寂に包まれた。

「あとは明晴くんか」今度は瞬間移動を使うことなく、彼はゆっくりと明晴の休む大岩の方へと飛んでいった。

 大岩の前に到着すると、どうやら彼は熟睡しているようだった。

「血を流し過ぎだ。致死量でこそ無いにしろ、これに対して対処無しというのは優秀なハセガワくんのすることじゃない」

 ――グワァー! グワァー!――

 ――アイツは何故だか焦っていた。平常心を失うほどの何らかの揺れが彼にはあったんだ。ってガーちゃんは言ってるよ――

「揺れ、ねぇ……。あんな若い女の干渉にビートを揺らされるようなタマか?」

 ――グワァー!――

 ――領域の入り口として使った人形はお姉ちゃんに似てた。ってガーちゃん言ってる――

「なるほど。主人の命を狙われた訳か。それを彼の焦った理由とするには些か説得力不足な感じも否めないが、新しいパターンだ、何らかの関係はあるだろうな」満は明晴の血の湧き出る傷口に大鎌の先端をプツリと接触させると、鎌へと三重奏を繊細に流し込み、ビートと認識を用いて彼の傷口を適当に埋めてやった。

「よーし。これで多少ふっ飛ばしても衝撃で死んだりしないだろう」そう言うと満は明晴の体を自分に都合のいい体勢へと調節する。

「これでいいかな? 二秒くらいは死にかけるけど、まぁ寝てるから気付かないだろ」彼は三重奏の大鎌を前後反対に持ち、刃の部分を認識で引っ込め、バットのようにそれを構える。

「よっこらせっ!」満のフルスイングは明晴の背中にヒットし、彼の体はワームホールに向かって一直線に飛んでいった。そのフルスイングには、領域内での明晴の全身の骨や内臓を粉砕するほどの威力があった。が、彼の意識にはその記憶は残らない。痛みを認識しなければ問題は無い。領域から出ることさえできれば、それら全てが回復するのだから。

「おっけ。任務完了。帰るよティアラ」

 ――うん。ありがとうね、ミツル――

「どういたしまして」そう言うと彼は地面を蹴り、自身の体もまたワームホールに飲ませてやった。

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